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土佐の炎と京の想い、そして天下への夢


1557年、夏。

 降り注ぐ夏の日差しは、土佐の山々を焦がすかのように強く、空はどこまでも高く青かった。今年は京の都の風習を真似て、大文字焼きが催されている。遥か遠く、山々の稜線に浮かび上がる炎の揺らめきは、どこか神聖で、そして、俺の胸中に燻る野望の炎のようにも感じられた。その炎を遠く見上げながら、俺は、遠い京の都に思いを馳せ、そして、この戦国の世を生き抜くための、新たな決意を固めていた。


 「嗚呼、そうか、そうだな」


 俺、一条鎌房は、この夏で14歳になった。元服を済ませ、土佐では若き当主代理として領地経営に励む日々だが、今は遠く離れた中国地方で、毛利家との新たな戦局を動かしている。

当初、陶晴賢の討伐はできるだけ長引かせるように画策していた。毛利家を弱体化させるには、彼らの内紛を誘発し、時間をかけて消耗させるのが得策だと考えたからだ。

しかし、土佐の実家から、親父である房基からの報告書が届いたことで、俺の計画は大きく前倒しされた。

 

親父の報告によると、長宗我部氏を滅ぼし、香宗我部氏、山田氏、安芸氏をも従属させて、土佐統一を果たしたという。

この報せは、俺にとって予想以上の成果であり、土佐の基盤が盤石になったことを意味する。

親父は、俺の「長宗我部元親殺害」の進言を、まさか本当に実行したとは。あの頑固な親父が、俺の言葉に耳を傾け、そして、先代からの縁があった長宗我部氏を滅ぼすという非情な決断を下したのだ。報告書を読む彼の筆跡は、どこか震えているようにも見えたが、その内容は揺るぎない覚悟を示していた。これで土佐の憂いはなくなった。ならば、もう陶晴賢を温存しておく必要はない。


 「とっくの前に陶晴賢の自刃の報は受け取っているが、朝廷に手を回して認めさせていない」


 俺は、自陣に届いたその報せを、すぐに握り潰した。朝廷には、陶晴賢がまだ生きていると偽りの情報を流し、彼が「逆賊」として討伐されるべき存在であることを強調し続けた。

これで、俺が「逆賊陶晴賢討伐連合軍」を率いる大義名分は保たれる。


 史実では、兄、大友宗麟おおともそうりんに見捨てられ、この1557年に自刃するはずの大内家最後の当主、大友晴英おおともはるひでも、俺の介入によってまだ生きている。大友晴英が生きているから、自動的に、陶晴賢の子である陶鶴寿丸すえつるじゅまるも生きている。


 「確か、今、7歳の筈。内基と同い年だろ?」


 京で会った、愛らしい従兄弟の顔が脳裏をよぎる。同じくらいの歳の子が、この乱世の渦中に巻き込まれ、命を落とす。戦国の習いとはいえ、胸が痛まないわけではない。


 「本心としては見逃してあげたいけど、今は戦国乱世だからなぁ……。可哀想だけど、死んでもらうか」


 俺の心の中で、一瞬、葛藤が生まれたが、すぐに冷徹な理性が勝る。感情に流されていては、この乱世を生き抜くことはできない。彼らの死は、一条家が天下を獲るための、必要な犠牲なのだ。


 「親父も分かっているだろうが、今、最盛期の三好氏には触れるのは悪手なので、河野氏の攻略の準備をしている。俺の逆賊陶晴賢討伐連合軍の解散を合図に、俺は海側から、親父は陸側から攻め入るのだ」


 これで中国地方での戦は一区切りつく。次なる目標は、四国全土の統一だ。親父が土佐を平定した今、伊予を手中に入れるのは時間の問題だ。


河野氏の居城である湯築城の堅牢さは知られているが、海からの毛呂智舟による砲撃と、陸からの親父の精鋭部隊による挟撃ならば、攻略は容易だろう。戦術図を広げ、地形を睨みつける。海からの攻めは、俺の得意分野だ。潮の流れ、風向き、そして敵の防御網。すべてを計算し尽くし、完璧な勝利を収めてやる。


 「後は、残党と国人の討伐のみ。伊予国の統一が果たせ、住友財閥の礎、別子銅山の探索に全力を注げる」


 別子銅山。それは、この時代では計り知れない価値を持つ鉱脈だ。その莫大な富は、一条家を名実ともに天下屈指の勢力へと押し上げるだろう。鉱山師たちに、改めて探索を急がせるよう指示を出さねば。

 

「上手くいったら来年には三好に仕掛け、三好長慶の上洛を阻止出来るかが勝負かなぁと、思っている。北畠家と手を組んで三好を滅ぼしたいな」


 三好長慶。畿内の覇者であり、その勢力はまさに最盛期だ。彼の上洛を阻止し、畿内を混乱に陥れれば、一条家が天下を狙うチャンスが生まれるかもしれない。南伊勢の北畠家は、公家でありながら武を重んじる家柄だ。彼らと手を組めば、三好を東西から挟撃できる。


 「姉小路家とも勿論仲良くするつもりだ。これは、対織田の抑止力だな。最悪、妹を送り込むのもありだが、信長によって滅ぼされるという嫌な未来がなぁ……」


 飛騨の姉小路家。彼らと友好関係を築くことは、将来的に台頭する織田信長への抑止力となる。俺の妹たちを政略結婚の道具にするのは心苦しいが、この乱世では、それもまた、一族の存続を賭けた重要な戦略だ。

だが、信長は本能寺の変で非業の死を遂げる。そして、その後の歴史の流れは、妹たちにとって過酷なものになるだろう。あの美しい信長の居城、安土城も、最後は炎に包まれる。彼女たちの未来を思うと、胸が締め付けられる。


