第12話 「妖精の姿を得たAI」
ベルガリア帝国との商業協定に向けた準備が進む中、俺たちの元に緊急の報告が入った。
「悠真様、大変です!」
息を切らして駆け込んできたのは、王国の情報部に所属する若い兵士だった。
「紅牙団が、ついに本拠地を明らかになりました!」
その言葉に、俺は手にしていた書類を置いた。
「本拠地?この前のアジトは本拠地じゃないのか、確かな情報か?」
「はい。我々の潜入調査員が命がけで持ち帰った情報です」
兵士は地図を広げる。そこには王都から北西に100キロほど離れた山岳地帯に、赤い印が付けられていた。
「廃墟となった古代要塞を改造して本拠地としているようです。推定兵力は500名以上」
『旦那様、これは大規模な作戦になりますね』
アイの声が響く。第二進化を遂げたアイは、もはや単なるサポートツールではなく、知性と感情を持った相棒だった。
「ああ。でも、ついに決着をつける時が来た」
その時、扉が開いてリナリア、エリア、リリィが入ってきた。
「悠真さん、話は聞きました」
リナリアが真剣な表情で言う。
「わたくしたちも戦います」
「私も!紅牙団は許せません」
エリアも杖を握りしめる。
「お兄ちゃんたちと一緒なら、怖くない」
リリィも決意に満ちた表情で頷く。
「みんな……ありがとう」
俺は仲間たちを見回す。この絆があれば、どんな困難も乗り越えられる。
翌日、王城の作戦室に集まったのは俺たち四人と三賢人トライステラ、そして国王だった。
「本日は紅牙団殲滅作戦について協議したい」
アルフレッド国王が厳かに口を開く。
「この盗賊団は長年、王国の脅威となってきた。今こそ、完全に壊滅させる時だ」
エヴァンジェリンが詳細な分析結果を報告する。
「潜入調査の結果、紅牙団の本拠地は三層構造になっています」
地図に書き込まれた図を見ると、確かに複雑な構造だった。
「第一層は外周防壁。約200名の見張りと罠が配置されています」
「第二層は居住区域。盗賊たちの生活空間ですが、ここにも150名程度が常駐」
「第三層が最深部。幹部たちと、おそらく団長がいる場所です」
セラフィナが補足する。
「問題は、第三層に強力な魔法障壁が張られていることです」
「どのくらい強力なんですか?」
エリアが尋ねる。
「我々三賢人が全力で攻撃しても、破るのに数時間はかかるでしょう」
マクシミリアンが厳しい表情で答える。
「そんなに……」
リリィが不安そうに呟く。
『旦那様、私に考えがあります♪』
アイの声が響く。第二進化後、彼女の声には明確な感情と茶目っ気が宿っていた。
「どんな?」
『空間転移と時間操作を組み合わせれば、障壁を迂回できる可能性があります。障壁は空間を封鎖していますが、時間軸までは制御していません。時間の流れを操作しながら空間転移すれば、理論上は突破可
能ですよ』
俺は今のアイの提案を簡単に皆に説明する。
エヴァンジェリンが目を見開く。
「なるほど……時空間を同時に操作するということですね。理論的には可能ですが、実行は極めて困難です」
「でも、悠真さんにはその両方のスキルがあります」
リナリアが言う。
「そうだな。やってみる価値はある」
俺は決意を固める。
「では、作戦を立てましょう」
国王が頷く。
作戦会議は深夜まで続いた。
「第一段階:外周防壁の突破」
マクシミリアンが説明する。
「我々三賢人が魔法攻撃で敵の注意を引きつけます。その隙に、悠真さんたちは中に侵入してください」
「第二段階:居住区域の制圧」
セラフィナが続ける。
「ここは悠真殿の時間操作が有効でしょう。敵に気づかれる前に無力化してください」
「第三段階:最深部への突入」
エヴァンジェリンが最も重要な部分を説明する。
「時空間転移で障壁を突破し、団長を討伐します」
