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クーカイ×クーカイ  作者: 青山 高峰
第五章(第二部)

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13 白いお家

 凜(りん)ちゃんの家(ち)は郊外(こうがい)の広大(こうだい)な敷地(しきち)の中にあった。門(もん)から家(いえ)までの間(あいだ)、車窓(しゃそう)から見た庭園(ていえん)は美(うつく)しく整(ととの)えられている。


今のところ変なものは感じない。車を降(お)りると、家の大きさに圧倒(あっとう)された。


白亜(はくあ)の豪邸(ごうてい)とはまさにこのことだ。円柱(えんちゅう)も、飾(かざ)りのついた窓(まど)も西洋(せいよう)のお城(しろ)のようで、見上げるだけで首(くび)が痛(いた)くなる。


知らなかったけど、凜(りん)ちゃんって大金持(おおがねも)ちのお嬢様(じょうさま)だったんだ。


車寄(くるまよ)せに車が停(と)まると、中からエプロン姿(すがた)の中年(ちゅうねん)の女性が出て来た。


「お帰りなさいませ」


 丁寧(ていねい)に頭を下げる女性に、凜(りん)ちゃんのお母さんが鞄(かばん)を渡(わた)した。


「木村(きむら)さん、お茶(ちゃ)の準備(じゅんび)は整(ととの)っている?」


「もちろんでございます奥様(おくさま)」


 木村さんと呼ばれた女性が頭を下げた。


「ありがとう木村さん。さあ海人(かいと)さん、少しお疲(つか)れになられたでしょう。すぐ名刺(めいし)を取ってまいりますので、ゆっくりなさっていてください」


「いえ、ぼくは悪(わる)い霊(れい)が溜(た)まっている場所(ばしょ)を見つけ出して……」


「そうおっしゃらないで、少しくらいゆっくりなさってらして。木村さんご案内(あんない)してさしあげて」


 通された応接間(おうせつま)は30畳(じょう)ほどの広いところで、重厚(じゅうこう)なワインレッドの絨毯(じゅうたん)と、高い天井(てんじょう)から下がるシャンデリア、その下の大理石(だいりせき)のテーブルと、まるで城(しろ)にでも来たようだ。小さくなりながら座(すわ)っていると、木村さんがお茶(ちゃ)とお菓子(かし)を持って入ってきた。


「あのっ、申(もう)し訳(わけ)ございません。ケーキは食(た)べられなくて……」


「甘(あま)いものはお嫌(きら)いでしたか」


「修行中(しゅぎょうちゅう)の身(み)ですので」


 木村さんは憐(あわれ)れむような目で紅茶(こうちゃ)だけ置(お)いた。


「何かありましたらお申(もう)し付(つ)けください。ではごゆっくり」


「あの、この家を案内(あんない)してもらえませんか」


「でも、ゆっくりしていただくようにと奥様(おくさま)から申(もう)し付(つ)かっておりますので」


「名刺(めいし)を探(さが)していただいている間(あいだ)に、この家に悪霊(あくりょう)や悪(わる)い気が溜(た)まっている所(ところ)を見つけて祓(はら)いたいんです。名刺(めいし)をいただいたらすぐ失礼(しつれい)できるように」


 お手伝(てつだ)いの木村さんと一緒(いっしょ)に台所(だいどころ)、洗濯場(せんたくば)、お手洗(てあら)い、書斎(しょさい)、納戸(なんど)などを見(み)て回った。


特段(とくだん)悪霊(あくりょう)や悪(わる)い気が溜(たま)まっているところはない。とはいえ、やはり水回(みずまわ)りは気になる。水は淀(よど)めば濁(にご)る。濁(にご)れば悪い気や悪霊(あくりょう)を呼(よぶ)ぶ。


台所(だいどころ)、洗濯場(せんたくば)、お手洗(てあら)いに持参(じさん)した札(ふだ)を貼(は)った。そして念(ねん)のため玄関(げんかん)にも貼(は)った。そうだ、来るときに通ったあの門(もん)にも貼(は)っておこう。


家の外を出ると、香(かぐわ)しいバラの香りが鼻(はな)をかすめた。広大(こうだい)な庭(にわ)に咲(さ)きかけのバラがある。


午後(ごご)の陽光(ようこう)を受(う)けた花びらがきらめき、吹(ふ)く風(かぜ)にくすぐったそうに揺(ゆ)れている。


良い香(かお)り。


この香(かお)りでこの土地(とち)が清(きよ)められているんだ。なるほど、どおりで車で通った時、変な気や邪悪(じゃあく)なものを感じなかったわけだ。


「ありがとう。君たちがここを護(まも)ってくれているんだね」


バラの花びらに触(ふ)れた途端(とたん)、ピリッと電流(でんりゅう)のようなものが指先(ゆびさき)に走った。瞬間(しゅんかん)、月明(つきあ)かりを浴(あ)びる白いワンピース姿の凜(りん)ちゃんの映像(えいぞう)が頭の中に浮(う)かんだ。


