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クーカイ×クーカイ  作者: 青山 高峰
第十章(第四部)

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30 地下水殿

 ぼく達、三人は公園(こうえん)の外に出た。


すっかり()()れてしまっている。救急車(きゅうきゅうしゃ)()まっているのが目に入った。エドモンド神父(しんぷ)()んだ救急車(きゅうきゅうしゃ)(ちが)いない。


それにしても“地下水殿(ちかすいでん)”というのが一体何を意味(いみ)しているのか、分からない。地下施設(ちかしせつ)はこの付近(ふきん)だってたくさんある。(えき)ビルにも地下(ちか)はあるし、学校(がっこう)にも地下(ちか)はある。日本中(にほんじゅう)を考えれば、それこそ無数(むすう)にある。しかし水殿(すいでん)というのは何だろう。連城(れんじょう)先生は「ついてきなさい」と言ったっきり、物凄(ものすご)いスピードで歩いている。先生は”地下水殿(ちかすいでん)“がどこかご存知(ぞんじ)なんだろうか。


水殿(すいでん)とは、水田(すいでん)のことかもしれないな」

 クリスが口を開いた。また(かんが)えていることを()まれてしまった。連城(れんじょう)先生が(くび)(よこ)()る。


水田(すいでん)のことではない。あの子は神殿(しんでん)水殿(すいでん)とを聞き間違(まちが)えたんだろう」


「一体それって……あっ、えっ? でもそんなはず……」

 クリスは(あき)らかに狼狽(ろうばい)している。


「ムッシュ、その場所(ばしょ)にあるのって」


「そうだ」


「しかし、あの場所(ばしょ)地下(ちか)なんて存在(そんざい)するんですか」

 2人の会話(かいわ)についていけず、思わず口をはさんだ。


「それって一体どこなんですか?」


「パラスインペリアル」

 クリスが連城(れんじょう)先生を見つめながら、ぼそりと答えた。

「つまり皇居(こうきょ)のこと、で、あっていますよね? ムッシュ」


「こっ、皇居(こうきょ)?」


 連城(れんじょう)先生が苦虫(にがむし)()(つぶ)したような顔で(うなず)いている。衝撃的(しょうげきてき)だった。黒羽(くろは)居所(いどころ)皇居(こうきょ)、しかも皇居(こうきょ)地下(ちか)だなんて、とても(しん)じられない。


その時、(にぎ)やかな(とお)りに出た。夜の(とばり)()りた(まち)には多くの人が行きかっている。連城(れんじょう)先生の歩くスピードが(きゅう)に上がった。足腰(あしこし)(わる)いとは信じられないくらいの尋常(じんじょう)じゃないスピードだ。そしてその(はや)さにも余裕(よゆう)でついていける。毎日の山歩(やまある)きがこんなところで役立(やくだ)つなんて! しかも(おどろ)いたことに、クリスも一切(いっさい)呼吸(こきゅう)(みだ)さずについてきいている。


クリスは連城(れんじょう)先生に(なら)ぶと、ささやいた。

「でも神殿(しんでん)なんてあるんですか? しかも皇居(こうきょ)地下(ちか)なんて存在(そんざい)するんですか」


「ある」


「ムッシュ、どうしてそんな風に言い切れるんです?……ああ、そうか、地下神殿(ちかしんでん)を作ったのがムッシュの祖先(そせん)だから」

 連城(れんじょう)先生が(うなず)いた。クリスが忌々(いまいま)しそうに、

「なるほど、だからその場所を利用(りよう)しているんだ。黒羽(くろは)守敏僧都(しゅびんそうず)の生まれ変わりだからか」


 守敏僧都(しゅびんそうず)って一体誰? そう思った瞬間(しゅんかん)、クリスが()(かえ)った。その(つや)やかな目に(くら)(かげ)がさしている。


空海(くうかい)敵対視(てきたいし)していた僧侶(そうりょ)だ。空海(くうかい)の生まれ変わりであるお前や、末裔(まつえい)である俺を邪魔(じゃま)するために転生(てんせい)したんだ。黒羽(くろは)伊吹(いぶき)として」


「どっ、どうして、そんなことが分かるんだ」


「リー一族(いちぞく)の力だと言ったろ。俺達(おれたち)一族(いちぞく)(だれ)がどこの(だれ)に生まれ変わるかを把握(はあく)しているんだ」


 あまりの話に(あたま)混乱(こんらん)する。


「特に、世界に影響(えいきょう)(およ)ぼしかねない存在(そんざい)の生まれ変わりは注視(ちゅうし)している。場合によっては、運命(うんめい)介入(かいにゅう)することもある」


