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希望:和菓子が好きなお嬢さん

作者: 藤沢みや

和菓子屋常連のお嬢さん視点です。

『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』応募作品のため、短いです。和菓子を使用しています。本文内には金魚も入っています。

「いらっしゃいませ」

 小さな和菓子屋の三代目が穏やかに笑う。

「こんにちは」

 不審者と思われないように気をつけながら微笑む。

「ごゆっくり、どうぞ」

 彼はそう言うと陳列ケースからやや離れた。

 陳列ケースの中の板重ばんじゅうという木製の箱の中に、色とりどりの和菓子が並ぶ。

 ちょこんと置かれた小さな四季の世界。

 暑い夏に最適な、涼しげな和菓子が並ぶ。

 透明な寒天の中で泳ぐ金魚は、水面まで再現されていてまるで生きているよう。

 宝石のような琥珀糖こはくとう氷菓糖ひょうかとうまんじゅうにみずまんじゅう。あとは美しく細工された練り切り達。朝顔あさがお向日葵ひまわり撫子なでしこ、星がキラキラ飾られたもの。清流という波が描かれたもの。見ているだけでワクワクする。


 ――― これで、私が白あんが苦手でなければ……


 和菓子屋に通っていて、店員さんとも話すけれど……私は白あんが苦手なのだ。うぐいすあんも苦手。練り切りは見ているだけでいい。

 あんこは粒あんが至高。

 こしあんも嫌いじゃないけれど、あの粒々が最高!

 でも、ここでは上用まんじゅうラブ!!

 柏餅は粒あんがいい。

 このお店は、こしあん、粒あんの両方が置いてあり、選べるという親切っぷり。素晴らしい!素敵!!

 桜餅はこしあんでも粒あんでも大丈夫。

 このお店にはないけれど、鯛焼きは尻尾まで粒あんが入っているのがベスト。


「……あの」

 奥の場所にいた三代目が「お決まりですか?」と聞いてくれる。

「じょっ……上用じょうようまんじゅうを二個っ」

「はい、かしこまりました」

 三代目が微笑んだ。


 今日こそは、赤い金魚が可愛らしい金魚羹きんぎょかんとか、朝顔の練り切りとか買おうと思っていたのに!

 また、私のSNSは丸いものだらけ!!

 でも、おいしいからいいのだ。


 友達から素敵な店主さんがいるよと教えられて興味本位で訪れたけれど、今やこのお店のあんこに夢中!


 コスモス柄の紙袋を手にしてにやける。おっといけない、家まで我慢我慢。

 ふふっと小さな笑い声が聞こえる。

 顔を上げれば、三代目が笑いを堪えていた。

 すみません、欲望に忠実で。

「はい、どうぞ」

 震える声で渡されたのは、お寺の大お茶会のチケット。

「お茶会?」

「ちゃんとしたお茶会の雰囲気も面白いですよ」

 私は瞬く。お抹茶立てて、お着物でしずしずというイメージしか浮かばない。

「一緒に行きますか?」

「……へ?」

 間抜けな声が出た。

「考えてみて、あんこが好きなお嬢さん」

 私はもう一度瞬いた。



 せめて、和菓子が好きなお嬢さんがよかったな。




おしまい

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