 「桶狭間の戦いに俺、行こうかな。雨の日だから鉄砲使えないし困ったな。取り敢えず、山側に兵を伏せて、信長が奇襲してやると意気込んでそこに兵を設置する間に、奇襲して殺すのも有りだけど……」


 歴史の転換点となる桶狭間の戦い。史実では、織田信長が今川義元を奇襲によって討ち取った戦いだ。雨の日だから鉄砲が使えないという状況は、確かに悩ましい。だが、知略と奇襲は、俺の得意分野だ。信長が今川本陣を奇襲しようと意気込んでいる間に、逆に俺が信長を奇襲する。そんな展開を想像すると、胸が高鳴る。


 「なんか、伏兵奇襲って、今は未だ開発されていない島津の釣り野伏せとか、真田さんが伊達ちゃんの馬鉄見抜いた時みたいだな。兎も角、歴史が証明している通り、しっかり準備すれば伏兵は成功するし、成功したら凄まじい打撃を与えられる。戦況が動くからここぞと云う時に使いたいな」


 伏兵は、まさに奇跡を起こす一手だ。その成功は、戦局を一変させ、敵に壊滅的な打撃を与えることができる。その機会を、俺は虎視眈々と狙っている。


 「嗚呼、そうそう。木造建築物では火事の時ヤバいと、毛利元就の軍勢を火炙りにして殲滅した時に思ったんだ。土佐の建物も徐々にコンクリート製に変えねばならないだろう」


 あの夜の奇襲作戦で、燃え盛る木造の建物を見た時、俺は確信した。この脆弱な建築物では、大規模な火攻めには耐えられない。土佐の豊かな木材を利用しながらも、主要な建物や城郭には、現代の技術である鉄筋コンクリートを導入する必要がある。

それは、長期的な視点で見れば、領地の防衛力強化と、災害対策の両面において計り知れない恩恵をもたらすだろう。


 「話は変わるが、親父のネーミングセンスの無さが光る毛呂智舟二号は、1552年に着工し、昨年、完成したので中国に行っている」


 毛呂智舟一号の成功を受けて、建造された二号船。親父のネーミングセンスは相変わらずだが、その性能は間違いなく向上しているはずだ。巨大な船体が、大海原を悠々と進む姿を想像すると、胸が躍る。


 「現地のポルトガル人やオランダ人と交渉して、土佐までサツマイモ・ジャガイモ・トウモロコシを持ってくる様に御願いしろと、命じているので、来年位から土佐で栽培するつもりだ。兵糧の増加と餓死者0を目指して領地改革をしていこう」


 これら新大陸から伝来する作物は、土佐の食糧事情を劇的に改善するだろう。飢饉に苦しむ民を救い、兵糧を安定させる。それは、領地を豊かにし、民の支持を得る上で、最も重要なことだ。畑の土を触り、そこに新しい作物が実る未来を思い描く。


 「この前、京からお持ち帰りしたまだまだ若い千利休さんは、土佐で妹達に茶の湯を教えている、と」


 京でスカウトした千利休は、その独特の美意識と、洗練された茶の湯の作法を、妹たちに丁寧に教えている。妹たちのたおやかな指先が、茶碗を優雅に持ち上げる姿を想像する。


 「頼むから、教養豊かな良い女になってくれ。俺も嫁に出す家は確りと悩んで決めるから。最有力候補は一条本家だな。結束を固めよう」


 彼女たちの将来は、一条家の未来を左右する。政略結婚という、この時代の冷徹な現実から目を背けることはできない。一条本家との結束を強めることは、一族の勢力拡大にとって不可欠だ。


 「信長は本能寺の変で死ぬし、自重を知らない猿と、脱糞狸には、こんなにも可愛くて綺麗で高貴な血筋の妹達は釣り合う筈が無いからな。ちゃんと歴史知っているからお兄ちゃんに任せておきなさい。少なくとも、自由恋愛は許しません。この時代じゃ、外交のカードだからな」


 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。彼らは、歴史に名を残す偉人だが、俺の妹たちを嫁がせるには、ふさわしくない。未来を知る俺だからこそ、彼女たちを悲劇から守ることができる。妹たちの笑顔が、俺の心の中で輝く。


 「最近は俺が天下目指すのも有りだなと思って来た。本能寺の変がタイミングかな?中国大返しをさせず、家康の人生最大の危機も、先に此方が忍者達と内通しておいて生きて帰さない。そうしたら、文官石田三成と脳筋柴田は力づくで滅ぼして、天下統一っしょ」


 天下統一への道筋が、俺の頭の中で鮮明に描かれていく。本能寺の変。それは、織田信長という巨星が堕ちる瞬間だ。その混乱に乗じて、豊臣秀吉の中国大返しを阻止し、徳川家康を討ち滅ぼす。そして、その後に残るであろう石田三成や柴田勝家といった者たちも、力でねじ伏せる。


 「天下統一したら直ぐに大政奉還だ。幕府なんて無駄なもん作らずに、京の都でのんびりと過ごしたい。俺、どっちかっつうと貴族に成りたいからな。まぁ、清らなりとかいうヤツ?因みに、清らなりは、高貴な方を表す言葉で、清潔とかそういう意味じゃないからね?」


 天下を統一した後、俺は、幕府などという武家の権力機関は作らず、すぐに天皇に政権を返上する。そして、京の都で、「清らなり」、つまり高貴な貴族として、風雅な生活を送るのだ。それは、この戦国の世を生き抜く俺の、密かな、そして究極の夢だった。

 

土佐の空に燃え盛る大文字焼きの炎は、俺の壮大な野望を、赤々と映し出しているかのようだった。その炎は、まだ幼い俺の心の中で、静かに、しかし、確実に燃え続けている。


御高覧頂き誠に有難う御座いました。

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