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スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


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第9話 王都事変 後編「救うべき少女、堕ちゆく光」

 翌朝、俺は城の警鐘で目を覚ました。けたたましく鳴り響く鐘の音に、嫌な予感が胸をよぎる。

 急いで窓を開けると、王都の街が異様な静けさに包まれていた。いつもなら活気に満ちた大通りに人影は見えず、代わりに奇妙な光る粒子が空中に漂っている。


『旦那様、大変です。王都全体にパラサイトの粒子が散布されています』


 アイの緊急警告に俺は身を引き締める。


「くそ、昨夜の魔術師やりやがった」


 急いで服を着て部屋を出ると、廊下でエリアとリナリアに出くわした。


「悠真さん、外の様子が……」


 エリアの顔は青ざめている。


「ええ。街の人々が全員、あの寄生虫に感染しているようです」


 リナリアも深刻な表情だった。

 俺たちは急いで謁見の間に向かう。そこには既にアルフレッド国王と三賢人が集まっていた。


「状況はどうですか?」


 俺が尋ねると、エヴァンジェリンが振り返る。


「最悪です。夜明けと共にパラサイトが王都全体に散布され、城壁内の民衆の8割が感染しています」

「8割だと……」

「城と一部の魔法障壁で守られた区域のみが無事な状態です」


 マクシミリアンが腕を組んで言う。


「我々三賢人で結界を展開しているが、これ以上の拡大は防げても、既に感染した人々の救出は困難を極める」


 国王が地図を見つめながら言う。


「民を見捨てるわけにはいかない。何か方法はないのか?」

「昨夜の戦闘で、魔法攻撃により寄生虫を除去できることは判明しています」


 セラフィナが報告する。


「しかし、数万人規模となると……」


 その時、謁見の間の扉が勢いよく開かれた。城の衛兵が血相を変えて駆け込んでくる。


「陛下!大変です!感染者たちが城壁に向かって進軍してきます!」


『旦那様、城の外周に大量の敵性反応です。推定3000体以上』


「3000体……」


 俺は窓から外を見る。確かに、感染した民衆たちが整然とした隊列を組んで城に向かってくる。その動きは明らかに人間のものではない。


「まずは城の防御を固めよう」


 国王が決断を下す。


「マクシミリアン、城壁の防御を頼む。セラフィナ、避難民の治療を。エヴァンジェリン、敵の分析を続けてくれ」

「「「承知いたしました」」」


 三賢人がそれぞれ持ち場に散る。


「リナリア、君たちも……」

「お父様、わたくしたちも戦います」


 リナリアが毅然として言う。


「昨夜の戦闘で、わたくしたちも寄生虫を除去できることが分かっています。この戦いは、わたくしたちの戦いでもあります」


 国王は少し考えてから頷いた。


「分かった。しかし、無茶はするな」


 俺たちは城壁に向かう。そこでは既に激しい戦闘が始まっていた。


「《サンダーボルト》!」


 マクシミリアンの雷撃魔法が感染者の群れに降り注ぐ。魔法を受けた感染者たちは次々と正気を取り戻すが、その数は膨大だった。


「きりがないな……」


 俺もナイフに魔法を付与して戦闘に加わる。一撃で寄生虫を除去できるものの、敵の数が多すぎる。


「《ウィンドスラッシュ》!」


 エリアの風の刃が複数の感染者に当たり、彼らを正気に戻す。


「でも、こんなに数が多いと……」


 その時、城壁の下から小さな声が聞こえた。


「助けて……誰か助けて……」


 俺たちは声のした方を見下ろす。そこには、感染者たちの間に挟まれながらも、まだ正気を保っている小さな少女がいた。


「あの子!」


 エリアが叫ぶ。


「感染していません!でも、このままでは……」


 少女は10歳くらいだろうか。金色の髪を三つ編みにし、簡素な服を着ている。恐怖で震えながらも、必死に感染者たちから逃げようとしていた。


