第26話 「救世か破壊か、交わる信念」
帝都防衛戦から三日が経過した。
俺たちは王都の自宅に戻り、今後の対策を練っていた。
応接室には、リナリア、エリア、シルヴィア、リリィ、そしてエリーゼが集まっている。エリーゼは帝都での戦いの後も、しばらく俺たちと行動を共にすることを決めたようだ。
「それで、世界創造の書の情報は見つかったのか?」
俺が尋ねると、エリアが古い本を広げた。
「はい。帝国の図書館で、古文書を調べました」
エリアが指差すのは、色褪せた羊皮紙に書かれた古代文字だ。
「これによると、世界創造の書は『始まりの塔』の最下層に封印されているそうです」
「始まりの塔……どこにあるんだ?」
「それが……」
エリアが地図を広げる。
「帝国と王国の国境、『忘却の森』の奥深くにあるそうです」
「忘却の森……」
リナリアが眉をひそめる。
「そこは、魔物の巣窟として有名な場所です。冒険者でさえ、滅多に足を踏み入れない危険地帯……」
「だからこそ、塔が隠されているのね」
エリーゼが言う。
「恐らく、深淵の使徒もその場所を知ったはずよ。ゼノが古代魔法を使っていたということは、すでに塔に関する情報を持っている可能性が高いわ」
『旦那様、状況は切迫しています』
アイが姿を現す。
『深淵の使徒が世界創造の書を手に入れる前に、私たちが先に確保する必要があります』
「わかってる。でも、準備も必要だ」
俺は地図を見つめる。
「忘却の森まで、どのくらいかかる?」
「《空間転移》を使えば、一瞬です」
エリアが答える。
「ただし、森の中は強力な魔法結界が張られているため、外周までしか転移できません。そこから塔までは、徒歩で向かう必要があります」
「徒歩で……どのくらいの距離だ?」
「推定で、約二十キロメートル」
「二十キロか……」
俺は考え込む。
「全員で行くのは危険すぎる。今回は精鋭だけで向かおう」
「悠真さん、わたくしも行きます」
リナリアが真剣な表情で言う。
「わたくしも」
エリアも頷く。
「わたくしも行きます」
シルヴィアも決意を示す。
「わたしも! お兄ちゃんを守る!」
リリィが元気よく手を挙げる。
「私も当然、行くわ」
エリーゼが剣を握る。
「これは帝国の問題でもあるもの」
俺は全員の顔を見回す。
どの顔にも、強い決意が宿っている。
「わかった。じゃあ、全員で行こう」
『旦那様、装備の確認をしましょう』
アイが提案する。
「そうだな。今回は長期戦になる可能性がある」
俺たちは準備を始めた。
武器、防具、回復薬、食料……
《アイテムボックス》に必要なものを次々と収納していく。
「それと、これを」
エリーゼが小さな宝石を取り出す。
「これは帝国に伝わる『帰還の宝石』。緊急時に、登録した場所に一度だけ転移できるわ」
「便利だな」
「ええ。でも使い捨てだから、本当に危険な時だけ使ってね」
俺が宝石を受け取ると、温かい光を放った。
「それじゃあ、明日の朝、出発しよう」
俺が宣言すると、全員が頷いた。
世界の命運をかけた、最大の戦いが始まろうとしていた。
翌朝、俺たちは王都の郊外に集合した。
空は晴れ渡り、絶好の旅日和だ。
だが、俺の胸には重い予感が漂っている。
「みんな、準備はいいか?」
「はい」
全員が頷く。
「それじゃあ、《空間転移》!」
俺が魔法を発動すると、視界が光に包まれた。
次の瞬間、俺たちは暗い森の入口に立っていた。
忘却の森。
巨大な木々が空を覆い、陽光をほとんど遮っている。地面は湿っていて、腐葉土の匂いが鼻をつく。
遠くから、不気味な魔物の鳴き声が聞こえる。
「ここが……忘却の森……」
リリィが少し怯えた様子で俺の服を掴む。
「大丈夫だ、リリィ。俺が守るから」
俺がリリィの頭を撫でると、彼女が少し安心したように微笑む。
『旦那様、始まりの塔は北東の方向、直線距離で約二十キロメートルです』
アイが方向を示す。
「わかった。それじゃあ、出発しよう」
俺たちは森の中へ足を踏み入れた。
木々の間を進むと、すぐに異変に気づいた。
「……静かすぎる」
リナリアが呟く。
「ええ。鳥の声も、虫の音も聞こえません」
エリアも同意する。
『旦那様、魔力の流れが異常です。この森全体に、強力な魔法がかけられています』
アイが警告する。
「魔法……まさか」
その時、前方の茂みが動いた。
「何だ!?」
俺たちが身構えると、茂みから巨大な影が飛び出してきた。
ダークベアだ。
全身が黒い毛に覆われ、赤く光る目が俺たちを睨む。その大きさは、通常の熊の三倍はある。
「グルルルル……」
ダークベアが唸る。
「一体だけじゃない……」
リナリアが周囲を警戒する。
次々と、茂みからダークベアが現れる。
その数、十体以上。
「囲まれた……」
エリーゼが剣を抜く。
「仕方ない、戦うぞ!」
俺が《身体能力強化》を発動する。
「リナリア、正面! エリア、魔法支援! シルヴィア、右翼! エリーゼ、左翼! リリィは俺の後ろで回復を頼む!」
「はい!」
全員が散開する。
ダークベアたちが一斉に襲いかかってきた。
「ガルルルル!」
リナリアが最初の一体に斬りかかる。
「《聖龍剣舞・序》!」
剣が光を纏い、ダークベアの腹部を切り裂く。
「グアアアア!」
ダークベアが咆哮するが、すぐに反撃してくる。
巨大な爪が、リナリアに向かって振り下ろされる。
「くっ!」
リナリアが剣で受け止める。
ガキィン!
