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スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


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第24話 「皇女と王女の剣が交わるとき」


 帝都への転送準備が整ったのは、契約から三日後のことだった。

 

 俺は自宅の書斎で、帝国から送られてきた資料に目を通していた。


「十か所の拠点か……結構な作業量だな」


『旦那様、各拠点の座標データと倉庫の配置図はすでに記録済みです。転送自体は問題なく行えます』


 アイが空中に地図を投影する。

 

 帝都を中心に、放射状に広がる主要都市の位置が示されている。


「まずは帝都から始めよう。リリィの浄化サービスも同時にスタートする予定だしな」


「お兄ちゃん、わたし頑張るよ!」


 リリィが元気よく返事をする。


「無理はするなよ。一日一時間までって約束だからな」


「うん、わかってる!」


 その時、ノックの音が響いた。


「悠真さん、商務大臣フリードリヒ様から連絡が届きました」


 リナリアが部屋に入ってくる。


「どんな内容だ?」


「帝都の第一拠点が完成したそうです。明日、視察と試験運用を行いたいとのことです」


「明日か……わかった。じゃあ、今日中に準備を整えよう」


 俺は立ち上がり、リナリアに向き直る。


「リナリア、エリア、シルヴィアを呼んでくれ。みんなで打ち合わせをしたい」


「わかりました」


 十分後、応接室に全員が集まった。


「明日から帝国での本格的な活動が始まる。まず、物流システムの構築だが……」


 俺は地図を広げる。


「第一拠点は帝都。ここを中心拠点として、他の九か所に順次拠点を設置していく」


「転送の頻度はどのくらいですか?」


 エリアが尋ねる。


「最初は一日三回。朝、昼、夕方だ。需要に応じて増やしていく予定だ」


「なるほど。それなら、わたくしが転送スケジュールの管理を担当します」


「助かる。それから、リリィの浄化サービスだが……」


 俺はリリィを見る。


「帝都の貴族や商人たちが興味を持っているそうだ。初日はどのくらいできそうか?」


「んー、一時間なら十人くらいは浄化できると思う」


「じゃあ、初日は十人限定で予約制にしよう。料金は……」


『旦那様、帝国の相場から考えると、一人あたり5000ルスが妥当です』


 アイが助言する。


「5000ルス……50万円か。高いな」


「でも、リリィちゃんの浄化能力は唯一無二ですから、妥当な価格だと思います」


 シルヴィアが言う。


「そうだな。じゃあ、5000ルスで決定だ」


 こうして、帝国での事業計画の詳細が決まった。





 翌朝、俺たちは《空間転移》で帝都に到着した。

 転送先は、宮殿の専用転送室だ。


「ようこそ、一ノ瀬殿」


 商務大臣フリードリヒが出迎えてくれる。


「お久しぶりです、フリードリヒ閣下」


「早速ですが、第一拠点をご案内いたします」


 俺たちは馬車に乗り、帝都の商業区に向かった。

 大通りを抜けると、巨大な倉庫群が見えてくる。


「これが第一拠点です」


 フリードリヒが指し示す。


「でかいな……」


 倉庫は三階建てで、幅が50メートルはある。

 入口には「ベルガリア帝国物流拠点第一号」と書かれた看板が掲げられている。


「内部もご覧ください」


 倉庫の中に入ると、整然と区画が分けられている。

 食料品、衣類、工芸品、鉱物資源……様々な物資を分類して保管できるようになっている。


「素晴らしい設備ですね」


 リナリアが感心する。


「ありがとうございます。帝国の最高技術を結集して建設しました」


 フリードリヒが誇らしげに言う。


「それでは、転送システムの設置をお願いします」


「わかりました」


 俺は倉庫の中央に立つ。


『旦那様、この位置が最適です。ここに転送陣を設置しましょう』


 アイが指示する。


「《空間転移》の座標を登録……」


 俺の足元に、淡い光の円が浮かび上がる。

 これが転送陣の目印だ。