この映像(えいぞう)は一体(いったい)……。


「あの……」


 木村さんの声に振(ふ)り返(かえ)ると、申(もう)し訳(わけ)なさそうに、


「大変申(もう)し上げにくいのですが。ご案内(あんない)はここまでで、よろしいでしょうか?」


「えっ、あっ、はい」


 木村さんの表情(ひょうじょう)がぱっと明(あか)るくなった。


「実(じつ)は買(か)い物(もの)にでる時間(じかん)なので、恐(おそ)れ入(い)りますが、こちらで失礼(しつれい)いたします」


 そう言って、足早(あしばや)に行ってしまった。


それにしても、さっきの月夜の映像が過去なのか、未来なのか分からない。


でもバラが凜(りん)ちゃんの悪夢(あくむ)について何かを知らせようとしてくれたのは間違(まちが)いない。名刺(めいし)をもらって帰(かえ)ってくるだけだと思っていたけど、いろいろと気を付けた方がよさそうだ。巨大(きょだい)な門(もん)の裏側(うらがわ)に札(ふだ)を貼(は)りながらそう思った。


少しでも気になるところには全(すべ)て札(ふだ)を貼(は)った。あとは凜(りん)ちゃんの部屋(へや)と凜(りん)ちゃんのお母さんとお父さんの部屋(へや)だけだ。


とはいえ、案内(あんない)もなしに勝手(かって)に家の中をうろつくわけにいかない。


仕方(しかた)なく最初(さいしょ)に通(とお)された応接間(おうせつま)に戻(もど)り、木村さんを待(ま)つことにした。と


ところが、2時間(じかん)経(た)っても時間(じかん)経(た)っても戻(もど)ってこない。凜(りん)ちゃんのお母さんも現(あらわ)れない。名刺(めいし)を取(と)りにいっただけなのに、さすがに時間(じかん)がかかりすぎている。


もしかして呪物(じゅぶつ)を探(さが)している間(あいだ)に何かあったのかもしれない。そう思って腰(こし)を浮(う)かせたところに、凜(りん)ちゃんのお母さんが現(あらわ)れた。


「海人(かいと)さん、お待(ま)たせしてしまってごめんなさいね。でも名刺(めいし)がどこを探(さが)しても見つからなくて」


 明(あき)らかに憔悴(しょうすい)しきった目を向(む)けた。


「ちゃんと化粧台(けしょうだい)のところに置(お)いておいたはずなのよ。でもどこを探(さが)してもないの」


「化粧台(けしょうだい)? あのっ、よろしければ、その化粧台(けしょうだい)を見せていただけませんか?」


 凜(りん)ちゃんのお母さんが怪訝(けげん)な顔をした。


「もし凜(りん)ちゃんへの呪(のろ)いがかけられているのであれば、名刺(めいし)は呪物(じゅぶつ)と化(か)しているはずです。そうなれば恐(おそ)らく気配(けはい)で分(わ)かると思(おも)うんです」



 凜(りん)ちゃんのお母さんとお父さんの部屋(へや)は2階の南側(みなみがわ)にあった。陽当(ひあ)たりがよく風通(かぜとお)しもいい。


ドア口(ぐち)に立った瞬間(しゅんかん)に、「ここにはない」と直感(ちょっかん)した。


悪霊(あくりょう)がいたり、悪(わる)い気(き)があったりすれば、部屋(へや)の入(い)り口(ぐち)で既(すで)に分かるものだ。でもそれを感(かん)じない。となると名刺(めいし)はこの部屋(へや)にはない。


「海人(かいと)さん、どうぞ中へお入(はい)りください」


 凜(りん)ちゃんのお母さんが、入(い)り口(ぐち)の前で立ち止まったぼくをいぶかし気(げ)に見ている。


「名刺(めいし)は、ここにはありません」


「えっ、でも気配(けはい)で分かると……」


「その気配(けはい)がないのです。恐(おそ)らくこの部屋(へや)にはないでしょう」


「そんな……名刺(めいし)は、ちゃんと化粧台(けしょうだい)の上に置(お)いておいたんですよ」


「では、よろしければ化粧台(けしょうだい)を祓(はら)わせていただけませんか」


「えっ、ええ」


 白い化粧台(けしょうだい)はベッドのわきに、鏡(かがみ)がむき出(だ)しの状態(じょうたい)で置(お)かれている。なるほど、かすかだけど、悪霊(あくりょう)の残(のこ)り香(が)を感(かん)じる。確(たし)かにここにあったんだ。


 胸元(むなもと)から札(ふだ)を取り出すと、鏡(かがみ)の裏(うら)に貼(は)った。


「ところで、この化粧台(けしょうだい)は以前(いぜん)からここに?」


「いえ3か月前にアンティークショップで購入(こうにゅう)し、買(か)い替(か)えたものです」


「その頃(ころ)から、不眠(ふみん)が続(つづ)いていませんか」


「どうしてそれを……」


「鏡(かがみ)は使(つか)わないときはカバーか何(なに)か、布(ぬの)でもいいので、かけておいてください。そうすれば不眠(ふみん)に悩(なや)まされることはなくなるはずです。それから、おっしゃる通(とお)り、ここに名刺(めいし)があった。でも今(いま)は動(うご)いてしまった」


「まさか名刺(めいし)が勝手(かって)に動(うご)くなんて」


「確(たし)かに普通(ふつう)はそう思うでしょう。でも名刺(めいし)が呪物(じゅぶつ)で、その呪物(じゅぶつ)に悪霊(あくりょう)がついていれば可能(かのう)です。人(ひと)を使(つか)って、自分(じぶん)、つまり名刺(めいし)の場所(ばしょ)を変(か)えさせる」 


「悪霊(あくりょう)!」


 凜(りん)ちゃんのお母さんが震(ふる)えあがった。


「ねえ海人(かいと)さん、もしここから移動(いどう)したのだとしたら、その悪霊(あくりょう)つきの名刺(めいし)は今どこにあるのかしら?」


「恐(おそ)らく……」

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