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私が転生した理由

皆様お久しぶりでございます。

短編を書こうと思ったのですが、ちょっと長くなってしまったので分ける事にしました。

でもそんなに長くない予定です。夏休み中に終わりたい!



途中で女性に対する暴行シーンがあります。読みたくない方は読まない事を推奨いたします。






 シズラク大陸の南にラジル王国という国があった

その王国の王都シャッセンは世界中から物が集まり、手に入らない物な無いと言われるほど繁栄した都だった。

 王国の経済を支える街の一つがゴルシラック伯爵領の領都シラックスで、ここは大きな港湾都市として昔から栄え、たくさんの船が行き交っていた。

 そんな街を治めるゴルシラック伯爵家の次男にベリアル・ゴルシラックという13才の少年がいた。

 彼は金色の髪に碧の瞳を持つ大層美しい少年で、小さい頃から身体を鍛え、大人の伯爵家の騎士でも負かすほどの実力を身につけていた。

 彼が14才になったら王都の王立騎士団に入って出世し、ゴルシラック伯爵家の名を王国中に広めてくれるだろうと家中の誰もが思っていたのであった。



「ルル!誕生日のお祝いに来てくれてありがとう!」


「ベリアル13才のお誕生日おめでとう!これ私が刺繍したブックカバーなんだけど良かったら使ってね」


「うわ、ありがとう!かわいい小鳥だね。ルルが刺繍したなんて何回針で指を刺したの?」


「ひどい!小鳥じゃなくてゴルシラック家の紋章にある鷲なのに!それに指を刺したりなんかしないわ!」


「あはは、ごめんごめん!この鳥よくよく見たら鷲に見えるよ。ありがとうルル!」


 ルルと呼ばれた女の子は、ゴルシラック領の隣にあるレーシング子爵の長女で12才のルルレット・レーシング。

赤みがかった茶色の髪に黒い瞳の可愛らしい少女だった。

 2人は領地が近かった事で幼い頃から会う機会が多く、親交を深めていたのである。


「ベリアル、教会の神授の儀式はいつ受けるの?」


「うん、来週王都からシーサッド枢機卿が来てくださるから、その時に受けようと思うんだ」


 ラジアル王国では12才から15才の貴族の子が全員成人の儀式と呼ばれる[神授の儀式]を受ける。

[神授の儀式]では、生まれついた魔力と神から授けられたスキルと呼ばれる恩寵を教会独自の器具で測定するのだが、珍しいスキルや価値があるスキルが得られた時は、人を集めて披露パーティーをするのが習わしだった。

 ベリアルも王都から枢機卿を招いて儀式を行い、もし貴重なスキルを得られれば、祝いのパーティーで披露される事になっていた。



 〜 1週間後 〜



「おめでとうございます、ベリアル殿。[風使い]のスキルを得られたそうですね。港で繁栄しているゴルシラック家ですから、風を操る風使いのスキルがあれば船の操船も容易いでしょう。ますます御家の繁栄間違い無しですな」


 今日の主役ベリアルの元にレーシング子爵と娘のルルレットが祝いの言葉をかけていた。


「ありがとうございます。レーシング子爵、私は[風使い]のスキルでしたが、兄のイズアルが更に上の[風魔の使い手]のスキルを得ておりますので、私は家を出て騎士団に入り王都で人脈を作ってゴルシラック家の役に立てるよう頑張りたいと思っています」


「おお、ご嫡男のイズアル様は、風の最上級スキルをお持ちでしたか。本当にゴルシラック家の方は優秀なスキルをお持ちで羨ましい事です」


「レーシング子爵家もご長男は農業に関係する貴重なスキルを得られたと聞いた事があります。

妹のルルレット嬢も来年儀式を受けられたなら、貴重なスキルを得られるのではないでしょうか?」


「実はベリアル殿の神授の儀式に来られたシーサッド枢機卿が帰られる途中にレーシング領に寄っていただいて、神授の儀式を受けさせていただいたのです。

恥ずかしながら、子爵家程度ではわざわざ王都から枢機卿様をお招きする事はできませんから」


「ああ、王都への帰り道ですし、レーシング子爵領のワインは有名ですから、シーサッド枢機卿は喜んで向かわれた事でしょうね」


「ええ、精いっぱいのおもてなしをさせていただきました。

そうしましたら、枢機卿様が今まで聞いた事が無いという貴重なスキルをルルレットは授かる事ができたのです」


「枢機卿が聞いた事が無いスキルですか。それはいったい?」


 すると隣で大人しく聞いていたルルレットが慌てて父を止めた。


「お父様、ベリアル様のお祝いの席で私の話はやめてくださいませ!大勢の方がいらっしゃるのに恥ずかしいですわ!」


「うむ、そうだな。枢機卿様もどんなスキルなのか判断に迷うと言っておられた。この話はここまでとしよう」と言って挨拶して立ち去って行った。

 こうなるとどんなスキルだったのか気になるのが人情と言うもの。

ベリアルはルルレットをベランダに呼び出して聞き出す事にした。


「ルル、ルルが授かったスキルは何だったんだい?」


「うーん、それがよくわからないの。授かった紙に[転生]