「これで、この場所に直接転送できるようになりました」


「素晴らしい……」


 フリードリヒが感嘆する。


「では、試験運用をしてみましょう」


 俺は《空間転移》で王都の自宅倉庫に戻り、試験用の荷物を持って帝都に戻る。

 所要時間、わずか十秒。


「信じられない……一瞬で往復を……」


 フリードリヒが驚愕している。


「これが《空間転移》の力です」


 俺が微笑むと、フリードリヒは興奮を抑えきれない様子で言った。


「これなら、帝国の物流が革命的に変わります! 一ノ瀬殿、あなたは本当に偉大だ!」


「いえ、これも帝国の協力があってこそです」


 こうして、第一拠点の設置が完了した。





 午後からは、リリィの浄化サービスが始まった。

 宮殿の特別室が、浄化の会場として用意されている。


「それでは、最初のお客様をお通しください」


 フリードリヒが合図すると、扉が開き、中年の貴族男性が入ってくる。


「はじめまして。私は辺境伯爵のヴィルヘルムと申します」


「一ノ瀬悠真です。こちらが浄化を担当するリリィです」


「よろしくお願いします」


 リリィが礼儀正しく挨拶する。


「おお、なんと可愛らしい……これほどの少女が、あの伝説の浄化能力を……」


 ヴィルヘルムが感動している。


「それでは、始めます。リラックスしてください」


 リリィが両手を前に出す。


「《ピュリファイ・エッセンス》」


 柔らかい光がヴィルヘルムを包み込む。

 彼の体から、黒い霧のようなものが抜けていく。


「これは……なんという……」


 ヴィルヘルムの顔色が明るくなり、表情が穏やかになる。


「体が……軽い……長年の疲労が、嘘のように消えている……」


「浄化が完了しました」


 リリィが微笑む。


「素晴らしい! 本当に素晴らしい! これほどの力があるとは……」


 ヴィルヘルムが感激している。


「ありがとうございました。お代は5000ルスになります」


「安い! この力でこの価格は安すぎます!」


 ヴィルヘルムが即座に支払いを済ませる。


 その後、次々と貴族や商人たちが訪れた。

 全員がリリィの浄化能力に感動し、高い評価を与えてくれた。


「十人目、完了しました」


 リリィが少し疲れた様子で言う。


「よく頑張ったな。今日はこれで終わりだ」


 俺がリリィの頭を撫でる。


「えへへ、みんな喜んでくれたから、わたしも嬉しい」


「一ノ瀬殿、大成功です! 予約が殺到しています。明日以降の予約がすでに百人を超えました」


 フリードリヒが興奮気味に報告する。


「百人……そんなに……」


「ええ。帝国中の貴族や富裕層が、リリィ様の浄化を受けたがっています」


「でも、リリィの負担を考えると、一日十人が限界です」


「わかっています。ですから、予約は抽選制にしようと思います」


「それが良いでしょうね」


 こうして、リリィの浄化サービスも順調にスタートした。





 夕方、俺たちは宮殿の応接室で休憩していた。

 すると、扉がノックされる。


「失礼いたします」


 執事が入ってくる。


「一ノ瀬悠真様、皇女殿下がお会いになりたいとのことです」


「皇女殿下……?」


 俺は少し驚く。

 帝国の皇女については、まだ会ったことがない。


「はい。第一皇女エリーゼ・フォン・ベルガリア殿下です」


「わかりました。お会いします」


 数分後、扉が開き、一人の少女が入ってきた。


 年齢は十五、六歳だろうか。

 長い金髪をツインテールにまとめ、深紅の瞳が印象的だ。

 白と赤を基調とした豪華なドレスを着ており、その立ち姿は気品に満ちている。


 だが、その瞳には強い意志と、どこか好奇心に満ちた輝きがある。


「はじめまして、一ノ瀬悠真。私はエリーゼ・フォン・ベルガリア。この帝国の第一皇女よ」


 エリーゼが優雅に一礼する。


「はじめまして、皇女殿下。お会いできて光栄です」


 俺も礼を返す。


「堅苦しい挨拶は不要よ。むしろ、あなたに興味があって来たの」


 エリーゼが椅子に座る。


「私に、ですか?」


「ええ。弟のルドルフを二度も叩きのめし、父上から特別な待遇を受けている商人。しかも、瞬間移動や浄化能力を持つ仲間を率いている……興味が湧かないわけがないでしょう?」


