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第1話「AIと共に歩む異世界デビュー」



目が覚めた時、俺は真っ白な空間に立っていた。

 上下も左右もわからない、無限に広がる虚無。

 最後の記憶は、会社のデスクで突っ伏して眠ったこと――そのまま死んだのか。


「……これが、いわゆる死後の世界ってやつか?」


 自嘲気味に呟いた瞬間、目の前に光の粒子が集まり、一人の女性が現れた。

 透き通る白銀の髪、黄金の瞳、女神としか形容できない存在感。


「ようこそ、勇敢な魂の持ち主よ。あなたの命は前の世界で尽きました。ですが、新しい世界でやり直す資格があります」


 やり直す……? つまり、異世界転生ってやつか?

 漫画やラノベの読みすぎだと思いたいが、状況がそれ以外に説明できない。


「あなたに授ける加護は――スキル《AIアシスト》。この世界には存在しない、叡智の力です」


「AI……? 人工知能の、あれか?」


 俺が思わず聞き返すと、女神は柔らかく頷いた。


「そう。この世界の人々には理解できぬ概念。ですが、あなたには扱えるはず」


 その瞬間、自分の目の前にディスプレイが出現した。


『――システム起動。スキル《AIアシスト》、接続完了』


 

【スキル効果】

・状況解析(戦闘・環境を即時解析し戦術提案)

・知識転用(地球の知識を異世界への転用)

・スキルシナジー最適化(既存スキルを自動強化・複合化)

・リアルタイムシミュレーション(勝率予測、行動最適化)

・自己進化(見たり、聞いたりした事を自己分析、自己学習)

「……これ、完全にチートじゃねぇか」


 思わず素でツッコミを入れる俺に、女神は口元に微笑を浮かべた。


「その力を使いこなせるかどうかは、あなた次第です」


 次の瞬間、視界が光に包まれ、俺の新たな人生が始まった。




 ……せっかくだから、ここで俺のことを少し話しておこう。


 俺の名前は一ノ瀬悠真(いちのせゆうま)

