[9万PVお礼S S ] もう一つの幸せな話
この作品のPVが9万を超えている事に今頃になって気がついた私です。
たくさんの方に読んで頂いて嬉しいです。ありがとうございました。
お礼と言ってはなんですが、番外編もどきのS Sを書かせて頂きました。
時系列的には、ルルレットが転生した6才の頃の話です。
本編ではルルレットが王太子として成長していく間が数行で終わったので、その時周りでどのような事があったのか書いてみました。
話の語り手は、ベリアルが騎士になる前に従者として仕えていたサンドロ・ムスチーニさんです。
それではよろしくお願いします!
〜 ラジアル王国 国王執務室 〜
「陛下、中央方面騎士団 第6隊隊長 サンドロ・ムスチーニ、お召しにてまかり越してございます」
「おお、ムスチーニ隊長、遠方から呼び出して悪いな。実は其方に頼みたい事があっての」
「はっ、私に出来る事でしたら陛下のお望みに叶うよう全力で勤めさせていただきます」
ラジアル国王はムスチーニを手招きすると声を落として話し始めた。
「実はゴルシラック伯爵家よりベリアル・ゴルシラックの行方がわかったと連絡があった。
其方の従者だった事があるはずだが覚えておるか?」
騎士になるには、先輩騎士の従者になって2年間生活を共にする見習い期間を過ごさなければならない。
その2年をベリアルはムスチーニの従者として過ごした。
「ベリアル・ゴルシラックでございますか?はい存じております」
「うむ、彼は近衛騎士団でミレディーナ姫の護衛騎士をしておった。
そして…ゴホン…ミレディーナの短慮によって彼の婚約者が命を落とし、彼は騎士団を退団した」
「はい、その件も存じております。ベリアルは婚約者の生まれ変わりを探す旅に出たと聞き及んでおりますが…」
「そうだ。彼は2年近くの月日をかけて大陸を旅し、その旅の途中でズッシード王国の王妃になったミレディーナを魔物の襲撃から救ったそうだ。ベリアルは今ズッシード王国でミレディーナが産んだ王太子の護衛をやっておるらしい」
「なんとそのような事が」
「連絡を受けたゴルシラック家は、護衛の職を辞して一日も早くラジアル王国に帰還するようにと度々言っておるのだが、ベリアルは頑として承知しないらしい。
もしかしてミレディーナがベリアルの帰還を阻んでいるのではないかと、ゴルシラック家から苦情まじりの訴えが矢のように来ておってのお。ほとほと困っておるのだ。
ムスチーニ隊長、ベリアルをラジアル王国に帰還させる方法は無いか?
我が王家としても、ミレディーナが起こした事件なので責任を感じるのだ。ベリアルには幸せな人生を歩んでもらいたい。
ズッシード王国に行って、ベリアルがなぜ帰国しないのか、どうしたら帰国する気になるか探って来てはもらえないか」
「わかりました。それではズッシード王国に参り、ベリアルの胸中を探って参ります」
「うむ、それからな、先日ミレディーナと孫の肖像画が送られて来たのだが、それが何とも愛らしい孫でのお。
王妃も最近体調がよろしくないし、一度孫に会わせてやりたいと思っているのだが、ミレディーナはまだ怒っておるかのお」
ミレディーナ様が事件を起こした後、周りの目もあり早く嫁がせたがった陛下は、かなり年上のズッシード国王に嫁がせた負い目を感じているのだろう。
素直に遊びに来て欲しいと言えないのがわかった。
「ミレディーナ様に王妃様のお見舞いに来られないか伺って参ります」
「うむ、ではよろしく頼むぞ」陛下は嬉しそうに頷かれた。
「はっ、承知致しました」
サンドロは王宮の中庭を眺めながら思案に耽っていた。
なぜベリアルは、婚約者を死に追い込んだミレディーナ姫の元にいるのだろう?
姫が魔物から助けたベリアルの腕を見込んで護衛にしたのはわかる。
彼は自分の従者だった頃からめきめきと力を付け、騎士団でも指折りの実力者だった。
しかもベリアルは若い女性が間違いなく心を奪われる美形騎士だ。
きっと我儘王女のミレディーナ姫の事だ。自分の過去の行いを忘れ、自分のお気に入りだった美形騎士を手元に置こうとしているのではないだろか。間違いない。そうに決まっている。
いやしかし、陛下は今は王太子の護衛をしていると言っておられたな。
なぜベリアルは実家から帰国しろと言われているのに帰って来ないのだ?