 エリーゼの瞳が、鋭く俺を見つめる。


「そして、こちらがリリィ・セレスティアね。噂の浄化の天才」


「は、はい……」


 リリィが少し緊張している。


「可愛らしいわね。でも、その力は本物だと聞いているわ」


 エリーゼがリリィに微笑みかける。


「それで、皇女殿下は何の用でしょうか?」


 俺が尋ねる。


「単刀直入に言うわ。あなたたちの力を、もっと詳しく知りたいの」


「詳しく……?」


「ええ。特に、戦闘能力についてね」


 エリーゼの言葉に、俺は少し警戒する。


「なぜ、戦闘能力を?」


「帝国には、様々な脅威があるの。魔物、盗賊、そして……謎の組織」


「謎の組織……?」


「ええ。最近、帝国各地で不可解な事件が起きているの。村が突然消滅したり、強力な魔物が出現したり……」


 エリーゼの表情が真剣になる。


「そして、その背後には『深淵の使徒(ヴォイド・セイント)』という組織がいると言われているわ」


「深淵の使徒……」


 俺は心の中で驚く。

 深淵の使徒……王国でも彼らの名前を聞いたことがある。


「あなた、その組織のことを知っているのね」


 エリーゼが俺の表情を読み取る。


「……少しだけ。王国でも、その名前を聞いたことがあります」


俺は敢えて詳しくないふりをする。


「そう。なら、話が早いわ。私は、その組織と戦える力を持つ者を探しているの」


「それで、俺たちに?」


「ええ。あなたたちの力なら、彼らと対抗できるかもしれない」


 エリーゼが立ち上がる。


「だから、あなたたちの力を見せてほしいの。特に……」


 エリーゼの視線が、リナリアに向けられる。


「そこの剣士さん。あなたと手合わせをしたいわ」


「わ、わたくしとですか?」


 リナリアが驚く。


「ええ。聞いているわ。あなたは王国第一王女にして、優れた剣士だと」


「皇女殿下も、剣を?」


「ええ。私は帝国騎士団の名誉団長でもあるの。剣の腕には自信があるわ」


 エリーゼが不敵に微笑む。


「どうかしら? 受けてくれる?」


 リナリアが俺を見る。


「悠真さん……」


「リナリア、どうする?」


「……わかりました。お受けいたします」


 リナリアが立ち上がる。


「素晴らしい! では、訓練場で会いましょう」


 エリーゼが嬉しそうに部屋を出ていく。


「悠真さん、大丈夫でしょうか……」


 リナリアが不安そうに言う。


「大丈夫だ。お前の実力なら、きっと勝てる」


「はい……」


 俺たちは訓練場へと向かった。





 宮殿の訓練場は、広大な屋外施設だった。

 周囲には観客席があり、すでに何人かの騎士たちが集まっている。


「お待たせ」


 エリーゼが訓練着に着替えて現れる。

 赤と黒の軽装鎧に、腰には美しい装飾が施された剣が下げられている。


「それでは、始めましょうか」


 エリーゼが剣を抜く。

 刀身が陽光を反射し、鋭い輝きを放つ。


「ルールは単純。先に相手の剣を弾き飛ばすか、降参させた方が勝ちよ」


「わかりました」


 リナリアも剣を構える。


「それでは……始め!」


 審判役の騎士が合図する。


 瞬間、エリーゼが動いた。

 その速度は驚異的で、一瞬で間合いを詰める。


「速い……!」


 リナリアが咄嗟に剣で防ぐ。


 キン!