「助けに行きます!」


 エリアが城壁から飛び降りようとする。


「待て、危険すぎる!」


 俺が制止しようとしたが、エリアは既に《フェザーフォール》の魔法で軽やかに舞い降りていた。


「《ウインドシールド》!」


 エリアが少女の周りに風の防護魔法を展開する。感染者たちの攻撃が風に弾かれる。


「大丈夫?怖がらないで」


 エリアが優しく少女に声をかける。


「お、お姉ちゃん……」


 少女の大きな碧の瞳に涙が浮かぶ。


「パパもママも、変になっちゃって……みんな怖い顔になって……」

「もう大丈夫よ。お姉ちゃんが守ってあげる」


 エリアは少女を抱きしめる。その瞬間、少女の体から淡い光が放たれた。


『旦那様、あの少女から特殊な魔力を感じます。これは……』


「どうした、アイ?」


『浄化の力です。非常に稀有な能力で、あらゆる呪いや異常状態を浄化できる力を持っているようです』


 浄化の力?それなら、パラサイトにも効果があるかもしれない。


「エリア!その子を連れて戻ってこい!」


 俺が叫ぶと、エリアは少女を抱えて《フライ》の魔法で空中に浮上する。

 しかし、その時だった。感染者たちの後方から、巨大な影が立ち上がった。

 それは昨夜の魔術師だった。しかし、その姿は人間のものではない。体の一部が黒い触手のようなものに変わり、顔は半分がパラサイトに覆われている。


「愚かな……我が完璧な計画を邪魔するとは……」


 魔術師の声は二重に響く。人間の声に、何か別の生物の声が重なっている。


「しかし、予想以上の収穫があったようだ」


 魔術師の視線が、エリアに抱えられた少女に向けられる。


「その子は……まさか『聖女の血筋』か」


『旦那様、危険です。魔術師があの少女を狙っています』


「聖女の血筋?」


 俺の疑問に、セラフィナが答える。


「古代から続く特殊な血筋です。あらゆる邪悪を浄化する力を持つと言われていますが、その力ゆえに悪用されることも多いのです」


 魔術師が両手を上げると、周囲の感染者たちが一斉に変化を始めた。彼らの体が膨れ上がり、筋肉が異常に発達し、まるで化け物のような姿になっていく。


「パラサイトの第二段階……宿主の身体能力を極限まで引き上げる」


 エヴァンジェリンが分析する。


「これは厄介ですね」


 強化された感染者たちが城壁をよじ登り始める。その動きは人間を遥かに超えている。


「《メガ・ファイアボール》!」


 マクシミリアンが大火球を放つが、強化された感染者たちは炎を受けても立ち上がってくる。


「魔法の効きが悪くなってる……」


 俺は〈身体能力強化〉を最大まで発動し、城壁に登ってきた感染者と戦闘を開始する。しかし、相手の身体能力も大幅に強化されており、今までのようには行かない。

 感染者の爪が俺の頬を掠める。間一髪〈緊急防御〉が発動して、何とか攻撃を防ぐ。


『旦那様、私が直接神経をサポートしますね』


「え?」


 その瞬間、俺の反射神経が異常なまでに鋭敏になった。周囲の動きがスローモーションのように見える。


『神経伝達速度を一時的に向上させました。今なら相手の動きが手に取るように分かるはずです』


 確かに、感染者の攻撃パターンが予測できる。俺は完璧なタイミングで攻撃を回避し、カウンターを決める。

 魔法付与されたナイフが感染者の急所を捉え、寄生虫を除去する。


「すげぇ……これがアイの新能力か」


『ええ、でも負担が大きいので長時間は維持できません。この機会に決着をつけましょう』


 俺は強化された身体能力で次々と感染者を正気に戻していく。

 一方、リナリアも苦戦していた。剣技は優れているものの、強化された感染者相手では分が悪い。


「くっ……」


 感染者の攻撃を受け流しきれず、リナリアが後退する。その時、後ろが城壁の端だった。


「リナリア!」


 俺は反射的に駆け出す。アイの神経サポートにより、常識を超えた速度で移動し、落下しそうになるリナリアを抱きとめる。


「悠真さん……」


 リナリアが俺の腕の中で呟く。その時、彼女の瞳に今まで見たことのない感情が宿っているのを俺は見た。