凄まじい衝撃が走る。
「重い……!」
「リナリア、援護します! 《ウィンドカッター》!」
エリアが風の刃を放つ。
風の刃が、ダークベアの背中を切り裂く。
「グアアア!」
ダークベアが怯む。
「今だ、リナリア!」
「はい!」
リナリアの剣が、ダークベアの首を切り落とす。
ドサッ!
ダークベアが倒れる。
「一体撃破!」
一方、シルヴィアは右翼で三体のダークベアと戦っていた。
「《聖龍変身》!」
シルヴィアの体が光に包まれ、美しい白い龍に変わる。
「グルルル!」
ダークベアたちが襲いかかる。
「させません! 《聖龍の光弾》!」
シルヴィアが口から光の球を連射する。
ドォン、ドォン、ドォン!
光の球が、ダークベアたちに命中する。
「グアアアア!」
ダークベアたちが吹き飛ぶ。
「もう一撃!」
シルヴィアが強力なブレスを放つ。
ドォォォン!
三体のダークベアが、光に包まれて消滅する。
「やりました!」
エリーゼは左翼で、四体のダークベアと戦っていた。
「《紅蓮の剣・爆炎斬》!」
炎を纏った剣撃が、ダークベアたちを襲う。
ドォン!
爆発が起こり、ダークベアたちが吹き飛ぶ。
「まだよ! 《紅蓮の剣・連炎斬》!」
連続する炎の斬撃が、次々とダークベアたちを切り裂く。
「グアアアア!」
ダークベアたちが倒れる。
「よし、これで……」
しかし、エリーゼの背後から、新たなダークベアが襲いかかる。
「危ない!」
俺が《時間操作》を発動する。
周囲の時間が遅くなり、ダークベアの動きがスローモーションになる。
「はあああ!」
俺が全速力で駆け、エリーゼの前に飛び込む。
そして、ダークベアの爪を拳で受け止める。
ガキィン!
「悠真!?」
エリーゼが驚く。
「大丈夫だ。これくらい……」
俺が《魔法付与》で拳に雷を纏わせる。
「食らえ!」
雷を纏った拳を、ダークベアの顔面に叩き込む。
バチバチバチ!
雷が走り、ダークベアが感電する。
「グアアアアア!」
ダークベアが苦しそうに叫ぶ。
「まだだ!」
俺が連続で拳を叩き込む。
ドゴォ、ドゴォ、ドゴォ!
最後に、全力の一撃を顔面に叩き込む。
ドゴォォン!
ダークベアの頭が砕け、倒れる。
「はあ……はあ……」
俺が息を整える。
「ありがとう、悠真」
エリーゼが微笑む。
「礼はいらない。仲間だろ」
俺が答えると、エリーゼの頬が少し赤くなった。
「そうね……仲間だわ」
戦闘が終わり、俺たちは倒れたダークベアたちを確認する。
「全部で十五体……」
リナリアが呟く。
「この森、予想以上に危険ですね」
エリアも同意する。
『旦那様、この戦闘でスキルポイントが1500ポイント増加しました』
アイが報告する。
『累計スキルポイント:60,000ポイント』
「まだまだ足りないな……」
俺が呟く。
「それより、先を急ぎましょう」
リナリアが言う。
「そうだな。このペースだと、塔に着くまでにかなり時間がかかる」
俺たちは再び森の奥へと進んだ。
森の中を進むこと三時間。
俺たちは次々と魔物に襲われた。
ダークウルフ、ダークスパイダー、ダークトレント……
どれも通常の魔物よりも強力で、深淵の力で強化されているようだ。
「はあ……はあ……」
リリィが疲れた様子で座り込む。
「リリィ、大丈夫か?」
「うん……ちょっと疲れただけ……」
「少し休憩しよう」
俺が提案すると、全員が頷いた。
木の根元に腰を下ろし、水筒から水を飲む。
「それにしても、魔物が多すぎるわ」
エリーゼが呟く。
「ええ。まるで、誰かが意図的に配置しているみたい……」
エリアも同意する。
『旦那様、その推測は正しいかもしれません』
アイが姿を現す。
『この森の魔物たちの配置パターンを分析したところ、明らかに不自然な点があります』
「不自然?」
『はい。通常、魔物は縄張りを持ち、一定の範囲にしか生息しません。しかし、この森の魔物たちは、特定のルートに集中して配置されています』
「特定のルート……まさか」
「始まりの塔へ向かうルートを、魔物で封鎖しているのね」
エリーゼが言う。
「深淵の使徒が、先に塔に到達しているということか」
俺が拳を握りしめる。
「急がないと……」
その時、遠くから爆発音が聞こえた。
ドォォン!