あちらに気になる女性でもいるのだろうか?
しかし、あちらの国で愛する女性が見つかったなら、女性を連れて帰るのが普通だろう。彼は裕福なゴルシラック伯爵家の次男なのだ。
帰ってきたら護衛などしなくても豊かな生活が保障されている。
サンドロはわけがわからなくなって頭を抱えた。そしてある事を思いついて家路を急いだのだった。
家に帰ったサンドロは妹のマリーナの部屋を訪ねた。
「マリーナいるか?入るぞ」
「まあ、お兄様お帰りなさいませ。陛下のお話はいかがでしたの?」
マリーナも女性でありながら剣が得意で、今は王妃様付きの女性騎士として働いている。
南方の国出身の母の血を引いて目鼻立ちがはっきりした、なかなかの美人だ。
だが、真面目だが引っ込み思案な性格が災いして、19才になっても恋人はおろか男友達の一人もいなかった。
「おまえに頼みがある。一緒にズッシード王国に行ってもらえないか?
前にベリアル・ゴルシラックが家に遊びに来た事があるだろう?彼は今ズッシード王国で王太子の護衛をしているのだが、ラジアル王国に帰国するよう促して欲しいと陛下から依頼があったのだ」
「まあ、ベリアル様が…」
ベリアルは騎士団の中でも一番の美形騎士だった。
その輝くような容姿にマリーナの友人達も憧れる者が多く、彼が兄に連れられて家に遊びに来た時は、あまりの嬉しさに真っ赤になって挨拶もろくに出来なかった覚えがある。
そのベリアルが不幸にも婚約者を失い、放浪の旅に出た話を聞いた時にはマリーナも女性騎士達も涙を流したものだ。
ベリアルがズッシード王国から帰国できないと聞けば、なんとか力になってあげたいと思った。
マリーナにとってベリアルは初恋の相手で、今でも憧れている男性なのだ。
「わかりました。私もベリアル様に幸せになっていただきたいです。ズッシード王国がベリアル様を帰国させないというなら、私を縁談の相手として会いに行くのはどうでしょう?
それならベリアル様のお気持ちを知る事ができるのではないでしょうか?」
「私もマリーナをお見合い相手として連れて行ったらどうかと思ったのだ。マリーナはこの兄から見ても美しいし気立ても良い。ベリアルに想う女性がいないのならマリーナと結婚して帰国するのが一番だと思う」
兄妹二人はベリアルを帰国させる為に協力する事にしてズッシード王国に旅立ったのだった。
ズッシード王国の王都は、天然の要塞のような険しい山に囲まれた盆地にあった。
街の入り口から王城行きの馬車に乗り換え、門で兵士による身元確認を受ける為に列に並んでいると、門の中から鎧を着てランニングをしている集団が走り出て来た。
「お兄様、あの集団の先頭にいる子供の隣で走っていらっしゃるのは、ベリアル様ではないでしょうか?」
なるほど、よく見れば一番前を走る眼帯をつけた男はベリアルに間違いなかった。
「おいベリアル!私だ!サンドロ・ムスチーニだ!」
「サンドロ先輩ではないですか!どうされたのですか?」
声に気がついたベリアルは、走っている集団を止めると子供を連れて走って来た。
(まったく片目を失って眼帯をしていると聞いていたが、美形度が下がるどころか、ますます男前が上がっているじゃないか…)
近くに来たベリアルは、以前のキラキラした美しさが鳴りをひそめ、男の自分でもドキっとするような男の色気を感じさせる存在感のある男になっていた。
隣にいるマリーナの眼も完全に王子様に会ったような夢見る女の子の眼になっている。
「ラジアル王国の国王陛下からズッシード王国国王陛下に信書を預かって来ている。ズッシード国王陛下に取り次ぎを願いたいのだが…」
それを聞いたベリアルは待機させていた集団に何かを指示して解散させた。
「今関係先に連絡させましたので、すぐに担当の者に案内させます。
先輩、ご紹介します。こちらがズッシード王国の王太子殿下であらせられるクロウズ殿下で、6才になられます。
クロウズ殿下、この方は殿下のお祖父様にあたられる、ラジアル王国の国王陛下の使者で来られたサンドロ・ムスチーニ様です。私の騎士団時代の先輩なのですよ」
一緒にいた子供はなんと王太子殿下だったか。
私と妹は騎士の礼をとって挨拶した。
「お初にお目にかかります。サンドロ・ムスチーニでございます。中央方面騎士団の隊長を拝命しております。隣におりますのは妹のマリーナ・ムスチーニでございます。
殿下の祖母にあたられる王妃陛下の護衛騎士をしております。どうかお見知りおきください」
王太子は小さな身体でしっかり私の顔を見ると、こう答えた。
「初めまして、クロウズ・エルフレド・サムエル・リスカ・ズッシードです。
ムスチーニといえばムスチーニ侯爵家の方ですか?