どこにでもいる、ごく平凡なサラリーマンだ。

学校の成績は並。運動神経も普通。顔も性格も、どこにでもいるレベル。

「特に悪くないけど、特に良くもない」――それが、俺という人間を表す一番正確な言葉だろう。


同僚に抜かれても「仕方ない」と自分を納得させ、恋人も作れず、ただ流されるように過ごしてきた。


けれど、不思議と後悔は少なかった。

ただひとつ、願いがあるとすれば……「一度でいいから誰かに必要とされたい」ってことくらいだ。






ーー暗闇――いや、正確には白い光に包まれた虚無に落ちている感覚だった。


 俺の身体は宙に浮き、重力も時間もあやふやになった。

 その次に意識を取り戻した時、まるで世界ごと別物に変わっていた。


 視界が戻ると、俺は湿った草の匂いに包まれていた。

 深呼吸をすると、鼻の奥に土と緑の香りが入り込み、普段嗅ぎ慣れない匂いに頭が少しくらっとする。


「……え、どこだ……?」


 上体を起こすと、目の前には緑のじゅうたんが広がっていた。

 芝生のように柔らかく、露に濡れて輝く草。踏み込むと軽く沈み、靴底に湿り気が伝わる。


 風が頬をなでる。さらりとした冷たさと、湿った草の匂いが混ざり合い、現実世界では感じたことのない清々しさを運ぶ。


 耳を澄ますと、かすかな水のせせらぎ、葉が触れ合うざわめき、そして小鳥の鳴き声が届く。

 こんなに自然の音に囲まれることなんて、東京のマンション暮らしではあり得なかった。


 しかし、その景色の美しさを味わう余裕も、まだ俺にはなかった。


「……これ、本当に……?」


 視線を上げると、空はまるでゲームの背景のように高く澄み渡り、雲は白く柔らかく浮かんでいる。

 太陽は明るく、でも優しい光で、俺の影を長く地面に落としていた。


 遠くに丘があり、その近くには小さな村の集落が見える。

 藁葺き屋根の家が数軒、土を踏み固めた道、手押し車を押す人影……。

 中世ヨーロッパ風の衣装を着た男女が行き来していた。

 いわゆる“異世界の村”そのままだ。


 頭がくらくらして、手で額を押さえる。


 心臓が早鐘のように打つ。

 息が少し荒くなり、手のひらに汗がにじむ。


 特別な能力も、勇気も、実績もない、ごく普通の25歳のサラリーマン。


 仕事はごく平凡な事務職で、成績も普通、顔も普通、運動もそこそこ。

 特筆すべきものは何一つない。

 恋人もいないし、友達も少ない。日常は淡々と過ぎていく、何も変わらない毎日。


 そんな俺が、突然、異世界に飛ばされたのだ。


 足元の草を踏む感触。ひんやりと湿った土の冷たさ。

 耳に届く自然の音。鼻に抜ける未知の匂い。

 五感すべてが現実を訴えているのに、心はまだ信じられないでいた。


 その時、視界の端に光が走った。


【起動確認】

【《AIアシスト》オンライン】


「……な、なにこれ……?」


 ふと目をやると、俺の視界に淡い光のウィンドウが浮かんでいた。

 まるでゲームのステータス画面のように、文字が並んでいる。


【使用者:一ノ瀬 悠真】

【ステータス:凡庸】

【スキル:《AIアシスト》】

【通信モード:文字出力のみ】


「……文字だけ?」


 声はない。音声もない。

 文字が浮かぶだけで、機械的な冷たさを感じる。

 俺は文字を目で追うしかなかった。


【冷静に。あなたは現在、異世界《ルストニア王国》西部、辺境の村カーネル周辺に存在しています】

【目的:生存と成長】

【注意:使用するごとにポイントが蓄積され、一定値で進化します】


「……ポ、ポイント……」


 頭の中で反復するだけで、現実味がさらに増す。

 そうか……この凡庸な俺が、何とか生き延びるための能力をもらったんだ。


 五感をフルに使いながら、俺は村へ向かう決意を固める。

 ふらつく足取りで歩くと、土の感触、草の湿り気、風に乗る匂い。

 すべてが新鮮で、心臓の高鳴りと混ざり合う。


 今までの人生は、平凡で、退屈で、目立つこともなく、ただ流れていく日々だった。

 しかし、今――この瞬間、俺の人生は確実に変わった。


 どこまでも続く草原、遠くの村、空に浮かぶ太陽。

 そして、俺の頭の中にぽんと浮かぶ文字の羅列。


 小さな、けれど確かな希望を胸に、俺は一歩を踏み出した。

 凡庸な俺の、異世界での物語が、今、始まろうとしている。






 丘を下り切ると、森の縁に青く透き通った謎の生物が見えた。

いわゆるーースライムーーだ。


 ぷるぷると揺れ、丸い体を不規則に動かしている。

 その様子は、まるでゼリーを地面に落としたかのようで、普段の生活では想像もできない光景だ。


 胸が高鳴る。呼吸は浅くなり、喉の奥が乾いたように感じる。


自分の体が震えているのが分かる。

突然異世界に放り出され、未知の生物と戦わなければならない。


 視界の端で文字が光る。


【解析:スライム、体力低、攻撃力低、弱点:圧力・衝撃】

【戦術提案:近接棒術+周囲の岩・木を活用】

【注意:不用意な接近は避けよ】


 文字を読むだけで、少し安心する。

 魔法もない、特別な力もない――でも、文字の通りにやれば、勝てる可能性はある。

 凡庸な俺でも、AIがいれば戦える。


 地面に視線を落とすと、直径10センチほどの丸い石が転がっていた。

 拾って棒の先に載せれば、ちょっとした「打撃武器」になる。

 森の中を見渡すと、折れた枝、小石、枯れた木の根など、武器や環境として使える素材がたくさんある。


 手が震える。

 棒を握りしめ、丸石を先端にセットする。

 息を整え、心臓の鼓動を落ち着かせる。


「……いくぞ……」


 ゆっくりと足を前に出す。スライムがじわじわと俺に近づいてくる。

 ぷるぷる揺れる体が、光を反射してきらきらと輝く。

 いや、きれいとか言ってる場合じゃない。凡庸な俺の命がかかっている。


 ディスプレイの文字が再び指示を出す。


【距離を取り、棒を振るえ】

【丸石で衝撃を与えろ】


 指示通り、棒を前に構え、丸石を軽く叩きつけるイメージで振り下ろす。


ガツン!


