第16話 「学園に響く再生の詩(うた)」
後日、俺は破壊神ゼルヴァロスが消滅した後の永遠の闇の森に来ていた。
俺は焦土と化した戦場を見渡す。アイの一時的な第四進化による圧倒的な力で破壊神を倒したものの、その代償は大きかった。
『旦那様、重要な情報です』
アイの声が脳内に響く。第四進化は解除されたが、彼女の分析能力は健在だった。
「どうした?」
『破壊神が完全に消滅する前に、細胞のサンプルを回収することを推奨します』
「細胞…?」
俺は破壊神が消滅した地点に近づく。そこには、わずかに黒い結晶のようなものが残っていた。
『これは破壊神の核の破片です。非常に危険ですが、研究価値は計り知れません』
アイの指示に従い、俺は慎重にアイテムボックスに破片を収納する。触れた瞬間、手に禍々しい魔力の残滓を感じた。
「こんなものを残すなんて…」
『神クラスの存在は、完全に消滅させることが困難です。この細胞片も、放置すれば数百年後に再生する可能性があります』
「なんだって!?」
『ご安心ください。適切に封印・管理すれば問題ありません。むしろ、この細胞を研究することで、今後の脅威に対抗する手段を得られるかもしれません』
俺は慎重に周囲を探索し、合計で5つの結晶片を回収した。それぞれが親指大ほどの大きさで、触れるだけで寒気を覚えるほどの邪悪な気配を放っている。
『旦那様、ゼルヴァロスの細胞を解析して魔力と魔法威力が爆発的に上昇しました♪』
「どこまでもチートだな、アイは…」
『褒めてもスキルしか出ませんよ♪』
「出るんだな」
アイと他愛ない話しをした。
回収を終えた俺とアイは、《空間転移》で王都に戻った。
戻ってきてみんなと一緒に話していると王城から使者がやってきた。
「探しました。一ノ瀬様宛に緊急の手紙が届いております!」
「手紙?」
使者から受け取った封筒を見ると、見覚えのある紋章が刻まれていた。
「これは…アルカナ・アカデミアの紋章ですね」
エリアが驚きの声を上げる。
封を開けて読むと、そこには丁寧な文字で緊急の依頼が綴られていた。
一ノ瀬悠真殿へ
突然の手紙、お許しください。私はアルカナ・アカデミア学長、エルドリック・ファルメインです。
娘のエリアが大変お世話になっております。彼女の成長を聞き、父として誇らしく思っております。
さて、本題ですが、学園が深刻な人手不足に陥っております。
理由は来ていただいてからお話ししますが、どうか数日間でも構いませんので、あなた方に教師として学園を手伝っていただけないでしょうか。
報酬は十分に用意いたします。どうかご検討ください。
エルドリック・ファルメイン
「教師…ですか」
リナリアが首を傾げる。
「父上が、こんなに慌てた手紙を書くなんて…よほどのことがあったのでしょうね」
エリアの表情が曇る。
「行ってみるか。エリアの父親の頼みだし、断る理由もない」
「本当ですか!?」
エリアが嬉しそうに顔を輝かせる。
「ええ。それに、教師なんて経験、面白そうじゃないか」
『旦那様、教師経験ゼロですが大丈夫ですか?』
「お前がサポートしてくれるんだろ?」
『もちろんです♪完璧にサポートしますよ』
こうして、俺たちは魔法学園アルカナ・アカデミアへ向かうことになった。
翌日、俺たちは《空間転移》でアルカナ・アカデミアに到着した。
学園は王都から北西に位置し、広大な敷地に複数の校舎が立ち並んでいる。中央には高い塔が聳え、魔法陣が刻まれた石畳の道が美しく整備されていた。
「久しぶりですね…」
エリアが感慨深そうに呟く。
「ここがエリアさんの故郷なんですね」
リリィが興味深そうに周囲を見回す。
学園の門をくぐると、すぐに校長室へ案内された。
「お待ちしておりました。お話は聞いております。あのゼルヴァロスを撃破されたとか」
エルドリック校長が深々と頭を下げる。
「父上、お久しぶりです」
「エリア…無事でよかった」
校長は娘を抱きしめると、すぐに真剣な表情に戻った。
「さて、早速ですが事情を説明させていただきます」
俺たちは椅子に座り、校長の話に耳を傾けた。
「実は、先月から教師陣が次々と辞職しているのです」
「辞職…ですか?」
「はい。理由は様々ですが、最も深刻なのは『魔力暴走事故』が頻発していることです」
校長が机の上に積まれた書類を見せる。
「この一ヶ月で、授業中の魔力暴走事故が10件以上発生しました。幸い死者は出ていませんが、重傷者が複数出ています」
「それは…深刻ですね」
リナリアが眉をひそめる。
「ええ。特に、ある生徒の魔力が異常に高く、制御できないために頻繁に爆発を起こすのです」
「魔力が高いのに制御できない…?」
エリアが不思議そうに聞く。
「はい。彼女の名はセレスティア・アークライト。魔力量ではエリアに匹敵するほどですが、魔法を発動しようとするたびに暴走し、爆発してしまうのです」
『興味深いケースですね』
アイが分析を始める。