「大丈夫か?」

「はい……ありがとうございます」


 リナリアの頬がわずかに赤く染まる。


『旦那様、ロマンチックなシーンですが、今は戦闘中です!』


 アイに不機嫌そうにツッコミを入れられて、俺たちは我に返る。


「後で話そう」


 俺はリナリアを安全な場所に降ろし、再び戦闘に戻る。

 その頃、エリアは少女と共に城の安全な区域にいた。


「お名前は?」

「リリィ……リリィ・セレスティア」


 少女——リリィは小さく答える。


「パパとママは……元に戻るの?」

「きっと戻るわ。お姉ちゃんたちが必ず助けてあげる」


 エリアがリリィの頭を撫でる。


「リリィちゃんには、特別な力があるのね」

「特別な力?」

「さっき、あなたの体から光が出たでしょう?それはとても珍しい、素晴らしい力よ」


 しかし、この会話を盗み聞きしている者がいた。

 屋敷に潜んでいた魔術師の手下が、リリィの正体を確認し、主人に報告していた。


「聖女の血筋、確認しました。今すぐ回収しますか?」

「まだだ。もう少し観察してから、確実に手に入れよう」


 魔術師の計画は、リリィの力を使ってパラサイトをさらに強力に進化させることだった。

 戦闘は夕方まで続いた。三賢人と俺たちの連携により、なんとか城への侵入は防いだものの、王都の状況は依然として深刻だった。


「今日はここまでが限界ですね」


 セラフィナが疲労を隠せずに言う。


「感染者の数が多すぎます」


 マクシミリアンも同意する。


「しかも、魔術師が感染者を強化する能力を持っている。長期戦は不利だ」


 その時、エヴァンジェリンが重要な分析結果を持ってきた。


「あの少女、リリィの能力について調べました」

「どうでした?」


 俺が尋ねる。


「予想通り、聖女の血筋です。彼女の浄化能力は、パラサイトに対して絶大な効果を発揮するはずです」

「それなら、彼女の力を使って……」

「いえ、それは危険すぎます」


 セラフィナが反対する。


「聖女の力は強力ですが、使用者に大きな負担をかけます。下手をすれば命に関わる」

「それに、子供を戦闘に参加させるなど……」


 リナリアも反対の意見を示す。

 しかし、その時だった。


「使わせて」


 小さな声が聞こえた。振り返ると、リリィが入り口に立っている。


「みんなを助けたいの。パパもママも、街のみんなも」


 リリィの瞳には強い意志が宿っている。


「お姉ちゃん」


 リリィがエリアに近づく。


「私、がんばるから。みんなを助けるために」

「リリィちゃん……」


 エリアは複雑な表情を浮かべる。


「でも、危険よ。あなたには何も悪いことが起きてほしくないの」

「大丈夫。お姉ちゃんがいてくれるなら、怖くない」


 リリィの純粋な言葉に、一同は言葉を失う。


『旦那様、決断の時ですね』


 アイの声に俺は深く考える。確かにリリィの力は必要だが、子供を危険に晒すことに変わりはない。

 しかし、このままでは王都の民全てが……


「よし」


 俺が口を開く。


「リリィの力を借りよう。ただし、絶対に危険な目には遭わせない」

「悠真さん……」


 エリアが不安そうに見る。


「大丈夫だ。俺たちが必ず守る」


 国王も重い決断を下す。


「分かった。しかし、少女の安全を最優先にしてくれ」

「承知しました」


 翌日、作戦が実行されることになった。リリィの浄化能力を使って、王都全体のパラサイトを除去する計画だ。

 しかし、魔術師もこの動きを察知していた。


「ついに聖女の力を使うつもりか。ならば、こちらも切り札を使わせてもらおう」


 魔術師は秘密の研究室で、最後の実験を行っていた。


「パラサイト・クイーン。全ての寄生虫を統括する究極の個体だ」


 容器の中で、巨大な寄生虫が蠢いている。これまでのパラサイトとは比較にならない大きさと邪悪な気配を放っている。


「これを聖女に寄生させれば、彼女の力は完全に我々のものになる」


 作戦当日の朝。

