第22話 「邸宅購入と帝国からの招待状」
王都での生活が続く中、俺は一つの問題に直面していた。
「旦那様、そろそろ自分たちの家を持つべきではないでしょうか?」
アイがある朝、提案してきた。
「家……か」
俺は王城の客室で窓の外を見つめる。確かに、王城の厚意に甘え続けるのも限界がある。それに、シルヴィア、リナリア、エリア、リリィと、仲間も増えた。みんなで暮らせる場所が必要だ。
「資産は十分にありますし、王都に邸宅を購入するのはいかがですか?」
「邸宅の購入には500万ルスから1000万ルスあれば、かなり立派な物件が手に入りますよ♪」
アイの提案は理にかなっていた。
「そうだな……みんなに相談してみよう」
その日の午後、俺は四人を集めて話を切り出した。
「実は、王都に邸宅を購入しようと思うんだ」
「邸宅……ですか!」
エリアが目を輝かせる。
「素晴らしい提案ですね。わたくしたちも、いつまでも王城に甘えているわけにはいきません」
リナリアが賛成する。
「わたしも賛成! みんなで一緒に住める家があったらいいな」
リリィも嬉しそうだ。
「ええ。わたくしも賛成です。龍族の集落を出てから、ずっと仮住まいでしたから」
シルヴィアも微笑む。
「じゃあ、決まりだな。早速、不動産屋を探そう」
俺たちは王都の商業区域にある不動産屋『ロイヤル・エステート』を訪れた。
店の中は豪華な内装で、壁には様々な物件の絵が飾られている。
「いらっしゃいませ」
店主のエドワードという中年男性が、丁寧に出迎えてくれた。
「邸宅をお探しとのことですが、どのような物件をご希望ですか?」
「そうだな……まず、広さは?」
俺が振り返ると、エリアが答える。
「最低でも寝室が五つ、それに応接室、食堂、書斎、訓練場があれば……」
「訓練場まで!」
エドワードが驚く。
「ええ。戦闘訓練が行えればと思いまして」
リナリアが付け加える。
「なるほど……それでは、王都の北区にある物件がよろしいかと」
エドワードが一枚の絵を取り出す。
そこには立派な三階建ての邸宅が描かれていた。白い石造りの建物で、広い庭園と、別棟の訓練場も備えている。
「こちらは元貴族の邸宅で、最近売りに出されました。寝室は七つ、応接室、食堂、書斎、訓練場、それに使用人部屋も完備しております」
「すごい……」
リリィが絵を見つめる。
「価格は……?」
「800万ルスでございます」
「800万ルス……」
俺は少し考える。8億円相当か。高いが、これだけの設備なら妥当な価格だろう。
『旦那様、この物件は立地も良く、防犯設備も整っています。お勧めですよ♪』
アイが分析する。
「わかった。この物件を見学させてくれ」
「かしこまりました。今からご案内いたします」
エドワードに案内され、俺たちは王都北区の邸宅に向かった。
高級住宅街の一角に、その邸宅は佇んでいた。
白い石造りの建物は、絵で見るよりも立派だった。正面には大きな門があり、その奥には美しい庭園が広がっている。
「わあ……本当に素敵」
シルヴィアが感嘆の声を上げる。
「こちらが正面玄関でございます」
エドワードが扉を開けると、広々としたエントランスホールが現れた。
天井は高く、シャンデリアが吊るされている。大理石の床が光を反射し、壁には美しい絵画が飾られている。
「一階には、応接室、食堂、厨房がございます」
応接室は広々としており、大きなソファと暖炉がある。食堂には長いテーブルがあり、十人は座れそうだ。
「二階には、寝室が五つと書斎がございます」
寝室はどれも広く、大きなベッドと机、クローゼットが備え付けられている。
窓からは王都の街並みが一望できる。
「三階には、さらに二つの寝室と、バルコニーがございます」
バルコニーからの眺めは素晴らしく、王都全体を見渡すことができる。
「そして、こちらが別棟の訓練場でございます」
庭園を抜けると、石造りの訓練場があった。
広い空間で、武器の練習や魔法の訓練ができそうだ。
「どうですか? お気に召しましたか?」
エドワードが尋ねる。
「みんな、どう思う?」
俺が仲間たちに聞くと、全員が頷く。
「素晴らしい邸宅です」