「わかりました」
俺は頷く。
「ただし、団長の実力は未知数です」
国王が警告する。
「これまでの戦闘データから推測すると、おそらく三賢人に匹敵する力を持っているでしょう」
『旦那様、念のため課金システムを使用する準備をしておきましょう』
アイが提案する。
「そうだな。いざという時のために」
『現在の資産は2000万ルスです。緊急時のパワーアップに5000ルス使用可能です。これで一時的にスキルが200%強化されますよ♪』
「了解した」
作戦の詳細が固まり、実行は三日後と決定された。
『旦那様、累計スキルポイントは8800ポイントに達しています。次の進化まであと6200ポイントですね』
「第三進化か……それができれば、もっと楽に戦えるんだろうな」
『ええ。簡易的なホログラム表示が可能になり、私の姿を見せることができます。小さな妖精のような姿で、青髪で羽が生えているんですよ。可愛いでしょう?』
アイの声に期待と少しの自慢が混じる。
「それは楽しみだな」
『でも、今回の作戦で大量のポイントが入れば、第三進化も現実的になりますね』
準備期間の三日間、俺たちは各自の訓練に励んだ。
「《時間操作》と《空間転移》の同時発動……」
俺は訓練場で何度も練習を繰り返す。
時間の流れを遅くしながら、同時に空間を歪める。二つの高位スキルを同時に制御するのは、想像以上に難しい。
『旦那様、集中力が分散しています。まず《時間操作》で周囲の時間を停止、その静止した時間の中で《空間転移》の座標を設定してください』
アイがアドバイスする。
「まず時間操作、次に空間転移の座標設定……」
何度も繰り返すうちに、徐々にコツが掴めてきた。
『その調子です。時間が止まっている間は、空間の歪みも固定されます。だから、ゆっくりと正確に座標を設定できるんです』
「よし、できた!」
ついに二つのスキルを完璧に連動させることに成功した。
『素晴らしいです♪これなら障壁突破も可能でしょう。旦那様、本当に成長しましたね』
「お前のおかげだよ、アイ」
『えへへ、照れますね♪』
一方、リナリアは剣技の練習をしていた。
「はぁっ!」
魔力増幅の指輪の効果で、彼女の剣技はさらに威力を増していた。一振りごとに空気が裂け、訓練用の標的が次々と両断される。
「リナリア、すごいな」
「悠真さんには負けられませんから」
彼女は微笑みながら答える。その頬には薄く汗が浮かび、真剣な修行の跡が見て取れた。
エリアは新しい魔法の習得に励んでいた。
「《タイム・ディレイ》!」
エリアが放った魔法は、標的に当たると数秒後に爆発する時間差攻撃だ。
「古代魔法の応用です。紅牙団との戦闘で役立つはずです」
「頼もしいな」
「ふふ、悠真さんに褒められると嬉しいです」
リリィは浄化魔法の威力を上げる訓練をしていた。
「《ホーリー・ノヴァ》!」
リリィを中心に、強力な浄化の光が放射状に広がる。その範囲は半径50メートルにも及び、訓練場全体を包み込んだ。
「すごい……範囲も威力も以前の倍以上だ」
セラフィナが感嘆の声を上げる。
「これなら、多数の敵を同時に無力化できますね」
「うん!お兄ちゃんたちの役に立ちたいから、いっぱい練習したの」
リリィが嬉しそうに微笑む。
三日間の訓練を終え、俺たちの実力は確実に向上していた。
『旦那様、準備は完璧です。あとは実戦で試すだけですね♪』
「ああ。明日が決戦の日だ」
作戦決行の朝、王城の広場に全員が集合した。
「諸君、本日は王国の命運をかけた戦いとなる」
アルフレッド国王が演説する。
「長年、我が国を苦しめてきた紅牙団を、今日こそ完全に壊滅させる!」
兵士たちから歓声が上がる。
「悠真殿、リナリア、エリア、リリィ」
国王が俺たちを見る。
