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スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


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第3話「旅路の朝、感謝を告げて」

 盗賊を退治しリーナを救出後、一度村に戻った俺たちは、軽く準備を整えた後、村を後にして、西へ伸びる街道を歩き始めた。

 昼の光を受けて揺れる草原の緑と、遠くに続く土色の道が、長い旅の始まりを告げているように見える。


 リーナは出発前に服装を整えていた。

 薄茶色の上着を羽織り、腰には(さや)を差している。村の宿で借りた鏡の前で(すそ)を正す姿は、ただの旅人に見えなくもない。けれど仕草のひとつひとつに上品さが漂い、彼女の金髪が目立つ。やはり隠しきれない気品を感じさせた。


「……やっぱり少し目立つんじゃないか?」

 

 そう口にすると、リーナは控えめに微笑んで肩をすくめる。


「できる限り目立たぬようにしているつもりなのですけれど……完全に隠すのは難しいようですね」


 並んで街道を歩いていると、俺まで背筋が伸びる気がした。


「リーナは、町に行ってどうするつもりなんだ?」

 

 俺が尋ねると、彼女は小さく息を吸い、はっきりと答えた。


「実は町が目的地ではなく……王都まで参るつもりです。ルストニアの王都まで」


「王都?」

 

 思わず足を止める。大国の中心、遠く広大な街。その名を聞いただけで、俺には別世界のように感じられた。


「確か王都って…」


『盗賊が持っていた地図から推測すると、ここから西に300㎞ほどです』


「どうしてまた、そんな遠くまで?」


 リーナは一瞬だけ視線を伏せ、静かに言葉を選ぶように口を開く。


「詳しい事情は申し上げられません。けれど――私を待ってくださっている大切な方がいるのです」


「大切な人……」

 

 思わず呟く。恋人か、家族か、それとも別の存在か。だが彼女の表情には真剣さが宿っていて、冗談ではないことが分かった。


「あなたは? 王都へ行かれる理由がおありなのですか?」

 