リナリアが微笑む。
「ここなら、みんなで快適に暮らせそうですね」
エリアも賛成する。
「わたし、ここに住みたい!」
リリィが嬉しそうに飛び跳ねる。
「ええ。わたくしも賛成です」
シルヴィアも微笑む。
「わかった。この邸宅を購入しよう」
俺がそう言うと、エドワードが嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます! では、契約の手続きを進めさせていただきます」
数日後、契約は無事に完了し、俺たちは新しい邸宅の鍵を受け取った。
「ついに、わたくしたちの家ですね」
リナリアが感慨深げに呟く。
「ええ。これからは、ここが拠点になります」
俺も微笑む。
「さあ、引っ越しの準備をしよう」
王城から荷物を運び出し、新しい邸宅に移動する。
といっても、俺たちの荷物はそれほど多くない。《アイテムボックス》があるおかげで、ほとんどの物は収納できる。
「それでは、部屋割りを決めましょう」
エリアが提案する。
「二階の一番大きな部屋は、悠真さんに」
リナリアが言う。
「いや、俺はそんなに大きな部屋はいらない」
「でも、旦那様が一番働いているんですから、当然です」
シルヴィアも賛成する。
「わかった、わかった」
俺は諦めて、二階の一番大きな部屋を選ぶ。
「じゃあ、わたくしはこの部屋にします」
リナリアが隣の部屋を選ぶ。
「わたくしは、この部屋がいいです」
エリアが窓の大きな部屋を選ぶ。
「わたしは、お兄ちゃんの部屋の近くがいい!」
リリィが俺の部屋の隣を選ぶ。
「では、わたくしはこちらに」
シルヴィアも部屋を選ぶ。
「三階の部屋は、予備にしておこう」
俺が提案すると、みんなが頷く。
こうして、俺たちは新しい邸宅での生活を始めた。
新居での最初の夜、俺たちは食堂で夕食を囲んだ。
シルヴィアとエリアが料理を作ってくれ、テーブルには美味しそうな料理が並んでいる。
「いただきます」
みんなで手を合わせる。
「美味しいです」
リリィが嬉しそうに食べる。
「本当ですね。シルヴィアさんとエリアさん、料理が上手ですね」
リナリアが褒める。
「ありがとうございます」
二人が照れたように微笑む。
「これからは、みんなで順番に料理を作りましょう」
俺が提案すると、みんなが賛成する。
「それじゃあ、明日はわたくしが作りますね」
リナリアが微笑む。
「楽しみだな」
俺が答えると、リナリアが嬉しそうに頬を染める。
食事を終えた後、俺たちは応接室でくつろいでいた。
暖炉には火が灯り、部屋全体が温かい。
「ようやく、落ち着ける場所ができましたね」
エリアが満足そうに呟く。
「ええ。これからは、ここを拠点に活動できます」
リナリアも微笑む。
「お兄ちゃん、ありがとう」
リリィが俺に抱きついてくる。
「いや、みんなのおかげだよ」
俺が微笑むと、リリィが嬉しそうに笑う。
『旦那様、素晴らしい家ですね♪』
アイが姿を現す。
「ああ。これも、みんなと一緒に頑張ってきた成果だ」
その時、扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、王城の使者だった。
「一ノ瀬悠真様、アルフレッド陛下からのお手紙でございます」
使者が手紙を差し出す。
「国王陛下から?」
俺が手紙を受け取り、開封する。
そこには、丁寧な文字で以下のように書かれていた。
『一ノ瀬悠真殿
新居の購入、おめでとうございます。
さて、本題ですが、ベルガリア帝国皇帝陛下より、正式な招待状が届いております。
帝国との商業協定について、直接お話ししたいとのことです。
つきましては、できるだけ早くベルガリア帝国帝都へご訪問いただけますよう、お願い申し上げます。
アルフレッド・エルディア=ルストニア』
「ベルガリア帝国からの招待……」
俺が呟くと、みんなが集まってくる。
「どうしたんですか?」
リナリアが心配そうに尋ねる。
「ベルガリア帝国の皇帝から、招待状が届いたらしい」
「ベルガリア帝国……確か、先日商談があった国ですね」
エリアが思い出す。
「ああ。多額の報酬を提示してきた国だ」
