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クーカイ×クーカイ  作者: 青山 高峰
第八章(第三部)

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25 長崎港事変

 消灯時間(しょうとうじかん)()ぎても(ねむ)れない。


寝苦(ねぐる)しい。これからのことを考えると苦しくてたまらない。結局(けっきょく)俺は、(てら)を出なくてはいけない。そう考えるといたたまれない。18年間、修行(しゅぎょう)しかしてこなかった。勉強もスポーツもそれなりにはやってきたけど、修行(しゅぎょう)ほどには本気(ほんき)じゃなかった。


これから、あの寺を出て。どうやって生きて行けばいい? 他の寺に行くにしても、方法(ほうほう)すら()からない。


布団(ふとん)から()いずり出た。袈裟(けさ)をつけ、こっそり宿舎(しゅくしゃ)を出た。こういう時、坊主(ぼうず)恰好(かっこう)は悪くない。絶対(ぜったい)高校生(こうこうせい)には見えないから。


―いつか、またこうして三人で海を見に来ない? それでこういう(ふね)()って世界中(せかいじゅう)(たび)するの――


 飛鳥(あすか)華麗(かれい)笑顔(えがお)(むね)がうずいた。


 気づくと長崎港(ながさきこう)まで来ていた。


(ふね)停泊(ていはく)しているせいもあって、昼間(ひるま)のように(あか)るい。もしこの(ふね)()って、飛鳥(あすか)(たび)出来(でき)たらどんなに……


その時、ふと雑踏(ざっとう)の中、お(きょう)が聞こえた気がした。こんな時まで、修行(しゅぎょう)のことに(あたま)がいってしまう自分がいたたまれない。


しかし(きょう)(こえ)集中(しゅうちゅう)すると、不思議(ふしぎ)とどんどん大きく聞こえてくる。ちょっと()て! この声、空耳(そらみみ)じゃない。(きょう)のする(ほう)(はし)った。


☆☆☆☆☆


 亮太(りょうた)が手を()わせていた。


(さわ)がしい(みさき)とは(はな)れたところ、(くら)い海に()かって()っている。真剣(しんけん)(きょう)を読む亮太(りょうた)姿(すがた)にはいつものふざけた様子(ようす)は1ミリもない。(きょう)(とな)()えた(あと)もしばらく合掌(がっしょう)し、無心(むしん)(いの)りを(ささ)げている。


亮太(りょうた)


 亮太(りょうた)(かお)を上げた。なんと()いている。


「こんなところで何してんだよ」


 (なみだ)(ぬぐ)うと、亮太(りょうた)(しず)かに言った。


昼間(ひるま)原爆資料館(げんばくしりょうかん)見に行ったろ。それがここに(ひび)いて」


 亮太(りょうた)が自分の心臓(しんぞう)指差(ゆびさ)した。


(いの)りや(おも)いはさ、時空(じくう)()えるって父さん言ってただろ? 戦争(せんそう)()くなられた(すべ)ての人が(やす)らかに平穏(へいおん)(ねむ)れるように(いの)ってたんだ」


 一瞬(いっしゅん)(むね)がつまった。こいつは本当(ほんとう)(いの)りが(とど)くと思っているのか。俺にとって(きょう)(いの)りも、死者(ししゃ)のためにあるとは思っていない。死人(しにん)(いた)む人間、つまり生きている人間を(なぐさ)めるためにあると思っている。


なのに、こいつは(ちが)うんだ。根本(こんぽん)からして(ちが)うんだ。こんな(ふう)純粋(じゅんすい)(いの)れる亮太(りょうた)(はじ)めてまぶしく、そしてうらやましく(かん)じた。


(俺は一体(いったい)、今まで何を修行(しゅぎょう)してきたんだ)


自分(じぶん)(きず)き上げてきたものが、ガラガラと音を立てて(くず)れていく気がした。


(いや、そうじゃない。亮太(りょうた)は何も()かっていないんだ。(きょう)だって、ところどころ漢字(かんじ)()みが間違(まちが)っていたじゃないか。大切(たいせつ)なのは(かたち)だ。まずはそこを(ととの)えないと)