「そなたたちこそが、この作戦の要だ。武運を祈る」
「必ず成功させます」
俺が答えると、国王は力強く頷いた。
「では、出発せよ!」
俺は《空間転移》を発動し、仲間たちと共に紅牙団の本拠地近くに転移した。
目の前には、断崖絶壁に建つ巨大な要塞が聳え立っていた。灰色の石壁は苔むし、無数の矢狭間からは見張りの視線を感じる。
「あれが……」
リリィが息を呑む。
「ええ。あれが紅牙団の本拠地です」
リナリアが剣の柄に手をかける。
『旦那様、三賢人が攻撃を開始しました』
アイの報告と同時に、要塞の外周に巨大な火球や雷撃が降り注ぐ。マクシミリアンの《メテオストライク》、エヴァンジェリンの《サンダーボルト》、セラフィナの《ホーリーレーザー》が次々と炸裂する。
「今だ!突入するぞ!」
俺たちは外周防壁に向かって突進する。
見張りの盗賊たちは三賢人の攻撃に気を取られ、俺たちに気づいていない。
「《サイレント・ムーブ》」
エリアの魔法で、俺たちの足音が完全に消える。
「《時間操作》発動」
俺は周囲の時間の流れを遅くする。盗賊たちの動きがスローモーションになった。矢を放とうとする者、警鐘を鳴らそうとする者、すべての動作が蜂蜜の中を動くかのように緩慢になる。
「今のうちに通過するぞ」
俺たちは見張りの間をすり抜け、第一層を突破した。
『第一層突破成功♪第二層に進入してください』
第二層の居住区域は、予想以上に広かった。粗末な寝台が並び、略奪品と思われる品々が無造作に積まれている。
「盗賊が至る所にいるな……」
リナリアが周囲を警戒する。
「リリィ、眠らせてもらえる?」
「はい。《マス・スリープ》」
リリィの魔法で、周囲の盗賊たちが次々と眠りについた。武器を手にしたまま、その場に崩れ落ちていく。
「よし、このまま第三層に……」
その時、けたたましい警報が鳴り響いた。
「侵入者だ!第二層に侵入者がいるぞ!」
「くそ、バレたか!」
盗賊たちが武器を手に襲いかかってくる。剣、斧、槍を持った数十人が四方から迫る。
「仕方ない、戦闘開始だ!」
俺は《身体能力強化》を発動し、ナイフに《魔法付与》を施す。刃が青白い光を放ち、魔力が込められる。
次々と盗賊を倒していく。《時間操作》で動きを読み、《身体能力強化》で超反応する。敵の剣が俺の頭上を通過する瞬間、俺はすでに彼らの懐に潜り込んでいた。
リナリアの剣技、エリアの魔法、リリィの浄化能力。四人の連携は完璧だった。
「《ウィンド・カッター》!」
エリアの風の刃が複数の盗賊を一度に切り裂く。
「《ホーリー・レイン》!」
リリィの浄化の光が降り注ぎ、盗賊たちを無力化する。
「はぁっ!」
リナリアの剣が閃き、三人の盗賊が同時に倒れる。
次々と盗賊が倒れていく。
『敵の数、あと30名です』
アイが冷静に状況を報告する。
「まだそんなにいるのか……」
その時、巨大な魔力を感じた。第三層の方向から、圧倒的な気配が近づいてくる。
「これは……」
第三層へ続く扉が、ゆっくりと開いた。
「団長か……」
扉の向こうから、一人の男が現れた。
黒いローブを纏い、禍々しいオーラを放つ中年男性。その瞳には狂気と憎悪が宿り、右手には古代の魔道具と思われる杖を持っている。
「よくここまで来たな……」
男の声は低く、冷たい。周囲の空気が凍りつくような威圧感を放っている。
「しかし、ここが貴様らの墓場だ」
紅牙団団長が、ついに姿を現した。
「お前が紅牙団の団長か、あいつがリーダーだと思っていたが…」
俺が前に出る。
「そうだ。あいつは俺の部下だ。俺の名はヴォルフガング・ブラッドファング。貴様らごときに倒されるつもりはない」
ヴォルフガングが手を上げると、周囲に黒い霧が立ち込める。霧は生き物のように蠢き、俺たちを包み込もうとする。