『旦那様、これは重要な商談です。行くべきですね』
アイが助言する。
「そうだな……でも、全員で行くわけにはいかないな」
俺が考え込むと、リナリアが口を開く。
「実は、わたくし、明日から王国の外交会議に出席しなければなりません」
「わたくしも、魔法学院での講義があります」
エリアも言う。
「わたくしも、龍族の集落から呼び出しがありました」
シルヴィアも申し訳なさそうに言う。
「みんな、忙しいんだな……」
俺が呟くと、リリィが手を挙げた。
「わたしは、お兄ちゃんと一緒に行く!」
「リリィ……でも、危険かもしれないぞ」
「大丈夫! わたし、強くなったもん」
リリィが胸を張る。
『旦那様、リリィちゃんの浄化能力は帝国でも役立つかもしれません。それに、二人だけの旅も良い経験になりますよ♪』
アイが提案する。
「そうだな……じゃあ、リリィと二人で行くか」
「やったぁ!」
リリィが嬉しそうに飛び跳ねる。
「でも、悠真さん……本当に大丈夫ですか?」
リナリアが心配そうに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。アイもいるし、何かあれば《空間転移》で戻ってくる」
「わかりました。でも、無理はしないでくださいね」
リナリアが優しく微笑む。
「気をつけて行ってきてください」
エリアも言う。
「必ず無事に帰ってきてください」
シルヴィアも心配そうだ。
「ああ、必ず帰ってくる。約束するよ」
俺が微笑むと、三人が安心したように頷いた。
ベルガリア帝国への出発
翌朝、俺とリリィはベルガリア帝国への出発準備を整えていた。
「お兄ちゃん、これ持っていく?」
リリィが小さなぬいぐるみを見せる。
「ああ、持っていっていいぞ」
俺が微笑むと、リリィが嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる。
『旦那様、必要な物資はすべて《アイテムボックス》に収納しました』
アイが報告する。
「ありがとう、アイ」
玄関には、リナリア、エリア、シルヴィアが見送りに来てくれていた。
「悠真さん、これを」
リナリアが小さな袋を差し出す。
「これは?」
「緊急時の魔法薬です。わたくしが調合しました」
「ありがとう」
俺が受け取ると、リナリアが微笑む。
「悠真様、こちらも」
シルヴィアが護符を差し出す。
「龍族の護符です。危険から身を守ってくれるでしょう」
「ありがとう、シルヴィア」
「悠真さん、リリィちゃん、気をつけてくださいね」
エリアが心配そうに言う。
「ああ、必ず無事に帰ってくる」
俺が答えると、三人が安心したように微笑む。
「それでは、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
三人が手を振る中、俺とリリィは《空間転移》でベルガリア帝国へと向かった。
視界が光に包まれ、次の瞬間、俺たちは見知らぬ街に立っていた。
ベルガリア帝国の帝都だ。
「わあ……すごい」
リリィが目を輝かせる。
帝都は王都よりもさらに大きく、豪華絢爛な街並みが広がっていた。
高い塔が幾つも聳え立ち、大理石の建物が立ち並ぶ。街の中央には巨大な宮殿があり、金色の屋根が太陽の光を反射して輝いている。
『旦那様、ベルガリア帝国帝都に到着しました。現在位置は、中央広場です』
アイが報告する。
「まずは、宿を探さないとな」
俺が周囲を見回すと、一人の男性が近づいてきた。
「失礼ですが、一ノ瀬悠真様でいらっしゃいますか?」
その男性は、立派な服装をしている。
「ああ、そうだが……」
「お待ちしておりました。私は帝国宮廷の侍従、アルベルトと申します」
アルベルトが丁寧にお辞儀をする。
「皇帝陛下が、お二人のために宮殿に部屋をご用意されております。どうぞ、ご案内いたします」
「宮殿に……?」
俺が驚くと、アルベルトが微笑む。
「ええ。皇帝陛下は、貴賓として歓迎されるとのことです」
『旦那様、これは予想外の厚遇ですね』
アイが囁く。
「わかった。案内してくれ」
俺が答えると、アルベルトが頷き、豪華な馬車に案内してくれた。