 金属音が響く。


「なかなかやるわね」


 エリーゼが微笑む。


「《皇帝剣術・紅蓮(ぐれん)》!」


 エリーゼの剣が炎を纏い、連続攻撃を繰り出す。


「くっ……」


 リナリアが必死に防ぐが、徐々に押され始める。


「リナリア、頑張れ!」


 俺が応援する。


『旦那様、エリーゼ皇女の戦闘力は予想以上です。リナリア様が苦戦するのも無理はありません』


 アイが分析する。


「リナリア様を信じましょう」


 シルヴィアが言う。


 訓練場では、リナリアが反撃に転じていた。


「《聖龍剣舞・序》!」


 リナリアの剣が美しい軌跡を描き、エリーゼの攻撃を受け流す。


「おや、面白い剣技ね」


 エリーゼが興味深そうに言う。


「では、こちらも本気を出すわ。《皇帝剣術・雷鳴(らいめい)》!」


 エリーゼの剣が雷を纏い、高速で振るわれる。


「《聖龍剣舞・破》!」


 リナリアも剣技を強化し、応戦する。


 二人の剣が激しくぶつかり合う。


 火花が散り、周囲の騎士たちが息を呑む。


「すごい……」


「両者とも、とんでもない腕前だ……」


 騎士たちが驚嘆する。


 戦いは互角に見えたが、徐々にエリーゼが優勢になっていく。


「くっ……」


 リナリアの呼吸が荒くなる。


「そろそろ決着をつけましょうか。《皇帝剣術奥義・天帝の(ユーディキウム・)裁き(カエレステ)》!」


 エリーゼの剣が眩い光を放ち、巨大な斬撃がリナリアに向かって飛んでくる。


「これは……」


 リナリアが目を見開く。


 だが、彼女は諦めない。


「わたくしも……全力で!《聖龍剣舞・極》!」


 リナリアの剣が聖なる光を纏い、エリーゼの斬撃に向かって振り下ろされる。


 ドォン!


 凄まじい衝撃が訓練場を揺らす。

 砂埃が舞い上がり、一瞬、何も見えなくなる。


 砂埃が晴れると、二人は剣を交えたまま静止していた。


「……」


 沈黙が流れる。


 そして、エリーゼの剣が小さく震える。


「……私の負けね」


 エリーゼが剣を下ろす。


「え……?」


 リナリアが驚く。


「あなたの最後の一撃、私の剣を弾き飛ばす一歩手前まで来ていたわ。あと一秒遅れていたら、私の負けだった」


 エリーゼが微笑む。


「でも、実質的には引き分けね。あなた、とても強いわ」


「皇女殿下こそ……わたくし、必死でした……」


 リナリアが荒い息をつく。


「ふふ、良い戦いだったわ。ありがとう」


 エリーゼがリナリアの肩に手を置く。


「こちらこそ……」


 二人が握手を交わすと、周囲の騎士たちから拍手が起こる。


「素晴らしい試合だった!」


「両者とも見事だ!」


 俺もリナリアに駆け寄る。


「お疲れ、リナリア。よく頑張った」


「ありがとうございます……でも、本当に紙一重でした……」


「それでも、お前が勝ったんだ。胸を張っていい」


 俺がリナリアの頭を撫でると、彼女が嬉しそうに微笑む。


「一ノ瀬悠真」


 エリーゼが俺に近づく。


「あなたの仲間、本当に強いわ。これなら、深淵の使徒とも戦えるかもしれない」


「深淵の使徒とは、どのような組織なのですか?」


「詳しいことはわからないわ。ただ、彼らは『世界の再構成』を目指していると言われている」


「世界の再構成……」


「ええ。そのために、『世界創造の書』という古代の遺物を探しているらしいわ」


「世界創造の書……」


 俺は初めて聞く名前だ。


「それは何なんですか?」


「伝説によれば、世界を創造した神々が残した書物。その書物を手にした者は、神に等しい力を得ると言われているわ」


「神に等しい力……」


「もし、ヴォイド・セイントがその書物を手に入れたら……世界は滅びるかもしれない」


 エリーゼの表情が暗くなる。


「だから、私はそれを阻止したいの。そして、あなたたちの力が必要なの」


「……わかりました。協力しましょう」


 俺が答えると、エリーゼが嬉しそうに微笑む。


「ありがとう。頼もしい味方を得たわ」


 こうして、俺たちは帝国皇女エリーゼと協力関係を結ぶことになった。





 その夜、俺たちは王都の自宅に戻っていた。


 だが、深夜になっても、俺は眠れずにいた。


「世界創造の書か……」


 ベッドに横になりながら、考え込む。


『旦那様、気になりますか?』


 アイが姿を現す。


「ああ。ヴォイド・セイントが、そんな危険なものを狙っているとは……」


「でも、旦那様なら大丈夫です。きっと、彼らを止められます」


「そうだといいんだが……」


 その時、窓がコンコンとノックされた。


「誰だ……?」


 俺が窓に近づくと、外に人影が見える。


 窓を開けると、フードを被った人物が立っていた。


「誰だ?」


「しっ、静かに」


 その人物がフードを取ると、金髪のツインテールが現れる。


「エリーゼ皇女……!?」


「ふふ、驚いた?」


 エリーゼが窓から部屋に入ってくる。


「なぜ、ここに……?」


「城を抜け出してきたのよ。あなたともっと話したくて」


「城を抜け出すって……皇女がそんなことをして大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。私は昔から、よく城を抜け出していたから。慣れているわ」


