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クーカイ×クーカイ  作者: 青山 高峰
第十一章(第四部)

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35 クーカイ×クーカイ

 まばゆい光が止んだ。


黒羽(くろは)も黒い曼荼羅(まんだら)跡形(あとかた)もなく消え去っていた。松明(たいまつ)(ほのお)()ぜる音だけが(ひび)いている。


「やった! ようやく、ようやく……」

 クリスが天を(あお)いだ。


 その時、(りん)ちゃんを(しば)っていた目に見えない束縛(そくばく)が取れ、(りん)ちゃんが()()がった。


(りん)ちゃん」

 ()きながら()()ると、(りん)ちゃんがびっくりしてぼくを見た。


海人(かいと)くん! ひどい怪我(けが)。どうしてこんな……」


「ぼくのことはいいんだ。それより(りん)ちゃん、怪我(けが)は?」 


 (りん)ちゃんの左手(ひだりて)(こう)から()(したた)り、左の足先(あしさき)まで赤く()めている。法衣(ほうい)(はし)を切って、(りん)ちゃんの手に(まき)つける。そしてその手を強引(ごういん)(むね)位置(いち)より高く持ち上げた。


心臓(しんぞう)より高い位置(いち)にあげてた方が血が止まりやすいから」


「うっ、うん」

 (りん)ちゃんの顔が、火がついたように赤くなった。


「顔が赤いけど、大丈夫(だいじょうぶ)? まさか他にどこか(きず)つけられた?」


 とっさに(りん)ちゃんの身体を見た。そしてそのまま美しい身体にくぎ付けになった。(やわ)らかな(むね)曲線(きょくせん)も、細い(こし)も、そこから()びるまっすぐな長い足も、(やわ)らかそうな白い(はだ)には(きず)一つない。(りん)ちゃんが()ずかしそうにうつむいた。


(きず)はないわ。だから……あんまり見つめないで。()ずかしいから」


 (あわ)てて(りん)ちゃんの手を(はな)し、()を向けた。見つめてたわけじゃない。ただ怪我(けが)がないか心配(しんぱい)してただけ。心配(しんぱい)してただけ。やましいことは一切(いっさい)ない。なのに目に入った(りん)ちゃんの全てが頭と心に()()いて(はな)れない。(かお)(あつ)くなる。


「マドモアゼル、()ずかしがることはない。その恰好(かっこう)はとんでもなく魅力的(みりょくてき)だよ。ただ海人(かいと)のガキには刺激(しげき)(つよ)すぎるようだけど」

 クリスの気障っぽい声に振り返ると、(りん)ちゃんの(かた)に自分のシャツを()せかけてやっているところだった。


 クリスの筋肉質(きんにくしつ)の体がむき出しになり、(りん)ちゃんが小さくなってうつむいている。


「クリス! (りん)ちゃんから(はな)れろ!」


 その時だった。(みずうみ)(そこ)から声が(ひび)いた。


「これで()わりだと思うなよ」

 しぶきを上げながら、(みずうみ)から髑髏(どくろ)が飛び出した。


 途端(とたん)に、また地面(じめん)(ふたた)び大きく()れた。咄嗟(とっさ)(りん)ちゃんを背中(せなか)(かば)い、素早(すばや)金剛杵(こんごうしょう)から光の(たま)()り出す。(となり)ではクリスが指揮棒(しきぼう)素早(すばや)く動かし銀色(ぎんいろ)魔法陣(まほうじん)()り出している。


破壊(はかい)(はじ)まりにすぎない」


 金剛杵(こんごうしょう)の光と魔法陣(まほうじん)が当たる直前(ちょくぜん)髑髏(どくろ)(ふたた)(みずうみ)(そこ)(しず)んだ。


「zut!(※ズュット くそっ)」

 クリスが()()てるように言った。

「この国を(まも)結界(けっかい)(まも)ったってのに。今度(こんど)髑髏(どくろ)か」


「一体何が、どうなっているの? なんで髑髏(どくろ)がしゃべれるの?」

 (りん)ちゃんの声が(ふる)えている。


悪霊(あくりょう)(かたまり)だから。でも、まあ問題ないよ、マドモアゼル。この(みずうみ)をさらえば出てくる。あの髑髏(どくろ)(わる)さしないよう、破壊(はかい)し、魔法陣(まほうじん)の中に(ふう)()めばいいだけのことだから」