「どうぞ、お乗りください」
俺とリリィが馬車に乗ると、アルベルトも乗り込んで馬車が動き出す。
「お兄ちゃん、すごいね!」
リリィが興奮している。
「ああ……でも、少し警戒した方がいいかもしれない」
『旦那様の言う通りです。この厚遇には、何か裏があるかもしれません』
アイが警告する。
馬車は帝都の大通りを進み、やがて宮殿の正門に到着した。
門は巨大で、金色の装飾が施されている。両脇には、重装備の兵士が立っている。
「お通りください」
兵士たちが敬礼し、門が開かれる。
馬車は宮殿の庭園を通り、正面玄関に到着した。
玄関では、多くの使用人たちが列を作って待っていた。
「ようこそ、一ノ瀬悠真様」
使用人たちが一斉にお辞儀をする。
「こ、こんなに……」
リリィが驚いている。
「どうぞ、こちらへ」
アルベルトに案内され、俺たちは宮殿の中に入る。
内部は想像以上に豪華だった。大理石の床、高い天井、美しいシャンデリア、壁には高価な絵画や彫刻が飾られている。
「こちらが、お二人のお部屋でございます」
アルベルトが案内してくれたのは、広々とした客室だった。
大きなベッドが二つ、豪華な家具、窓からは帝都の街並みが一望できる。
「すごい……」
リリィがベッドに飛び込む。
「ふかふか!」
俺も部屋を見回す。確かに立派な部屋だが、少し豪華すぎる気もする。
「夕刻に、皇帝陛下との謁見の儀がございます。それまで、ごゆっくりお休みください」
アルベルトがそう言って部屋を出ていく。
「お兄ちゃん、これ、本当にわたしたちの部屋なの?」
リリィが不思議そうに尋ねる。
「ああ……でも、少し警戒しておこう」
『旦那様、この部屋に盗聴器のようなものは設置されていません。ただ、廊下には多数の監視がありますね』
アイが分析する。
「やはりか……」
俺は窓の外を見つめる。
ベルガリア帝国は、一体何を企んでいるのだろうか。
夕刻になり、アルベルトが部屋に迎えに来た。
「お時間です。皇帝陛下がお待ちです」
「わかった」
俺とリリィは身支度を整え、アルベルトに従って謁見の間に向かう。
長い廊下を歩き、やがて巨大な扉の前に到着した。
扉の両脇には、重装備の近衛兵が立っている。
「一ノ瀬悠真様、リリィ・セレスティア様のご入場です」
アルベルトが声を上げると、扉がゆっくりと開かれる。
謁見の間は、想像以上に広く豪華だった。
赤い絨毯が奥まで続き、天井からは巨大なシャンデリアが吊るされている。
壁には、帝国の歴史を描いた壁画が飾られている。
絨毯の先には、金色の玉座があり、そこに一人の男性が座っていた。
ベルガリア帝国皇帝、カール・フォン・ベルガリアだ。
50代半ばと思われる男性で、立派な髭を蓄え、威厳のある顔立ちをしている。
金色の王冠を被り、紫色のローブを纏っている。
「ようこそ、一ノ瀬悠真殿、そしてリリィ・セレスティア殿」
皇帝の声は、深く力強い。
「初めてお目にかかります。私はベルガリア帝国皇帝、カール・フォン・ベルガリアです」
「初めまして。一ノ瀬悠真です」
俺が頭を下げると、リリィも慌てて頭を下げる。
「リリィ・セレスティアです」
「わざわざお越しいただき、感謝する」
皇帝が微笑む。
「そなたたちの革新的な物流システムと浄化サービス、我が帝国でもぜひ導入したい」
「光栄です」
俺が答えると、皇帝は満足そうに頷く。
「さて、詳しい話は明日、改めてしよう。今夜は歓迎の晩餐会を用意した」
「ありがとうございます」
「それでは、晩餐会場へご案内しよう」
晩餐会場は、謁見の間とは別の部屋だった。
長いテーブルには、豪華な料理が所狭しと並べられている。
肉料理、魚料理、野菜料理、そしてデザートまで、見たこともないような料理ばかりだ。
「わあ……すごい」
リリィが目を輝かせる。
「どうぞ、お座りください」
皇帝が席を勧める。
俺とリリィは、皇帝の向かい側に座る。
テーブルの周りには、帝国の重臣たちが座っている。
商務大臣フリードリヒ・フォン・ベルク、軍務大臣、財務大臣など、錚々たるメンバーだ。
そして、皇帝の隣には、二人の若い男性が座っていた。