 エリーゼが悪戯っぽく笑う。


「それで、何の用ですか?」


「さっきも言ったでしょう? もっと話したいの」


 エリーゼが俺のベッドに座る。


「あなたのこと、もっと知りたいわ」


「俺のことを……?」


「ええ。あなたは異世界から来た人間なんでしょう?」


 エリーゼの言葉に、俺は驚く。


「なぜ、それを……」


「調べたのよ。あなたの事を。そして、わかったわ。あなたは『転生者』だということ、今までにも何人かいたのよ」


「……」


 俺は何も言えない。


「安心して。私は誰にも言わないわ。むしろ、それがあなたの魅力だと思っているの」


 エリーゼが微笑む。


「異世界の知識を持ち、この世界で成功を収めている。そんなあなたに、私は惹かれているの」


「惹かれている……?」


「ええ。だから、もっとあなたのことを知りたい。あなたの夢、目標、そして……」


 エリーゼが俺に近づく。


「あなたの心を知りたいの」


「皇女殿下……」


 その時、部屋のドアが勢いよく開いた。


「悠真さん! 今、エリーゼ皇女が城を抜け出したという知らせが……」


 リナリアが部屋に入ってきて、状況を目撃する。


「……これは、どういう状況でしょうか?」


 リナリアの声が低くなる。


「あ、いや、これは……」


「あら、リナリア様。邪魔しないでくれる? 今、良いところだったのに」


 エリーゼが不満そうに言う。


「良いところって……」


 リナリアの目が据わる。


「悠真さん、説明してください」


「だから、これは……」


 その時、シルヴィアとエリアも部屋に入ってきた。


「悠真様、大変です! エリーゼ皇女が……」


 二人も状況を見て、固まる。


「……これは……」


「修羅場ですね……」


 エリアとシルヴィアが呟く。


「旦那様、大変なことになりましたね♪」


 アイが楽しそうに言う。


「笑ってる場合じゃないだろ……」


 こうして、深夜の修羅場が始まったのだった。





 場所は変わり、深淵の使徒ヴォイド・セイントの本拠地。


 薄暗い石造りの大広間に、黒いローブを纏った人物たちが集まっている。

 

その中心に、一際大きな玉座が置かれている。


 玉座には、一人の男が座っていた。


 長い銀髪、深い紫の瞳。


 その顔は美しく、まるで彫刻のようだ。


 だが、その瞳には冷たい光が宿っている。


「報告せよ」


 男が冷たい声で言う。


「はっ。指導者様」


 一人の黒ローブが跪く。


「帝国での作戦は、一時中断を余儀なくされました」


「理由は?」


「一ノ瀬悠真という男が、帝国で影響力を増しています。彼は強力な能力と、浄化能力を持つ少女を従えています」


「一ノ瀬悠真……」


 男が呟く。


「興味深い。調査を続けよ」


「はっ」


 黒ローブが下がる。


「それで、『世界創造の書』の捜索は進んでいるのか?」


 別の黒ローブが前に出る。


「はい、指導者様。古代遺跡の調査により、書物の在処が絞り込まれてきました」


「どこだ?」


「伝説によれば、『始まりの塔』に封印されているとのことです」


「始まりの塔……」


 男が立ち上がる。


 その身長は2メートルを超え、圧倒的な存在感を放っている。


「ならば、我々自らが動く時が来たようだ」


「指導者様が直接……?」


「ああ。世界創造の書を手に入れ、この腐敗した世界を再構成する。それが我々の使命だ」


 男の瞳が妖しく光る。


「我が名はゼノ。深淵の使徒の指導者にして、新世界の創造主となる者だ」


 ゼノが腕を広げる。


「全員に告ぐ。準備を整えよ。我々は『始まりの塔』へ向かう」


「はっ!」


 黒ローブたちが一斉に跪く。


「そして……一ノ瀬悠真か。お前が我々の邪魔をするならば、容赦はしない」


 ゼノの口元に、冷たい笑みが浮かぶ。


「世界は、我々の手によって生まれ変わる。神となるのは、この私だ」


 大広間に、ゼノの低い笑い声が響く。


 深淵の使徒の本格的な動きが、始まろうとしていた。





 翌朝、俺は疲れ果てていた。


 昨夜の修羅場は深夜まで続き、ようやく誤解を解くことができた。

 