侯爵夫人はたしか南方のリサイダル公国のご出身でしたね。
リサイダル公国は薬学の研究が進んでいる国で、私が1才の時にムール病に罹った時には、母が侯爵夫人に依頼してリサイダル公国から特効薬を送ってもらったと聞きました。
それから我が国からリサイダル公国に医学を学びに行っている者が増えたのですよ。
侯爵夫人はお元気でいらっしゃいますか?
母もお会いできたら喜ぶと思いますので、ぜひお話を伺わせてください」
驚いた。普通、己れが1才の頃罹った病気に使われた薬の事など知っているか?
小さな子供でも隣に侍従が控えて、相手の情報を伝えながら挨拶させるならわかる。
しかし、ここは王城に入る門の外だ。あらかじめ調べておくわけにはいかない。
この子の挨拶の中には他国の貴族の情報、他国の産業の情報、自国民の教育環境など多くの情報が含まれている。
という事は、この年でどれだけ多くの事を学習しているというのか…。
見た目の幼さで判断してはいけない。この子供は立派な王族で、とても優秀な王太子殿下だ。
私はこの小さな殿下に対する認識を改めた。
「我が侯爵家が殿下のお役に立ちましたなら恐悦至極でございます。ミレディーナ様、クロウズ殿下に国王陛下からお手紙と贈り物を預かって来ております。後ほどお二方にお渡しする機会を得ましたら光栄でございます」
その後、私達はラジアル王国の賓客として案内され、国王陛下にお目通りする事ができた。
謁見の間で対面したズッシード国王は、30代か40代に見える一目で武芸の強者とわかる背の高い美丈夫だった。
「よくぞ参られた、ラジアル王国中央方面外務情報局 局員サンドロ・ムスチーニ侯爵令息殿、マリーナ・ムスチーニ侯爵令嬢殿」
やはり外務情報局の話も筒抜けだったか…。
中央方面騎士団第6隊隊長は表向きの肩書きで、実は他国の情報を掴んで分析する部門。要するに間諜である。
「お初にお目にかかります。ラジアル王国国王陛下より信書をお届けする為、ズッシード国王陛下に拝する名誉を頂きました。
私はサンドロ・ムスチーニ、隣りに控えますが妹のマリーナ・ムスチーニでございます。
何とぞお見知りおきくださいますようお願い申し上げます」
「そう改まれる事も無い。私はラジアル国王陛下から見たら娘婿だ。
舅殿と姑殿はお元気でいらっしゃるか?」
「はい、毎日つつがなくお暮らしになっておられます。
両陛下は、先日送られてきたミレディーナ様と王太子殿下の肖像画を毎日眺めていらっしゃると聞き及んでおります」
「なるほど、先程舅殿から送られて来た信書を見たが、ランドア聖国のズルク河通行許可制に一緒に反対しようとあったな。10年前からこちらが言ってきたのを何で今更と思ったが、今回の信書の本当の目的は、孫の顔が見たいから連れて来いか?
それとも王太子の護衛のベリアルを返せと言いたいか?どちらかだろう。違うか?」
(両方です…)
「実は、我が国のゴルシラック伯爵家よりベリアル殿に帰還を要請しているのですが、ベリアル殿から一向に了承の連絡がございません。ゴルシラック伯爵家より帰還できない理由があるなら教えて頂きたいとの請願が来ております。
ズッシード国王陛下におかれましては、理由をご存知ならお聞かせいただきたく存じます」
国王は顎に手を当てて、少しの間思案して答えた。
「ふむ、結論から言うと私にもわからない」
(は?)
