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クーカイ×クーカイ  作者: 青山 高峰
第九章(第三部)

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27 黒羽の日記

 (まわ)りの景色(けしき)にひびが入り、そしてガラスが()れるように、景色(けしき)が、連城(れんじょう)先生が、本尊(ほんぞう)が、本堂(ほんどう)が何もかも粉々(こなごな)()(はじ)めた。


 (かな)しみ、(にく)しみ、(いか)り、(ねた)み。


あらゆるどす黒い感情(かんじょう)(うず)()き、大きなうねりになって、その粉々(こなごな)背景(はいけい)()()んでいく。(うず)の中から(こえ)(ひび)いた。


(クーカイ、お前も俺と同じだ。(あい)する人に()てられ、(わす)()られる存在(そんざい)


 (ちが)う! ぼくはお前とは(ちが)う。


(おな)じじゃないか。楠木(くすのき)夫妻(ふさい)は、お前より、自分たちの本当(ほんとう)の子どもの(ほう)可愛(かわい)いに()まっているんだ。本当(ほんとう)両親(りょうしん)である連城(れんじょう)亮太(りょうた)前島(まえじま)飛鳥(あすか)は、(すで)にあの()にいて、お前のことなんかこれっぽっちも(おも)っていない)


 (うそ)だ!


(お前だって(おも)っただろ「自分(じぶん)(なん)のために()まれてきたんだろう」って。その気持(きも)ちよく分かるよ。お前の気持(きも)ちを(しん)()かるのは俺だけだ。どうだ? 俺と一緒(いっしょ)にこの世を支配(しはい)しよう。俺たちを()て、無視(むし)し、離反(りはん)する(すべ)てを足元(あしもと)にひれ()させるんだ)


 神経(しんけい)(むしば)むような黒羽伊吹(くろはいぶき)(こえ)。あまりに長い時間(じかん)黒羽伊吹(くろはいぶき)体験(たいけん)させられていたため、一瞬(いっしゅん)、自分が(だれ)だか、何が現実(げんじつ)だか、分からなかった。自分の皮膚(ひふ)黒羽(くろは)記憶(きおく)には何の(へだ)たりもないような気がした。()けて、同化(どうか)していくのを(かん)じる――


 瞬間(しゅんかん)(りん)ちゃんの声が(こころ)奥底(おくそこ)から(ひび)いてきた。


海人(かいと)くん、あの時は本当にありがとう。どんなにくじけそうな時も、おじいちゃんが(そら)から見守(みまも)ってくれているって、海人(かいと)くんのおかげでそう思えた。本当(ほんとう)にありがとう―


 そうだ、ぼくは、ぼくは楠木(くすのき)海人(かいと)であり連城(れんじょう)海人(かいと)だ!! ぼくは黒羽伊吹(くろはいぶき)とは(ちが)う! 


(そうかい、なら()ね!)


 その時だった。


海人(かいと)くん」


 長い(かみ)の毛を()らし、青いワンピースを()た女の子・(りん)ちゃんが(はし)ってくる。(しん)じられない。


(りん)ちゃん」


(この世界(せかい)に、(おも)いの強さだけで()()んでくるとは、さすがだな(りん)恵果阿闍梨(けいかあじゃり)系譜(けいふ)()いでいるだけのことはある。しかしこの世界(せかい)()()んできたのがそもそもの間違(まちが)いだ。ここは俺の日記(にっき)世界(せかい)生殺与奪(せいさつよだつ)は俺にあるのだから)


 ぼくは(りん)ちゃんの手を(つか)んだ。ここが日記(にっき)の中とは思えないほど、(りん)ちゃんの手は(あたた)かい。


(りん)、もしお前が本当(ほんとう)にクーカイを(たす)けたければ、現実世界(げんじつせかい)にいて、俺の手から日記(にっき)(うば)い、クーカイを(とら)えているページを(ひら)けばよかったんだ。恵果阿闍梨(けいかあじゃり)(たましい)一部(いちぶ)宿(やど)しているとしても、所詮(しょせん)はその程度(ていど)か。(りん)、お前は(ころ)さないが、クーカイ、お前はここで死んでもらう)


「そうはさせない」


 (すず)やかな(こえ)(ひび)くと、足元(あしもと)星形(ほしがた)(つき)太陽(たいよう)()み合わせた(ひかり)()かんだ。


(しまった、この紋様(もんよう)は!)