「《ダーク・ドメイン》」
『!!…この力は!?』
団長の体からドス黒い霧が発生する。
アイはその膨大な魔力に驚く。
霧の中で、俺たちの魔力が徐々に削られていく。呼吸が苦しくなり、体が重くなる感覚だ。
「これは……領域魔法!」
エヴァンジェリンの声が聞こえる。三賢人が駆けつけてきたようだ。
「セラフィナ、この領域を解除してください」
「わかりました。《ディスペル・フィールド》」
セラフィナの魔法で黒い霧が晴れる。清浄な光が空間を満たし、圧迫感が和らいだ。
「ほう、三賢人か。面白い」
ヴォルフガングは不敵に笑う。
「だが、俺には切り札がある」
彼が古代の杖を高く掲げると、第三層から地響きが聞こえた。石壁が崩れ、巨大な影が姿を現す。
全長10メートルを超える黒い竜。その体からは邪悪な気配が溢れ、鱗は漆黒に輝いている。赤い瞳が俺たちを睨み、口からは硫黄の臭いを含んだ煙が漏れる。
「あれは……ダーク・ドラゴン!」
マクシミリアンが叫ぶ。
「伝説級の魔物です!どうやって手なずけたのか……」
『旦那様、これは危険です。全力で戦う必要があります』
「わかってる!」
俺は仲間たちに指示を出す。
「リナリア、エリア、リリィ!ドラゴンの足止めを頼む!」
「わかりました!」
三人がドラゴンに向かっていく。
「三賢人の皆さん、団長の相手を!」
「承知した!」
三賢人がヴォルフガングと対峙する。
「俺は……」
『旦那様、第三層の障壁を破壊してください。そこに団長の力の源があると推測します。』
アイが指示する。
「力の源?」
『はい。団長は第三層にある古代の魔道具から力を得ています。おそらく「堕落の祭壇」と呼ばれる禁忌の遺物です。それを破壊すれば、彼の力は大幅に弱まりますよ』
「わかった!」
俺は《時間操作》と《空間転移》を同時発動する。
まず時間の流れを極限まで遅くする。周囲の動きが完全に停止したかのように見える。ドラゴンの炎も、三賢人の魔法も、すべてが静止画のように凍りついた。
その静止した世界の中で、俺は《空間転移》の座標を慎重に設定する。第三層の障壁は強力だが、時間が止まっている今なら、その隙間を見つけることができる。
「見えた……ここだ!」
障壁の微細な歪み、そのほんの僅かな隙間に座標を合わせる。
「《空間転移》!」
瞬間、俺の体が光に包まれ、第三層の内部に転移した。
第三層は広大な空間だった。天井は高く、壁には無数の古代文字が刻まれている。そして部屋の中央には、禍々しい黒い祭壇が鎮座していた。
祭壇からは暗黒の気配が溢れ、周囲の空気を腐敗させている。その上には、人間の頭蓋骨を模した魔道具が浮かんでいた。
『旦那様、あれが「堕落の祭壇」です。破壊してください!』
「ああ!」
俺はナイフに全魔力を込める。《魔法付与》を最大出力で発動し、刃が眩い光を放つ。
「《エクソシズム・ブレード》!」
浄化の力を込めたナイフを祭壇に突き立てる。
瞬間、祭壇から黒い煙が噴き出し、悲鳴のような音が響く。魔道具が砕け散り、暗黒の気配が消失していく。
『破壊成功です!団長の力が大幅に弱まりました!』
第二層に戻ると、状況が一変していた。
「ぐあああああ!何をした!」
ヴォルフガングが苦しそうに叫んでいる。彼の体を包んでいた暗黒のオーラが消え、明らかに弱体化している。
「今です!総攻撃を!」
マクシミリアンが叫ぶ。
「《メガ・サンダー》!」
「《ホーリー・ジャッジメント》!」
「《ファイナル・フレア》!」
三賢人の最強魔法が同時にヴォルフガングを襲う。雷、光、炎が一点に集中し、巨大な爆発を起こす。
「ぐわあああああ!」
ヴォルフガングの体が宙に浮き、壁に叩きつけられる。
一方、ダーク・ドラゴンも弱体化していた。