 俺たちはリリィを中心とした陣形で王都に向かった。三賢人が外周を固め、俺とエリア、リナリアがリリィの直衛を務める。


「怖くない?」


 エリアがリリィに声をかける。


「うん、大丈夫」


 リリィは小さく微笑む。


「お姉ちゃんたちがいるから」


 俺たちは王都の中央広場に到着する。そこは感染者たちで埋め尽くされていたが、不気味な静寂に包まれていた。


「リリィ、準備はいい?」

「はい」


 リリィが両手を合わせると、彼女の体から温かい光が放たれ始める。


「《聖域浄化》ホーリーフィールド」


 リリィの周囲に光の波紋が広がっていく。波紋に触れた感染者たちが次々と正気を取り戻していく。


「成功してる……」


 エリアが感動の声を上げる。

 確かに、リリィの力は絶大だった。わずか数分で数百人の感染者が正気に戻っている。

 しかし、その時だった。


「よくやった、聖女よ」


 空中から魔術師の声が響く。


「その力、今度は我々のために使ってもらおう」


 魔術師が現れると同時に、巨大な影が広場に降り立つ。それは見たこともない化け物だった。


「パラサイト・クイーン……最強の個体だ」


 化け物は人間の女性のような形をしているが、全身が黒い触手に覆われ、背中には巨大な羽が生えている。


「その子を渡してもらおう」


 パラサイト・クイーンがリリィに向かって突進してくる。


「させるか!」


 俺は〈身体能力強化〉を発動し、リリィの前に立つ。しかし、クイーンのパワーは桁外れだった。

 俺の攻撃はほとんど効果がなく、逆に触手に捕らえられてしまう。


「悠真さん!」


 リナリアとエリアが助けに来るが、クイーンは複数の触手で俺たちを同時に拘束する。


「リリィちゃん、逃げて!」


 エリアが叫ぶが、リリィは動けずにいた。恐怖で体が硬直してしまっている。


「いい子だ。おとなしくしていれば痛くはしない」


 クイーンの触手がリリィに向かって伸びる。


「やめろ!」


 俺が必死に抵抗するが、触手の力は強すぎる。

 その時、リリィの体に異変が起きた。

 クイーンの触手が彼女に触れると、リリィの瞳が一瞬光る。しかし、その光はすぐに消え、代わりに黒い影が瞳に宿った。


「あ……あ……」


 リリィの声が変わっていく。


『旦那様、大変です。少女にパラサイト・クイーンが寄生しました』


 アイの警告が響く。


「くそっ、やられた!」


『最上位の寄生虫です。宿主の能力を完全に支配し、邪悪な力に変換します』


 リリィの体が変化し始める。小さな体が大きくなり、髪が真っ黒に変わり、瞳は血のように赤く光る。


「あああああああ!」


 リリィの叫び声と共に、邪悪な力が広場全体に放たれる。

 今まで正気を取り戻していた人々が再び感染し、さらに強力な化け物へと変貌していく。


「リリィちゃん……」


 エリアが絶望的な声を上げる。

 リリィは、もうリリィではなかった。パラサイト・クイーンに完全に支配され、邪悪な力の化身となってしまった。


「完璧だ……これで聖女の力は我々のものだ」


 魔術師が高笑いする。


「この力があれば、王国など容易く支配できる」


 俺たちは最悪の状況に追い込まれた。救うべき少女は敵の切り札となり、王都の民は再び感染してしまった。


『旦那様、これは予想以上に深刻な事態です』


「ああ……でも、まだ終わりじゃない」


 俺は拳を握り締める。


「リリィはまだ生きてる。必ず助け出してみせる」

 変貌したリリィがゆっくりと俺たちを見据える。その瞳にはもう、あの純粋な少女の面影はない。

 代わりにあるのは、破壊と支配への渇望だけだった。


「おお……これは素晴らしい……」


 魔術師が感嘆の声を上げる。


「聖女の力が完全に反転している。これほど強力な邪悪の力は見たことがない」


 リリィ——いや、パラサイト・クイーンに支配されたリリィが手を上げると、周囲の空間が歪み始める。


「《堕落の波動》カースド・ウェイヴ」


 リリィの口から、彼女のものではない声が響く。

 黒い波動が広場全体を覆い、建物が崩れ始める。