 黒羽(くろは)のうろたえる(こえ)(ひびい)いたかと思うと、(からだ)がふわっと()()がった。そしてジェット()上昇(じょうしょう)する時みたいに、急上昇(きゅうじょうしょう)(はじ)めた。頭上(ずじょう)に白い(あな)が見える。その(あな)()()まれるように上がっていく。全身(ぜんしん)物凄(ものすご)圧力(あつりょく)がかかった。


☆☆☆☆☆


小川(おがわ)のせせらぎが()こえる。

目を開けると、東屋(あずまや)屋根(やね)が見え、はっとした。そうだここは若菜(わかな)ちゃんの除霊(じょれい)()ていた公園(こうえん)だ。(となり)のベンチに(りん)ちゃんが(よこ)たわっている。(おどろ)いて()()がった。

しっかり(にぎ)っている(りん)ちゃん()(ゆび)()え、(みゃく)をみる。

よかった、正常だ。


本当(ほんとう)()()ってよかったよ」


 男の(すず)やかな(こえ)がすぐそばで(ひび)いた。


(かたむ)きかけた太陽(たいよう)()に、長身(ちょうしん)金髪(きんぱつ)の男が()っている。


白いシャツに黒いパンツをすっきりと()こなし、まるで闘牛士(とうぎゅうし)のようないで立ちだが、目を()くのは、(かた)から(なな)めにかけている茶色(ちゃいろ)い手のひら(はば)革帯(かわおび)だ。


「二人とも怪我(けが)はないよな」


 男がさっと片膝(かたひざ)をついた。


 (うし)ろで一つに(むす)ばれた()けるような金髪(きんぱつ)が、(うま)尻尾(しっぽ)のように(うご)く。


とんでもなく美しい。ビー玉のような青い(ひとみ)、高い鼻梁(びりょう)、きれいな形の(くちびる)。その(くちびる)がごにょごにょ(うご)(はじ)めた。


何かの呪文(じゅもん)? 


そう思った途端(とたん)地面(じめん)に大きな(えん)とその中に(ほし)(つき)といったマークが()かび()がった。


「とりあえず俺(たち)(まわ)りに結界(けっかい)()った。黒羽(くろは)がどこに(ひそ)んでいるか分からないからな」


 そうだ! ここで黒羽伊吹(くろはいぶき)(おそ)われたんだ。日記の世界に取り込まれて……しかし近くに黒羽(くろは)姿(すがた)若菜(わかな)ちゃんの姿(すがた)もない。


 男が端正な笑顔を浮かべた。


途端に奇妙な感覚がした。初めて会うのに、この綺麗(きれい)(かお)にはなぜか見覚(みおぼ)えがある。男がニヤリとした。


「なかなかの記憶力(きおくりょく)だ。俺達(おれたち)()まれる(まえ)からの()り合いだ」


 心で(おも)ったことを今、口に出してた?


「うちの家系(かけい)特徴(とくちょう)でね。(こころ)()めるんだ」


「あなた一体(いったい)……」


 言いかけた時、(りん)ちゃんの身体(からだ)が少し(うご)いた。ゆっくりと(まぶた)(ひら)き、まぶしそうにしている。


(りん)ちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)?」


 (そば)にひざまずいた。(りん)ちゃんはぼくを()、ガバッと()()がると(きゅう)()()した。


「よかった、海人(かいと)くんが(もど)ってきてくれて。本の中にまるで魔法(まほう)みたいに()()まれて行っちゃって……()わなきゃと思ったら、目の前に真っ白いページが(あらわ)れて……その(あと)必死(ひっし)海人(かいと)くんの名前(なまえ)()んでた。なのに()(まえ)が真っ白で、本当(ほんとう)(おそ)ろしくって、(おそ)ろしくって……」