 クリスが自分に言い聞かせるように言った。



 ところが、その()リー財団(ざいだん)による清掃(せいそう)懸命(けんめい)捜査(そうさ)が行われたにもかかわらず、髑髏(どくろ)(みずうみ)から発見(はっけん)されることはなかった。


☆☆☆☆☆


 九死(きゅうし)一生(いっしょう)()たイズルはエドモンド神父(しんぷ)(ひき)いるエクソシストによる悪魔祓(あくまばら)いで完全(かんぜん)正気(しょうき)()(もど)し、若菜(わかな)ちゃんはメンタルケアを()けることで徐々(じょじょ)回復(かいふく)してきているらしい。


そして6年ぶりに会ったお義母(かあ)さんとお義父(とう)さんは「立派(りっぱ)になったね」と()いて()きしめてくれた。「(もど)ってきていいんだからね」その言葉に(なみだ)が出た。でも天徳院(てんとくいん)のことを考えると、ここに(もど)るわけにはいかない。


義妹(いもうと)詩織(しおり)何故(なぜ)かぼくよりクリスになつき、「クリスと結婚(けっこん)する」と(さわ)()したのには(おどろ)いた。義妹(いもうと)に変な魔法(まほう)魔術(まじゅつ)を使うなと抗議(こうぎ)すると、(あい)には魔法(まほう)なんて必要(ひつよう)ないだろ、と(ひとみ)(かがや)かせていた。それより(なや)ましかったのは、「海人(かいと)より俺の方がいい男だ」と(りん)ちゃんを口説(くど)きにかかり、引き(はな)すのが大変(たいへん)だったことだ。まったく、油断(ゆだん)ならない。


3か月後、美しく整備(せいび)(なお)された地下神殿(ちかしんでん)がこの国と世界(せかい)(まも)結界(けっかい)として(ふたた)機能(きのう)するように、宮内庁(くないちょう)(ゆる)しを()て、クリスと(とも)結界(けっかい)をはりなおした。クリスが作る魔法陣(まほうじん)の中、金剛杵(こんごうしょう)を手に再生(さいせい)秘術(ひじゅつ)を使う。瞬間(しゅんかん)、光が地下神殿(ちかしんでん)から地脈(ちみゃく)(つう)じ日本と世界(せかい)(ひろ)がるのを(かん)じた。


地下神殿(ちかしんでん)結界(けっかい)完全(かんぜん)機能(きのう)(はじ)めると、日本国内(こくない)地表(ちひょう)から出る気がぐっと(ととの)ったのを(かん)じる。これはぼくが()まれて16年、(はじ)めて()けた感覚(かんかく)だ。この国を(まも)結界(けっかい)から、世界(せかい)均衡(きんこう)(たも)結界(けっかい)へパワーが(なが)れていくのも(かん)じる。しかしながら通常(つうじょう)(かん)じられないものらしく、みんな何の変化(へんか)もないし、世間(せけん)一気(いっき)()わった様子(ようす)もない。でも何もかもが()()いた()の中にあり、平和(へいわ)という均衡(きんこう)(たも)っているのを(かん)じる。


結界(けっかい)をはり終えた翌日(よくじつ)()れた日曜日、ぼくと(りん)ちゃんはクリスを見送(みおく)るため、成田空港(なりたくうこう)へと()かった。()()わせ場所(ばしょ)に、なんとクリスが()ぶらで(あらわ)れた。


海人(かいと)(りん)

 (うし)ろで(むす)んだ金髪(きんぱつ)()(とお)るように(かがや)き、()んだ青い(ひとみ)はきらめいている。そのせいか、長身(ちょうしん)をジーンズとTシャツにすっきりと(おさ)めただけの、なんてことない恰好(かっこう)のくせに、明るい空港(くうこう)で見るクリスは(かがや)くばかりだ。有名人(ゆうめいじん)ばりのオーラを(はな)ち、行きかう人々の視線(しせん)(あつ)めながら、悠然(ゆうぜん)(ある)いてくる。


「もう荷物(にもつ)(あず)けたのか? パリ(いき)何時(なんじ)便(びん)だっけ」


荷物(にもつ)のことなんて()にしたことなかったな」


 え? 