「それで教師陣が恐れて辞職したと?」
「その通りです。加えて、彼女は学園の主席生徒、ヴィクトリア・エルメスに常に馬鹿にされており、精神的にも不安定な状態です」
校長が深くため息をつく。
「正直、私一人では手に負えません。娘のエリア、そしてあなた方の力をお借りしたいのです」
俺は少し考えてから答えた。
「わかりました。数日間、教師として協力させていただきます」
「本当ですか!?」
校長の表情が明るくなる。
「ありがとうございます!報酬は一日1000ルスずつお支払いします」
「それは助かります」
『旦那様、これで教育経験も積めますし、セレスティアさんの問題を解決できれば大きな実績になりますよ♪』
「そうだな」
こうして、俺たちは急遽、魔法学園の教師となることになった。
翌日、俺たちは早速授業を担当することになった。
リナリアは「剣術と戦術」、エリアは「高等魔法理論」、リリィは「浄化魔法入門」を担当する。
俺は「実践戦闘術」を担当することになった。
『旦那様、授業の進め方は私が完璧にサポートしますから、安心してください♪』
「頼むぞ、アイ」
教室に入ると、20名ほどの生徒たちが座っていた。
「初めまして。今日から数日間、実践戦闘術を担当する一ノ瀬悠真です」
生徒たちがざわつく。
「えっ、あの破壊神を倒した英雄!?」
「本物だ…」
「すごい…」
『旦那様、すでに人気者ですね♪』
「まあな」
授業を始めようとした時、教室の後ろで小さな爆発音が聞こえた。
「きゃあ!」
煙が上がり、生徒たちが慌てて避難する。
煙の中から、一人の少女が現れた。
長い銀髪を持ち、碧眼の美しい少女だが、その表情は自信なさげで、服は煤で汚れている。
「すみません…また、やってしまいました…」
彼女が申し訳なさそうに俯く。
「君が、セレスティア・アークライトか?」
「はい…」
彼女の声は小さく、震えていた。
『旦那様、彼女の魔力を分析します』
アイが即座に分析を開始する。
『驚異的な魔力量です。エリアさんと同等か、それ以上かもしれません。しかし…』
「しかし?」
『魔力の流れが異常です。体内で魔力が暴走し、制御できない状態になっています』
「原因は?」
『詳しい分析が必要ですが、おそらく魔力回路の異常か、精神的なトラウマによるものかと』
俺はセレスティアに近づいた。
「大丈夫か?」
「はい…いつものことなので…」
「いつものこと、か。それは辛いな」
セレスティアが驚いたように顔を上げる。
「え…?」
「魔力が制御できないのは、君のせいじゃない。必ず原因を突き止めて、解決してみせる」
「本当に…ですか?」
彼女の瞳に、かすかな希望の光が宿る。
「ああ。俺に任せろ」
その時、教室の前方から嘲笑う声が聞こえた。
「ふふ、また爆発ですか、セレスティア。いつになったらまともに魔法が使えるようになるのかしら?」
振り返ると、金髪を優雅にまとめた高慢そうな少女が立っていた。
「ヴィクトリア・エルメス…」
セレスティアが唇を噛む。
「初めまして、先生。私は学年主席のヴィクトリアよ。セレスティアのような魔法も使えない落ちこぼれとは違いますからお忘れなく」
「一ノ瀬悠真だ、早速だがヴィクトリア言い過ぎだ」
俺が注意すると、ヴィクトリアは鼻で笑った。
「先生、現実を見てください。彼女は魔法が使えないのです。こんな学園にいる資格はありません」
「資格がないかどうかは、俺が決める」
俺はヴィクトリアを睨む。
「それに、セレスティアの魔力は君よりも遥かに高い。ただ制御できないだけだ」
「何ですって!?」
ヴィクトリアの顔が紅潮する。
「ふざけないでください!私は学年主席ですよ!?」
「主席だからといって、他人を見下していい理由にはならない」
俺の言葉に、ヴィクトリアは怒りで震えた。
「なら、証明してみせましょう。セレスティア、決闘よ」
「え…?」
セレスティアが戸惑う。
「明日の放課後、訓練場で決闘しましょう。私が勝ったら、あなたは学園を去ること」
「それは…」
「受けなさい。それとも、逃げるの?」
ヴィクトリアの挑発に、セレスティアは唇を噛んだ。
「…わかりました。受けます」
「決まりね」
ヴィクトリアが勝ち誇ったように笑い、教室を出て行った。
「セレスティア…」
「大丈夫です、先生。どうせ私は負けます」
彼女の諦めたような表情を見て、俺は拳を握りしめた。
「負けさせない。今日から特訓だ」
「え…?」
「君の魔力暴走の原因を突き止めて、必ず制御できるようにしてみせる」
セレスティアの瞳が揺れた。
「本当に…できるんですか?」
「ああ。俺に任せろ」
その日の放課後、俺はセレスティアを訓練場に呼んだ。
エリア、リナリア、リリィも同行し、アイと共に彼女の魔力を詳しく分析することになった。
「じゃあ、まずは簡単な魔法を使ってみてくれ」
「はい…《ファイアボール》」
セレスティアが呪文を唱えると、手に炎が灯る。
しかし、次の瞬間――
ドォン!