「ベリアル…いやベリアル殿が王妃の護衛に就いた時に、王妃の専属の護衛として契約したのだが、王太子が生まれて名付け式の後、突然王太子付きの護衛にしてくれと言い出した。
契約書には、期間は無期限。ベリアル殿の意思でいつでも辞めて良い事になっている。
契約主も私では無い。王太子が契約主の個人契約なのだ。
なぜベリアル殿がそのような契約を希望したのか私にはわからない。
よってゴルシラック家がベリアルを返せと言っても私にはどうしようもできないのだ」
これは予想外だ。ミレディーナ様どころか国王陛下も関知していなかったとは…
「ではベリアル殿が帰国したいと言ったら、すぐにでも帰国させてよろしいのですね?」
「無論、その時はズッシード王国を挙げて感謝の気持ちを込めた式典をもって送り出そうと思っているぞ。
彼はダイヤウルフの群れを一人で殲滅して王妃を助けた英雄だからな。
先程走っている集団を見ただろう?彼らはこの国の騎士団の精鋭部隊なのだが、全員ベリアルに心酔していてな。
ベリアルが帰国したら全員付いて行くかもな。ワハハハハ」
(いやそこ、笑い事じゃ無いんですけど…)
「そう言えば、この後王妃に会うなら、すまんが妹殿は席を外してくれぬか?」
私は妹と顔を見合わせた。
「いや、妹殿の髪の色が赤みががった茶色であろう?
王妃はその髪の色の女性を見ると精神状態が不安定になってな。失神する事があるのだ。
使者殿が王妃に会っている間に妹殿は我が国の女性騎士と交流されてはどうかな?
女性騎士と練習試合の後、お茶会に参加されると良い。
我が国の菓子もなかなか美味いぞ」
ニコニコと勧める国王にマリーナもそれならと女性騎士に連れられて出て行った。
「使者殿、ミレディーナもベリアル殿もなかなか難儀な運命を持っておるな」
私は国王陛下が何をどこまで知っているのかわからず返答に迷い、一礼すると謁見の間を辞去した。
国王との謁見を終えた私は、ベリアルに外してもらって、ミレディーナ様と王太子殿下にお目通りを願った。
久しぶりにお会いしたミレディーナ様は、8年の歳月で少女から女性に鮮やかに変わられ、王妃としての気品に溢れておられた。
「使者殿、私はクロウズをラジアル王国に行かせるのは反対です」
早速、ミレディーナ様に母王妃様のお見舞いをお願いしたのだが、初っ端から断られてしまった。
「ミレディーナ様、なぜでございましょうか?国王陛下も王妃様も肖像画を見ながら、しきりにお二人に会いたいと言っておいでなのです。申し上げにくいのですが王妃様は胸の病に罹っておられ、この機会を逃すと二度とお会いできないかもしれません」
「使者殿、私だけならお見舞いに行く事ができますが、卿もズッシードに来る時にランドア聖国を流れるズルク河の通行に聖国の許可を取ったのではないですか?」
「はい、通行許可証を取って参りました」
「ランドア聖国は、我が国の鉱山が欲しいのです。許可を得てクロウズがあの国に入った途端、あの国の王女が現れて結婚を迫りますよ。
実際、王太子妃にあの国の18才のアリアナ王女をどうかと縁談が来ているのです。
6才のクロウズに12才も年上の王女との縁談など、王妃として、母として、とても許すわけにはいきません。
元はと言えば、お父様がランドア聖国から話があった時に関係ないと言って、10年間もズッシードに狙いうちしたような制度を放置していたのが悪いのではありませんか。
孫に会いたいなら、一刻も早くあの制度を廃止させるよう伝えてください」
「なんとそのような話が…」
そこで次にベリアルを帰国させる件について聞いてみた。
「ゴルシラック伯爵家より、ベリアルを帰国させるよう要請が来ております。クロウズ殿下との個人契約で護衛をしているそうですが、ベリアル殿の帰国についてはどうお考えでしょうか」
「卿もご存知でしょう?私はベリアル様に二度も命を救われました。その恩人に私がどうして欲しいなどと厚かましい事とても申しあげられません。
ベリアル様がクロウズの護衛をしたいとおっしゃるのでお願いしているだけで、帰国したいと言われるなら希望を叶えて差し上げるのが当然です。
私達は何も申し上げませんから、ベリアル様のご希望通りにして差し上げてください」
以前の我儘王女の片鱗も見せない冷静な対応に私は驚くと共に、ベリアルが自分の意思で王太子の護衛をしているのだとようやく理解した。
岩山を利用した王城からは王都の街並みが眼下に広がり、とても眺めが良い。
私は誰もいないテラスにベリアルを呼び出し、二人きりで話をした。
「ベリアル、お前はラジアル王国に帰りたくないのか?ここにお前が心を残す相手がいるのか?