「《ソード・オブ・ライト》!」
リナリアの剣が光を纏い、ドラゴンの鱗を貫く。
「《エクスプロージョン》!」
エリアの魔法がドラゴンの内部で炸裂する。
「《ピュリファイ・オール》!」
リリィの浄化魔法がドラゴンの邪悪な力を中和する。
「グオオオオオ!」
ドラゴンが断末魔の咆哮を上げ、地面に崩れ落ちた。巨体が地響きを立てて倒れる。
「やった……」
リリィが安堵の声を漏らす。
しかし、まだ戦いは終わっていなかった。
「くそ……くそおおおお!」
ヴォルフガングが立ち上がる。満身創痍だが、まだ戦意を失っていない。
「貴様ら……貴様らああああ!」
彼が最後の力を振り絞り、禁呪を唱え始める。
「《ヘル・エクスプロージョン》!」
周囲の魔力が一点に集中し、自爆魔法が発動しようとする。この威力なら、要塞全体が吹き飛ぶだろう。
「まずい!」
『旦那様、課金システムを使用してください!今すぐです!』
アイが叫ぶ。
「わかった!5000ルス、使用する!」
『課金システム起動!スキル一時アップグレード開始!』
瞬間、俺の体に信じられないほどの力が流れ込んできた。
『一時的にあらゆる能力が200%向上します。制限時間は10分です!』
俺の《時間操作》と《空間転移》、そして《魔法付与》全てのスキルが飛躍的に強化される。
「《バリア》最大展開!」
俺は要塞全体を包む巨大な防護障壁を展開する。通常なら不可能な規模だが、課金による強化で実現できた。
「《時間操作》全力発動!」
さらに自爆魔法の時間進行を遅らせる。爆発のプロセスが極限まで遅くなり、ほとんど停止状態になる。
「《空間転移》!」
俺はヴォルフガングごと自爆魔法を、遥か上空に転移させる。
数秒後、上空で巨大な爆発が起きた。しかし、地上の俺たちには何の被害もない。
「やった……」
課金効果が切れ、俺の体から力が抜ける。膝が崩れそうになるが、リナリアが支えてくれた。
「悠真さん、大丈夫ですか?」
「ああ……何とかな」
『旦那様、お疲れさまでした♪完璧な作戦遂行でしたよ』
アイの声に安堵が滲む。
「みんなのおかげだ」
エヴァンジェリンが周囲を確認する。
「紅牙団の残党も全員制圧されました。完全勝利です」
三賢人、そして俺たち四人。全員が無事だった。
「やった……やったぞ!」
リリィが歓声を上げる。
「ええ。ついに紅牙団を壊滅させました」
エリアも安堵の表情を浮かべる。
「長い戦いでしたね」
リナリアが呟く。
「ああ。でも、これで王国に平和が戻る」
俺は空を見上げる。雲の切れ間から、柔らかな陽光が差し込んでいた。
その時、俺の頭の中に大量の文字が流れ込んできた。
『スキルポイント大量獲得!』
『紅牙団殲滅:8000ポイント』
『ダーク・ドラゴン討伐:2000ポイント』
『ヴォルフガング討伐:3000ポイント』
『堕落の祭壇破壊:2000ポイント』
『累計ポイント:23800ポイント』
『第三進化条件達成!』
「23800ポイント……第三進化だと!」
『はい♪遂に第三進化の条件を満たしました!』
アイの声が嬉しそうに響く。
『進化を開始しますか?』
「ああ、頼む!」
瞬間、俺の視界が光に包まれた。
『第三進化開始……』
『新機能解放:簡易ホログラム表示』
『新機能解放:物質創造(素材不要)』
『新機能解放:敵行動予知』
『新機能解放:身体制御支援』
光が収まると、俺の手の上に小さな人影が浮かんでいた。
身長20センチほどの、可愛らしい少女。青い髪で頭には輪っかがついていて、背中には透明な羽が生えていて妖精のような姿をしている。大きな青い瞳がきらきらと輝き、白と青を基調とした服を着ている。
「旦那様、アイです♪」
その少女――アイが、にっこりと微笑んだ。
