「妄想・幻声・パラノイアへの認知行動療法」その1(心理学)
ポール・チャドウィック (著), マックス・バーチウッド (著), ピーター・トローワー (著)
認知行動療法はさまざまな疾患に適用が広がりつづけているが、我が国での統合失調症への展開は遅れている。本書は、従来心理学的介入の効果が乏しいと考えられてきた、妄想や幻聴という、苦痛が大きく治療も難しい問題に対する認知行動的アプローチを紹介する。認知行動理論の基礎から、実践のガイドラインまで、臨床家に必要な情報がそろった一冊。アセスメント・ツールや介入の実例も豊富に収録、実践的で精神科臨床に携わるすべての職種に役立つ。(Amazon内容紹介より)
初めから読み直す。記録帳からの抜粋コピーを補足。
【序文】
治療者は妄想だけではなく、妄想につながる低い自己評価も扱う。
1.幻聴 「自動思考」ではなく、「きっかけとなる出来事A」
2.→それを特定のやり方で解釈する。その意味「信念B」
3.→「信念B」が感情や行動を方向づける「結果C」
信念を修正して苦痛を減らす。
これ、ラストのパーティーの場面でのバニーだって思った。
1のアルの幻聴を、赤毛との関係性・出来事として捉え、2で「良心・超自我」との解釈を与えて、アルの赤毛への敵意を削ぎ、反抗する息子としてのアルを受けとめてあげたんだな。
第7章では、著者は、パラノイアが心理学的に「迫害」と「処罰」の2つに分けられると主張する。
・迫害型は、身に迫る悪意が不当なものだと信じ、その結果として怒りを感じている。
・処罰型は、自分が悪いのだから他者が自分に罰を与えるのは正当だと信じており、その影響で強い不安と恐怖を感じている。
「症状を維持する心理的脆弱性を理解する枠組みが必要」
すべての患者(さらにいえば、すべての人が)苦労しながらも絶え間なく「自己感覚」をつくりあげている。
そして「関係構築の問題」
はじめに
【症状中心モデル】
「脅威刺激への個人的意味づけ」
「情報処理の偏り」
まず概念を疑うことから――。
「統合失調症の症状は、他の精神障害とは異なり、正常な体験とは連続しない」
「妄想とは信念とよべるようなものではなく、中身のない演説のようなものであり、その内容は自己とも世界とも関連しない」
それに対する、「精神病」と「健常者の心理現象」の連続性の実証的根拠。
認知行動アプローチで、症状の維持メカニズムを明らかにする。
Ⅰ.認知行動ABCモデル
【認知行動理論と認知行動療法に共通する唯一の原則について】
例として。
男が2階で寝ている。下の階で物音がした。
強盗だと考える→恐怖を感じる→警察に電話
遊びで帰りが遅くなった妻だと考える→むっとする→(行動)
「出来事」への反応である「感情」や「行動」が、「思考・イメージ・信念」によって媒介されるという点である。
と、説明されている。頻繁に立ち止まることになるのが、この「心理学ワード」。私がこの例を説明すると、
「出来事」を「思考やイメージ、あるいは固定観念」で解釈して、その解釈が「感情」を引き出し、「行動」を起こす。
となると思う。でも、「解釈」というワードは精神分析的意味合いを含むので、行動心理学ではあまり使わないのかな?(読み進めると、結構出てきました。一般的な意味での「解釈」として)
含む意味が一般概念とは異なっている。日常会話にぽんぽん専門用語が入ってくる。そういう会話をどう描くか。喋り方、用語、多く使う表現、全部自己表現。
中でも心理学は、言葉の定義がとても重要な意味をもつ。面白くて、難しい。こんなふうに横道にそれるから、ページが進まない。
・エリスのABCモデル
[A]きっかけとなる出来事
[B]信念(イメージ・思考・信念)
[C]情緒的・行動的結果
この[B]の信念(Belief)が、自分の中ではそこまで確固たるものに思えなくて、自分の持つ情報量によって、その都度変わっていく「解釈」の方が近い。言葉の細部に囚われているんだろうなぁ。ページが進まないのでいったん保留します。
[B]は感情の原因ではない。原因は複雑でABCは多くの場合一体化した体験として生じる。
ABCモデルにおける[B]の意味。