 リーナに問い返され、俺は苦笑した。


「いや、俺はただの凡人だからな。……正直、戦いよりは商売に向いていると思ってな。町へ行って便利な道具とか売って生きていけたらって」


「まぁ、ご冗談を…」

 リーナはそう言いながら、こちらに微笑む。


「それはそうと商売ですか…」

「では、冒険者を続けるおつもりはないのですね?」


「向いてないんだよ。スライムくらいなら何とかなったけど……盗賊と戦ったときは正直…今も胸が締め付けられる」


 言葉にすると、あの時の感触が(よみがえ)る。剣を振るった瞬間の抵抗、血の温度、崩れ落ちる音。思わず拳を握りしめた。


 そんな俺を横目で見て、リーナは柔らかく微笑んだ。

「けれど、あなたは私を救ってくださった。それは何よりも尊いことです」


「……守るためだったから」


「それで十分です」


 その静かな言葉に、心の奥のざらつきが少し和らいだ。

 リーナの言葉を聴いて救われた気がした。だからだろうか。


「王都に行くなら、一緒に行くよ」


 勢いで口にする。


「俺も商売をするなら、人通りの多い場所の方がいいだろうし。一人で旅するよりは安全だ」


『王都にて商売をすると町に比べ65%程度収入が増加します。』


 相棒がそう言ってくれたおかげでより決心がついた。


 リーナは目を見開いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「本当に、よろしいのですか?」

「もちろん。ひとりで盗賊に囲まれたら、またあんな目に遭うかもしれないしな」


「ふふ……確かにそうですね」


 彼女の笑顔を見て、肩に乗っていた重さが少し軽くなった。


 道はまだ長い。

 けれど、ただの凡人だった俺が、この少女と並んで王都を目指すことになるなんて――少し前までは想像すらできなかった。


「まずはグランツだな」

「はい。そこで休息を取り、王都へと続く街道に参りましょう」


 二人の歩みは揃い、夕日に照らされながら街道を進んでいった。




 街道を歩き続け、やがて空は赤から群青へと変わっていった。

 鳥の声が途絶え、草むらから虫の音が響き始める。


「そろそろ、この辺りで休んだほうがよろしいかと存じます」


 リーナが立ち止まり、周囲を見回した。視界を遮る木々は少なく、近くには小川が流れている。地面も踏み固められており、旅人が野営に用いる場所のようだ。


「じゃあ、今夜はここにしよう」


 俺は荷を下ろし、枝を集めて焚き火の準備を始める。リーナは布を広げて寝床(ねどこ)を作り、草を集めて下に敷いていた。その手際の良さに思わず感心する。


「ずいぶん慣れているんだな」

「子供の頃に学んだことがあるのです。……もっとも、半分は遊びの延長でございましたけれど」


 彼女は微笑みながら枯葉(かれは)や枝を集めていた。育ちは良さそうなのに、こうして土に膝をつく姿はどこか親しみやすい。


 リーナは集めた枝を使い火をおこし始めた。


『マスター、スキルにて|火打ち器を作成すれば(もう)けられるかもしれません』


 確かにこんなに苦労せずに火を起こせる道具があればみんな欲しがるだろう。


 おれは後でリーナに相談してみることにした。


 やがて火が灯ると、周囲に温もりが広がる。(だいだい)色の光に照らされるリーナの横顔は、昼間よりも柔らかに見えた。


 食事を済ませた後、俺は荷から木片や金属片を取り出した。


「リーナ、資金のことなんだけど……」

「ええ、宿泊や食糧しょくりょうを考えますと、必要でございますね」


「そこで、これを売ろうと思っているんだ」


 俺は手を動かしながら、頭の中で設計図を描き、スキルを通して形にする。


 最初に作ったのは小型の火打ち器だった。後は簡易のロープ止め、軽量な折りたたみ台。

 片手でレバーを押すと火花が散る仕組みで、旅人にとっては便利な道具だ。


「これは……何でございましょう?」

 リーナが興味深そうに覗き込む。

「火を簡単に起こせる道具さ。冒険者や旅人には重宝されると思う」


 俺が焚き火に向かってカチリと押すと、火花が散って炎が立ち上がった。リーナは目を見開き、感嘆の声を漏らす。


「まあ……! こんな小さなもので火がつくなんて。とても便利でございますね」


「これをいくつか作ってグランツで売ろうと思う。数が出れば旅費くらいにはなるだろうし」


 リーナはしばらく考え、それから真剣な眼差しで言った。


「……悠真さんは本当に、戦いではなく“生きる知恵”をお持ちなのですね。私がこうして旅を続けられるのも、きっとあなたのお力によるものでございましょう」


 思わず苦笑する。


「いや、大げさだよ。俺はただ、生き延びたいだけさ」

「それでも――私は感謝しております」


 リーナは焚き火を見つめ、炎に照らされた瞳が静かに揺れていた。


 その夜、俺たちは焚き火を囲んで眠りについた。

 警戒はAIがしてくれるらしい、すごく便利だ。

 虫の音と木々のざわめき、遠くで鳴く獣の声。

 リーナはマントを羽織り、静かに目を閉じている。その寝顔を見ていると、胸の奥が不思議と温かくなる。


 俺は空を仰ぎ、満天の星を見上げた。


(……グランツに着いたら、この道具を売ってみよう。それで旅の資金を稼いで、王都まで――)


 ゆっくりとまぶたが重くなり、意識は夜空に溶けていった。






 村を後にしてから数日が経過した。数日間の道のりは決して楽ではなかった。

 道中魔物に襲われることもあった。 昼間は容赦なく照りつける日差しと、足を取るような砂利道。夜は寒さや野獣の襲来で睡眠を妨げられることもしばしばあった。




 そんな道のりの先――ようやく視界の向こうに、灰色の石壁が姿を現した。


「……見えてまいりましたね。あれがグランツでございます」


 リーナの声は、いつも以上に柔らかで、どこか安堵を帯びていた。


 町の外壁は高さが十メートルほどで、城塞都市ほどの規模はないが、堅牢さを感じさせる。大きな木製の門が開かれ、荷車を引く商人や旅人たちが行き交っている。門のそばでは鎧姿の兵士が通行人を見張っていた。