「みんな、避難を!」


 セラフィナが叫ぶが、既に逃げ道は塞がれていた。

 俺たちは、史上最悪の敵と向き合うことになった。

 それは、救うべき少女の姿をした、絶望の化身だった。




 黒い波動に包まれた広場で、俺たちは絶望的な状況に立たされていた。パラサイト・クイーンに支配されたリリィは、もはや別の存在になってしまっている。


「《デストラクション・レイ》」


 変貌したリリィの手から破壊の光線が放たれ、周囲の建物を次々と崩壊させていく。


「くそ、どうすれば……」


 俺が呟いた時、広場の向こうから二つの人影が現れた。


「リリィ!リリィはどこ!」

「娘よ、どこにいるの!」


 それは中年の男性と女性——明らかに夫婦だった。男性は商人風の服装で、女性は質素だが清潔な服を着ている。


『旦那様、あの二人から微弱ですがリリィちゃんと同様の魔力を感じます』


「リリィの両親か……」


 二人は感染から回復したばかりなのか、まだふらつきながらも必死に娘を探している。


「リリィ、パパとママよ!」


 母親が叫ぶ。その声が、変貌したリリィの耳に届いた瞬間、彼女の動きが止まった。


「……パパ?ママ?」


 リリィの声に、僅かに人間らしさが戻る。赤く光っていた瞳が一瞬だけ、元の碧色に戻った。


「リリィ!」


 両親が駆け寄ろうとする。


「だめです!近づいてはいけません!」


 セラフィナが制止するが、親の愛情は止められない。


「リリィ……私たちの大切な娘……」


 父親が慈しむような声で呼びかける。


「何があっても、あなたは私たちの宝物よ」


 母親の言葉に、リリィの体を覆っていた黒いオーラが揺らいだ。


「パパ……ママ……私……私……」


 リリィが苦痛に満ちた声を上げる。パラサイト・クイーンと彼女の意識が激しく衝突しているのが分かる。


「やはり血の繋がりは特別ですね」


 魔術師が忌々しげに呟く。


「しかし、そんな感傷が通用すると思うのですか?」


 魔術師が手を振ると、黒い触手が両親に向かって伸びる。


「危ない!」


 俺が警告するが、間に合わない。

 触手は両親の胸を貫いた。


「がはっ……」

「あああ……」

「パパ!ママ!」


 リリィの絶叫が響く。


「いやああああああああ!」


 その瞬間、リリィから爆発的な力が放たれた。しかし、それは浄化の光ではない。怒りと憎しみに満ちた、破壊の力だった。

 復讐の炎がリリィの全身から噴き出し、魔術師を直撃する。


「ぐあああああ!まさか、こんな力が……」


 魔術師の体が炎に包まれ、その醜い姿が露わになる。もはや人間の面影はなく、完全にパラサイトと融合した化け物だった。


「貴様……我が完璧な計画を……」

「殺してやる!パパとママを返して!」


 リリィの怒りが頂点に達する。彼女の力は制御を失い、周囲一帯を破壊し尽くそうとしていた。


「やばい、このままじゃ王都全体が……」


『旦那様、今なら課金システムが使用可能です。5000ルスで一時的なパワーアップができます』


「課金って何だよ!」


『説明は後です。今すぐ決断を!』


 俺はアイテムボックスから金を取り出す。確認すると、これまでの旅で色々使ったがまだ8000ルスほど残っている。


「わかった!5000ルス、使え!」


『課金システム起動。スキル一時アップグレード開始』


 突然、俺の体に信じられないほどの力が流れ込んできた。


『一時的にあらゆる能力が200%向上します。制限時間は10分です』


 俺の身体能力が飛躍的に向上し、魔法付与の威力も格段に上がった。これなら、パラサイト・クイーンにも対抗できる。


「みんな、俺が何とかする!」


 俺は超強化された〈身体能力強化〉で暴れ回るリリィに向かって駆け出す。


「リリィ!俺の声が聞こえるか!」

「誰……私の邪魔を……」


 リリィが俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。しかし、課金による強化とアイによるサポートで俺の反射神経は神の域に達している。