 エリーゼは結局、客室で一晩過ごすことになった。


「ふあああ……眠い……」


 俺が欠伸をすると、リナリアが心配そうに見つめる。


「悠真さん、大丈夫ですか?」


「ああ、何とか……」


「昨夜は、本当に驚きました……」


「すまん。俺も予想外だった」


 その時、エリーゼが階段を降りてくる。


「おはよう、一ノ瀬悠真」


「おはようございます、皇女殿下」


「だから、堅苦しいのは止めてって言ったでしょう? エリーゼでいいわ」


「でも……」


「いいから、エリーゼと呼びなさい」


「……わかった、エリーゼ」


「ふふ、それでいいのよ」


 エリーゼが満足そうに微笑む。


「それで、今日はどうする?」


 俺が尋ねると、エリーゼは真剣な表情になる。


「今日は、深淵の使徒について、もっと詳しく話したいの」


「わかった。応接室に行こう」


 俺たちは応接室に集まった。

 

 リナリア、エリア、シルヴィア、リリィ、そしてエリーゼ。


「改めて説明するわ。深淵の使徒は、世界の再構成を目的とする危険な組織よ」


 エリーゼが地図を広げる。


「彼らは各地で暗躍し、村を襲ったり、魔物を操ったりしている」


「なぜ、そんなことを?」


 エリアが尋ねる。


「恐らく、世界創造の書を手に入れるための準備だと思うわ」


「世界創造の書……それは一体どんな力を持っているんだ?」


 シルヴィアが尋ねる。


「伝説によれば、その書物を手にした者は、世界の法則を書き換えられると言われているわ」


「世界の法則を……」


「そう。時間、空間、生命、死……あらゆる法則を自在に操れる。まさに、神の力よ」


 エリーゼの言葉に、全員が驚く。


「そんな力が、本当に存在するのですか?」


 リナリアが尋ねる。


「わからないわ。でも、深淵の使徒は本気でそれを信じている。そして、それを手に入れようとしている」


「もし、彼らがそれを手に入れたら……」


「世界は終わるわ」


 エリーゼが断言する。


「だから、私たちは彼らを止めなければならない」


「わかった。協力するよ」


 俺が答えると、エリーゼが微笑む。


「ありがとう。頼りにしているわ」


『旦那様、深淵の使徒の脅威が明確になりましたね』


 アイが囁く。


「ああ。これから、大変な戦いになりそうだ」


 その時、玄関のベルが鳴った。


「誰だ?」


 俺が玄関に向かうと、商務大臣フリードリヒが立っていた。


「一ノ瀬殿、緊急の知らせです」


「何かあったのですか?」


「はい。帝国北部の村が、何者かに襲撃されました」


「襲撃……?」


「ええ。そして、村人たちが全員消えています」


「全員消えた……?」


「はい。現場には、黒いローブの破片が残されていました」


「黒いローブ……」


 俺は即座に理解する。


「深淵の使徒か……」


「恐らく。皇帝陛下は、調査を依頼したいとのことです」


「わかりました。すぐに向かいます」


 俺が振り返ると、エリーゼが立っていた。


「私も行くわ」


「皇女殿下が危険な場所に……」


「私は帝国騎士団の名誉団長よ。民を守るのが私の責務だわ」


 エリーゼの瞳に、強い決意が宿っている。


「わかりました。一緒に行きましょう」


 こうして、俺たちは深淵の使徒の痕跡を追うことになった。





 帝国北部の村に到着すると、そこは無人だった。


 家々は無傷だが、人の気配が全くない。

 