「やっと着いたな……」


 重くなった足を前に出しながら、俺は感慨(かんがい)を噛みしめる。数日の野営生活の後に見る町並みは、まるで別世界のようだ。


 リーナは長旅の疲れを見せず、背筋を正して歩を進めていた。その姿に、近くの商人が思わず視線を向けている。彼女は気づかぬふりをして、フードを被った。


「まずは宿を探した方がよろしいでしょう。今のままでは休む場所もございませんし」

「そうだな。あと、例の火打ち器も売ってみたい。市場があれば助かるんだけど」

「ええ、グランツは交易で栄えておりますから、必ず市があるはずです。あなたの発明であれば、きっと興味を持たれるでしょう」


 彼女の言葉に励まされ、胸の奥に少しだけ自信が灯った。


 門をくぐると、賑やかな喧騒が押し寄せる。

 露店が並び、焼いた肉の匂いと甘い果物の香りが風に混じる。子どもたちが駆け抜け、大人たちは声を張り上げて品物を売り込んでいる。石畳の通りは活気に満ち、どこを見ても人の流れでいっぱいだった。


「すごいな……村とは全然違う」

「ええ。人も品も集まる町でございますから、これから先に進むための準備も整えやすくなりますね」

 リーナは穏やかに微笑んだ。


 俺たちはまず宿を探すことに決め、人通りの多い通りを歩き始めた。



 石畳を踏みしめながら人波を抜けていくと、町の中央通りに並ぶ商店や酒場のあいだから、ひときわ落ち着いた外観の建物が目に入った。

 白い漆喰(しっくい)の壁に木製の看板。そこには流麗な文字でシルバー・レイヴンと書かれている。


「……あそこなら、落ち着いて泊まれそうでございますね」


 リーナが裾を整えながら小声で言う。その言葉に俺も頷き、二人で戸口をくぐった。


 中に入ると、暖かな灯りが吊るされ、木の梁と石壁が組み合わさった内装はどこか安心感を与える。カウンターには恰幅のいい女将が立ち、にこやかな笑みで出迎えた。


「いらっしゃい。旅人かい?」

「はい。数日ほど泊まらせていただければと存じます」


 リーナは柔らかく、丁寧な口調で答える。女将は一瞬、彼女の言葉遣いに感心したように目を瞬かせたが、すぐに商売人の顔に戻った。


「一泊、一人50ルスだよ。夕餉(ゆうげ)朝餉(あさげ)つきで、部屋は別々でもご用意できるが、どうする?」

「別々のお部屋でお願いいたします」


 リーナは俺に視線を送り、微笑む。上品で落ち着いたその表情に、俺も頷く。


「あいよ」


 女将は帳簿に名前を書き込み、俺には三階の手前の部屋、リーナには三階の奥の部屋の鍵を渡した。


「荷物を置いたら食堂へおいで。ちょうど夕餉のシチューを煮込んでいるところだよ」

「ありがとうございます。大変助かります」


 リーナは深々と頭を下げ、その所作に宿の娘たちがひそひそと「なんだかお姫様みたいね」と(ささや)き合う声が聞こえた。


 俺たちは階段を上り、それぞれの部屋に荷物を置いた。

 木製のベッド、窓際の小さな机と椅子。決して豪華ではないが、旅の疲れを癒すには十分な清潔さと落ち着きがあった。



 部屋で荷物を置いた後、俺とリーナは食堂へ向かった。

 木製の扉を開けると、暖かい香りが漂い、丸テーブルがいくつも並ぶ広い空間に、夕暮れの光が柔らかく差し込んでいる。


 女将が微笑みながら近づいてきた。


「お待ちかね。ちょうどシチューが煮えたところだよ」

「ありがとうございます」


 リーナは、上品に席に着いた。背筋を伸ばし、手を膝の上に置くその姿は、どこか高貴さを漂わせている。


 シチューは肉と野菜がふんだんに入った、家庭的な味。香りに思わず食欲をそそられる。リーナは静かに「いただきます」と告げた。


「……とても美味しそうですね」

「そうだな、腹が空いていたからな」


 リーナは一口食べると、満足そうに微笑む。


「ふふ、あたたかくて、心まで落ち着く味ですね」


 食事を楽しみながら、リーナは自然に話題を変えた。


「町のことを少し教えていただけませんか?市場や商人の方々について」

 女将は少し目を丸くしたが、すぐに笑顔を返す。


「おや、そうかい。旅人さんで商売のことを知りたいのかい?」

「はい。もし差し支えなければ、参考にさせていただきたく存じます」


 リーナの落ち着いた丁寧な口調に、女将は安心した様子で話し始めた。


「グランツは街道の要衝(ようしょう)だから、商人や行商人、旅人の往来(おうらい)が多いんだ。特に北の市場は毎朝賑わうし、珍しい品も集まる。旅人向けの便利な道具や、ちょっとした発明品も、あの市場なら売れやすいだろうね」