「何だ!?」
俺たちが立ち上がる。
「音の方向は……北東……塔の方向だわ」
エリーゼが言う。
「まさか、深淵の使徒が塔を攻撃しているのか?」
「わかりません。でも、行ってみましょう」
リナリアが剣を抜く。
「ああ。全員、警戒しながら進むぞ」
俺たちは音の方向へと走り出した。
木々の間を駆け抜け、茂みを掻き分ける。
そして、開けた場所に出た。
そこには――
「これは……」
俺たちは息を呑んだ。
目の前には、巨大な石造りの塔が聳え立っていた。
始まりの塔
高さは百メートル以上あり、古代の建築様式で建てられている。壁には複雑な魔法陣が刻まれ、淡い光を放っている。
しかし、塔の周囲は異様な光景だった。
数百体の魔物たちが、塔を取り囲んでいる。
ダークウルフ、ダークベア、ダークゴーレム、ダークグリフォン……
そして、黒いローブを纏った深淵の使徒たちが、約五十名。
塔の入口には、強力な魔法結界が張られており、深淵の使徒たちがそれを解除しようと魔法を撃ち込んでいる。
「深淵の使徒……」
リナリアが呟く。
「予想通り、先に来ていたわ」
エリーゼが言う。
「でも、まだ塔の中には入れていないようね。結界が邪魔をしているわ」
『旦那様、あの結界は非常に強力です。深淵の使徒たちが全力で攻撃しても、まだ持ちこたえています』
アイが分析する。
「ということは、まだチャンスがあるということか」
俺が呟く。
「でも、どうやって塔に入るんですか? 深淵の使徒たちが大勢いるのに……」
エリアが尋ねる。
「正面突破しかないな」
俺が決意を固める。
「正面突破!? 相手は数百体の魔物と五十名の深淵の使徒ですよ!?」
「わかってる。でも、他に方法がない」
俺が拳を握りしめる。
「それに、俺たちには力がある。みんなで力を合わせれば、きっと勝てる」
「悠真さん……」
リナリアが俺を見つめる。
「わたくし、悠真さんを信じます」
「わたくしも」
エリアも頷く。
「わたくしも行きます」
シルヴィアも決意を示す。
「わたしも、お兄ちゃんと一緒!」
リリィが元気よく答える。
「私も、あなたを信じるわ」
エリーゼが微笑む。
『わたしも、ずっと旦那様のそばにいます』
アイも力強く言う。
「ありがとう、みんな」
俺が微笑む。
「それじゃあ、作戦を立てよう」
俺たちは木陰に隠れ、作戦会議を始めた。
「まず、俺が《時間操作》で時間を遅くする。その隙に、全員で魔物の群れを突破する」
「魔物の数が多すぎます。全部倒すのは不可能では?」
エリアが尋ねる。
「倒す必要はない。突破するだけでいい」
俺が答える。
「リナリア、エリーゼ、シルヴィアは前衛で道を切り開いてくれ。エリアは魔法で支援。リリィは俺と一緒に中衛で回復を頼む」
「わかりました」
全員が頷く。
「そして、塔の入口に着いたら……」
『旦那様、結界の解除は私に任せてください』
アイが言う。
『深淵の使徒たちが解除できないのは、彼らが邪悪な存在だからです。しかし、私たちなら解除できるはずです』
「わかった。じゃあ、アイに任せる」
「それで、深淵の使徒たちは?」
エリーゼが尋ねる。
「俺が相手をする」
俺が答える。
「一人で!? 無茶よ!」
「大丈夫だ。何とかなる」
俺が自信を持って答える。
「それに、みんなが魔物を相手にしている間、誰かが深淵の使徒を食い止めないといけない」
「……わかったわ。でも、無理はしないで」
エリーゼが心配そうに言う。
「ああ、約束する」
俺が微笑む。
「それじゃあ、準備はいいか?」
「はい」
全員が頷く。
「それじゃあ……行くぞ!」
俺たちは木陰から飛び出し、魔物の群れに向かって突進した。
俺が魔法を発動すると、周囲の時間が遅くなる。
魔物たちの動きがスローモーションになる。
「今だ、突破しろ!」
俺が叫ぶ。
「はい!」
リナリアが先頭を走る。
「《聖龍剣舞・序》!」
剣が光を纏い、前方のダークウルフたちを切り裂く。
「キャイン!」
ダークウルフたちが倒れる。
「続け!」
エリーゼが続く。
「《紅蓮の剣・爆炎斬》!」
炎の斬撃が、魔物たちを薙ぎ払う。
ドォン!
爆発が起こり、道が開ける。
「シルヴィア、上空から支援を!」
俺が叫ぶ。
「はい!」
シルヴィアが白い龍に変わり、空に舞い上がる。
「《聖龍の光弾》!」
上空から光の球が降り注ぎ、魔物たちを撃破していく。
ドォン、ドォン、ドォン!
「エリア、魔法支援!」
「はい! 《ウィンドカッター》! 《ファイアボルト》! 《サンダーボルト》!」
エリアが次々と魔法を放つ。
風の刃、炎の球、雷撃が、魔物たちを襲う。
「グアアアア!」
魔物たちが次々と倒れていく。
俺たちは猛スピードで魔物の群れを突破していく。
五十メートル、百メートル、百五十メートル……
「もうすぐ塔だ!」
俺が叫ぶ。
しかし、その時――
「邪魔をするな!」
黒いローブの男が、俺たちの前に立ちはだかった。
「深淵の使徒……!」
「貴様ら……よくもここまで来たな……」
ローブ男が杖を構える。
「だが、ここで終わりだ! 《ダークウェーブ》!」
黒い波動が、俺たちに襲いかかる。
「くっ!」
俺が《時空間シールド》を展開する。
金色の盾が現れ、黒い波動を防ぐ。
ドゴォン!
「リナリア、先に行け! こいつは俺が相手をする!」
「でも、悠真さん!」
「いいから! 塔の結界を解除するのが最優先だ!」
「……わかりました。でも、無理はしないでください!」
リナリアたちが塔へ向かって走る。
「行かせるか!」
ローブ男が魔法を放とうとする。
「お前の相手は、俺だ!」
俺がローブ男に突進する。
「《身体能力強化》!」
全身に力が漲る。
「はあああ!」
俺が拳を振るう。
ローブ男が咄嗟に杖で防ぐ。
ガキィン!