もしそうならズッシード国王は必ず味方になってくださると思うぞ。
ここに残って幸せになるというなら、ゴルシラック伯爵もきっと許してくださるだろう。
お前の本当の気持ちを教えてくれないか?」
「実は、自分でもよくわからないのです。ルルレットを失くして大陸中を探し回って、途中でラジアル王国に帰ろうと思った事もありました。
でも、帰る途中でダイヤウルフの大群に襲われる王妃様一向を見た時に、何としても助けなければならない…そう感じたのてす。
そして王太子殿下がお生まれになって、陛下が抱っこしてみろと殿下を私のこの手の中に受け止めた瞬間、私はこの方を守る為にここにいるのだと思いました。
私はクロウズ殿下をお守りしたい。ただそれだけなのです。
ゴルシラックの家族には何度もそれを伝えたのですが、わかってもらえないようです。
それが許されないなら、もう私の事はいなかった者として諦めてもらえないでしょうか?陛下からも家族にそう伝えて下さるようお願いできませんか?
私は一生クロウズ殿下のお側でお仕えしたいのです」
ベリアルの真摯な訴えに、私は心から理解した。
彼が王太子殿下の元から離れる事は無いと…。
テラスを出ると、クロウズ殿下が不安そうな面持ちで、ベリアルを待っていた。
「ベリアルは、ラジアル王国に帰ってしまうのですか?」
今にも涙が溢れそうな様子で尋ねる王太子殿下に、ベリアルは膝をついて答えた。
「殿下、このベリアル、殿下のお側を離れる事はありません。一生殿下の側で殿下をお守りするのが私の願いです。
どうかお側にいる栄誉をお与えください」
ベリアルはそう言って騎士の最上の礼である忠誠の礼をとった。
王太子は嬉しそうに「許します」と答え、破顔して涙を流した。
「お兄様〜、ご紹介します。ズッシード王国 近衛騎士団のハヤトール様です。
私達お互い一目惚れで…結婚したいのです。お兄様は祝福して下さいますよね?」
女性騎士達とお茶会をしていたはずの妹が熊のような騎士と一緒に現れて、顎が外れるほど驚いたのはそのすぐ後の事だった。
すぐにでも結婚したいという二人をまずラジアル王国の両親に報告してからと説得して私達は帰国の途についた。
「マリーナ、お前の理想はベリアルのような美形の男では無かったのか?あのような熊のような大男と電撃結婚しようとするとは思わなかったぞ」
帰りの船の中で妹を問い詰めると、妹はこう言った。
「だってお兄様、会った瞬間、この人が運命の相手だと思ったのですもの。
この人と離れられない、離れたくないと思ったらもう他の事を考えられなくなったのです。
私はお父様やお母様がどれだけ反対されてもズッシードに戻りますからね。お兄様も説得に協力してくださいませ」
「はあ…運命の相手かよ。ん、待てよ」
「なあ、マリーナ、もしかしてだけどクロウズ殿下がルルレット嬢の生まれ代わりで、二人共それに気がついていなかったとしたら?
クロウズ殿下は男だから結ばれる事は無いよな。そんな運命絶対に不幸だよな?」
マリーナは頬に手を当ててしばらく考えて答えた。
「そうでも無いんじゃないでしょうか。この広い世界で生まれ変わってまた会えたのです。それって奇跡ですよ!運命の相手じゃないですか!
ある意味、恋焦がれた二人がまた一緒にいられるなら、とても幸せな事ではないかと思いますけど」
「そんなもんかな…」
「お兄様も運命の人に出会えたらわかりますよ」
「………」
夕焼けが迫る頃、穏やかな流れを見せるズルク河で兄妹を乗せた河船はゆっくり河を下って行った。
年が明けたと思ったら、もうバレンタインデーも終わり、あっという間に卒業式…本当に時間が経つのが早いですね
私が今書いている新作は、落第の烙印を押された若い魔王様が知らない人ばかりの見知らぬ場所で新生活を始めるお話です。
もし暇で暇でどうしようもなく、仕方ないから読んでやるよっていう優しい方がおられましたら、読んでやってください。
4月開始の予定です。よろしくお願いします。
そしてお詫びですが、9月にこの小説を投稿した時に、最初にコメントを頂いた方に返信しようとして、操作を間違えて消してしまいました。
せっかくコメントを頂いたのに誠に申し訳ありませんでした。
もしお許しくだされば、またコメントを頂けたら嬉しいです。