 丸石がスライムに直撃。ぷるぷる揺れながら、少し小さく縮む。

 成功の感触に、思わず息を飲む。


 次の瞬間、AIが文字で補足する。


【追加戦術:木の枝で連続攻撃 → 核を露出させろ】

【HP変化を観察せよ】


 周囲の枝を集め、簡易の「叩き棒」を作る。

 棒と枝を交互に振り下ろすたびに、スライムは揺れ、ぷるぷると体を縮めていく。

 凡庸な俺でも、集中して攻撃すれば確実に効果がある。


 呼吸が荒くなる。手首が疲れ、腕に力が入る。

 でもAIの文字が次の指示をくれる。迷うことはない。


【再評価:スライム残り体力30%】

 

 1回1回の打撃でスライムが小さく縮む様子を確認し、次の行動を考える。

 凡庸な俺には、自分で戦略を生み出す力はない。

 でも、AIの文字通りに動くだけで、戦局を有利に進められる。


 最後に、強く振り下ろす。


ブチッ!


 スライムの核が弾け、青いゼリー状の液体が土に散る。

 呼吸を整えながら、思わず両手を広げる。


「……倒した……」


 胸の奥に小さな誇りが芽生える。

 凡庸な俺でも、AIの助けがあれば、戦える。

 文字だけの指示でも、生き延びることはできる。


 凡庸な俺の、異世界での初めての戦闘が、静かに、しかし確実に終わった。

 そして頭の中には、次の指示が浮かぶ。


【次の行動:周囲のスライムの動向を確認せよ】

【ポイント獲得:3】

【累計ポイント:3/100】


 疲労と興奮で体が重い。

 だが同時に、小さな自信が胸の奥で芽生えている。

こんな何もない俺でもこのスキルがあれば闘えると…


森でスライムを倒してから、しばらく息を整えながら立っていた。

 腕は疲れ、呼吸は荒い。けれど胸の奥に芽生えた小さな自信が、どこか心地いい。


 その時、ディスプレイの文字が再び光った。


【累計ポイント:3/100】

【新機能解放条件:累計ポイント100】

【新機能候補】


 文字が次々と表示される。

 AIはまだ声を出せないが、文字でも十分に存在感を感じる。


【あなたの戦闘経験を利用して、自動で報酬を取得する機能を追加しました】

【名称:報酬自動取得】

【効果:敵を倒すごとに、自動で通貨を入手】

【通貨単位:ルス】


 通貨……ルス。

 何のことか一瞬考える。

 ゲームの通貨みたいだが、現実世界ではない。

 でも、ディスプレイの文字が示す以上、この世界の通貨に違いない。


【報酬例】

 スライム撃破:1~3ルス

 スライム強化種:5~10ルス


 文字を読み進めながら、胸の奥で小さな期待が膨らむ。

 凡庸な俺が戦うだけで、金が手に入る――。


 その次に、新たな文字が現れる。


【追加機能:アイテムボックス】

【説明:物理的な荷物を持つ必要なし。異世界のあらゆるアイテムを収納可能】

【制限:サイズ・重量制限あり。初期容量:小型】


 小型……なるほど、見た目は無いけど、軽くて便利な収納か。

 今後の冒険で拾ったものを入れられるし、持ち物の重さで悩む必要もない。


 俺は深呼吸し、棒を握り直す。

 なるほど、これなら凡庸な俺でも、少しずつ生き延びられそうだ。


 ディスプレイの文字が次の指示を出す。


【次の行動:村へ向かい、初級任務を受注せよ】