炎が暴走し、大爆発を起こした。
「きゃあ!」
セレスティアが吹き飛ばされるが、俺は《時間操作》で時間を遅くし、彼女を受け止めた。
「大丈夫か?」
「はい…すみません」
『旦那様、原因が分かりました』
「本当か!?」
『彼女の魔力回路は正常です。問題は、魔力の出力調整ができていないことです』
「出力調整?」
『はい。彼女の魔力量が膨大すぎて、通常の魔法では出力を抑えきれないのです』
エリアが補足する。
「つまり、小さな炎を作ろうとしても、魔力が多すぎて大爆発になってしまうということですね」
「その通りです」
アイが続ける。
『加えて、彼女は過去のトラウマから、魔法を使うことに恐怖を感じています。その恐怖が魔力を不安定にさせているのです』
「トラウマか…心あたりはあるか?」
セレスティアが俯く。
「昔…私の魔法で、友達が怪我をしたんです」
「それは…」
「それ以来、魔法を使うのが怖くて…でも、使わないと学園にいられなくて…」
彼女の声が震える。
「大丈夫だ」
俺は彼女の肩に手を置いた。
「トラウマは乗り越えられる。そして、魔力の制御も必ず身につけられる」
「本当に…?」
「ああ。今から特訓する」
『旦那様、私が魔力制御のプログラムを作成します』
「頼む」
アイが空中にホログラムを展開し、魔力制御のための訓練プログラムを表示する。
「まず、魔力を極限まで抑える訓練から始めます」
エリアが説明する。
「魔力を10%、5%、1%と段階的に減らしていくのです」
「でも、どうやって…」
「リリィちゃんの魔法で、余分な魔力を一時的に抑えます」
リリィが杖を構える。
「《ピュリファイ・エッセンス》」
淡い光がセレスティアを包む。
「あ…体が軽くなった…」
「今のうちに、魔法を使ってみて」
セレスティアが再び呪文を唱える。
「《ファイアボール》」
今度は、小さな炎が手のひらに灯った。
「できた…!」
セレスティアが驚きの声を上げる。
「これが本来の出力だ。君の魔力が多すぎて、いつも暴走していたんだ」
『次は、この感覚を覚えてもらいます』
アイが訓練プログラムを起動する。
「魔力を少しずつ解放していきます。感覚を掴んでください」
訓練は夜遅くまで続いた。
セレスティアは何度も失敗し、何度も爆発を起こしたが、諦めずに挑戦し続けた。
「もう一度…《ファイアボール》」
そして――
ボッ
小さな炎が、安定して手のひらに灯った。
「成功した…!」
セレスティアの瞳に涙が浮かぶ。
「初めて…初めてちゃんと魔法が使えた…!」
「よくやった」
俺が彼女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、先生…」
「まだ完璧じゃない。明日の決闘までに、もっと練習が必要だ」
「はい!」
その後もひたすら魔力制御の練習を続けた。
翌日、訓練場には多くの生徒が集まっていた。
セレスティアとヴィクトリアの決闘を見に来たのだ。
「ふふ、よく来たわね、セレスティア」
ヴィクトリアが高慢に笑う。
「今日で終わりよ。あなたの学園生活は」
セレスティアは何も言わず、杖を構えた。
「では、始めます」
審判の合図と共に、決闘が始まった。
「《アイスランス》!」
ヴィクトリアが氷の槍を放つ。
セレスティアは冷静に回避し、反撃する。
「《ファイアボール》」
しかし、ヴィクトリアは余裕で防御する。
「その程度?がっかりね」
序盤は、ヴィクトリアが圧倒的に有利だった。
彼女の魔法は正確で、威力も申し分ない。
一方、セレスティアは防戦一方だった。
「やっぱり…勝てない…」
セレスティアの表情に諦めが浮かぶ。
その時、俺の声が聞こえた。
「諦めるな、セレスティア!」
「先生…」
「君の魔力は、彼女の何倍もある!恐れるな!」
「セレスティアさん、昨日の訓練を思い出してください!」
エリアの声も響く。
「君なら、できる!」
セレスティアの瞳に、再び光が宿った。