「なるほど……北の市場ですね」


 リーナはうなずきながら、メモでも取るように短く言葉を選ぶ。


「もし旅人向けの小物などは、まずはその市場で売るといいと思うよ」


「なるほど、ありがとうございます女将さん。参考にさせてもらいます」

「ええ。市場は午前中から活気づきますし、どなたも新しいものには興味を持ってくださいます」

「そういえばお名前をお聴きしても?」

「私はアニエスってんだ、よろしくね」

「こちらこそよろしく」

「よろしくお願いします。」


 リーナは微笑み、器用にフォークを置き、深々と頭を下げる。


「本日はご丁寧に教えてくださり、誠にありがとうございます。おかげさまで、心強く存じます」


 女将も満足そうに頷き、俺たちは食事を続けた。

 リーナの振る舞いは、静かで落ち着いており、かつ礼儀正しい。周囲の宿泊客もちらりと目を向けるほどで、ただの旅人ではない何かを感じさせた。


 食事を終えたあと、俺はふとリーナを見た。


「……それにしても、すっかり町に馴染んでるな」

「ふふ、少しでもお手伝いになればと存じます。それに、こうして情報を伺うのも、旅には欠かせませんから」


 彼女の言葉に、俺は納得しつつも、心の中で感心してしまった。


 ――こうして、俺たちはまず宿で休み、翌日からグランツの市場で資金調達を始める準備を整えた。



 翌朝、朝日が町を照らす頃、俺たちは宿を後にして北の市場へ向かった。

 通りはすでに活気に満ち、露店の呼び声や商人の笑い声が響き渡る。焼きたてのパンや干し肉、香辛料の匂いが混じり、町全体が賑やかな朝の空気に包まれていた。


「……見ろよ、リーナ。これが市場か」

「ええ、想像以上に活気がございますね」

 

リーナは上品に視線を巡らせる。通行人に迷惑をかけぬよう、静かに歩く姿はまさに貴族の立ち居振る舞いだ。


 俺は荷物から自作の道具を取り出し、空いたスペースに並べていく。火打ち器や簡易のロープ止め、軽量な折りたたみ台など、現代の知識を活かした便利な道具だ。


「まずは火打ち器を……」

「なるほど、こうすれば火花が飛ぶのですね」


 リーナは興味深そうに火打ち器を手に取り、説明を添える。


「旅人の方々にお勧めするときは、こうして実演するのが良いかと存じます」

「お、そうか。それなら人目を引きやすいな」


『価格は50ルスが妥当でしょう』


「なるほどね、リーナ、50ルスで売ろうと思っているがどうだろう?」

「いいと思います」


 リーナは微笑みながら、丁寧に言葉を添えて通行人に呼びかけた。


「皆様、こちらの火打ち器は片手で簡単に火を起こせます。旅先での煮炊きや暖を取るのに、とても便利でございます」


 小さな男の子が興味を示して手を伸ばすと、リーナは手を添えて安全に火打ち器を操作する方法を見せた。


「ほら、簡単に火がつくでございましょう?」

「おお、すごい!」

 

その場にいた人々の視線が集まり、俺は火打ち器を次々に手渡した。


「……姉ちゃん、これいくらだい?」

 