「紹介しよう。こちらは、第一帝位継承者の長男、アレクサンダー」
皇帝が右隣の男性を紹介する。
30代前半と思われる男性で、知的な顔立ちをしている。
「初めまして、一ノ瀬殿。あなたの商業手腕、噂に聞いております」
アレクサンダーが丁寧に挨拶する。
「こちらこそ」
俺も挨拶を返す。
「そして、こちらは第二帝位継承者の次男、ルドルフだ」
皇帝が左隣の男性を紹介する。
25歳くらいの男性で、アレクサンダーとは対照的に、少し傲慢そうな雰囲気を纏っている。
「ふん……」
ルドルフは、俺たちをちらりと見ただけで、特に挨拶もしなかった。
『旦那様、この第二皇子、あまり良い人物ではなさそうですね』
アイが警告する。
「気をつけよう」
晩餐会が始まり、料理が次々と運ばれてくる。
どの料理も絶品で、リリィは嬉しそうに食べている。
「美味しい! お兄ちゃん、これ食べてみて」
リリィが俺に料理を勧める。
「ああ、確かに美味しいな」
俺が微笑むと、リリィも嬉しそうに笑う。
その時、ルドルフが口を開いた。
「ほう……その少女、まだ幼いようだが、聖女の血筋か」
ルドルフの視線が、リリィに向けられる。
「ええ。リリィは聖女の血筋で、浄化能力を持っています」
俺が答えると、ルドルフの目が光った。
「浄化能力……それは貴重だな」
その言い方に、俺は嫌な予感がした。
『旦那様、警戒してください。この男、リリィちゃんに興味を持っています』
アイが警告する。
晩餐会は続き、やがてデザートの時間になった。
リリィは、美味しそうなケーキを頬張っている。
「美味しい!」
その無邪気な姿を見て、ルドルフがにやりと笑った。
晩餐会が終わり、俺たちは部屋に戻った。
「お兄ちゃん、今日は楽しかったね」
リリィが満足そうに言う。
「ああ。でも、気をつけないとな」
「え? どうして?」
「なんでもない。早く寝よう」
俺がそう言うと、リリィは頷いてベッドに入る。
『旦那様、やはり第二皇子が気になります。あの視線……何か企んでいる可能性があります』
アイが警告する。
「ああ、俺もそう思う。明日からは、リリィから目を離さないようにしよう」
その夜、俺は警戒しながら眠りについた。
翌朝、俺とリリィは宮殿の庭園を散歩していた。
美しい花々が咲き誇り、噴水が涼しげな音を立てている。
「お兄ちゃん、あの花、綺麗だね」
リリィが花を指差す。
「ああ、本当に綺麗だな」
俺が微笑むと、リリィも嬉しそうに笑う。
その時、後ろから声が聞こえた。
「やあ、一ノ瀬殿、そしてリリィ嬢」
振り返ると、ルドルフが立っていた。
数人の従者を従えている。
「ルドルフ殿……おはようございます」
俺が挨拶すると、ルドルフはにやりと笑った。
「散歩かね? よろしければ、私も同行させていただこう」
断る理由もなく、俺たちはルドルフと一緒に庭園を歩くことになった。
「リリィ嬢、君はまだ若いようだが、何歳かね?」
ルドルフがリリィに話しかける。
「えっと……12歳です」
リリィが答えると、ルドルフは満足そうに頷く。
「12歳か。まだ幼いが、十分に美しい」
その言い方に、俺は警戒心を強める。
『旦那様、この男、明らかにリリィちゃんを狙っています』
アイが警告する。
「リリィ嬢、君のような聖女の血筋は、帝国でも非常に貴重だ」
ルドルフが続ける。
「もし君が帝国に残ってくれれば、我々も大いに助かる」
「えっと……でも、わたし、お兄ちゃんと一緒にいたいので……」
リリィが困ったように俺を見る。
「ルドルフ殿、リリィは私の大切な仲間です。帝国に残すつもりはありません」
俺がきっぱりと言うと、ルドルフの表情が変わった。
「ほう……それは残念だ」
その瞬間、ルドルフは従者に合図を送った。
従者たちが一斉に動き、俺とリリィを囲む。
「何をする気だ!」
俺が身構えると、ルドルフが冷たく笑った。
「一ノ瀬殿、君には悪いが……リリィ嬢は帝国が頂くことにした」
「何を言っている!」
「リリィ嬢の浄化能力は、帝国の国益にとって必要不可欠だ。君一人の所有物にしておくのは、もったいない」
ルドルフが傲慢に言い放つ。
「リリィは物じゃない!」