「くっ……なんという力……!」
ローブ男が後退する。
「まだだ!」
俺が連続で拳を叩き込む。
ドゴォ、ドゴォ、ドゴォ!
ローブ男が防戦一方になる。
「くそっ……《ダークボルト》!」
ローブ男が魔法を放つ。
黒い球体が、俺に向かって飛んでくる。
「《時間操作》!」
時間を遅くし、黒い球体を避ける。
「何!?」
ローブ男が驚く。
「はあああ!」
俺が拳を顔面に叩き込む。
ドゴォ!
ローブ男が吹き飛ぶ。
「ぐああああ!」
地面に倒れる。
「一人目、撃破」
俺が呟く。
『旦那様、まだ敵は大勢います!』
アイが警告する。
「わかってる!」
俺が周囲を見回すと、さらに十名以上の黒ローブたちが集まってきていた。
「貴様……よくもドレッドを!」
「許さん!」
黒ローブたちが一斉に魔法を放つ。
「《ダークボルト》!」
「《シャドウランス》!」
「《カース・フォッグ》!」
様々な闇の魔法が、俺に襲いかかる。
「くっ……《時空間シールド》最大展開!」
金色の盾が、全ての魔法を防ぐ。
ドォォォン!
凄まじい爆発が起こる。
「はあ……はあ……」
俺が息を整える。
『旦那様、魔力消費が激しいです! このままでは持ちません!』
「わかってる……でも、ここで踏ん張らないと……!」
俺が再び構える。
黒ローブたちが、次の魔法を準備する。
その時――
「悠真!」
リナリアの声が聞こえた。
振り返ると、リナリアたちが塔の入口の結界を解除しようとしている。
アイが結界に手を触れ、複雑な魔法陣を解析している。
「もう少し……あと少しで……」
アイが呟く。
「くっ……あいつら、結界を解除しようとしている!」
黒ローブの一人が叫ぶ。
「阻止しろ!」
黒ローブたちが、リナリアたちに向かって魔法を放つ。
「させるか!」
俺が《空間転移》で瞬時にリナリアたちの前に移動する。
「《時空間シールド》!」
金色の盾が、全ての魔法を防ぐ。
ドォォン!
「悠真さん!」
「大丈夫だ! 早く結界を解除してくれ!」
「はい!」
アイが結界の解析を続ける。
「あと少し……もう少しで……できます!」
「急いでくれ!」
俺が叫ぶ。
黒ローブたちが、再び魔法を準備する。
「《ダークネス・ジャッジメント》!」
巨大な黒い光球が、俺たちに向かって降ってくる。
「くそっ……!」
俺が《時空間シールド》を最大限に強化する。
金色の盾が、より強固になる。
しかし、黒い光球の威力は凄まじい。
バリバリバリ!
盾に亀裂が入る。
「くっ……持ちこたえろ……!」
俺が必死に耐える。
『旦那様、魔力が限界です!』
「わかってる……でも……!」
その時――
「できました!」
アイが叫ぶ。
パキィン!
結界が砕け散る音が響く。
「やった……!」
俺が安堵する。
「全員、塔の中へ!」
俺が叫ぶ。
「はい!」
リナリアたちが塔の中へ駆け込む。
「悠真も、早く!」
エリーゼが俺を呼ぶ。
「ああ!」
俺も塔へ向かって走る。
「逃がすか!」
黒ローブたちが追いかけてくる。
しかし、俺が塔の入口に入った瞬間――
ゴォォォ!
塔の扉が自動的に閉まる。
ドォン!
重い音が響く。
「はあ……はあ……何とか……間に合った……」
俺が膝をつく。
「悠真さん、大丈夫ですか!?」
リナリアが駆け寄る。
「ああ……何とか……」
「リリィ、回復を」
「うん! 《ヒーリング・ライト》!」
リリィの魔法が、俺を包み込む。
温かい光が体を癒し、疲労が回復していく。
「ありがとう、リリィ」
「えへへ、どういたしまして」
リリィが微笑む。
『旦那様、外の敵は扉を破ろうとしていますが、この扉は強力な魔法で守られています。当分は破られないでしょう』
アイが報告する。
「そうか……それなら、少し時間がある」
俺が立ち上がり、塔の内部を見回す。
石造りの広いホール。天井は高く、壁には古代文字が刻まれている。
奥には、下へ続く階段がある。
「これが……始まりの塔の内部……」
エリーゼが呟く。
「世界創造の書は、最下層にあるはずです」
エリアが言う。
「じゃあ、下へ向かおう」
俺が階段に向かう。
「でも、気をつけて。この塔には、きっと罠があるわ」
エリーゼが警告する。
「ああ、わかってる」
俺たちは階段を降り始めた。
石の階段は螺旋状に下へ続いている。松明が壁に設置されており、淡い光を放っている。
階段を降りること十分。
俺たちは最初の部屋に到着した。
広い石造りの部屋。中央には、巨大な魔法陣が描かれている。
「これは……」
リナリアが警戒する。
その時、魔法陣が光り始めた。
ゴォォォ!
「何だ!?」
魔法陣から、巨大な影が現れた。
ストーンゴーレムだ。
高さ五メートルはある巨体。全身が灰色の石で覆われ、目だけが赤く光っている。
「ゴオオオオ!」
ゴーレムが咆哮する。
「戦闘態勢!」
俺が叫ぶ。
「はい!」
全員が構える。
ゴーレムが拳を振り上げ、俺たちに向かって叩きつけてくる。
ドゴォン!