老舗の露店商人が声をかけてきた。


「一つ50ルスです」


 リーナは男商人に向けて微笑み、礼儀正しく頭を下げる。


「ご参考までに、実演も可能でございます。どうぞお試しくださいませ」


 男商人は少し考えた後、うなずく。


「ほう……それは便利そうだな。ぜひ試してみよう」


 次々と通行人に説明し、リーナが優雅に振る舞いながらデモンストレーションをすることで、商品の価値が自然に伝わっていく。

 人々は興味津々で立ち止まり、火打ち器はあっという間に数個売れた。


「……すごい、リーナ。お前の話し方で、みんな納得して買ってくれるな」

「ふふ、そうおっしゃっていただけると幸いでございます。少しでもお役に立てれば嬉しく存じます」

 

リーナは微笑み、丁寧に頭を下げる。その所作に、周囲の人々もまた礼儀正しさと信頼を感じ、興味を持って商品の前に集まった。


 火打ち器に続き、折りたたみ台やロープ止めも同じように説明すると、午前中だけでかなりの売上があった。

(これで旅の資金も少しは確保できたな……)


 夕方になる頃には、リーナも俺も少し疲れたが、用意した全ての在庫を売り切って充実感で胸が満たされていた。

「……リーナ、本当に助かるよ。君のおかげで、こんなに順調に売れるとは思わなかった」

「恐縮です。ですが、私は少しでもお役に立てたなら、それで十分でございます」

 リーナは控えめに微笑み、夕日に照らされる町並みを見つめた。


 この日の市場での成功は、二人の旅路の一歩目に過ぎない――だが、確実に王都への道を近づけるものだった。




 数日間の滞在で、俺とリーナはすっかり宿の雰囲気に馴染んでいた。

 市場での商売も順調に進み、宿に戻れば温かい食事と落ち着いた空間が迎えてくれる。だが、いつまでもここに留まるわけにはいかない。王都を目指す旅は、まだ始まったばかりだ。


 朝、荷物を整え、宿の玄関へ向かうと、女将のアニエスが腕を組みながら待っていた。


「おや、もう発つのかい。もうちょっと長く泊まってくれても良かったんだよ」


「お世話になりました、アニエスさん。本当に居心地の良い宿でした」

 

俺が頭を下げると、隣のリーナも軽やかに裾を持ち上げ、深く一礼する。


「数日の間、大変お世話になりました。お食事もお部屋も、心より感謝申し上げます」


 その丁寧な言葉遣いと優雅な所作に、女将は思わず目を丸くした。


「ほんとにあんたは、どこぞの令嬢かと思うくらいだねぇ……。でも、そういう礼儀正しさは、どこに行っても損にはならないさ」

「お褒めいただき光栄です」


 リーナは柔らかく微笑み、再び頭を下げた。



 アニエスは俺たち二人をしばし見つめ、それから声を低くした。


「グランツを出るなら、西の街道を行くんだろう? 途中には小さな宿場町があるけど……最近は盗賊や魔獣の噂もある。気をつけるんだよ」


「盗賊……」俺は思わず息を呑んだ。

 リーナも真剣な表情でうなずく。


「ご忠告、誠にありがとうございます。心して参ります」


 女将は手を振りながら笑った。


「まったく、妙に品のある嬢ちゃんと、不思議な道具を作る若い男……。あんたたちなら大丈夫さ。王都でもきっとやっていけるよ」


 俺とリーナは顔を見合わせ、小さく微笑んだ。


「それでは、行ってきます」

「お元気でございますように」


 そして俺たちは石畳を踏みしめながら、再び旅路へと足を進めた。背後に残るシルバーレイブンの看板は、旅の途中で得られたひとつの拠点のように、心に温かな灯を残していた。


今回のエピソードでは、主人公とリーナがグランツの町に到着し、初めてまとまった資金を得る様子を描きました。

数日の旅路を経て辿り着いた町での滞在は、ただの休息ではなく、二人にとって旅路の基盤を作る大切な時間でもありました。


リーナの上品で丁寧な言葉遣いや立ち振る舞いは、旅の中での彼女の強さや知性を示すものであり、同時に読者の皆様に安心感や温かさを届けられたら幸いです。

市場での販売や女将との別れの描写を通じて、異世界での生活や人々との交流が少しでも身近に感じられたなら嬉しく思います。


次回以降は、旅の途中で直面する困難や新たな出会い、そしてリーナの王都への想いがさらに物語を動かしていきます。

どうぞ、二人の冒険の行く末を楽しみにしていてください。


――暁の裏

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