【任務報酬:ルス/経験値/アイテム獲得】


 森を振り返ると、倒したスライムの残骸が小さく揺れていた。

 青い粘液が土に染み込み、森の匂いに混ざってほんの少し甘い香りがする。

 この小さな戦いの成果が、文字通り目に見える形で報われたのだ。


 そして頭の中のディスプレイには、次の文字が浮かぶ。


【新規スキル「報酬自動取得」とアイテムボックスを獲得しました】

【戦闘ごとにルスを獲得/アイテムは自動的に収納】


 ――なるほど。

 これなら、凡庸な俺でも生きていけるかもしれない。

 この世界で、少しずつ力をつけていける。


 丘を下り、村の方向に歩きながら、俺は初めて少しだけ笑った。

 凡庸な俺でも、AIの助けがあれば、確実に未来を切り開ける――。


 異世界での、ほんの小さな一歩が、確かに踏み出されたのだった。




森の中で1体目のスライムを倒してから、俺は少し息を整え、棒と丸石を握り直した。

 疲れが腕に残るが、胸には小さな達成感が芽生えている。


 視界の端で文字が光る。


【累計ポイント:3/100】

【新機能解放まで97ポイント】

【次の行動:周囲の敵を観察】


 周囲の茂みで、新たに現れたスライムを発見。

 小さなスライム、少し大きめのスライム、動きの鈍いスライム……

 10体近くが森の奥からこちらに向かってきている。


 AIが文字で指示を出す。


【戦闘順序:弱→中→強】

【攻撃方法:棒+石、枝の活用】

【注意:接近しすぎると連鎖で粘液を被る可能性あり】


 俺は小さく息を吸い込み、棒を握る。

 1体目は、すでに経験済み。

 棒先の丸石を軽く叩きつけ、スライムの体を潰すように攻撃する。


ガツン!


 核は砕け、ぷるぷると揺れ、徐々に縮んで消える。

 頭の中に文字が浮かぶ。


【戦闘成功:1ルス獲得】

【累計ルス:1】


 次のスライムは少し大きい。

 動きも鈍くはないが、環境を利用すれば対応可能だ。

 小枝を拾い、棒の先に巻き付けて「武器」を作る。


 AIが指示を更新する。


【次の攻撃:枝で連続打撃 → 体の弾力を奪え】


 何度か棒を振り、丸石で追撃する。

 2体目も倒れ、ルスが自動的に加算される。


【戦闘成功:2ルス獲得】

【累計ルス:3】


 3体目、4体目、5体目と、少しずつ手慣れてくる。

 凡庸な俺でも、戦闘のパターンが頭に入り、AIの文字指示と五感が自然に連動する。

 疲労はあるが、焦りはなく、むしろ戦うリズムが楽しいとさえ感じられた。


 6体目、7体目は少し大きめで、ぷるぷる揺れる速度も速い。

 丸石だけでは叩き切れず、周囲の枝や落ちた木の根を利用して攻撃範囲を広げる。

 AIの文字が戦術を提案する。


【攻撃の角度を調整:効率よくヒット】

【HP変化を観察せよ】


 8体目、9体目は動きが早く、単純な打撃ではタイミングを外す。

 棒を振る角度や石の置き方を工夫し、斜めから衝撃を与える。

 凡庸な俺でも、文字通り指示を追いながら戦えば十分に対応できた。


 そして最後の10体目。少し大きく、ぷるぷるの体が半透明に輝く。

 これまでの戦闘で得た感覚を総動員し、棒と枝、丸石を使い分けて連続攻撃する。


ブチッ!