 そう思わないと、たまらない。


伊吹(いぶき)は先に(かえ)っていて。俺はもう(すこ)し、(いの)ってくから」


 亮太(りょうた)が、(まち)(あか)りに()かって(いの)(はじ)めたその時、亮太(りょうた)のスマホが()った。


「もしもし、おお美優(みゆう)。えっ、なんだって! ()かった、(さが)してみる」


 亮太(りょうた)が青ざめてスマホを()った。


「どうした」


飛鳥(あすか)行方不明(ゆくえふめい)らしい。先生に見つからないように(さが)せって……あいつ宿舎(しゅくしゃ)()()すような(やつ)じゃないのに……まさか」


 一瞬(いっしゅん)脳裏(のうり)に、豪華客船(ごうかきゃくせん)()かんだ。亮太(りょうた)(おな)じらしく、もう全力疾走(ぜんりょくしっそう)している。俺も(はじ)かれたように(あか)るい(みなと)()けて(はし)った。


☆☆☆☆☆


 客船(きゃくせん)の中に入るのは簡単(かんたん)じゃなかった。そもそも乗客証(じょうきゃくしょう)がない。その上、パーティーに飛鳥(あすか)(さそ)った女の名前(なまえ)すら()からない。


 必死(ひっし)にスマホの画面(がめん)を見せて、セキュリティに(うった)える。


「この女、この女がパーティーに招待(しょうたい)してくれたんです。それでこの(となり)にいる女の子がここに()てないか()りたいだけなんです」


「No No No! Get out(ダメだ! 出ていけ!)」


「この(ふね)にいないって()かったら、()ていきますから」


「No!(ダメだ!)」


 (らち)()かない。そう(おも)った時、亮太(りょうた)(いん)(むす)んだ。そしてセキュリティの()(のぞ)()んだ。


「この女の(もと)案内(あんない)しろ」


 セキュリティの()一瞬(いっしゅん)白濁(はくだく)した。


「もちろんです」


 丁寧(ていねい)(あたま)を下げると、ゲートを(とお)してくれた。俺は(おも)わず亮太(りょうた)小声(こごえ)耳打(みみう)ちした。


「こんなところで、和尚(おしょう)から(なら)った法術(ほうじゅつ)使(つか)うなんて、どうかしてる」


「だって仕方(しかた)ないだろ。それしか方法(ほうほう)がないんだから」


 ペントハウススイート


 それが女の(とま)っている客室(きゃくしつ)だった。セキュリティがノックする(まえ)に、()こう(がわ)からドアが(ひら)いた。(みみ)(いた)くなるような音楽(おんがく)()(ひび)くドア(ぐち)に、ダークスーツを()た男が立っている。


「リー様より、ご案内(あんない)するように(おお)せつかっております」


 (おどろ)くのも(つか)()亮太(りょうた)大声(おおごえ)を出した。


飛鳥(あすか)(かえ)してもらいに()ました」


「さすればこちらへ」


(はい)った瞬間(しゅんかん)、大きなフロアが(ひろ)がった。


ここが客室(きゃくしつ)、それも(ふね)(なか)だなんて(しん)じられない。ダンスフロアなみに(ひろ)い。その中をドレスやタキシードを()た男女で(あふ)れかえっている。みなカクテルを手に(おど)っている。照明(しょうめい)(あや)しいまでに(くら)く、正面(しょうめん)(まど)全面窓(ぜんめんまど)ガラス!≫から見える長崎港(ながさきこう)(あか)りの(ほう)(あか)るく(かん)じられる。その()かりに()らされて、(そと)のプールで水しぶきが上がった。


ダークスーツを()た男は、ダンスフロアのような部屋(へや)(みぎ)方向(ほうこう)(ある)き、(かべ)をノックした。(となり)本棚(ほんだな)がまるでドアのように(よこ)にスライドした。()(くら)部屋(へや)(なか)から()()なドレスを()た女が()てきた。金髪(きんぱつ)をまとめ上げている。一瞬(いっしゅん)、それが(だれ)だか(わか)らなかった。


「よく()たわね」


 この(こえ)! 昼間(ひるま)のあの黒衣(こくい)の女だ!


