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クーカイ×クーカイ  作者: 青山 高峰
第十一章(第四部)

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34 黒いマンダラ

 黒羽(くろは)(りん)ちゃんの眠るベッドの(かたわ)らに立つと、まるで生贄(いけにえ)(ささ)げる邪神教(じゃしんきょう)神官(しんかん)のように、両手(りょうて)を天に高くつき上げた。


すると何もなかった空間(くうかん)に黒い大きな(えん)、その中に楕円(だえん)奇妙(きみょう)な文字がいくつも浮かび上がった。まるで黒雲(こくうん)のような漆黒(しっこく)魔法陣(まほうじん)


いや曼荼羅(まんだら)だ。


その曼荼羅(まんだら)()れていた黒羽(くろは)指先(ゆびさき)一瞬(いっしゅん)漆黒(しっこく)になった。黒羽(くろは)(くちびる)満足(まんぞく)げな()みがこぼれた。そのピアニストのようなに繊細(せんさい)(ほそ)(ゆび)で、黒羽(くろは)(りん)ちゃんの(くちびる)をなでる。


すると(りん)ちゃんの眉間(みけん)にしわが()り、苦し気に(うめ)いた。黒羽(くろは)指先(ゆびさき)(りん)ちゃんの(くちびる)輪郭(りんかく)をなぞると、そこからゆっくりと(あご)(のど)(つた)っていく。また(りん)ちゃんの口が(ひら)き、(くる)()(いき)がもれた。(ゆび)はそのまま緩慢(かんまん)動作(どうさ)鎖骨(さっこつ)の間を()めるように(すべ)る。(りん)ちゃんの(いき)(あら)くなってきた。黒羽(くろは)(ゆび)がゆっくりゆっくりと下っていく。(りん)ちゃんの()んだ手がほどかれ、ふくらみとふくらみの間、心臓(しんぞう)真上(まうえ)(すべ)()ちた瞬間(しゅんかん)(りん)ちゃんがびくんと身体(からだ)(ふる)わせた。黒羽(くろは)(ゆび)(りん)ちゃんの心臓(しんぞう)の上で()まった。黒羽(くろは)が虫の羽音(はおと)のような不快(ふかい)呪文(じゅもん)(とな)(はじ)める。すると(りん)ちゃんの身体(からだ)が、大きくびくんびくんと、まるで熱病(ねつびょう)にでもかかったかのように(ふる)えだした。


その時だった。(りん)ちゃんの身体(からだ)(つつ)()む白い光がまばゆく(かがや)きだした。黒羽(くろは)(りん)ちゃんから(いそ)いで(はな)れ、()(おお)う。


目を開けていられないほどのまぶしい光が()むと、光の中から白龍(はくりゅう)(りん)ちゃんを(まも)るように黒羽(くろは)の前にぬうっと(あらわ)れた。


「ようやく(あらわ)れたな。恵果阿闍梨(けいかあじゃり)(たましい)。一部だけとはいえ(すさ)まじい力だ。おい、俺にお前の力を(わた)せ、全部(ぜんぶ)

 黒羽(くろは)尊大(そんだい)に言った。


「もしも(こば)めば、(りん)惨殺(ざんさつ)する。(りん)が死ねばお前とて無事(ぶじ)ではないだろ。さあ、その(むかし)長安(ちょうあん)空海(くうかい)(わた)した秘儀(ひぎ)を俺によこせ。それさえあれば、俺は完璧(かんぺき)になる。完全無欠(かんぜんむけつ)になるんだ」


 白龍(はくりゅう)金色(こんじき)に光る()黒羽(くろは)をじっと見つめたまま動かない。まばたきもせず、微動(びどう)だにせず、ただ見つめたままだ。しびれを切らした黒羽(くろは)が、(りん)ちゃんの左手(ひだりて)を持ち上げると、その(こう)(するど)()びた(つめ)()()した。鮮血(せんけつ)がほとばしり、(りん)ちゃんが悲鳴(ひめい)とともに目覚(めざ)めた。