「そうだ…私には、先生たちがついている…」
彼女が深呼吸し、魔力を集中させる。
「《メガ・ファイアストーム》!」
巨大な炎の渦がヴィクトリアを襲う。
「なっ…!?」
ヴィクトリアが慌てて防御魔法を展開するが、炎の威力が強すぎて防ぎきれない。
「きゃあ!」
炎がヴィクトリアを包み込む。
「《アイスバリア》!」
必死に防御するが、セレスティアの魔力は圧倒的だった。
「《サンダーボルト》!」
追撃の雷撃がヴィクトリアを直撃する。
「うああああ!」
ヴィクトリアが地面に倒れ込む。
「…私の、負けです」
ヴィクトリアが降参の合図を出した。
「勝者、セレスティア・アークライト!」
審判が宣言すると、訓練場に歓声が響いた。
「やった…!」
セレスティアが信じられない表情で自分の手を見つめる。
「勝った…私が…勝った…!」
「よくやった」
俺が近づくと、セレスティアは涙を流しながら抱きついてきた。
「先生…ありがとうございます…!」
「礼なんていいさ。君が頑張ったんだ」
ヴィクトリアは悔しそうに地面を見つめていたが、やがて立ち上がった。
「…私の負けです。セレスティア、あなたは本当に強かった」
「ヴィクトリア…」
「これからは、馬鹿にしません。ごめんなさい」
ヴィクトリアが頭を下げると、セレスティアは驚いた。
「い、いえ…こちらこそ」
二人は握手を交わし、周囲から拍手が起こった。
その夜。
学園の地下深くで、不気味な影が蠢いていた。
「ふふふ…破壊神は倒されたが、我々の計画は終わっていない」
フードを被った人影が、古い石造りの扉の前に立っている。
「学園地下に封印された『禁書』…あれさえ手に入れば、次の段階に進める」
人影が扉に手をかざすと、魔法陣が浮かび上がる。
「封印は強力だが…時間の問題だ」
影が不気味に笑う。
「一ノ瀬悠真…お前が破壊神を倒したと聞いた時は絶望したが、次はそう簡単にはいかない」
地下の闇が、静かに蠢き始めていた。
翌朝、俺は校長室に呼ばれた。
「昨夜、学園の地下で異常な魔力反応が検知されました」
エルドリック校長が深刻な表情で言う。
「地下…?」
「はい。学園の地下には、古代から封印されている『禁書の間』があります」
「禁書…」
「その封印に、何者かが干渉した形跡があるのです」
『旦那様、これは重大な事態です』
アイが警告する。
「誰かが、禁書を狙っている…?」
「その可能性が高いです」
校長が頷く。
「禁書には、古代の禁忌魔法が記されています。もし悪用されれば、王国全体が危機に陥るでしょう」
俺は拳を握りしめた。
「また、敵が動き出したのか…」
『おそらく、王都で暗躍していた組織の残党です』
「くそ…」
リナリアが口を開く。
「わたくしたちで、地下を調査しましょう」
「ええ。このまま放置はできません」
エリアも賛成する。
「私も行きます!」
リリィも立ち上がる。
「よし、全員で地下に向かおう」
俺は決意を固めた。
「アイ、準備はいいか?」
『いつでも大丈夫です♪』
こうして、俺たちは学園地下の禁書の間へと向かうことになった。
新たな敵の影が、再び動き始めていた――
学園地下への入口は、校長室の隠し扉の奥にあった。
「この先が地下への階段です」
エルドリック校長が古い石の扉を開ける。
「気をつけてください。地下は魔物が徘徊している可能性があります」
「わかりました」
俺たちは慎重に階段を降りていく。
松明の灯りだけが頼りの、暗く湿った通路だった。
『旦那様、前方に複数の敵性反応です』
「来たか」
俺はナイフを構える。
暗闇の中から、黒い影が現れた。
「グルル…」
影の魔物――シャドウビーストだ。
「《ファイアボール》!」
エリアの魔法が魔物を照らし出す。
全長2メートルほどの狼のような姿だが、体は影で構成されている。
「物理攻撃は効きにくいですね」
リナリアが剣を構える。
「なら、魔法で押し切る!《サンダーボルト》!」