地面が割れ、衝撃波が走る。
「散開!」
俺が叫ぶ。
全員がそれぞれの方向に跳ぶ。
「リナリア、正面から牽制! エリア、魔法攻撃! シルヴィア、側面から! エリーゼ、弱点を探せ!」
「わかりました!」
リナリアがゴーレムに斬りかかる。
「《聖龍剣舞・序》!」
剣がゴーレムの腕を切り裂く。
ガキィン!
しかし、傷は浅い。
「硬い……!」
「エリア、魔法!」
「はい! 《ファイアボルト》!」
炎の球が、ゴーレムに命中する。
ドォン!
しかし、ゴーレムは無傷だ。
「効いていない……」
「シルヴィア、側面から攻撃!」
「はい! 《聖龍の光弾》!」
光の球が、ゴーレムの側面に命中する。
ドォン!
ゴーレムが少し怯む。
「光属性が効くのね」
エリーゼが気づく。
「なら、私も! 《紅蓮の剣・爆炎斬》!」
炎の斬撃が、ゴーレムを襲う。
ドォン!
しかし、まだ倒れない。
「くっ、タフだな……」
俺が呟く。
『旦那様、ゴーレムのコアは胸の中央にあります。そこを破壊すれば倒せます』
アイが分析する。
「胸の中央……わかった!」
俺が《身体能力強化》を最大限に発動する。
「みんな、ゴーレムの注意を引いてくれ!」
「わかりました!」
リナリア、エリア、シルヴィア、エリーゼが、ゴーレムに攻撃を仕掛ける。
ゴーレムの注意が、四人に向く。
「今だ!」
俺が《時間操作》を発動する。
時間が遅くなり、ゴーレムの動きがスローモーションになる。
俺が全速力で駆け、ゴーレムの胸に向かって跳躍する。
「《魔法付与》!」
拳に雷を纏わせる。
「はああああ!」
全力の一撃を、ゴーレムの胸の中央に叩き込む。
バキィン!
ゴーレムの胸が砕け、中から赤く光るコアが露出する。
「そこだ!」
俺が再び拳を叩き込む。
ガシャァン!
コアが砕け散る。
「ゴ……オオ……オオ……」
ゴーレムが崩れ落ちる。
ドサッ!
「やった……」
俺が着地する。
『スキルポイント+3000ポイント獲得』
『累計スキルポイント:63,000ポイント』
アイが報告する。
「お疲れさま、悠真さん」
リナリアが近づく。
「ああ……でも、まだ先は長い」
俺が奥の階段を見る。
「下へ進もう」
俺たちは再び階段を降り始めた。
二階層目。
ここには、無数の刃が壁から飛び出す罠があった。
「危ない!」
俺が《時間操作》で時間を遅くし、刃を避ける。
「みんな、気をつけろ!」
全員が慎重に罠を避けながら進む。
三階層目。
ここには、炎を吐く像が並んでいた。
「《ウィンドシールド》!」
エリアが風の盾を展開し、炎を防ぐ。
四階層目。
ここには、床が崩れる罠があった。
「《空間転移》!」
俺が全員を転移させ、崩れる床を回避する。
五階層目。
ここには、複数のストーンゴーレムが待ち構えていた。
「また、ゴーレムか!」
俺が叫ぶ。
「今度は五体……!」
エリーゼが数える。
「仕方ない、全力で行くぞ!」
俺が《身体能力強化》を発動する。
「リナリア、エリーゼ、シルヴィア、各自一体ずつ! エリアは魔法支援! リリィは回復! 俺は残り二体を相手にする!」
「はい!」
全員が散開する。
激しい戦闘が始まった。
リナリアは、ゴーレムに斬りかかる。
「《聖龍剣舞・破》!」
剣が光を纏い、ゴーレムの腕を切り落とす。
「ゴオオオ!」
ゴーレムが怯む。
「もう一撃! 《聖龍剣舞・極》!」
リナリアの最強の剣技が、ゴーレムのコアを破壊する。
ガシャァン!
ゴーレムが崩れ落ちる。
エリーゼは、炎の剣でゴーレムを攻撃する。
「《紅蓮の剣・炎龍舞》!」
炎の龍が、ゴーレムを包み込む。
ドォォォン!
爆発が起こり、ゴーレムが倒れる。
シルヴィアは、龍の姿でゴーレムと戦う。
「《聖龍の咆哮》!」
強力なブレスが、ゴーレムを貫く。
ドゴォォン!
ゴーレムが粉々に砕ける。
俺は、残り二体のゴーレムと戦っていた。
「《時間操作》!」
時間を遅くし、一体目のゴーレムの背後に回る。
「はあああ!」
雷を纏った拳を、コアに叩き込む。
バキィン!
一体目が倒れる。
「残り一体!」
俺が二体目のゴーレムに向かう。
ゴーレムが拳を振り下ろしてくる。
「《時空間シールド》!」
金色の盾で防ぐ。
ドゴォン!
凄まじい衝撃だが、耐える。
「はあああ!」
俺が反撃する。
連続で拳を叩き込み、最後にコアを破壊する。
ガシャァン!
