「いつかイギリスに暮らす私」(エッセイ)
井形 慶子 著
失恋した時、仕事に疲れた時、いつも優しく抱きとめてくれたのは、安らぎの風景と確かな暮らしのあるイギリスだった。あなたも。
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前回の渡英の際、段ボールに詰めて送ったなかの一冊だけど、その時は開かずじまいだった。あと1週間で帰国という段になって読み始めてる。ロンドンへの電車の行き帰りで半分読めました。この著者の他の本も読んでいて被る部分もあった。
バギーの必要な小さな子どもを連れてのイギリス滞在の始まりで、思いきり共感。イギリスに来て驚いたのがこの著者と同じで、まず子どもに優しい国だということだったから。
行き交う人の視線が優しい。ちょっとした言葉をかけてくれる。気にかけてくれる。それが顕著にわかるのが電車で、何でも自分でやりたがる三歳児、段差があってちょっと怖い電車の乗り降りを一人でやりたがる。その様子を邪魔だと邪険にせず見守ってる。時に手を貸すべきかどうか気にしながら。空いている横を通っていけばいいのに、なんか見ている人の多いこと。そしてうまく降りれたらにっこりしながら褒めてくれる。
今回の滞在は子どもが一緒で、全然見える景色が変わった気がする。
それから犬。滞在先が田舎なのもあってか、犬連れている人の多い事。そしてこの本で語られているのと同じように、子どもが犬をかまうことにも寛容だ。
そんな通りすがりの関わりを通して、英国人のコミュ力の高さと社会性を思い知らされた。円滑なコミュニケーションに英語力が必要だけど、相手が上手く喋れない場合のあしらい方も解っているようで。
20年以上前の本なのに、イギリス社会は、というか良い社会性は変わっていないんだな、と思いながら読んでいます。ここで語られている著者の惹かれるイギリスの良い面には、本当に賛同できる(というか悪い面はあまり触れられていない)。ホスピタリティという言葉を使っているけれど、それが自分を孤独を感じさせない、安心感に繋がっているんだろうな。
最後まで読み終えました。え、これどうなるの! と著者の人生の一部を見せられ、その後どう展開していったのかがとても気になる終わり方でした。
イギリスという憧れの地に住むことと、現実の日本での生活。夢を叶える選択には今持っている現実を手放し諦めなければいけない。そして踏み込む夢の世界で現実的に自分は生活していけるのか。
それは私自身が抱える疑問であり葛藤でもあるので、著者がどう選択するのかすごく興味があったのに、その前にページが終わってしまったよ。他のエッセイ本に書いてあるかな? 略歴で再婚されたことや、ロンドンに家を買ったことは知れるけれど。ブライアンとの関係はどうなったんだ! 気になる!
最近、承認欲求についてよく考えるのだけれど、初めてこの言葉を学んだ時の意味は、悪い意味ではなかった。それが利己的な意味で貶められる使われ方の方が多いのだと知った。
日本人駐在員との同居の項で、人間関係を結ぶことが自身の承認欲求で彼女の安心に繋がるものだとわかる。それを利己的だと批判するよりも、相手の良い部分を褒める=承認することで、良い関係性を継続させることができるのだとわかり、すごく腑に落ちた。サバイバルに生きるバイタリティに溢れた彼女のような人との、ちょうどいい距離感、付き合い方なのかと。
著者にとって、自分の外に憧れの世界がある。その世界で産まれ育った異性もまた、その憧れる空気を作り出すことができる。だからそういう相手に惹かれはしても、自分がそうなるために選ぶ生き方は真逆で、わき目もふらずひた走り続けてる。それが彼女の個性で生き方だと著者自身も解っている。
けれど著者はもっと後のエッセイで、自分の思考や生き方を縛っていたものに気づいていくらしい。セラピーを受け、それが自分だと思っていたものも変わっていったのだろうか。ちょっと気になる。