エリアの雷撃が魔物を貫く。
「ギャオオ!」
魔物が消滅する。
「リリィ、浄化魔法は効くか?」
「試してみます!《ホーリーライト》!」
リリィの浄化の光が影の魔物を照らす。
「ギャアアア!」
魔物が苦しみながら消えていく。
「効果抜群ですね」
『影系の魔物には、光属性と浄化属性が有効です』
「よし、このまま進もう」
俺たちは次々と現れる影の魔物を倒しながら、地下深くへと進んでいく。
やがて、巨大な石の扉が現れた。
「これが…禁書の間」
扉には複雑な魔法陣が刻まれており、強力な封印が施されている。
『旦那様、封印に干渉した痕跡があります』
「やはり、誰かが侵入しようとしたのか」
その時、背後から声が聞こえた。
「よく来たな、一ノ瀬悠真」
振り返ると、フードを被った人影が立っていた。
「お前は…!」
フードが外れ、見覚えのある顔が現れる。
「まさか…お前は王都で暗躍していた…ルシア!」
「久しぶりですね。我々の計画は、あの程度では終わらない」
ルシアの顔には、邪悪な笑みが浮かんでいた。
『旦那様、彼女から強力な魔力を感じます。警戒してください』
「お前たちの目的は何だ?」
俺が問うと、男は嘲笑うように答えた。
「目的?決まっています。この世界の『再構築』です」
「再構築…?」
「そう。現在の国の体制は腐敗している。権力者たちが富を独占し、民は苦しんでいる」
ルシアが両手を広げる。
「我々『深淵の使徒』は、この世界を一度破壊し、真に平等な世界を創造する」
「それが、貴女たちの大義名分ですか」
リナリアが剣を構える。
「綺麗事を並べていますが、結局は破壊と殺戮ではないですか」
「王女殿下、あなたには理解できないでしょうね。王族として生まれ、何不自由なく育ったあなたには」
ルシアの言葉に、リナリアの表情が曇る。
「確かに、わたくしは恵まれた環境で育ちました」
リナリアが真っ直ぐにルシアを見据える。
「でも、だからこそ、その責任も理解しています。民を守り、王国を繁栄させる――それが王族の使命です」
「美しい理想です...が、現実は違う」
ルシアが冷笑する。
「貴女の父、アルフレッド国王は、エスペリア公国との政略結婚で貴女を道具として使おうとした」
「それは…」
「そして、お前はそれから逃げ出した。王族の使命とは、所詮その程度のものです」
リナリアが言葉に詰まる。
その時、俺が前に出た。
「黙れ」
「何?」
「リナリアは、自分の意志で決断した。政略結婚から逃げたんじゃない。王国の現状を自分の目で確かめるために城を出たんだ」
俺はリナリアを見る。
「そして、彼女は民の苦しみを理解し、それを変えるために戦っている」
「悠真さん…」
リナリアの瞳に涙が浮かぶ。
「お前たちの理想とやらは、ただの破壊衝動を正当化しているだけだ」
男の表情が歪む。
「減らず口を…!《ダーク・エクスプロージョン》!」
男が両手を突き出すと、黒い爆発が俺たちに向かって襲いかかる。
「《時空間シールド》!」
俺は防御障壁を展開し、爆発を防ぐ。
「やりますね…ですが!」
ルシアが連続して魔法を放つ。
「《シャドウ・ランス》!《ダーク・チェイン》!」
闇の槍と鎖が俺たちを襲う。
「《ウィンドカッター》!」
エリアの風の刃が攻撃を相殺する。
「《ホーリーレイン》!」
リリィの浄化魔法が直撃する。
「ぐっ…!」
強烈な一撃にルシアが怯む。
「今です!《聖光斬》!」
リナリアの剣が光を纏い、男に襲いかかる。
「甘い!《シャドウ・ボディ》!」
男の体が影になり、攻撃をすり抜ける。
「くっ…物理攻撃が効かない!」
『旦那様、彼女は影と一体化しています。実体を捉えるには、影を固定する必要があります』
「影を固定…どうやって?」
『光属性の魔法で影を消して時間操作で動きを止める方法をオススメします』
「わかった。リリィ、魔法で影を消してくれ!」
「はい!」
「全力で浄化の光を放つんだ!」