 まるで、住人が突然蒸発したかのようだ。


「これは……」


 リナリアが驚く。


「村人たちは、どこに……」


『旦那様、この村には強力な魔力の痕跡があります』


 アイが分析する。


「魔力の痕跡?」


『はい。恐らく、大規模な転移魔法が使われたようです』


「転移魔法……まさか、村人たちを……」


「どこかに連れ去ったのね」


 エリーゼが言う。


「でも、なぜ村人を連れ去る必要が?」


 エリアが尋ねる。


「わからないわ。でも、深淵の使徒には何か目的があるはずよ」


 俺たちは村を調査し続けた。


 そして、村の中央広場で、一枚の黒いローブの破片を発見した。


「これが……」


 俺がローブを拾い上げる。


『旦那様、このローブには特殊な魔力が込められています』


 アイが分析する。


「特殊な魔力?」


『はい。これは……古代魔法の痕跡です。非常に高度な魔法技術が使われています』


「古代魔法……」


「ヴォイド・セイントは、古代の知識を持っているということね」


 エリーゼが呟く。


「これは、予想以上に厄介な相手かもしれない」


 その時、村の外から魔物の咆哮が聞こえた。


「何だ!?」


 俺たちが外に出ると、巨大な魔物が村に向かってくるのが見えた。


 全身が黒い鱗に覆われ、三つの頭を持つドラゴンのような姿。

 

 その大きさは、家一軒分はある。


「《ダークドラゴン》……!」


 エリーゼが驚愕する。


「これほどの魔物が、なぜこんな場所に……」


「恐らく、深淵の使徒が操っているのよ」


 ダークドラゴンが俺たちに気づき、火球を吐いてくる。


「危ない!」


 俺は《時間操作》を発動し、火球の軌道を避ける。


「みんな、戦闘準備!」


「はい!」


 全員が構える。


「リナリア、正面から! エリア、魔法支援! シルヴィア、側面から! エリーゼ、俺と一緒に!」


「了解!」


 全員が散開する。


 リナリアが剣を構え、ダークドラゴンに向かって突進する。


「《聖龍剣舞・序》!」


 リナリアの剣がドラゴンの鱗を斬りつけるが、傷は浅い。


「硬い……」


「《ウィンドカッター》!」


 エリアが風の刃を放つ。

 ドラゴンの翼に当たり、少し傷がつく。


「《聖龍の光弾》!」


 シルヴィアが光の球を放つ。

 

 ドラゴンの胴体に当たり、大きな爆発が起こる。


「よし、効いてる!」


「私も行くわ!《皇帝剣術・紅蓮》!」


 エリーゼが炎を纏った剣で斬りかかる。

 

 ドラゴンの首の一つに深い傷を与える。


「いいぞ、エリーゼ!」


 俺も《身体能力強化》を発動し、ドラゴンに接近する。


「《魔法付与》!」


 拳に雷を纏い、ドラゴンの顎に叩き込む。


 ガン!


 凄まじい衝撃が走り、ドラゴンが怯む。


「今だ、みんな! 一斉攻撃!」


「はい!」


 全員が最強の攻撃を放つ。


「《聖龍剣舞・極》!」


「《エクスプロージョン》!」


「《聖龍の咆哮》!」


「《天帝の裁き》!」


 四つの攻撃が同時にドラゴンに命中する。


 ドォォォン!