イメージ、推論(=自動思考)、評価、非機能的な思い込みという4つの認知が重視される。自動思考はベックが名づけた。
笑。進むとちゃんと説明してくれる。そりゃ、首捻るわな、自動思考に信念のワードをだされると……。
やっぱり、定義、定義で誤解を最小限にしていくのかな。昔は専門書なんか意味不明な世界で目が滑るばかりだったのに、今は面白いと思えるのが嬉しい。
「偏った推論」
・恣意的な推論:自分が望むとおりの結論を出すこと
・選択的注目:重要な特徴を無視したり、文脈から外れた些細な点に注目したりして、断片に基づいて経験全体を理解しようとすること。
・過度の一般化:わずかな出来事から一般的なルールや結論を導いたり、その結論をすべての状況に応用したりすること
・拡大解釈や過小評価:ものごとの重要性や意義を大きく偏らせて評価すること
・個人化:自分とは関係のない出来事を自分に関連づけて考えること。画一的な推論、あるいは、恣意的な推論で、ものごとがうまくいかないときに自分を非難する傾向でもある
・絶対主義的傾向・二分法的思考・白黒思考:すべての出来事を、2つの相反するパターンのどちらか一方に位置づける傾向。単純な誤りが破滅的な誤り、些細な失敗が完全な失敗だと解釈されやすい。
「非機能的な思い込み」について
「クライエントは自分の推論に気づくことができる(ただし、推論としてではなく、事実として気づく。)言葉で論理的な「気づき」を得る人もいるが、断片的なイメージやフレーズとして気づく場合の方が多い。しかし、評価や非機能的な思い込みにはなかなか気づかない。
原則1.臨床的問題は全てが[C]である
認知行動療法は、深刻な感情的苦痛(うつや不安など)と行動(自傷や回避など)を緩和するためにある。この意味で、扱う対象とは、重篤な感情的・行動的障害である。
原則2.問題は[A]からではなく、[B]から生じる
原則3.[B]と[C]の間のつながりは予測できる
脅威 ――不安と関連し→回避・逃避行動へ 将来に生じる可能性があるものに向けられる。
損失 ――抑うつや引きこもり行動と関連、孤独感・絶望感と関連。 信念・感情は過去に向いている。
権利の侵害に関する信念と否定的「自己→他者」評価――怒りや攻撃性に関連。自分の相対的な地位・地位への脅威・復讐への信念と関連。過去・現在・未来のいずれにも向かう。
原則4.中核信念は人生早期の体験から生じる
最も基礎的な[B](非機能的な思い込みと個人評価)は人生の早期に学習され、その子どもが得た愛着(親密さ)と自律性(自己定義)の総量を反映している。
1.関連構築動機
2.自己定義動機
第三者への親密な愛着を示すためには、一時期にあえて自律性を断念しなければならない。一方で、自律性と自己定義の発達や探究のためには、愛着対象から離れなくてはならない。
健全な心理的発達とは愛着と自律性のほどよいバランス
それを脅かす人生早期の3タイプの体験
・第一のタイプ 養育者に一貫性がない・怠慢・拒否的・育児放棄の傾向
子どもの依存感覚が脆弱になる。孤立した場合の空虚感と絶望感が強くなる。
・第二のタイプ 養育者に侵入的・操作的・批判的・懲罰的な傾向
子どもは他者を避け、他者や自分自身に批判的、無価値観を抱きやすい。
・第三のタイプ 愛着対象の大きな混乱や損失(死や見捨てられ)重大な外傷体験がある
子どもは、第二・三のいずれかの状態に陥る可能性がある。その損失をどのように解釈したかによって決定される。
ある人たちは、特定の出来事[A]に反応しやすくなっている。その人たちは、この脆弱性を保護し、恥、さみしさ、絶望感などを再体験しないような対人関係スタイルを発達させる。→他者から特定の行動を引き出し、対人関係をすぐに固定化するようはたらく。
原則5.信念を弱めることで、関連した苦痛や困難も弱めることができる
長い引用になってしまいました。でも基本の定義だから。
2.妄想へのABCアプローチ
妄想として表に現れるのは常に「推論」。多くの場合「評価」が潜在する。これを引き出すには思考連鎖法が必要。
1つの幻声は、悪意か善意かのいずれか。
悪意に関する2つの信念=「当然の罰」か「不当な迫害」
幻声に対する行動的・感情的反応
・協調
・抵抗
・無関心