「《ホーリーエッジ》」


 俺は新たに覚えた浄化の魔法をナイフに付与し、リリィの体内にいるパラサイト・クイーンに直接攻撃を加える。


「ギャアアアア!」


 クイーンが苦痛の声を上げる。


「リリィ、お前はお前だ!寄生虫なんかに負けるな!」

「で、でも……パパとママが……」

「死んでない!まだ息がある!」


 俺の言葉に、リリィが両親の方を見る。確かに、二人はまだ微かに呼吸をしていた。


「パパ……ママ……」


 リリィの瞳が再び碧色に戻る。


「今だ!《エクソシズム・ストライク》」


 俺は最大威力の浄化魔法を放つ。浄化の力がリリィの体内のパラサイト・クイーンを直撃した。


「ギギギギ……こんな……こんなはずでは……」


 クイーンの声が次第に小さくなっていく。


「リリィ、自分の心を取り戻すんだ!」

「私は……私は……」


 リリィが必死に意識を集中させる。


「私はリリィ!パパとママの娘!」


 その宣言と共に、パラサイト・クイーンが完全に除去された。


「うあああああ!」


 最後の絶叫を上げて、クイーンは消滅する。

 リリィは元の小さな姿に戻り、地面に倒れた。


「リリィ!」


 エリアが駆け寄って少女を抱き起こす。


「お姉ちゃん……パパとママは……」

「大丈夫よ。セラフィナさんが治療してくれてる」


 確かに、セラフィナが両親に治癒魔法を施している。致命傷だったが、まだ間に合うようだ。


「《グレートヒール》」


 強力な治癒魔法により、両親の傷が徐々に塞がっていく。


「う……うん……」


 父親が目を開ける。


「リリィ……無事か……」

「パパ!」




 リリィが泣きながら父親に抱きつく。

 一方、魔術師は重傷を負いながらも逃走を図っていた。


「覚えていろ……必ず……必ず復讐を……」


 煙幕を張って姿を消す魔術師。追いかけようとしたが、課金効果が切れて俺の身体は限界だった。


「逃がしたか……」


『旦那様、お疲れさまでした。敵を大量に撃破したため、スキルポイントが大幅に増加しています』


「どのくらいだ?」


『累計6800ポイントに到達しました。3500ポイントと5000ポイントを超えたため、新スキルが二つ解放されています』


「新スキル?」


『《空間転移》と《時間操作》です。どちらも高位魔法に分類されるスキルです』


「空間転移と時間操作……すげぇな」

 新スキルか…これは使えるな。俺はこれからのことを深く考えていた…




 戦闘が終わり、王都の復興作業が始まった。パラサイトに感染していた民衆たちは全員正気を取り戻し、大きな被害はあったものの死者は最小限に抑えられた。

 数日後、王城の執務室で俺たちは国王と面談していた。


「諸君の活躍により、王国の危機は去った」


 アルフレッド国王が感謝の言葉を述べる。


「特に君たち三人の働きは見事だった」


 国王の視線が俺、エリア、リナリアに向けられる。


「そして、リリィ」


 国王がリリィに優しく声をかける。彼女は両親と共に王城に招かれていた。


「君の力がなければ、この勝利はなかった」

「私……みんなの迷惑になっちゃって……」


 リリィが申し訳なさそうに俯く。


「そんなことないよ」


 エリアがリリィの頭を撫でる。


「リリィちゃんがいたから、みんなを救えたのよ」

「そうだ。君は英雄だよ」


 俺も励ます。


「ありがとう」


 リリィが小さく微笑む。


「それで、今後のことですが……」


 国王が本題を切り出す。


「リリィの安全を考えると、城で保護するのが最善だと思うのですが」