「物ではない。だからこそ、私の側室として迎える」
「側室……だと!?」
俺の怒りが爆発しそうになる。
「お兄ちゃん……」
リリィが怯えた声で俺にしがみつく。
「大丈夫だ、リリィ。お前を渡したりしない」
俺がリリィを抱きしめると、ルドルフが鼻で笑った。
「感動的な光景だが、無駄だ。従者たち、リリィ嬢を連れて行け」
従者たちが俺とリリィに近づいてくる。
『旦那様、《時間操作》の準備を』
アイが指示する。
「わかった」
俺は《時間操作》を発動しようとするが、その時、ルドルフが懐から魔道具を取り出した。
「《魔法封印》」
魔道具から光が放たれ、俺の体を包む。
途端に、魔力が使えなくなった。
「くっ……これは……」
「魔法封印の魔道具だ。これで君の魔法は使えない」
ルドルフが勝ち誇ったように笑う。
「さあ、リリィ嬢。こちらへ」
従者たちがリリィに手を伸ばす。
「いやだ! お兄ちゃん、助けて!」
リリィが泣きながら叫ぶ。
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
「リリィに……手を出すな!」
俺は《身体能力強化》を発動する。魔法封印は魔法を封じるが、身体強化系のスキルは別だ。
俺はルドルフを殴り飛ばす。
その威力は凄まじく、従者は数メートル吹き飛んで地面に倒れた。
「貴様!?」
ルドルフが顔を抑えながら立ち上がる。
「貴様……魔法が封じられているはずなのに!」
「身体能力強化は、魔法じゃない。スキルだ!」
俺は次々と従者を殴り倒していく。
『旦那様、素晴らしい! その調子です!』
アイが応援する。
「お兄ちゃん、すごい!」
リリィが目を輝かせる。
しかし、ルドルフは慌てず、笛を吹いた。
その音に反応して、周囲から大勢の兵士たちが現れた。
「一ノ瀬悠真を捕らえろ! 皇族に手を出した罪は重い!」
ルドルフが命令すると、兵士たちが一斉に俺を囲む。
「くそっ……」
俺は完全に包囲されてしまった。
『旦那様、このままでは危険です! 脱出しましょう!』
アイが提案する。
「でも、魔法が使えない……」
『大丈夫です。私が一時的に魔法封印を解除します!』
アイが姿を現し、俺の体に触れる。
その瞬間、魔法封印の効果が消失した。
「アイ、お前……」
『分析すれば何でもできるんですよ♪』
アイが得意げに言う。
「ありがとう、アイ!」
俺は《時間操作》を発動し、周囲の時間を遅くする。
兵士たちの動きがスローモーションになった。
「リリィ、掴まれ!」
俺がリリィを抱きかかえると、リリィが俺の首に腕を回す。
「《空間転移》!」
俺はその場から脱出しようとするが、宮殿内には強力な魔法結界が張られていた。
『旦那様、宮殿内からは《空間転移》できません! 外に出る必要があります!』
「わかった!」
俺は《時間操作》を維持したまま、リリィを抱えて宮殿の外に向かって走る。
「待て! 逃がすな!」
ルドルフが叫ぶが、時間が遅くなっている中では、兵士たちは俺に追いつけない。
俺は廊下を駆け抜け、階段を駆け下り、正面玄関に向かう。
途中、何人もの兵士たちが立ちはだかるが、《身体能力強化》で殴り飛ばしながら進む。
「お兄ちゃん、すごい速い!」
リリィが驚いている。
「もう少しだ。頑張れ!」
俺は正面玄関に到着し、扉を蹴破って外に出る。
宮殿の庭園に出た瞬間、俺は《時間操作》を解除し、《空間転移》の準備をする。
「《空間転移》!」
光が俺たちを包み、宮殿から脱出した。
帝都での逃走
俺とリリィは、帝都の路地裏に転移した。
「はあ……はあ……」
俺は息を整える。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
リリィが心配そうに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ」
『旦那様、お疲れさまです。でも、まだ安心できません。宮殿から追っ手が来るでしょう』
アイが警告する。
「わかってる。まずは、安全な場所に移動しよう」
俺は路地裏を抜け、帝都の市場に向かう。
人混みに紛れれば、追っ手も見つけにくいはずだ。