二体目も倒れる。
「はあ……はあ……」
俺が息を整える。
『スキルポイント+15,000ポイント獲得』
『累計スキルポイント:78,000ポイント』
アイが報告する。
「78,000ポイント……」
俺が呟く。
「すごい勢いでポイントが増えていますね」
エリアが言う。
「ああ。でも、まだ足りない」
俺が奥の階段を見る。
「先を急ごう」
六階層目から十階層目まで、俺たちは次々と罠と魔物を乗り越えていった。
巨大な蜘蛛、炎を纏った狼、雷を操る鳥……
どれも強力な敵だったが、俺たちは協力して倒していった。
そして、ついに――
「これが……最下層……」
俺たちは、巨大な扉の前に立っていた。
黒い金属で作られた扉。表面には、複雑な魔法陣が刻まれている。
「この扉の向こうに、世界創造の書があるはずです」
エリアが言う。
「でも、簡単には開かなさそうね」
エリーゼが扉に手を触れる。
『旦那様、この扉は特殊な鍵が必要です』
アイが分析する。
「鍵……どこにあるんだ?」
「恐らく、この塔のどこかに隠されているのでしょう」
エリアが言う。
「くそっ、また戻るのか……」
俺が舌打ちする。
その時――
「その必要はないぞ」
冷たい声が響いた。
「誰だ!?」
俺たちが振り返ると、扉の前に一人の男が立っていた。
銀髪、紫の瞳。
ゼノだ。
「ゼノ……!」
俺が身構える。
「よくぞここまで来たな、一ノ瀬悠真」
ゼノが不敵に笑う。
「お前たちの活躍は、外から観察させてもらった」
「外から……?」
「そうだ。この塔には、監視の魔法がかけられている。お前たちの戦いぶり、なかなか見事だった」
ゼノが拍手する。
「ふざけるな!」
エリーゼが剣を抜く。
「お前たちの目的は何だ! 世界創造の書を手に入れて、何をするつもりだ!」
「目的? 決まっている。世界の再構成だ」
ゼノが腕を広げる。
「この腐敗した世界を、一度破壊し、新たに創造する。それが我々深淵の使徒の使命だ」
「そんなこと、させるか!」
俺が叫ぶ。
「ほう……それでは、お前たちは私を倒すつもりか?」
ゼノが不敵に笑う。
「面白い。では、試してみるがいい」
ゼノが魔力を解放する。
ゴォォォォ!
凄まじい魔力が、部屋中を揺らす。
「なんという魔力……!」
リナリアが驚く。
「これが……深淵の使徒の指導者の力……」
エリーゼも震える。
『旦那様、ゼノの魔力は計り知れません。非常に危険です!』
アイが警告する。
「わかってる……でも、ここで引くわけにはいかない!」
俺が《身体能力強化》を発動する。
「みんな、全力で行くぞ!」
「はい!」
全員が構える。
ゼノとの、最終決戦が始まった。
「《時間操作》!」
俺が時間を遅くする。
しかし――
「無駄だ」
ゼノが手を振るうと、時間操作が解除される。
「何!?」
「私に時間の法則は通用しない。お前の小細工など、無意味だ」
ゼノが指を鳴らす。
「《ダークネス・スフィア》」
巨大な黒い球体が、俺たちに向かって飛んでくる。
「《時空間シールド》!」
俺が盾を展開する。
ドゴォォン!
凄まじい衝撃が走る。
盾が砕けそうになる。
「くっ……!」
「リナリア、エリーゼ、側面から攻撃!」
俺が叫ぶ。
「はい!」
リナリアとエリーゼが、ゼノの左右から斬りかかる。
「《聖龍剣舞・破》!」
「《紅蓮の剣・爆炎斬》!」
光と炎の斬撃が、ゼノに襲いかかる。
しかし――
「《シャドウバリア》」
ゼノの周りに黒い壁が現れ、攻撃を全て防ぐ。
「なんですって!?」
エリーゼが驚く。
「お前たちの攻撃では、私には届かない」
ゼノが手を振るう。
「《ダークウェーブ》」
黒い波動が、リナリアとエリーゼを襲う。
「きゃあああ!」
二人が吹き飛ばされる。
「リナリア! エリーゼ!」
俺が叫ぶ。
「リリィ、回復を!」
「うん! 《ヒーリング・ライト》!」
リリィの魔法が、二人を癒す。
「ありがとう……リリィ……」
リナリアが立ち上がる。
「シルヴィア、エリア、魔法攻撃!」
俺が指示する。
「はい! 《聖龍の咆哮》!」
「《エクスプロージョン》!」
ブレスと爆発魔法が、ゼノに命中する。
ドォォォン!
巨大な爆発が起こる。
「やった……?」
エリアが期待する。
しかし、煙が晴れると、ゼノは無傷で立っていた。
「無駄だと言っただろう」
ゼノが冷たく笑う。
「くそっ……どうすれば……」
俺が歯噛みする。
『旦那様、通常の攻撃では効果がありません。何か別の方法を……』
アイが考える。
その時、俺の頭の中に、ある考えが浮かんだ。
「アイ、新しいスキルは習得できるか?」
『新しいスキル……?』
「ああ。今なら、何か強力なスキルを習得できるはずだ」
『そうですね……確認します』
アイが分析する。
『旦那様、新規スキルが習得可能です』
『《次元斬》……空間を切り裂く斬撃。あらゆる防御を無視します』
「それだ! 《次元斬》を習得する!」
『了解しました』
パァァァ!
俺の体が光に包まれる。
『新規スキル《次元斬》を習得しました』
「よし……」
俺が右手を前に出すと、手のひらから淡い光が放たれる。
「これが……《次元斬》……」
「何をしている?」
ゼノが興味深そうに見る。
「新しい力を試させてもらう!」
俺が右手を振るう。
「《次元斬》!」
空間が歪み、透明な斬撃がゼノに向かって飛んでいく。
「ほう……」
ゼノが《シャドウバリア》を展開する。
しかし――
ズバァッ!