「お父様、それは……」


 リナリアが口を開きかけた時、リリィ自身が答えた。


「お姉ちゃんたちと一緒に行きたいです」

「え?」


 エリアが驚く。


「私、お姉ちゃんたちみたいに強くなりたい。みんなを守れるように」


 リリィの瞳に強い意志が宿っている。


「でも、危険よ」

「危険でも、お姉ちゃんたちと一緒なら大丈夫」


 リリィの両親も意外な反応を見せた。


「私たちも、娘の気持ちを尊重したいと思います」


 父親が言う。


「この方々になら、安心して託せます」


 母親も頷く。

 こうして、俺たちのパーティにリリィが加わることになった。


「よろしくお願いします」


 リリィが深々とお辞儀をする。


「こちらこそ。一緒に頑張ろう」


 俺が手を差し出すと、リリィは嬉しそうに握手した。

 その後、俺たちは王都での生活を続けることになった。国王からの要請で、しばらくは王国の問題解決に協力することになったのだ。

 宿屋での夜、俺は一人で今後のことを考えていた。




「やっと落ち着いて商売ができそうだな」


『そうですね。これまでずっと戦闘続きでしたから』


 アイが同意する。


「新しいスキルも手に入ったし、商売の幅も広がりそうだ」


 《空間転移》があれば物流が革命的に変わるし、《時間操作》を使えば作業効率も大幅に向上する。


「ただし、あの魔術師はまだ生きている。いずれまた現れるだろう」


『その時は、今度こそ倒しましょう。新しい仲間も増えましたしね♪』


 そうだ。リリィの浄化能力は計り知れない。エリアの魔法技術も向上し続けているし、リナリアとの絆も深まった。


「良いチームになったな」


『ええ。これからが楽しみです』


 翌日、俺は王都の商業区域を歩いていた。戦災復興で建材の需要が高まっており、商機を探っている。


「悠真さん」


 振り返ると、リナリアが立っていた。


「リナリア、どうした?」

「少しお話が……」


 彼女の頬が微かに赤らんでいる。


「この間、城壁で助けていただいた時の事ですが……」


「ああ、あの時の」


「わたくし、その時に気づいたことがあるのです」


 リナリアが俺をまっすぐ見つめる。


「悠真さんに対する、わたくしの気持ちに」

「気持ち?」

「はい。わたくし……」


 その時、エリアとリリィが駆け寄ってきた。


「悠真さん、リナリア様!大変です!」


 エリアが息を切らしている。


「商業組合の人たちが、新しい商談を持ってきてくれました!」

「商談?」

「はい!復興資材の大量調達です!」


 これは大きな商機だ。俺の商人としての血が騒ぐ。


「詳しく聞かせてくれ」


 リナリアが微笑む。しかし、その表情には何か決意のようなものが宿っていた。




 商業組合との会合は大成功だった。《空間転移》による物流革命の提案は大きな反響を呼び、複数の大型契約を獲得することができた。


「これで当分は安泰だな」


 俺が安堵していると、リリィが近づいてきた。


「お兄ちゃん、私もお手伝いできることある?」

「そうだな……君の浄化能力を活かした商品とか考えてみようか」

「本当?」


 リリィの瞳が輝く。

 エリアも興味深そうに言う。


「魔法具の製造なら、私も協力できます」

「いいね。みんなでやれば、きっと面白いビジネスができる」


 そうだ。戦闘だけじゃない。平和な時間も大切だ。

 仲間たちと共に築く、新しい生活。それは俺にとって、何よりも価値のあるものだった。