「わかりました!《サンクチュアリ・フィールド》!」
リリィが杖を高く掲げると、半径50メートルの範囲が聖なる光に包まれる。
「あぁぁぁ!」
ルシアの影が光で照らされ、実体を現す。
「今だ!《時間操作》!」
俺は男の周囲の時間を極限まで遅くする。
「動け…ない…!」
「リナリア、エリア!」
「はい!」
「わかりました!」
二人が同時に最大威力の魔法を放つ。
「《聖光斬》!」
「《メガ・サンダーストーム》!」
光の剣と雷の嵐が男を襲う。
「ぐわああああああ!」
ルシアの体が光と雷に貫かれ、地面に倒れ込む。
「はぁ…はぁ…」
俺たちも疲労困憊だった。
「倒した…のか?」
しかし、ルシアはまだ息があった。
「くく…くくく…」
「何が可笑しい」
「あなた達たちは…強い…それは認めましょう…」
血を吐きながら笑う。
「だが…これで終わりではありません…『深淵の使徒』は…まだ…他にもいます…」
「そして…禁書は…すでに…回収済みです…」
「何だと!?」
俺が驚くと、ルシアは最後の力を振り絞って笑った。
「あなた達たちが…地下に来る前に…別働隊が…回収しました…」
「くそ…!」
「ふふ…次は…もっと強力な…力で…あなた達を…」
ルシアの声が途切れ、そのまま息絶えた。
「禁書が…奪われた…」
エリアが呆然と呟く。
『旦那様、禁書の間を確認しましょう』
俺たちは急いで扉を開けた。
中には、空っぽの台座だけが残っていた。
「やられました…」
リナリアが悔しそうに拳を握る。
「わたくしたちが囮にされたのですね」
「ああ。最初から、こいつは時間稼ぎだった」
『旦那様、これは重大な事態です。禁書には古代の禁忌魔法が記されています』
「どんな魔法だ?」
『詳細は不明ですが、世界の法則にも干渉できるほどの力を持つと言われています』
「世界の法則に干渉…」
俺は深く息を吐いた。
「急いで校長に報告しないと」
校長室に戻った俺たちは、事の次第を報告した。
「なんと…禁書が奪われただと!?」
エルドリック校長が顔色を変える。
「申し訳ありません。敵の策略にはまってしまいました」
「いや、あなた方のせいではない」
校長が深くため息をつく。
「むしろ、あなた方がいなければ、もっと被害が大きかったでしょう」
「禁書には、どんな魔法が記されているのですか?」
エリアが尋ねる。
「それは…『魂の転移と復活』という禁忌魔法です」
「魂の転移…?」
「簡単に言うと死者を蘇らせたり、魂を別の体に移したりする魔法です」
校長が重々しく続ける。
「古代、この魔法により多くの悲劇が生まれました。そのため、七賢者によって封印されたのです」
『これは危険です。もし敵がこの魔法を使えば…』
「破壊神ゼルヴァロスを蘇らせることも可能…ということか」
俺の言葉に、一同が凍りつく。
「そんな…」
リリィが震える声で呟く。
「でも、破壊神の肉体は完全に消滅したはずです」
エリアが言う。
「いや…」
俺はアイテムボックスから、破壊神の細胞片を取り出した。
「これがある」
「まさか…!」
「俺が研究用に回収した破壊神の細胞。もし敵がこれを狙っているなら…」
『旦那様、それは十分にあり得ます』
アイが警告する。
『魂の転移魔法と破壊神の細胞を組み合わせれば、ゼルヴァロスを復活させることが可能です』
「なんてことだ…」
校長が頭を抱える。
「すぐに王国に報告しなければ…」
その時、窓の外から爆発音が聞こえた。
「何事だ!?」
俺たちが窓を開けると、学園の訓練場で黒い煙が上がっていた。
「訓練場で何かが…!」
急いで現場に向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。
訓練場の中央に、巨大な魔法陣が描かれており、その中心に黒い結晶が浮かんでいる。
「あれは…!」
『破壊神の細胞と同じ魔力反応です!』
「まさか…もう一つ、細胞があったのか!?」