「な、なに、これは一体」

 (りん)ちゃんは混乱(こんらん)恐怖(きょうふ)からパニック状態(じょうたい)(さけ)んだ。


 黒羽(くろは)(りん)ちゃんの(きず)ついた左手(ひだりて)(かお)()せ、

「お目覚(めざ)めかな」

 赤い(した)でチロリと血を()めた。


 とっさに(りん)ちゃんが手を引っこめようとしたが、体が動かないらしく、表情(ひょうじょう)だけが引いている。黒羽(くろは)は、まるでソムリエがワインを味わうように、舌先(したさき)(りん)ちゃんの血を(ころ)がし、ほほ()んだ。

素晴(すば)らしい。やはり一級品(いっきゅうひん)(あじ)がする。ようやく見つけた。お前をやっと見つけたんだ」


「あなた、あの(ゆめ)の中の黒い(おに)……」

 (りん)ちゃんが恐怖(きょうふ)のあまり(かた)まった。その青ざめ、ひきつった(りん)ちゃんの(ほほ)黒羽(くろは)()であげる。


「さあ、どちらを(えら)ぶ? 俺に秘儀(ひぎ)(わた)し、(とも)に生きるか。(みずか)らの死をもって()本尊(ほんぞん)(よみがえ)らせるか」

 黒羽(くろは)白龍(はくりゅう)()かって言った。しかし(りん)ちゃんに、それはわからない。


秘儀(ひぎ)ってなんのことですか」

 (りん)ちゃんが()きながら(ふる)える声で言った。

「お家に、お家に帰してください」


 その声に呼応(こおう)するように、白龍(はくりゅう)がまばゆい光を(はな)って消えた。


 その光の(つぶ)空間(くうかん)()えゆく寸前(すんぜん)、ぼくの体に()()んできた。(あたた)かい光が体中(からだじゅう)()(めぐ)る。切れた血管(けっかん)修復(しゅうふく)し、(ほね)(なお)し、(にく)再生(さいせい)されていく。光はクリスの体にも入ったらしく、クリスが今、(いき)()(かえ)したのを(かん)じる。(ゆび)(うご)かした。力が入る。同時(どうじ)強烈(きょうれつ)(いた)みにうめきそうになるのを(かろ)うじてこらえた。黒羽(くろは)に気づかれないよう、黒い(やり)をそっとひっこ()く。黒羽(くろは)視線(しせん)(りん)ちゃんに(そそ)がれたまま(うご)かない。(ふたた)(りん)ちゃんの心臓(しんぞう)真上(まうえ)(ゆび)()き、(さけ)んだ。


「もう一度だけ言う。()()て! 秘儀(ひぎ)をよこせ」


「なんのことだかわかりません。お願いです、お家に帰して、帰してください」


「なるほど。それが答えか。秘儀(ひぎ)(わた)さないのであれば()本尊(ほんぞん)完成(かんせい)させ、この国の結界(けっかい)(やぶ)るまでだ」

 黒羽(くろは)頭上(ずじょう)()かぶ黒い曼荼羅(まんだら)に手を()()んだ。


 一瞬(いっしゅん)蜃気楼(しんきろう)のように空間(くうかん)が黒くゆがんだ。黒羽(くろは)が手を引くと、そこには黒光(くろびか)りした髑髏(どくろ)(にぎ)られている。


「この髑髏(どくろ)にお前の全身の血を注ぐ。実に1000年以上の時をかけ、あらゆる人間の血を吸ってきた髑髏(どくろ)だ。666万人目のお前の血によって本尊として完成するのだ」

 黒羽(くろは)が凜ちゃんの目の前に髑髏(どくろ)をぬっと()()した。


悲鳴(ひめい)を上げようと大きく(ひら)いた(りん)ちゃんの(くちびる)に、髑髏(どくろ)の口が()れそうになった瞬間(しゅんかん)金剛杵(こんごうしょう)(つか)む手に(ちから)をこめた。閃光(せんこう)が走った。金剛杵(こんごうしょう)魔法陣(まほうじん)から出た光が黒羽(くろは)の手から髑髏(どくろ)()()ばす。