 夕方、俺は再び屋上で王都の景色を眺めていた。復興作業が進み、街に活気が戻ってきている。


『旦那様、良い一日でしたね』


「ああ。やっと普通の生活ができそうだ」


『でも、きっとまた何かが起こりますよ。この世界では』


「そうかもな。でも、それでもいい」


 俺は仲間たちのことを思い浮かべる。


「みんなと一緒なら、どんなことでも乗り越えられる気がする」


『私も、旦那様と一緒にいられて幸せです♪』


 アイの声に温かみが増している。第二進化を遂げて、彼女もより人間らしくなった。


「アイ、これからもよろしくな」


『こちらこそ。末永くお付き合いください』


 星が瞬き始めた夜空を見上げながら、俺は未来への希望を抱いていた。

 商人として、冒険者として、そして仲間たちの一員として。

 この異世界での生活は、まだまだ続いていく。


 数日後の朝、俺は宿屋の食堂で朝食を取っていた。リナリア、エリア、リリィも一緒だ。


「今日は何をしましょうか?」


 エリアが尋ねる。


「商業組合からの新しい依頼を検討しよう。魔法具の量産システムについてだ」

「私の浄化能力も使えるかな?」


 リリィが期待に満ちた声で言う。


「もちろんだ。君の力は貴重な資源だからな」


 その時、宿屋の扉が開いて一人の男性が入ってきた。グレード商会のマルコだった。

 今回の騒動の復興資材の取引などを手伝ってもらっていた。


「やあ、悠真くん!探していたよ」

「マルコさん、どうしたんですか?」

「実は、君たちに紹介したい人がいるんだ。新しいビジネスパートナーとして最適だと思う」


 マルコの後ろから、上品な服装の中年女性が現れた。


「初めまして。商工会議所の会長をしております、ビクトリア・ハートウェルと申します」

「これは丁寧に。一ノ瀬悠真です」


 俺が立ち上がって挨拶すると、女性は微笑んだ。


「噂は聞いております。空間転移魔法を使った革新的な物流システム、ぜひ我々と協力していただきたく」

「光栄です」


 こうして、俺たちの商業活動はさらに拡大していくことになった。

 戦闘から一転して平和な商売人としての生活。それは俺が最初に望んでいたものだった。

 もちろん、いずれまた危険な冒険が待っているだろう。あの魔術師もまだ生きているし、この世界には未知の脅威がたくさんある。

 でも今は、この穏やかな時間を大切にしたい。

 仲間たちと共に築く、新しい未来を。


『旦那様、素晴らしい展開ですね』


 アイの満足そうな声が響く。


「ああ。やっと商人らしい生活ができる」


 俺は心から安堵していた。

 王都事変は終わった。新しい仲間も加わり、商売の基盤も整った。

 これからは、本当の意味での異世界商人としての生活が始まる。

 そんな希望に満ちた朝だった。



今回の章では、王都全体を巻き込んだ大規模戦闘と、新キャラクター・リリィの登場を描きました。

「聖女の血筋」という設定が物語を一気に大きく動かし、パラサイト・クイーンとの戦いはシリーズの中でも屈指の激闘になったのではないでしょうか。


そして、戦いの後には商売人としての一面が再び前に出てきました。

戦闘と商売、両方を並行して進められるのがこの作品の大きな特徴であり、悠真たちの冒険の面白さでもあると思います。


次回は、リリィが仲間としてどう成長していくのか、そして新たなビジネスの展開がどうなるのかにご注目ください。

もちろん、例の魔術師との決着もまだ残っていますので、引き続き波乱の予感です。


暁の裏

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