《次元斬》が、バリアを切り裂く。
「なに!?」
ゼノが初めて驚きの表情を見せる。
《次元斬》が、ゼノの肩を切り裂く。
「ぐっ……!」
ゼノの肩から、黒い血が流れる。
「やった……効いた!」
俺が叫ぶ。
「なるほど……空間を切り裂く力か……」
ゼノが肩を押さえる。
「面白い。だが、それだけか?」
ゼノが手を振るう。
「《ダークネス・ジャッジメント》」
巨大な黒い光球が、俺たちに向かって降ってくる。
「くそっ!」
俺が《次元斬》で光球を切り裂こうとする。
ズバァッ!
光球が真っ二つに切れる。
しかし、切れた光球は二つに分裂し、それぞれが俺たちに向かってくる。
「まずい!」
「《時空間シールド》最大展開!」
俺が盾を展開する。
ドゴォォォン!
凄まじい爆発が起こる。
盾が砕け、俺たちが吹き飛ばされる。
「ぐああああ!」
全員が地面に叩きつけられる。
「はあ……はあ……」
俺が立ち上がろうとする。
しかし、体が動かない。
「くそ……魔力が……」
『旦那様、魔力がほとんど残っていません!』
アイが警告する。
「わかって……る……」
俺が必死に立ち上がる。
しかし、ゼノが目の前に立っていた。
「よく戦った。だが、ここまでだ」
ゼノが手を上げる。
「《ダークネス・エクスキューション》」
黒い光が、俺の胸を貫こうとする。
その時――
「悠真さんに……手を出すな!」
リナリアが剣を振るう。
「《聖龍剣舞・極》!」
最強の剣技が、ゼノを襲う。
しかし――
「遅い」
ゼノが手を振るうと、リナリアが吹き飛ばされる。
「きゃああああ!」
リナリアが壁に激突する。
「リナリア!」
俺が叫ぶ。
「次は、お前だ」
ゼノが再び手を上げる。
黒い光が、俺に向かって飛んでくる。
もう、避けられない。
その時――
「旦那様!」
アイが俺の前に飛び出す。
黒い光が、アイに命中する。
「アイ!?」
俺が驚く。
アイの体が、光の粒子となって消えていく。
「旦那様……すみません……わたし……もう……」
「アイ! 待ってくれ! 消えないでくれ!」
俺が手を伸ばす。
しかし、アイの体は完全に消えてしまった。
「アイ……アイ!」
俺が叫ぶ。
胸の奥から、込み上げてくるものがある。
怒り。
悲しみ。
そして――絶望。
「アイ……お前……俺を守って……」
涙が頬を伝う。
「許さん……絶対に……許さん!」
俺の体が、光に包まれる。
パァァァァ!
「なに……!?」
ゼノが驚く。
『緊急事態発生』
『パートナーAI消滅危機』
『緊急モード起動』
『累計スキルポイント不足……しかし、特殊条件達成』
『条件:パートナーAIの犠牲による感情の爆発』
『特別進化開始』
『新規スキル《覚醒》習得』
システムメッセージが、俺の頭の中に流れる。
「これは……」
俺の体から、金色の光が溢れ出す。
全身に、かつてない力が漲る。
「なんだ……この力は……」
ゼノが警戒する。
「これが……俺の本当の力……」
俺が立ち上がる。
傷が瞬時に治っていく。
魔力が、無限に湧き出てくる。
『新規スキル《覚醒》』
『効果:全能力を一時的に限界突破させる。制限時間:十分』
「十分か……十分あれば十分だ」
俺がゼノを睨む。
「ゼノ……お前を……倒す!」
「ほう……やってみるがいい」
ゼノが構える。
俺が地面を蹴る。
その速度は、これまでの何倍も速い。
「速い!?」
ゼノが驚く。
「《次元斬》!」
俺が手を振るう。
無数の斬撃が、ゼノを襲う。
ズバァ、ズバァ、ズバァ!
「ぐっ……!」
ゼノが防御するが、斬撃が次々と体を切り裂く。
「くそっ……《シャドウバリア》最大展開!」
ゼノが強固な壁を作る。
しかし――
「無駄だ!」
俺が《次元斬》を連発する。
ズバァ、ズバァ、ズバァ!
バリアが次々と切り裂かれる。
「なんという力……!」
ゼノが後退する。
「まだだ!」
俺が拳に魔力を込める。
「《魔力解放》!」
拳から、金色の光が溢れ出す。
「はあああああ!」
全力の一撃を、ゼノの腹部に叩き込む。
ドゴォォォォン!
凄まじい衝撃が走り、ゼノが壁に激突する。
壁が砕け、ゼノが瓦礫の中に埋もれる。
「ゲホッ……ゲホッ……」
ゼノが血を吐く。
「まだ終わらない!」
俺がゼノに向かって走る。
「《次元斬》連撃!」
無数の斬撃が、ゼノを襲う。
ズバァ、ズバァ、ズバァ、ズバァ!