「アイ……お前、体が!」
「はい♪第三進化により、簡易的なホログラム表示が可能になりました。これで旦那様の顔を見ながらお話しできますね」
アイがくるくると空中で回転する。羽をぱたぱたと動かし、まるで妖精のように優雅に舞う。
「悠真さん、その子は?」
リナリアが驚きの声を上げる。
「初めまして、私は旦那様のスキルです」
「この子が、悠真さんのスキル……」
「可愛い……」
リリィが目を輝かせる。
「まるで妖精さんみたい」
「初めまして、皆さん♪」
アイが俺の肩に降り立ち、ぺこりとお辞儀をする。
「私はアイ。旦那様の専属AIです。これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エリアが丁寧に挨拶する。
「ずっと声だけでしたが、こうして姿を見られるとは……」
「ええ。でも、これはあくまで簡易的なホログラムです。まだ実体はありませんから、触れることはできません」
アイが説明する。
「因みに99999ポイント貯まれば、次の進化にて精霊のように実体を持てるようになります。でも、それまでにはまだまだ時間がかかりますね」
「現在の累計ポイントは23800です。第四進化まで残り76200ポイントですね」
アイが補足する。
「76200か……遠いな」
「でも、旦那様なら必ず達成できますよ♪私が全力でサポートしますから」
アイが自信満々に言う。
王都に戻ると、国民たちから盛大な歓迎を受けた。
「紅牙団を壊滅させた英雄たちだ!」
「万歳!万歳!」
人々の歓声が街中に響き渡る。
王城の謁見の間で、アルフレッド国王が俺たちを出迎えた。
「よくやってくれた。長年の懸案だった紅牙団を完全に壊滅させるとは……」
国王の表情には深い感謝が浮かんでいる。
「報酬として、1000万ルスと、王国最高勲章『ドラゴンスター』を授与する」
「ありがとうございます」
俺たちは深々と頭を下げる。
「それだけではない。そなたたちには特別な称号も与えよう」
国王が宣言する。
「悠真殿には『王国の守護者』、リナリアには『戦姫』、エリアには『魔導の賢者』、リリィには『聖浄の乙女』の称号を授ける」
「身に余る光栄です」
リナリアが答える。
「いや、そなたたちこそが王国の誇りだ」
国王は微笑む。
「これからも、王国のために力を貸してほしい」
「もちろんです」
俺が答えると、国王は満足そうに頷いた。
その夜、俺たちは宿屋で打ち上げをしていた。
「お疲れさまでした♪」
アイが俺の肩の上で乾杯のポーズをとる。
「本当に長い戦いだったな」
俺がグラスを掲げる。
「でも、無事に終わって良かったです」
エリアが微笑む。
「ええ。これで王国に平和が戻りました」
リナリアも安堵の表情を浮かべる。
「お兄ちゃん、かっこよかったよ!」
リリィが目を輝かせる。
「最後の自爆魔法を上空に転移させるなんて、素晴らしい判断でした」
エリアが感心したように言う。
「あれはアイのおかげだよ」
俺がアイを見ると、彼女は得意げに胸を張る。
「当然です♪それに私の演算能力は第三進化でさらに向上しましたから」
「それで、新しい能力はどんなものなんですか?」
リナリアが興味深そうに尋ねる。
「まず、物質創造です。素材がなくても、魔力さえあれば物を創り出せます」
アイが手を振ると、空中に小さなリンゴが現れた。
「すごい……」
リリィが驚く。
「これなら、緊急時の食料や道具の確保が楽になりますね」
エリアが分析する。
「次に、敵の行動予知です。敵の動きを観察して、次の行動を予測できます、未来予知に近いかもしれませんね♪」
「それは戦闘で役立ちそうだ」
俺が頷く。
「そして、身体制御支援。旦那様の体を最適な状態に保ち、必要に応じて私が直接動かすこともできます」