 ぽろぽろと(なみだ)(なが)(はじ)めた。


「でもよかった、(もど)ってきてくれて」


「なるほど。その(かお)じゃ、(ねら)われるわけだ」


 だしぬけに男が言ったので、(りん)ちゃんが(おどろ)いてそっちを()いた。


可愛(かわい)すぎるから」


 男はまばたきを(わす)れたように(りん)ちゃんを見つめながら、口元(くちもと)(あま)()みを()かべた。


「俺と結婚(けっこん)しないか、ma chérie(マシェリ※愛しい人)」


 当惑(とうわく)する(りん)ちゃんの()を男が(にぎ)った。ぼくのこめかみがピクピクする。


「俺は本気(ほんき)だよ、一生(いっしょう)(きみ)(まも)らせてくれ」


 (りん)ちゃんが真っ赤になって()()くのと、ぼくが男の()(つか)みあげるのとが同時(どうじ)だった。


「あなたは、一体(いったい)(だれ)なんですか」


名乗(なの)らせたかったら、この()(はな)せよ、怪力(かいりき)


 (おも)わず男の()(はな)すと、


「俺はクリストファー・リー・カイゼルベルグ。弘法大師空海こうぼうだいしくうかい末裔(まつえい)で、別名(べつめい)クーカイ」


 リーという部分(ぶぶん)(おも)()たる(ふし)があったが、それ以上(いじょう)直後(ちょくご)に聞いた(こと)衝撃的(しょうげきてき)()ぎた。弘法大師空海こうぼうだいしくうかい末裔(まつえい)だって! クーカイだって! この人は一体(いったい)? そう(おも)った瞬間(しゅんかん)、男が(りん)ちゃんに()かって、片目(かため)()じた。


(きみ)のために()まれてきた男さ。クリスって()んでくれ」


 なっ、なんなんだこの人は! 


気障(きざ)仕草(しぐさ)(あき)れかえった時だった。ぴちゃぴちゃと沼地(ぬまち)(はし)るような(おと)(ちか)づいてくる。東屋(あずまや)(ひだり)方角(ほうがく)からだ。しかしその方角(ほうがく)に、いやこの公園(こいえん)沼地(ぬまち)はなかった。


空は今、茜色(あかねいろ)()れなずんでいる。今日を(ふく)めこの一週間は雨など一滴(いってき)()っていない。それはつまりこの音が異常(いじょう)だということだ。


足音(あしおと)が大きくなってきた。二足歩行(にそくほこう)足音(あしおと)じゃない。四足歩行(よんそくほこう)のものだ。金剛杵(こんごうしょう)(ひろ)()げ、東屋(あずまや)東側(ひがしがわ)に立つ。いつの()にかクリスも(となり)()っている。


海人(かいと)くん」


(りん)ちゃんは()がってて。それでぼくの(うし)ろを(はな)れないで」


 (りん)ちゃんが(ふる)えながら(うなず)いた。


()()()(うし)ろ、だろ」


 クリスがウインクした。


 その途端(とたん)地面(じめん)魔法陣(まほうじん)(ひかり)(はな)つ。黒い(かたまり)弾丸(だんがん)のように()んできたが、地面(じめん)から(ひかり)(かべ)()(のぼ)り、黒い(かたまり)をはじき(かえ)した。それは黒いボールのようにくるくると(ころ)がり、小さな足元(あしもと)()まった。


赤いエナメルの(くつ)()き、白い靴下(くつした)可愛(かわい)いピンクのワンピースを()た6(さい)くらいの女の子。その子の小さな()が、黒いボール、いや、うずくまる黒狐(くろぎつね)をまるで()(いぬ)()愛撫(あいぶ)するようにペタペタと(さわ)っている。


クリスが(なな)めがけした革帯(かわおび)のポケットの一つ。上から二番目のボタンをパチンと(はず)し、中から素早(すばや)指揮棒(しきぼう)()()した。そして(ねら)いを(さだ)めるようにして、指揮棒(しきぼう)先端(せんたん)を女の子に()けた。光がクリスの身体(からだ)充満(じゅうまん)し、一気(いっき)にその指揮棒(しきぼう)の先に(あつ)まるのを(かん)じる。(おも)わずその(うで)()さえた。


「何すんだ」


 クリスがびっくりして怒鳴(どな)った。


()めてくれ」


「はあ? あいつは見た目は子どもでも、れっきとした悪霊遣(あくりょうづか)いだ。足元(あしもと)にいる黒狐(くろぎつね)が、お前にも見えるだろ。あの子が使役(しえき)しているんだ」


(ちが)う! あの子はぼくの義妹(いもうと)だ」


(なん)だって」


 クリスが(しん)じられないという(かお)を女の子の方に()けた。


本当(ほんとう)なのか」


(おそ)らく間違(まちが)いない。楠木詩織(くすのきしおり)だ」

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