運命(うんめい)など……」

 それまで(だま)って聞いていた連城(れんじょう)先生が口を開いた。


気持(きも)ちや(おも)いで(あらが)えるものだと思っていた。伊吹(いぶき)(そだ)て方さえ間違(まちが)わなければ大丈夫(だいじょうぶ)だと……」

 連城(れんじょう)先生の(こえ)(かな)しみにくぐもった。


皇居(こうきょ)の地下の神殿(しんでん)にいるとあらば、あの黒羽(くろは)伊吹(いぶき)は、とんでもないことをしでかすつもりだろう。とにかく、今はあやつを止めなくては」

 連城(れんじょう)先生の歩くスピードがまた速くなった。


☆☆☆☆☆


 都内有数(とないゆうすう)神社(じんじゃ)(ふか)(もり)の中に、それはあった。


草花(くさばな)()(しげ)る中、その中央(ちゅうおう)にピラミッドのような白い()(つち)、その()(つち)(せっ)するように巨石(きょせき)()かれている。そしてその全体が(なわ)紙垂(しで)(かこ)まれ、結界(けっかい)()られている。連城(れんじょう)先生は巨石(きょせき)の前に歩み()ると、

「ここへ来るのは実に60年ぶりだが。ここの(とびら)、動かされた(あと)があるな」


 (とびら)? (とびら)なんて一体どこに? と思ったのも(つか)()連城(れんじょう)先生は素早(すばや)(いん)(むす)ぶと、石に手をかざす。すると石の中央(ちゅうおう)四角(しかく)(とびら)(がた)の入り口が(ひら)いた。


「この下に階段(かいだん)が108(だん)(つづ)いている。一番下(いちばんした)まで()りたらひたすら北北西(ほくほくせい)()かって歩き続ける。さすれば地下神殿(ちかしんでん)()く」


 地下神殿(ちかしんでん)。つまり黒羽(くろは)伊吹(いぶき)のいるところ。(きゅう)()()()けられ、(ひざ)(ふる)()した。(むかし)黒狐(くろぎつね)()まれた(あと)までが(きゅう)にしくしくと(いた)みだした。


「私が(さき)に行く」

 連城(れんじょう)先生の顔色(かおいろ)()(さお)だ。足腰(あしこし)(いた)みを無視(むし)し、(もう)スピードで移動(いどう)してきたせいかもしれない。


連城(れんじょう)先生はここで待っていてください」


(きゅう)に何を言いだすのだ、海人(かいと)


(あし)(いた)むのではないですか」


「ああ……海人(かいと)、お前は(やさ)しいな、亮太(りょうた)()て」

 亮太(りょうた)という言葉(ことば)(なつ)かしさがあふれ、()きそうになった。連城(れんじょう)先生の()にもかすかに(なみだ)()かんでいる。


「しかし私は行かなくてはいけないのだよ。黒羽(くろは)伊吹(いぶき)(そだ)てたのは、この私なのだから。それに今度(こんど)こそ、()(かえ)しのつかないことをさせないために」

 連城(れんじょう)先生が(つえ)(ほう)()てた。その()(なみだ)はない。強い光を宿(やど)した目で、ぼくとクリスを見やると、

「行くぞ」

 そう言って足を()()した。


「OKムッシュ、それでは俺がしんがりを(つと)めましょう」

 クリスが連城(れんじょう)先生の背中(せなか)力強(ちからづよ)く言った。


☆☆☆☆☆


 (つよ)(かぜ)()きつけてくる中、連城(れんじょう)先生が金剛杵(こんごうしょう)(たて)にもち、まるで懐中電灯(かいちゅうでんとう)のように先端(せんたん)に光を(とも)した。先生の(うしろ)をぼく、クリスの(じゅん)階段(かいだん)()りはじめた。(かぜ)()って地下(ちか)からカビ(くさ)さとヘドロのような悪臭(あくしゅう)()(のぼ)ってくる。階段(かいだん)はやたらとぬめぬめしている上に(きゅう)で、上手(うま)くバランスをとらないと(すべ)ってしまいそうだ。一段(いちだん)一段(いちだん)(すべ)らないように慎重(しんちょう)()りなくてはならない。


66段目(だんめ)まで来た時、()で見るより先に、地下(ちか)に近づいていることを(はだ)(かん)じた。下から()()ける空気(くうき)()()えと湿(しめ)ってきている。


長い階段(かいだん)が終わった。目の前には金剛杵(こんごうしょう)では()らしきれない深い(やみ)が広がっている。水の(おと)だろうか? 


