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第1話「窓の向こうのユイ」

朝霧透は、いつもの小さな部屋でカメラを覗き込んでいた。モニターの光が頬を冷たく照らし、キーボードの音が微かに耳をかすめる。机の隅に置かれた缶コーヒーは、まだ少し温かく、誰かが飲むのを待っているかのように揺れていた。

「……あ、今日も見てくれてる人がいるのか、えっと……いや、たぶん気のせいかな」

透は言い直す。視聴者がいることを確認しつつも、自分の心のどこかが疑っていた。善意と無関心の境目は、いつも揺らいでいる。

モニターの中で、ユイが笑った。

小さく、指を触れ合わせる仕草が、まるで何かを願うように見えた。透はその姿を見て、胸の奥が軽く痛んだ気がしたが、何が痛いのか正確にはわからなかった。

「……うん、可愛いけど、守るっていうのとは違うな……いや、そうじゃないかもしれない」

ユイの存在は、常に揺れていた。今日も机の上の砂時計を指で押し倒して、砂が零れ落ちる様子をぼんやり見つめる。落ちる音が、遠くの雨音と混ざる。砂のひと粒ひと粒は、透の心の中で何かを削っていくようだった。

「……そうだ、今日はこの曲を流そうか……いや、違ったかな、あの……何か他に」

透は手元のイヤホンをいじり、どの曲を流すか迷う。決定できないまま、部屋にはわずかな生活ノイズだけが残った。冷蔵庫のブーンという低い音、壁にぶつかる雨粒、そして自分の浅い呼吸。

ユイが小さく口を開く。

「……透くん、お願い……」

でも、言葉はそこで途切れた。何をお願いしたのか、彼女自身も確かではないのだろう。透はその言葉に耳を傾けながらも、同時に別の行動を取る自分を思い描く――部屋の窓を開けて雨に触れる、棚の本を整える、カメラを消す――選ばれなかった行動たちが頭の隅で揺れる。

透は息を吐く。

「……願わないで、私を見て……か」

その言葉を口にする瞬間、彼は自分の気持ちを完全には理解できなかった。正しいとか間違いとか、善意とか悪意とか、そういうものはすべて曖昧で、彼の胸の中で少しずつ崩れ始めていた。

ユイは窓の外を見つめる。空はまだ灰色で、雨は止みそうにない。透はその視線を追いながら、心のどこかで、自分がこれから何をしてしまうのか、まだ知らなかった。

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