「ぐあああああ!」
ゼノの体が、斬撃で切り刻まれる。
「くそっ……このままでは……」
ゼノが手を上げる。
「《ダークネス・テレポート》!」
ゼノの体が、黒い霧に包まれる。
「逃がすか!」
俺が《次元斬》で霧を切り裂く。
しかし、ゼノの姿は消えていた。
「くそっ……逃げられたか……」
俺が舌打ちする。
その時、《覚醒》の効果が切れた。
全身から力が抜け、俺は膝をつく。
「はあ……はあ……」
「悠真さん!」
リナリアが駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「ああ……何とか……」
俺が答える。
「でも……アイが……」
俺の目から、再び涙が流れる。
「アイ……お前……」
その時――
「旦那様……」
弱々しい声が聞こえた。
「アイ!?」
俺が顔を上げると、淡い光の粒子が集まり始めていた。
光の粒子が、徐々に形を作っていく。
そして――
「アイ!」
俺が叫ぶ。
青い髪の妖精が、ゆっくりと実体化していく。
「旦那様……ごめんなさい……心配かけて……」
アイが微笑む。
「アイ……お前……無事だったのか……」
「はい……でも、一時的に消滅しかけました……」
アイが説明する。
「でも、旦那様の強い想いが、わたしを呼び戻してくれました」
「アイ……」
俺がアイを抱きしめようとする。
しかし、手が透過する。
「まだ……触れないんだな……」
「すみません……でも、もうすぐ触れられるようになります」
アイが微笑む。
「それより、旦那様……」
アイが扉を指差す。
「扉が……開いています……」
「え?」
俺が扉を見ると、確かに少しだけ開いている。
「ゼノが逃げる時に、開けたのかもしれません」
エリアが言う。
「じゃあ、世界創造の書は……」
「中にあるはずです」
俺たちは、ゆっくりと扉を開けた。
その先には――
広大な部屋。
中央には、石の台座があり、その上に一冊の古い本が置かれていた。
金色の装丁、複雑な魔法陣が表紙に刻まれている。
「これが……世界創造の書……」
エリーゼが呟く。
俺たちは、ゆっくりと本に近づいた。
しかし――
「待て」
冷たい声が響いた。
振り返ると、血まみれのゼノが立っていた。
「ゼノ……!」
「まだ……諦めん……」
ゼノがよろよろと歩いてくる。
「世界創造の書は……我々のものだ……」
「させるか!」
俺が構える。
しかし、ゼノが手を上げた瞬間――
パァァァ!
世界創造の書が、眩い光を放った。
「なに!?」
全員が目を覆う。
光が収まると、本は消えていた。
「消えた……?」
エリアが驚く。
「いや……消えたんじゃない……」
アイが台座を指差す。
台座には、古代文字が刻まれていた。
「これは……」
エリアが文字を読む。
「『真に世界を救う者のみが、この書を手にすることができる。偽りの心を持つ者には、決して渡らない』……」
「つまり……」
「世界創造の書は、真に世界を救おうとする者を選ぶということです」
エリアが説明する。
「くそっ……」
ゼノが歯噛みする。
「世界創造の書は……俺たちを選ばなかった……だと……」
ゼノがよろめく。
「もう……終わりだ……」
ゼノの体が、黒い霧となって消えていく。
「待て、ゼノ! お前の本当の目的は何だ!?」
俺が叫ぶ。
「本当の目的……? 決まっている……」
ゼノの最後の言葉が、部屋に響く。
「この世界を……救うことだ……」
そして、ゼノは完全に消えた。
「世界を……救う……?」
俺が呟く。
「どういう意味だ……」
その謎は、まだ解けていない。
しかし、今は――
「とりあえず、世界創造の書が深淵の使徒の手に渡らなくて良かった」
エリーゼが言う。
「ええ。これで、世界は救われました」
リナリアが微笑む。
「でも……書はどこに行ったんでしょうか?」
エリアが尋ねる。
「わかりません。でも、きっと安全な場所に封印されたのでしょう」
アイが答える。
「そうか……」
俺が呟く。
『スキルポイント大量取得』
『ゼノとの戦闘:+10,000ポイント』
『ダンジョンクリア:+5,000ポイント』
『累計スキルポイント:93,000ポイント』
アイが報告する。
「累計93,000ポイント……」
俺が呟く。
いや、待て。
「そうですね」
「ということは……第四進化まであと……」
「あと7,000ポイントです」
アイが答える。
「もうすぐだな……」
俺がほほ笑む。
「旦那様は確実に強くなっています」
アイが微笑む。
「ああ……そうだな……」
俺が頷く。
その時、部屋全体が揺れ始めた。
「何だ!?」
「塔が……崩れ始めています!」
エリアが叫ぶ。
「急いで外に!」
俺が叫ぶ。
「《空間転移》!」
俺が全員を転移させる。
視界が光に包まれ――
次の瞬間、俺たちは森の外に立っていた。
振り返ると、始まりの塔が崩れ落ちていくのが見えた。
ドゴォォォン!
巨大な音とともに、塔が完全に崩壊した。
「終わった……」
リナリアが呟く。
「ええ……長い戦いだったわ……」
エリーゼも疲れた様子で座り込む。
「みんな、お疲れさま」
俺が微笑む。
「これで、世界は救われたのかな?」
「はい」
全員が頷く。
夕日が、森を赤く染める。
俺たちは、ゆっくりと王都への帰路についた。
世界創造の書をめぐる戦いは終わった。
しかし、ゼノの最後の言葉が、俺の心に引っかかっていた。
「この世界を……救うことだ……」
深淵の使徒の本当の目的は、何なのだろうか。
その答えは、まだわからない。
しかし、俺には仲間がいる。
リナリア、エリア、シルヴィア、リリィ、エリーゼ、そしてアイ。
みんなと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。
俺はそう信じて、前を向いて歩き続けた。
一ノ瀬悠真の物語は、まだまだ続いていく。
第26話、いかがでしたでしょうか。
今回は始まりの塔での大規模戦闘を描きました。累計スキルポイントも大幅に増加し、悠真は新たな力《次元斬》と《覚醒》を手に入れました。
アイが一時的に消滅するシーンは、書いていて胸が痛みましたが、それが悠真の新たな力を覚醒させるきっかけとなりました。
ゼノの最後の言葉「この世界を救うこと」――深淵の使徒の真の目的は、まだ明かされていません。善と悪の境界線は、思っているよりも曖昧なのかもしれません。
次回も、悠真たちの冒険をお楽しみに。
暁の裏