 最後のスライムも弾け、青い粘液が土に散る。

 森の中に静寂が戻り、鳥の鳴き声だけが響く。


【戦闘成功:ルス10獲得】

【累計ルス:13】

【アイテムボックス機能確認:使用可能】


 呼吸を整え、棒を握った手を下ろす。

 疲労で腕は重いが、胸の奥には小さな誇りがある。

 そして戦うだけで、自動的に報酬が得られる――生き延びる実感が、じんわりと胸に広がる。


 森の空気は清々しい。

 五感で感じる土と草、風と鳥の声。


 この森を抜ければ、村での新たな人生が待っている――。



森を抜けると、目の前に小さな村が広がった。


 藁葺き屋根の家が数軒、土の道に沿って整然と並ぶ。

 風に揺れる旗、遠くで水を汲む音、子供たちの笑い声が響き渡る。

 五感すべてに、生活の温かさが伝わってくる。

 森で戦った疲労と緊張が、ここに来て少し和らいだ。


 頭の中のディスプレイに文字が浮かぶ。


【累計ルス:13】

【ルス換算:1ルス=約100円】

【所持金:約1,300円相当】


 なるほど……1体のスライムを倒すごとに、100円相当の報酬が入った計算になる。

 10体倒して1,300円か……凡庸な俺にとっては悪くないスタートだ。


 棒と丸石を手に、少し不安げに村へ近づく。

 村人たちは俺に気づかず、日常を過ごしている。

 だが、その光景を見て、安心と少しの羨望を感じる自分もいた。

 平凡な日常。凡庸な生活。

 かつての自分がここにいたら、こんな自然と触れ合う時間も、五感で生活を感じることもなかっただろう。


 ディスプレイが次の文字を表示する。


【アイテムボックス確認】

【収納済み:丸石×10、枝×15、ルス×13】

【空き容量:小型残り50%】


 戦闘で拾った丸石や枝は、すでにボックスに収納されている。

 重量を気にせず移動できるのはありがたい。凡庸な俺でも、生き延びる戦略を少しずつ構築できる。


 村の入り口に近づくと、簡単な商店と井戸、噴水のある広場が見える。

 小さな鍛冶屋の前では、男性が鉄の棒を叩きながら、火花を散らしていた。

 子供たちは楽しそうに走り回り、犬がそれを追いかけている。


 ふとディスプレイに、文字が浮かぶ。


【村の商店でルスを使って物品購入可能】

【1ルス=100円相当】

【初期所持金:13ルス】


 13ルス……100円換算で1,300円。

 現実世界で言えば、ランチ1回分くらいだが、この異世界では何か小さな道具くらいは買えそうだ。

 凡庸な俺にとっては、これだけでも十分ありがたい。


 商店の棚には、木製の水筒、革の袋、簡単な鎧や棒、食料などが並んでいる。

 AIが文字で助言する。


【初期推奨購入品:水筒、革袋、簡易鎧】

【価格目安:水筒2ルス、革袋3ルス、簡易鎧5ルス】


 簡単に計算すると……水筒2ルス+革袋3ルス+簡易鎧5ルス=10ルス。

 13ルス持っているから、残り3ルス。


「……なるほど、これで少し安心できるな」


 凡庸な俺でも、戦闘で得たルスを使って最低限の装備を整えられる。

 アイテムボックスと組み合わせれば、荷物の重さも気にせず、次の戦闘や探索に備えられる。


 村の中を歩きながら、俺は周囲の風景に目を向ける。

 子供たちの笑い声、鍛冶屋の火花、水車の音、井戸の水音。

 この世界には危険もあるが、同時に生活の温かさもある――そう実感できる場所だった。


 そして頭の中の文字が告げる。


【次の目標:初級任務受注/報酬取得】

【村人との交流が次の成長につながります】


 凡庸な俺でも、AIの文字表示を頼りに、少しずつ生き延び、力をつけることができる。

 森で戦った戦闘経験と得たルスが、これからの冒険の基礎になる――そう感じながら、俺は村の中央広場へと歩を進めた。





 村の中央広場に着くと、年配の男性がこちらに近づいてきた。

 鍛冶屋ではなく、農作業着の老人だ。手には収穫したばかりの野菜を持っている。


「おや、旅人さんかね? ちょうどよかった、頼みたいことがあるんじゃが」


 凡庸な俺は少し戸惑いながらも、棒を握った手を少し下ろす。

 AIのディスプレイが文字で指示を出す。


【初級任務:村人依頼受注可能】

【依頼内容:森で野生のスライムを10体討伐し、収穫用水車周辺の安全を確保】