そして、魔法陣の周りには、黒いローブを纏った『深淵の使徒』たちが立っていた。
「ふふふ…よく来たな、一ノ瀬悠真」
中央に立つリーダー格の男が、フードを外す。
「お前は…!」
それは、かつて王都で寄生虫事件を起こした魔術師、ドレッドだった。
「まさか、生きていたのか!」
「ああ。お前に敗れた後、『深淵の使徒』に救われたのだ」
ドレッドが邪悪に笑う。
「そして今、我々は破壊神を復活させる」
「させるか!」
俺はナイフを構えるが、ドレッドは余裕の表情だった。
「遅い。すでに儀式は完了している。パラサイトとゼルヴァロスの細胞を組み合わせた疑似的な体に魂を憑依させる」
ドレッドは呪文を唱える。呪文はまるで詩でも詩っているかのようだった。
その瞬間、魔法陣が激しく光り始めた。
「ガアアアアア!」
黒い結晶から、巨大な影が現れる。
それは、破壊神ゼルヴァロスだった。
しかし、以前とは違う。
体は不完全で、半分は影で構成されている。
『旦那様、これは完全な復活ではありません。魂と体が馴染んでいません。以前の力の20%程の力しかありません』
「でも、これでも十分に危険だ!」
「ふふふ、見るがいい。不完全でも、破壊神は破壊神だ」
ドレッドが高笑いする。
「さあ、破壊神よ。この学園を滅ぼせ!」
「ガアアアアア!」
破壊神が咆哮し、破壊の炎を吐き出す。
「みんな、避難を!」
俺が叫ぶと、生徒たちが慌てて逃げ出す。
「セレスティア!生徒たちを安全な場所に!」
「わ、わかりました!」
セレスティアが生徒たちを誘導する。
「リナリア、エリア、リリィ!」
「はい!」
「戦闘開始だ!」
俺たちは再び、破壊神と戦うことになった。
『旦那様、前回と違いゼルヴァロスは弱体化しています。皆さんで協力できれば倒せるはずです』
「どうすればいい?」
『魂を浄化するか、完全に体が馴染む前に魔法陣を破壊して魂を元に戻すかです』
「魔法陣の破壊か…」
俺は魔法陣を見る。
複雑な模様が描かれており、強力な魔力が流れている。
「リリィ、魔法陣を浄化できるか?」
「やってみます!」
リリィが魔法陣に向かって浄化魔法を放つ。
「《ホーリーライト》!」
しかし、魔法陣は微動だにしない。
「効かない…!」
『魔法陣には強力な防御結界が張られています。浄化魔法だけでは破壊できません』
「くそ…なら、力づくで!」
俺はナイフに魔法を付与し、魔法陣に斬りかかる。
「《エクソシズム・ブレード》!」
しかし、結界に阻まれて攻撃が届かない。
「だめか…!」
その時、エリアが叫んだ。
「悠真さん!魔法陣の中心に、制御石があります!」
「制御石?」
「はい!あれを破壊すれば、魔法陣も崩壊します!」
エリアが魔法陣の中心を指差す。
確かに、小さな黒い石が浮かんでいる。
「でも、どうやって近づく?破壊神が邪魔だ」
「わたくしが引きつけます!」
リナリアが剣を構える。
「リナリア!危険だ!」
「大丈夫です。悠真さん、お願いします」
リナリアが破壊神に向かって突進する。
「《聖光斬》!」
光の剣が破壊神を切り裂く。
「ガアアア!」
破壊神がリナリアに注意を向ける。
「今です!」
エリアが風の魔法で俺を魔法陣の中心に向かって飛ばす。
「《ウィンド・ブースト》!」
俺は空中を飛び、制御石に向かって突進する。
「《時間操作》!」
周囲の時間を遅くし、破壊神の攻撃を回避する。
「届け!《魔法付与・最大出力》!」
俺のナイフが制御石を貫いた。
パリン!
制御石が砕け散る。
「やった!」
次の瞬間、魔法陣が崩壊し始めた。
「な、何!?」
ドレッドが驚愕の声を上げる。
「ガアアアアア!」
破壊神の体が崩壊し、影が消えていく。
「くそ…また失敗か…!」
ドレッドが悔しそうに叫ぶ。
「逃がすか!《空間転移》!」
俺はドレッドの前に瞬間移動し、ナイフを突きつける。
「観念しろ」
「ちっ…!」
ドレッドが何かを投げつける。
ドォン!