飛鳥(あすか)はどこですか」


 亮太(りょうた)感情(かんじょう)(おさ)えた(こえ)で聞いた。


「あそこのベッドで()ているわ」


 部屋(へや)(あか)りがドアの隙間(すきま)から(はい)り、ベッドを()らした。


衝撃(しょうげき)(はし)った。


(みだ)れたシーツの上に、()()()すようにして飛鳥(あすか)(よこ)になっている。両手(りょうて)(うし)()(しば)られ、(さる)ぐつわをかまされ、ぐったりとしている。


はだけた着衣(ちゃくい)(みだ)れた(かみ)()(しず)かに()じられた(ひとみ)……(あたま)()(のぼ)った。()づくと、女を(なぐ)(たお)していた。客室内(きゃくしつない)騒然(そうぜん)となった。俺はあっという()にダークスーツを()た男(たち)()()さえられた。


「リー様、この坊主(ぼうず)(うみ)()()してやります」


()ちなさい。この子は招待客(しょうたいきゃく)だよ。それに(うらな)うという約束(やくそく)だからね」


 赤いドレスの女が、俺のの(まえ)に立つと()(ほそ)めた。


伊吹(いぶき)(くん)だったね。あんたが、これからどれだけ(おお)くの人を(きず)つけようとも。あの少女(しょうじょ)の子どもがそれを(はば)むだろう。どんなに邪悪(じゃあく)計画(けいかく)()てようとも無駄(むだ)だ」


 神経(しんけい)(さわ)るような(こえ)だった。


(俺が(おお)くの人を(きず)つける? 邪悪(じゃあく)計画(けいかく)? 坊主(ぼうず)になろうって人間(にんげん)に何を言っているんだ、この女は?)


見ると、女は俺に言っているようで、言っていない。俺の左肩(ひだりかた)()かって言っているのに()づいた。まるで(うし)ろに立つ(だれ)(べつ)人間(にんげん)に言っているようだ。ふいに女と()があった。


「それからあの少女(しょうじょ)は、飛鳥(あすか)はお前のものにはならない、永遠(えいえん)に」


 この言葉(ことば)に、(つめ)たい氷水(こおりみず)背中(せなか)()れられたような()がした。


(なん)だと、飛鳥(あすか)のことを(なに)にも()らないくせに!」


伊吹(いぶき)君、飛鳥(あすか)のことを私達(わたしたち)ほどには知らないだろうさ。(おし)えてやろう。飛鳥(あすか)は、()一族(いちぞく)(さが)してきた伝説(でんせつ)少女(そうじょ)だ。何年(なんねん)何十年(なんじゅうねん)何百年(なんびゃくねん)もかけて(さが)してきた。空海(くうかい)()まれ()わりをこの()()()とす運命(うんめい)にある少女(しょうじょ)なんだ」


 その言葉(ことば)を聞いた瞬間(しゅんかん)(あたま)(なか)がぐるぐると(まわ)(はじ)めた。


「しかしこの少女(しょうじょ)は、あまりにピュアでピュア()ぎて、(がい)をなす人間(にんげん)すらも()()れているために、少々(しょうしょう)運命(うんめい)がねじ()がっているのが観相(かんそう)(※(うらな)い)で()かった。それ(ゆえ)私達(わたしたち)伝説的運命(でんせつてきうんめい)となるよう(すこ)()()必要(ひつよう)があった」


(なに)をした! 飛鳥(あすか)(なに)をしたんだ」


伝説的運命(でんせつてきうんめい)(たし)かなものになるように、あの子の身体(からだ)運命(うんめい)(たね)()めたのだ」


 ゾッとするような(はなし)だった。飛鳥(あすか)身体(からだ)(なに)()めたって? 


俺は足元(あしもと)がふらついた。セキュリティに(かか)えられていなかったら、そのまま(たお)れていただろう。


(はなし)はそれで()わりですか?」


 それまで(だま)っていた亮太(りょうた)が、ベッドで()ている飛鳥(あすか)()()げた。


「俺達はもうここに(よう)はありません。(かえ)ります」


()ちなさい。あんた、空海(くうかい)()まれ()わりに(きよ)めの方法(ほうほう)(おし)えてやりなさい。お前さんができるのはそれしかない。この少女(しょうじょ)(あい)しているなら、その子どもを(あい)するなら、それだけしかない」


 亮太(りょうた)(なに)()わず、(ある)()そうとした。その(うで)を女が(つか)んだ。


「この子とその子どもを(まも)ってやりなさい」


「そんなこと……言われなくても()かってます! あと、伊吹(いぶき)(はな)してください」


 そう言うと、亮太(りょうた)(きょう)(とな)(はじ)めた。凄絶(そうぜつ)(きょう)空気(くうき)()()いていく。スピーカーが(こわ)れ、フロアが(しず)かになった。


(はな)してやりなさい。お客様(きゃくさま)がお(かえ)りだ。お(まえ)たち(おく)って()()げなさい」


 女の一声(ひとこえ)で、俺(たち)(ふね)から丁重(ていちょう)につまみ出された。

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