【報酬:5ルス+ポイント5】

【注意:接近注意、環境利用推奨】


「……森のスライム退治?」

 思わず声に出すと、老人は笑った。


「そうじゃ。最近、森の奥にスライムが増えてな。村の作物を荒らすほどじゃないが、子供たちや通行人が怖がっとる。頼めれば助かるんじゃ」


 凡庸な俺でも、先ほど森で10体スライムを倒した経験がある。

 AIの文字指示があれば、再び戦うことも可能だ。


 ディスプレイに文字が浮かぶ。


【戦略提案:前回と同様の方法で戦闘可】

【棒+石+枝を活用】

【注意:森の起伏を活用してスライムを誘導】


 なるほど。前回の経験を活かせば、凡庸な俺でも十分に対応できそうだ。


「わかった、やってみるよ」

 俺がそう答えると、老人はにっこりと笑い、手に持った野菜の一部を差し出した。


「まずはこれで腹ごしらえをしてくれ。森は少し歩く距離があるからな」


 手渡された野菜を受け取りながら、AIディスプレイを見る。


【村人との依頼受注成功】

【報酬:5ルス+累計ポイント5】


 凡庸な俺でも、少しずつだがこの世界で役立てる。

 森での戦闘経験が、また役に立つ日が来たのだ。


 老人は軽く頭を下げる。


「頼んだぞ。気をつけて行ってくれ」


 棒を握りしめ、俺は再び森へ向かう一歩を踏み出した。



森の奥で村人の依頼通りにスライムを討伐し、作物や水車周辺の安全を確保した俺は村人から貰った野菜を食べながら一息ついていた。

 棒や石、枝を駆使した戦いは、前回よりスムーズに進んだ。

 倒したスライムから得た報酬は自動でルスとして反映される。


 森を抜け、村の広場に戻ると、頭の中のディスプレイに文字が浮かぶ。


【依頼達成:村人の安全確保依頼完了】

【報酬:ナイフ獲得+スキルポイント30】

【累計スキルポイント:98】


 98ポイント――凡庸な俺でも、少しずつ成長している実感が胸に広がる。

 累計ポイントが大幅に増えたことで、AIは新たなスキルを提示してきた。


 ディスプレイに文字が表示される。


【新規スキル解放条件達成】

【習得スキル1:ナイフ近接術】

【効果:近接戦闘能力強化、敵へのダメージ増加】

【習得スキル2:現代再現】

【効果:必要素材さえあれば現代の道具や装備を再現可能】

【制限:素材が必要、消耗品や小型物品のみ使用可】


 ナイフ近接術……戦闘効率が上がり、森での戦いも楽になる。

 現代再現スキル……素材が揃えば、凡庸な俺でも現代の道具を作れる可能性がある。


 ディスプレイは具体例を示す。


【現代再現スキル使用例】


木材+鋼材で簡易ナイフ生成


木材+金属で簡易工具生成


食材+水で簡単調理品生成


 頭の中で少し考える。俺にできることは限られるが、AIの文字通りに作業を進めれば、生活も戦闘も便利になる。


 森で拾った枝や丸石をアイテムボックスから取り出せば、ナイフで加工したり、簡単な道具に変えることも可能だ。


 ディスプレイが告げる。


【スキルポイント98により、ナイフ近接術と現代再現スキルを習得】

【次の行動:村で素材を調達、アイテム生成の練習可能】


 凡庸な俺でも、AIの文字指示と少しの工夫で現代の道具を作れる――

 その可能性を目の前にして、胸が少し弾んだ。


 棒を握り直し、村の商店や鍛冶屋に目を向ける。

 これからの戦闘も、生活も、少しずつ便利にしていける――

 累計98ポイントの目に見えた成長が、俺に確かな自信を与えていた。


森での初めての戦闘、村人からの依頼、そして新たなスキルの習得――凡庸な主人公の冒険は、まだ始まったばかりです。


ポイントやルス、アイテムボックス、現代再現スキル……小さな成長の一つひとつが、異世界での生存に直結する。

凡庸な者でも、知恵と工夫、そして少しの勇気さえあれば、世界は広がり、可能性は無限に増えるのだと、主人公は感じている。


この物語は、まだ序章に過ぎません。

だが、この小さな一歩の積み重ねが、後に大きな冒険と出会いへとつながる――そんな希望を込めて、ここに記します。

毎週金曜日17時に投稿予定です。次回もよろしくお願いします。

作者:暁の裏

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