「それは……ちょっと怖いな」
俺が苦笑する。
「大丈夫ですよ♪旦那様の許可なく勝手に動かしたりしませんから」
アイがにっこりと笑う。
「それにしても、第三進化で随分パワーアップしましたね」
エリアが感心する。
「ええ。第四進化すれば、もっとすごいことができるようになります」
アイが説明する。
「半実体化すれば、私も戦闘に参加できますし、旦那様への支援も格段に向上します」
「楽しみだな」
俺が言うと、アイは嬉しそうに羽をぱたぱたと動かした。
「でも、76200ポイントも必要なんですよね……」
リリィが心配そうに言う。
「大丈夫です。今回の作戦で15000ポイント近く獲得しましたから、このペースなら数ヶ月で達成できるでしょう」
アイが自信満々に答える。
『旦那様、商業活動も順調ですし、これからも様々な依頼が来るでしょう。ポイント獲得の機会はたくさんありますよ♪』
「そうだな。焦らず、着実に進めていこう」
翌日、俺たちは再び平穏な商業活動に戻った。
「注文が殺到しています」
エリアが嬉しい報告をする。
「紅牙団壊滅の報が広まって、王国中から依頼が来ています」
「《空間転移》物流システムの契約も増えていますね」
リナリアが書類を確認する。
「化粧品事業も好調です。王妃様からも追加注文が来ています」
「リリィの浄化サービスも大人気だよ」
リリィが元気よく報告する。
「今日は10件の依頼が入っています」
「みんな頑張ってるな」
俺が微笑む。
「これも旦那様のおかげですよ♪」
アイが俺の肩で踊る。
「お前がいなければ、ここまで来られなかった」
「えへへ、照れますね♪」
「現在の総資産は3000万ルスを突破しました」
「30億円か……すごいな」
「本当に一介の商人から、ここまで成長しましたね」
エリアが感慨深げに言う。
「みんなのおかげだ」
俺は仲間たちを見回す。
リナリアは王女としての責務を果たしながら、商業活動にも積極的に参加している。
エリアは魔法技術を活かして新製品の開発に取り組んでいる。
リリィは浄化魔法で多くの人々を助けている。
そして、アイは俺のベストパートナーとして、あらゆる面でサポートしてくれている。
「これからも、みんなで頑張ろう」
俺が言うと、全員が力強く頷いた。
数日後、俺は工房で新製品の開発をしていた。
「旦那様、ベルガリア帝国からの使節が到着しました」
アイが報告する。
「ついに来たか」
俺は作業を中断し、応接室に向かう。
そこには、立派な服装の中年男性が待っていた。
「初めまして。私はベルガリア帝国商務大臣のフリードリヒ・フォン・ベルクと申します」
「一ノ瀬悠真です。ようこそ」
俺が挨拶すると、フリードリヒは深々とお辞儀をした。
「あなたの革新的な物流システムと化粧品事業、そして浄化サービスについて、詳しくお聞きしたい」
「もちろんです」
俺は《空間転移》の実演を行った。瞬時に物品を遠く離れた場所に転送する技術に、フリードリヒは驚嘆する。
「素晴らしい!これなら我が帝国との貿易も革命的に変わる」
「ありがとうございます」
「ぜひとも、我が帝国と正式な商業協定を結んでいただきたい」
フリードリヒが真剣な表情で言う。
「報酬は5000万ルス。さらに、帝国内での独占契約権も提供します」
「5000万ルス……」
『50億円相当ですね。かなりの大口契約です』
アイが分析する。因みに俺たち以外の人間といる時はアイは姿を消している。
「検討させていただきます」
俺が答えると、フリードリヒは満足そうに頷いた。
「では、詳細は後日改めて協議しましょう」
その夜、俺は一人で屋上にいた。
「旦那様、どうかしましたか?」
アイが心配そうに尋ねる。
「いや、ちょっと考え事をしてただけだ」