「おい、その子の相手が髑髏(どくろ)じゃ、あまりにも可哀(かわい)そうだろ」

 ぼくの(となり)にクリスが立っている。


 指揮棒(しきぼう)片手(かたて)に、(あたま)から血を流しながらも不敵(ふてき)()みを()かべている。(あわ)てて黒羽(くろは)祭壇(さいだん)(ころ)がる髑髏(どくろ)(ひろ)おうと手を()ばした。しかし髑髏(どくろ)はものすごい(いきお)いで(みずうみ)の中に()ち、水しぶきを上げた。


「おのれクーカイ! よくもまた俺の邪魔(じゃま)を!」

 黒羽(くろは)(おに)のような形相(ぎょうそう)()(かえ)った。もはや端正(たんせい)な顔の面影(おもかげ)はない。(にく)しみと(うら)みのため元々(もともと)(かお)を変えてしまっている。


(ゆる)さんぞ、絶対(ぜったい)に」


 するとクリスがほほ()んだ。

黒羽(くろは)、お前とはじめて意見(いけん)一致(いっち)したな。俺もお前を(ゆる)さない」


「クリス! ぼくたちも! だろ」

 ぼくをちらりと見やり、クリスが豪快(ごうかい)(わら)った。


「そうだな、海人(かいと)。いくぞ」


「ああ」

 (うなず)くより早く、黒羽(くろは)両手(りょうて)頭上(ずじょう)(たか)()げ、空気(くうき)をかき()ぜるようにして素早(すばや)く動かした。


黒い曼荼羅(まんだあら)が大きく回転(かいてん)し、火花(ひばな)()らし(はじ)めた。(いきお)いよくこちらに向かってくる。目の前に金剛杵(こんごうしょう)真一文字(まいちもんじ)(かま)える。「オンアボキャベイロシャノウマカボダラマニハンドラジンバラハラハリタヤウン」と(とな)えようとした瞬間(しゅんかん)、頭の中に連城(れんじょう)先生の(こえ)(ひび)いた。


魔界(まかい)の門へとつながる曼荼羅(まんだら)は必ず(こわ)さなくてはいけない。チャンスは一度。秘術(ひじゅつ)を使え」


 気づくとあの破壊(はかい)旋律(せんりつ)(とな)えていた。金剛杵(こんごうしょう)両端(りょうたん)から黄金(おうごん)(かがや)く二体の(りゅう)(おど)り上がるようにして(あらわ)れた。


 クリスが指揮棒(しきぼう)で作り出した銀色(ぎんいろ)魔法陣(まほうじん)に乗り、二体の(りゅう)が黒い曼荼羅(まんだら)(いきお)いよくぶつかっていった。瞬間(しゅんかん)(はげ)しい光がほとばしる。(つよ)い光の中、黒い曼荼羅(まんだら)はまるで消しゴムのカスのように小さくなっていく。


 同時に黒い曼荼羅(まんだら)から奇妙(きみょう)(さけ)(ごえ)が上がった。それは老若男女(ろうにゃくなんにょ)何千何万(なんぜんなんまん)もの人の苦痛(くつう)(さけ)(ごえ)だ。もし地獄(じごく)から聞こえる(おと)があれば、こういう音なのではないかと思える(すさ)まじい(さけ)(ごえ)だった。


まばゆい光は、黒羽(くろは)をも(つつ)()んだ。()えるような赤い(ひとみ)(しん)じられないものを見るように(ひかり)を見つめている。

連城(れんじょう)和尚、()めろ。()めてくれ……」

 光の中を、もがくように手をバタつかせていたが、その身体(からだ)を光の()(いまし)めのように()()き、ぐいぐい()め上げた。黒羽(くろは)絶叫(ぜっきょう)(ひび)いた。


まるで(けむり)が上へ上へと()がっていくように、まばゆい光が、黒羽(くろは)ごと(そら)へと(のぼ)っていく。その光の粒子(りゅうし)の中、黒羽(くろは)(かた)をがっちりと(つか)連城(れんじょう)先生を見た気がした。

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