ザーッという川の(なが)れるような(おと)(ちか)くにする。どこまでが(りく)でどこからが(かわ)なのか(まった)()からない。一歩(いっぽ)()()したとたんに(かわ)()ちるんじゃないかという恐怖(きょうふ)にかられたその時、クリスが、もぞもぞっと(うご)き、(かた)から下げた革帯(かわおび)のポケットをまさぐった。何かを()()すような“パチっ”という(おと)がした。


()せ、(あか)りはつけるな」

 連城(れんじょう)先生が(するど)(さけ)んだ。


しかし時既(ときすで)(おそ)く、(かべ)上部(じょうぶ)(すう)メートルごと()かれたロウソク(がた)電球(でんきゅう)一斉(いっせい)(とも)った。その(あか)りで、ここがトンネルのようなところで、目の(まえ)(かわ)(なが)れ、その川沿(かわぞ)いの(みち)にいるのが分かった。


(かん)づかれる、電気(でんき)()せ」

 連城(れんじょう)先生が強い口調(くちょう)で言った(とき)だった。動物(どうぶつ)(さけ)(ごえ)前方(ぜんぽう)から()こえてきた。コウモリの大群(たいぐん)一斉(いっせい)にこちらに()かってくる。

(かん)づかれた」


「ただのコウモリじゃないですか。この(あか)りだって伊吹(いぶき)結界(けっかい)()らさないよう、防御結界(ぼうぎょけっかい)()っている中で……」

 クリスはそれ以上(いじょう)言えなかった。


コウモリがぼく達めがけて(おそ)ってきたからだ。しかもそれは、クリスの言うようなただのコウモリではなかった。()()えた悪霊(あくりょう)コウモリ。頭を(かば)うようした手や(うで)、足に()みついてくる。


(はな)せ」

クリスが両手(りょうて)()(まわ)そうともがいているが、身体中(からだじゅう)悪霊(あくりょう)コウモリにまとわりつかれ、()(くろ)(かたまり)のようになっている。


「クリス」

 (さけ)んだ口の中にコウモリが()()んできた。


汚物(おぶつ)のような(にお)い。()きそうになったが、コウモリは()きだされまいと口の中で、ドリルのように回転(かいてん)(はじ)めた。くっ、(くる)しい……(いき)ができない。


その時、目の前を閃光(せんこう)がほとばしった。連城(れんじょう)先生のお(きょう)()こえる。(いん)(むす)び、大声(おおごえ)でお(きょう)(とな)えているんだ。口の中のコウモリの力が(よわ)まり、回転(かいてん)()まった。思いっ切りコウモリを()きだし、口の中の(いや)(にお)いや感触(かんしょく)()すように、(きょう)(とな)(はじ)めた。連城(れんじょう)先生の(こえ)()わせるように(とな)えた。途端(とたん)悪霊(あくりょう)コウモリ達は、断末魔(だんまつま)(さけ)(ごえ)()げ、バタバタと(した)に落ちはじめた。川に落ち、(なが)されていく悪霊(あくりょう)コウモリもいる。


(たす)かった」

 クリスは(すで)()だらけだった。


ぼくも、(いろ)んなところから出血(しゅっけつ)している。連城(れんじょう)先生は胸元(むなもと)から()っぱを()り出すと、クリスとぼくに(わた)した。


「この()()んでおきなさい。悪霊(あくりょう)(どく)()てられないように」


 出血(しゅっけつ)(いた)みよりも()っぱの(にが)みの方が(ひど)かった。しかし、クリスは(さかわ)らわずに、()っぱを()(くだ)いた。クリスが(あか)りを()そうとすると、連城(れんじょう)先生がその手を止めた。

(すで)(かん)づかれている(ゆえ)、このまま(あか)るい中を(すす)もう」


勝手(かって)なことをして、(もう)(わけ)ありませんでした」

 しゅんとなったクリスの背中(せなか)連城(れんじょう)先生がポンっと(たた)いた。


()()まっている(ひま)はない。さあ(すす)もう」

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