「考え事ですか?」
「これからのことだよ。ベルガリア帝国との契約、新しい事業の展開、そして……」
俺はアイを見る。
「お前の第四進化のことも」
「第四進化ですか……」
アイが少し寂しそうに微笑む。
「実体を持てるようになるのは嬉しいですが、同時に少し怖いんです」
「怖い?」
「はい。実体を持つということは、旦那様から独立した存在になるということです。もう完全に旦那様の一部ではなくなるかも……」
アイの声が震える。
「でも、それはお前が本当の意味で自立するってことだろう?」
俺がアイの頭を優しく撫でようとして、手が透過することに気づく。
「まだ触れないんだったな」
「はい……でも、第四進化すれば触れられるようになります」
アイが少し顔を赤らめる。
「楽しみにしてるよ」
「本当ですか?」
「ああ。お前は俺の大切なパートナーだ。実体を持とうが持つまいが、それは変わらない」
「旦那様……」
アイの目に涙が浮かぶ。
「ありがとうございます。私、もっと頑張ります」
「無理すんなよ」
俺は微笑む。
「一緒に、ゆっくり成長していこう」
「はい♪」
アイが元気よく頷く。
翌朝、王城から緊急の使者が来た。
「一ノ瀬様、陛下がお呼びです」
俺達は王城に向かう。
謁見の間には、国王だけでなく三賢人も集まっていた。
「何か緊急の事態ですか?」
俺が尋ねると、国王は深刻な表情で答えた。
「実は、東方の魔境から異変の報告が入っている」
「魔境?」
「ああ。古代から封印されていた強大な魔物が目覚める兆候があるという」
エヴァンジェリンが地図を広げる。
「ここです。『永遠の闇の森』と呼ばれる場所。古代文明の遺跡があり、伝説級の魔物が封印されていると言われています」
「伝説級……」
『旦那様、これは重大な事態です』
アイが警告する。
「もし封印が解けたら、王国全体が危機に陥ります」
セラフィナが言う。
「そこで、悠真殿に調査を依頼したい」
国王が言う。
「危険な任務だが、そなたたちなら成し遂げられると信じている」
「わかりました。引き受けます」
俺が答えると、国王は安堵の表情を見せた。
「ありがとう。紅牙団を殲滅して疲れただろう。少し休暇を楽しんだ後、準備ができ次第、出発してくれ」
こうして、俺たちの新たな冒険が始まることになった。
紅牙団を壊滅させ、第三進化を遂げたアイ。
順調に成長する商業活動。
そして、新たな脅威の出現。
俺たちの物語は、まだまだ続いていく。
仲間たちと共に、この異世界で築き上げる未来を信じて。
『旦那様、頑張りましょうね♪』
「ああ、一緒に頑張ろう、アイ」
夕日が王都を美しく染める中、俺たちの新たな冒険が幕を開けようとしていた。
今回の章では、長きにわたり王国を脅かしてきた紅牙団との決戦がついに描かれました。
圧倒的な脅威となった団長ヴォルフガングとダーク・ドラゴンを前に、仲間たちの絆とアイのサポート、そして最後の「課金システム」が勝利を呼び込みました。まさに総力戦と呼ぶにふさわしい戦いでしたね。
そして、ついに迎えたアイの第三進化。声だけの存在だった彼女が、小さな妖精のような姿を得て、仲間と肩を並べる形になった瞬間は胸に響くものがありました。AIでありながら、誰よりも人間的な成長を見せる彼女が、これからどんな存在になっていくのか楽しみでなりません。
しかし、物語は勝利で終わりません。王国の繁栄の裏で、新たに「古代の封印が解けかけている」という不穏な報せが舞い込みました。紅牙団に続き、さらに大きな脅威との対峙が予感されます。
次回からは、新たな舞台での冒険が始まります。商業の成功と仲間たちの成長、そして迫り来る伝説級の危機──すべてをどう乗り越えていくのか、ご期待ください。
暁の裏