 巨大な爆発が起こり、ドラゴンが倒れる。


「やった……」


 リナリアが安堵する。


『旦那様、スキルポイントが累計ポイント50000を突破しました』


 アイが報告する。


 その声で安堵したのも束の間、倒れたドラゴンの体から黒い霧が立ち上る。


「これは……」


 黒い霧の中から、人影が現れる。


 黒いローブを纏った人物が、ゆっくりと歩いてくる。


「よくぞ、我が操る魔物を倒した」


 低く、冷たい声が響く。


「お前は……」


「我が名はゼノ。深淵の使徒の指導者だ」


 ローブの男がフードを取る。


 銀髪と紫の瞳を持つ、美しい顔が現れる。


「お前たちが、一ノ瀬悠真とその仲間か」


「……ああ」


 俺が警戒しながら答える。


「興味深い。噂以上の力を持っているようだな」


「お前たちの目的は何だ」


「我々の目的? 決まっている。世界の再構成だ」


 ゼノが不敵に笑う。


「この腐敗した世界を、一度破壊し、新たに創造する。それが我々の使命だ」


「ふざけるな! そんなことをさせるか!」


 エリーゼが叫ぶ。


「ほう、帝国の皇女もいるのか。これは好都合だ」


 ゼノが手を上げる。


「だが、今日はここまでだ。我々の計画は、まだ始まったばかり」


 ゼノの体が黒い霧に包まれる。


「次に会う時は、お前たちを倒す。それまで、せいぜい準備をしておくことだ」


「待て!」


 俺が駆け寄るが、ゼノの姿は霧と共に消えていく。


「くそっ……逃げられたか……」


『旦那様、ゼノの魔力は計り知れません。非常に危険な相手です』


 アイが警告する。


「わかってる……」


 エリーゼが俺の隣に立つ。


「これが、深淵の使徒の指導者……予想以上の強敵ね」


「ああ。これから、本当の戦いが始まるな」


 俺たちは、ゼノが消えた方向を見つめる。


 空は暗雲に覆われ、不吉な予感が漂っている。


 世界の命運をかけた戦いが、今、始まろうとしていた。





 その夜、俺たちは王都の自宅に戻っていた。


 応接室に集まり、今後の対策を話し合う。


「ゼノという男……恐ろしいほどの力を持っていたわ」


 エリーゼが言う。


「ええ。あの魔力は、尋常ではありませんでした」


 シルヴィアも同意する。


「でも、わたしたちが力を合わせれば、きっと勝てます」


 リリィが前向きに言う。


「そうだな。一人では無理でも、みんなで力を合わせれば……」


 俺が言いかけたとき、アイが姿を現す。


『旦那様、重要な情報です』


「何だ?」


『先ほどのデータを分析した結果、ゼノの魔力パターンに特徴が見つかりました』


「特徴?」


『はい。ゼノは古代魔法を使っています。そして、その魔法は『始まりの塔』に由来するものです』


「始まりの塔……」


「それって、世界創造の書が封印されている場所じゃないの?」


 エリーゼが驚く。


『その可能性が高いです。恐らく、ゼノはすでに始まりの塔の場所を知っているのでしょう』


「ということは、ゼノは今すぐにでも塔に向かうかもしれない……」


 俺が呟く。


「それなら、私たちも急がないと!」


 エリーゼが立ち上がる。


「始まりの塔の場所、あなた知ってる?」


「いえ、詳しくは……でも、帝国の古文書に記録があるかもしれません」


「じゃあ、明日、図書館で調べましょう」


 リナリアが提案する。


「わかりました。明日は情報収集に専念しましょう」


 俺が決断する。


 こうして、世界創造の書をめぐる戦いが、本格的に始まろうとしていた。


 俺たちは、世界の命運を背負い、深淵の使徒と戦うことになる。


 だが、俺には仲間がいる。

 リナリア、エリア、シルヴィア、リリィ、アイ、そしてエリーゼ。


 みんなで力を合わせれば、きっと世界を救える。


 俺はそう信じて、決意を新たにした。


 一ノ瀬悠真の戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。

ベルガリア帝国第一皇女、エリーゼ・フォン・ベルガリアよ。


 今回、私が初登場したわ。どうだったかしら? 気に入ってもらえたら嬉しいわね。


 弟のルドルフは本当に愚かだったわ。十二歳の子供を側室にしようだなんて……恥ずかしい限りよ。父上が激怒するのも当然ね。三年間の謹慎で、少しは反省してくれるといいのだけれど。


 それにしても、一ノ瀬悠真……面白い男ね。異世界から来た転生者だなんて、初めて会ったわ。しかも、あれほどの戦闘力と商才を持っているなんて。興味が尽きないわ。


 リナリアとの手合わせも楽しかったわ。まさか、私が負けるなんて思わなかったけれど……彼女、本当に強いのね。王国第一王女としての誇りと実力、認めるわ。次は必ず勝ってみせるけれどね。


 それから、ヴォイド・セイントの指導者ゼノ……あの男は本当に危険よ。世界創造の書を手に入れて神になろうだなんて、狂気の沙汰だわ。でも、だからこそ止めなければならない。


 悠真たちと協力して、必ずこの世界を守ってみせるわ。帝国第一皇女として、そして一人の戦士として。


 それじゃあ、次回も楽しみにしていてね。


 あ、そうそう。城を抜け出して悠真の部屋に忍び込んだことは……内緒よ? もしバレたら、また執事たちに説教されちゃうから。


 では、また会いましょう。


エリーゼ・フォン・ベルガリア

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