「お兄ちゃん、あの人たち……」
リリィが後ろを指差す。
振り返ると、宮殿の兵士たちが追いかけてくるのが見えた。
「くそっ、もう追いついてきたか」
俺は再び走り出す。
市場の人混みの中を駆け抜け、俺たちは何とか追っ手を振り切った。
やがて、帝都の外れにある小さな宿屋に辿り着く。
「ここなら、しばらく隠れられるはずだ」
俺は宿屋に入り、部屋を借りる。
「二人で一晩、お願いします」
「50ルスだよ」
俺は金を払い、部屋の鍵を受け取る。
部屋は質素だが、清潔だった。
ベッドが一つと、小さな机と椅子がある。
「ふう……何とか逃げられたな」
俺がベッドに座ると、リリィが俺に抱きついてきた。
「お兄ちゃん、ありがとう……怖かった……」
リリィが泣きながら言う。
「もう大丈夫だ。俺が守るから」
俺がリリィを優しく抱きしめると、リリィが安心したように頷く。
『旦那様、これからどうしますか?』
アイが尋ねる。
「まずは、みんなに連絡を取らないとな」
俺は《通信魔法》を使おうとするが、帝都内では魔法的な妨害があるようだ。
「くそっ、通信魔法も使えない……」
『旦那様、私が直接神経をサポートして、通信能力を強化しましょう』
アイが提案する。
「頼む」
アイが俺の神経に直接介入し、通信能力を強化する。
すると、微かだが、王都のリナリアたちと繋がる感覚がした。
「リナリア、聞こえるか?」
俺が念じると、リナリアの声が聞こえてきた。
『悠真さん!? どうしたんですか?』
「大変なことになった。ベルガリア帝国の第二皇子が、リリィを側室にしようとして……俺はそいつを殴り飛ばした」
『え!? 殴り飛ばした!?』
リナリアが驚く。
「ああ。今、帝都で追われている。すぐには帰れそうにない」
『わかりました。わたくしたちも、すぐにそちらに向かいます』
「いや、危険だ。帝国は本気で俺たちを捕まえようとしている」
『でも、悠真さん……』
「大丈夫だ。アイもいるし、何とかする。お前たちは王都で待っていてくれ」
『……わかりました。でも、無理はしないでください』
「ああ、約束する」
俺は通信を切り、大きく息を吐く。
「お兄ちゃん、これからどうするの?」
リリィが不安そうに尋ねる。
「まずは、帝都から脱出する方法を考えよう」
『旦那様、帝都の城門は厳重に警備されています。普通に出ることはできません』
アイが報告する。
「じゃあ、《空間転移》で王都まで一気に戻るか」
『それも難しいです。帝都全体に魔法結界が張られており、長距離転移は妨害されます』
「くそっ……詰んだか……」
俺が頭を抱えていると、リリィが俺の手を握った。
「お兄ちゃん、大丈夫。わたし、お兄ちゃんを信じてるから」
リリィの純粋な瞳を見て、俺は決意を新たにする。
「ああ……必ず、お前を守る。そして、みんなのところに帰ろう」
俺がリリィの頭を撫でると、リリィが嬉しそうに微笑む。
『旦那様、私も全力でサポートします。一緒に、この危機を乗り越えましょう♪』
アイも力強く言う。
「ありがとう、アイ」
その夜、俺たちは次の行動を計画した。
帝都からの脱出方法、追っ手からの逃走ルート、そして王都への帰還計画。
明日からが、本当の戦いになるだろう。
だが、俺にはリリィとアイがいる。
そして、王都で待っている仲間たちもいる。
必ず、この危機を乗り越えて見せる。
俺はそう決意しながら、静かに眠りについた。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回のエピソード22では、ついに悠真たちが王都に自分たちの「家」を持つことができました。仲間が増え、それぞれが自分の部屋を持てるようになったことで、より「家族」としての絆が深まったのではないでしょうか。
そして、ベルガリア帝国への訪問。一見名誉ある招待でしたが、第二皇子ルドルフの卑劣な企みにより、事態は最悪の展開に。幼いリリィを「側室」にしようとする暴挙に、悠真は完全にブチギレました。
大切な仲間を守るためなら、相手が皇族だろうと容赦しない。それが悠真の本当の強さです。
暁の裏