煙幕弾が爆発し、視界が遮られる。
「また逃げられたか…!」
煙が晴れると、ドレッドと『深淵の使徒』たちは姿を消していた。
「くそ…」
俺は拳を握りしめた。
戦闘が終わり、学園は一時的な平穏を取り戻した。
しかし、誰もが知っていた。
これは終わりではない。
『深淵の使徒』は、まだ暗躍している。
そして、奪われた禁書と破壊神の細胞。
新たな脅威が、確実に近づいている。
「悠真さん」
リナリアが心配そうに声をかける。
「大丈夫か?」
「ええ。でも、これからどうなるのでしょう」
「わからない。でも、俺たちが戦うしかない」
俺は仲間たちを見回す。
リナリア、エリア、リリィ、そしてアイ。
「みんな、覚悟を決めろ。次の戦いは、今まで以上に厳しいものになる」
「はい」
「わかっています」
「一緒に戦います」
みんなが頷く。
『旦那様、私も全力でサポートします』
「ああ、頼む」
その夜、俺は一人で屋上にいた。
星空を見上げながら、これからのことを考える。
『深淵の使徒』の真の目的は何なのか。
破壊神を復活させて、何をしようとしているのか。
そして、禁書に記された『魂の転移と復活』とは。
謎は深まるばかりだった。
「次は…もっと強くならないと」
俺は拳を握りしめる。
『旦那様、今回の戦闘でポイントを5500ポイント獲得して第四進化まで残り72000ポイントです』
「遠いな」
『でも、確実に近づいています』
「ああ」
俺は夜空を見上げる。
新たな敵、新たな脅威。
でも、俺たちには仲間がいる。
この絆があれば、どんな困難も乗り越えられる。
そう信じて、俺は明日への決意を新たにした。
翌朝、俺たちは学園を後にすることになった。
「短い間でしたが、ありがとうございました」
エルドリック校長が深々と頭を下げる。
「いえ、こちらこそ貴重な経験をさせていただきました」
「セレスティアのこと、本当にありがとうございました」
校長がセレスティアの方を見る。
彼女は、もう以前のように自信なさげな表情はしていなかった。
「先生、本当にありがとうございました!」
セレスティアが駆け寄ってくる。
「礼なんていいさ。これからも頑張れよ」
「はい!」
彼女の笑顔を見て、俺も微笑む。
「では、行きましょうか」
リナリアが言う。
「ああ」
俺は《空間転移》を発動し、王都へと戻った。
しかし、心の中では確信していた。
これは終わりではない。
『深淵の使徒』との戦いは、まだ始まったばかりだ。
そして、その先に待つものは――
俺にも、まだ見えていなかった。
【スキルポイント獲得】
深淵の使徒構成員撃破:500ポイント
破壊神の魂撃破:5500ポイント
累計ポイント:28800ポイント
第四進化まで残り:72000ポイント
王都に戻った俺たちは、すぐに王城で報告を行った。
「『深淵の使徒』…また新たな敵か」
アルフレッド国王が深刻な表情で呟く。
「はい。彼らは破壊神の復活を企んでおり、禁書を奪取しました」
「禁書…『魂の転移と復活』か」
国王が眉をひそめる。
「それは危険だ。すぐに三賢人を集めよう」
数分後、謁見の間には三賢人が集まっていた。
「『魂』の魔法が奪われたとは…」
エヴァンジェリンが深刻な表情を見せる。
「もし破壊神を完全に復活させられたら、前回の比ではありません」
セラフィナも心配そうだ。
「我々も総力を挙げて対処する必要がありますね」
マクシミリアンが腕を組む。
「しかし、相手の本拠地も目的も不明です」
「まずは情報収集が必要だな」
俺が言うと、国王が頷いた。
「その通りだ。悠真殿、引き続き調査を頼めるか?」
「もちろんです」
俺は仲間たちと顔を見合わせる。
みんな、覚悟を決めた表情をしていた――
皆さま、こんにちは。
今回の後書きは、わたくし――リナリアがお届けします。
ふふ、どうでしたか?
わたくしたち、またしても大変なことに巻き込まれてしまいましたね。
まさか学園の地下に“禁書の間”が隠されていたなんて……。
悠真さんが教師を引き受けると聞いたときは、少し不安でしたけれど、
まさかここまで波乱万丈になるとは思いませんでした。
でも、今回も皆が力を合わせて戦いました。
セレスティアさんも、以前の彼女とは比べものにならないくらい成長していて、
決闘の時よりも、ずっと強く、優しい瞳をしていました。
きっと、あの短い時間の中で、悠真さんから“信じる強さ”を学んだのだと思います。
……ただ、問題はまだ山積みです。
奪われた禁書、“魂の転移”という禁忌の魔法。
そして、『深淵の使徒』。
彼らの本当の目的が何なのか、まだわたくしたちにも分かりません。
でも、怖くはありません。
だって、悠真さんがいて、アイさんがいて、
エリアもリリィも、みんなが一緒ですから。
戦いはこれからも続くかもしれません。
けれど――それでも、わたくしたちは“光の側”に立ち続けます。
民を守るために、そして……自分たちの信じる未来のために。
次回は、きっと新たな旅の始まり。
どんな困難が待っていても、きっと大丈夫です。
悠真さんが隣にいてくれるなら……ね。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。
リナリアでした