(おそ)らく(いえ)の者たちが(はこ)んでいるはずだ。離陸(りりく)は11時に申請済(しんせいず)みのはずだけど」


申請済(しんせいず)みって?」

 (りん)ちゃんにクリスがはにかむように(わら)った。


自家用機(ぷらいべーとじぇっと)だから」


 大統領(だいとうりょう)か!


「俺は残念(ざんねん)ながら大統領(だいとうりょう)ではないけど、リー一族(いちぞく)当主(とうしゅ)ではある」

 クリスが俺には見向(みむ)きもせずに、(りん)ちゃんの手を(にぎ)った。


(りん)、本当は(きみ)をこのまま()()ってしまいたいけど」

 クリスの手を(つか)み上げようとした途端(とたん)、クリスが(りん)ちゃんを(にぎ)る手を(はな)した。

「いずれ俺の(よめ)さんになってくれmon amour(※モナムール 愛しい人)」

 と、ウインクする。(りん)ちゃんが(たす)けを(もと)めるようにぼくを見つめた。


「クリス、(りん)ちゃんに(へん)(こと)を言うな」


(へん)(こと)なんて言ってないさ。俺は何時(いつ)だって自分の(こころ)正直(しょうじき)なんだ。海人(かいと)、お前と(ちが)って、()めたりとか、(しの)んだりとかいう(こい)はしないんだ」


 (りん)ちゃんが(かな)しそうにうつむいた。(なみだ)ぐむ(りん)ちゃんの(かた)をクリスがさっと()()せ、両頬(りょうほほ)にキスをした。


「なっ、何してんだ、離れろ」

 真っ赤になって両手で口を押さえる(りん)ちゃんからクリスを引き離す。


biseビズだ。フランス式挨拶(しきあいさつ)海人(かいと)、お前にもするか」


()せ」

 言うのも聞かず、クリスの端正(たんせい)(くちびる)(ほほ)をかすめた。


 (はな)れようとした瞬間(しゅんかん)耳元(みみもと)で、

(りん)小学校(しょうがっこう)同級生(どうきゅうせい)で今は(ぼう)さんになっている(やつ)()きみたいだけど。そいつが(だれ)()ってるか?」


「えっ!?」


 クリスがにやりと(わら)った。


「また()おう、もう一人のクーカイ」

 そう言って(こぶし)()()してきた。ぼくも(だま)って(こぶし)()わせた。


「クリス、元気(げんき)で」

 ゲートを通るクリスに(さけ)ぶと、クリスは()()かず片手(かたて)()げた。


「クリスさん、()っちゃったね」

 (りん)ちゃんがつぶやくように言った。


春風(はるかぜ)みたいに、あっという()に」


 (たし)かに、(りん)ちゃんの言う(とお)りだ。クリスが(あらわ)れたのも突然(とつぜん)だったけど、いなくなるのもあっという()だった。そのせいか不思議(ふしぎ)と心にぽっかり(あな)が開いたようだ。短い時間の(かか)わりだったにもかかわらず、クリスとは強いつながりがあったことを(あらた)めて(かん)じる。


(さび)しくなるな」

 自分の(こえ)(むな)しく(ひび)いた。


クリスだけじゃない、連城(れんじょう)先生にいたっては二度と会えないと思うと(さび)しさが()()せる。(りん)ちゃんがぼくの目の(まえ)(まわ)()んできた。


()わりにはなれないかもしれないけど……」

 (りん)ちゃんがはにかむようにうつむいた。

「でも、わたしが……いるから……」


 (こころ)奥底(おくそこ)が音を立ててなった。(こころ)が今までになく(ふる)えている。


(りん)ちゃん、()わりになんてならなくていい。(りん)ちゃんは(りん)ちゃんのままがいい」

 

成田空港(なりたくうこう)より6キロ(はな)れた場所(ばしょ)漆黒(しっこく)よりも(くら)(かげ)のような物体(ぶったい)はじっと動かない。ただ()(めぐ)らされた結界(けっかい)隙間(すきま)からニヤリと(わら)うと「破壊(はかい)(はじ)まりにすぎない」とつぶやいた。(了)

今まで読んでいただき、ありがとうございました。


もう一人のクーカイであるクリストファー・リー・カイゼルベルグ編も

公開予定です。

どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

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