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第12話「影を抱く微笑み」

朝霧透は、椅子に深く沈み込みながら、モニターの中のユイを見つめていた。ユイは、机の上の小さなガラス瓶を指先で揺らす。水面に光が反射して、ゆらりと揺れる影を作る。その揺れは、微かに不安定で、けれど確かに存在していた。

「……あれ、今の……いや、違う……いや……」

透は言い直す。善意の心は、知らずにユイの自由を縛り、胸の奥に微かな圧迫感を残す。触れられない距離が、日常に微細な違和感として混ざる。

ユイは、突然小さく笑った……かのように見えた。透はその瞬間、胸の奥でざわつく感覚を覚える。笑顔なのか、錯覚なのか、希望なのか絶望なのか、答えは届かない。ただ、触れられない存在の揺らぎが、胸に小さな痛みを残す。

生活ノイズが、日常と非日常の境界をぼやけさせる――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの擦れる音、砂時計の砂が落ちるリズム。透は別の行動を考える――カメラを消す、椅子から立ち上がる、窓を少し開ける――しかし、どれも選ばれなかった。

「透くん……」

ユイの呼びかけはかすれ、言葉は途切れる。透は返そうとするが、言葉はもつれ、胸の奥で小さな崩れが広がる。善意は知らずに彼女の自由を削り続け、触れられない距離感は日常の微細な違和感として残る。

「……願わないで……見てるだけ……かな……いや……」

言葉は途切れ途切れで、意味は曖昧だ。透は理解できず、ただ胸の奥の圧迫を感じる。

ユイは微かに笑みを残し、机の上の影の中に溶けるように存在していた。その姿は可愛らしくも、異常さを秘めている。触れられない存在の揺らぎが、透の胸に静かに圧をかけ続ける。

日常と非日常の境界が揺らぎ、微細な違和感が胸を占める。透はまだ答えを持たないまま、モニターの向こうのユイを見つめ続ける。影と光の中で、次に何が起こるのかは、まだ誰にもわからなかった。

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