とだけ書いてあったの。枢機卿様もこんなスキル見た事が無いって言われるし、転生って何が起こるのかしら?」


「転生って死んで生まれ変わるって事だよな?生きているうちは関係無いんじゃないか?ルルが生まれ変わって何かすごい魔物になるとか?もしかして魔王になったりして!」


「えっ、やだっ!魔物とか魔王とか最悪!」ルルレットは泣き出してしまった。


「ごめんごめん!こんなかわいいルルレットが魔王になる事は無いよ。全然怖くなさそうだしな」


「ぐすぐすっ…私…かわいい?」


「うん、かわいい。お嫁さんにしたいと思うくらいかわいいよ」


「わた…私をベリアルのお嫁さんにしてくれる?」


「ああ、僕が来年騎士団に入って従者から騎士様になったらルルレットを迎えに来る。そしたら結婚しよう!」


「本当に!嬉しい!!」


 ルルレットはベリアルに抱きついて喜びの余りまた泣き出したのだった。



 翌年、ベリアルは騎士団の入団試験にトップの成績で合格して王都に向かう事になった。


「ルル、1日でも早く王都に婚約者の君を呼べるよう頑張るよ!」


「ええ、それまで私は家事スキルを磨いて待っているわ!早く迎えに来てね!」


「じゃ行って来る。手紙を書くからルルからも送ってくれ」


 2人は別れを惜しみながら、再会を誓って別れた。


 王都に着いたベリアルは、王立騎士団の寮に入って、朝から晩まで従者として働いた。

ベリアルが付いた騎士で18才のサンドロ・ムスチーニは面倒見が良く、従者のベリアルをかわいがったので、ベリアルは騎士団の生活にもすぐに慣れ、訓練に励んでいったのであった。

 熱心に訓練に励みメキメキと実力を身につけたベリアルは身長も伸び体重も増え、少年から青年の身体へと成長していった。

 すると、生来の美貌と伯爵家出身という品の良さや優雅さが加わり、王城の女性を虜にしていったのである。


「おい、ベリアル、今日も見学席にミレディーナ第一王女殿下がいらっしゃってるぞ!」


「ああ、そうだな」


「そうだなって、お前気にならないのかよ!王女殿下だぞ!」


「あそこに座っているなら良いが、昨日みたいに見学席の手すりから身を乗り出そうとすると邪魔だな。外した魔法が飛んで行ったら危ない」


「ええっ、そっちじゃなくてお目当ての騎士はお前じゃないかって、もっぱらの噂だぞ!

騎士団一の美形で実力も若手でピカイチ!王女殿下も夢中になるって!」


「邪魔だな。目当てが俺でも俺じゃなくても、外野がうるさくてしょうがない!訓練の邪魔だからあっちに行ってくれれば良いのに」


「おいおいベリアル正気か?やっぱ婚約者持ちになると王女殿下でも目に入らないものなのかね〜」


 そんな友人の言葉に動揺する事も無く、ベリアルは脇目も振らず訓練に明け暮れるのだった。




「おめでとうベリアル・ゴルシラック!君は優秀な成績だったので東西南北、中央、近衛、全ての騎士団から入団の勧誘があったぞ!」


 2年という短期間で従者から騎士の称号を得たベリアルは騎士団長室に呼び出されてこう言われた。


「ありがとうございます!」


「それでだ。君は中央か南方面騎士団が希望だったな。しかし、ある王族の方が君を近衛騎士団に入れて欲しいとのご希望あってな。ミレディーナ第一王女殿下なのだが、王女殿下の護衛騎士はどうだろう?」


「王女殿下は女性ですので、どこでも護衛につける女性騎士の方が良いと思いますが?」


「うむ、お側にいるのは女性騎士で良いのだが、男性の騎士が全く要らないというわけでも無くてな…」

団長は何か奥歯に物が挟まったような言い方をした。


 ベリアルは王都でのゴルシラック伯爵家の立場を向上させる為に中央騎士団か、ゴルシラック領と関係が深い南方面騎士団に入りたかった。

 王族の護衛が主な近衛騎士団は実家の思惑からも外れており想定外だった。


「団長、ありがたいお話ですが、実家からも所領に関係深い所にするようにと言われておりますので、近衛騎士団はお断りしたいのですが」


「そうか、君の希望はわかった。この話は私に預からせてくれ。悪いようにはしないから」


 そう言って騎士団長は話を終わらせたのだが、王女殿下が国王陛下に泣きついた事で事態は急変したのである。


「すまない、王女殿下の我儘なのだが、殿下に甘い陛下が君を近衛に入れるようにと沙汰が下された。

陛下のお声がかりでは、私ではどうにもならん。諦めて近衛に行ってくれ」


「わかりました。ベリアル・ゴルシラック、近衛騎士団にお世話になります」


「うむ、君の報酬面は、できるだけ優遇しておく」


 団長室を出たベリアルは、イライラが止まらなかった。

「ベリアルは顔が良いから王女殿下のお気に入りになれた」

同期の騎士達の間で、ベリアルがこう言われているのは耳に入っていた。実力で選ばれたと言われたら励みにもなるが、顔で選ばれたと言われるのは心外だった。


 「娘の我儘に振り回されるなんて、陛下はどれだけ甘いんだ!」と心の中で呪詛を吐きながら訓練場へ向かったベリアルだったが、この機会に婚約者のルルを王都に呼び寄せようと思いついた。


 ゴルシラック伯爵家は王都に屋敷を持っているが、レーシング子爵家は持っていない。

結婚式まで、ルルをゴルシラック家の屋敷に住まわせて、王都に慣れたら小さな屋敷を買って独立したら良いんじゃないか?

 騎士爵を授かったベリアルはかなりの報酬が与えられる。

今までベリアルは遊びもせず訓練に明け暮れていたから、かなりの額が貯まっている。もう少し近衛騎士団で頑張ったら、小さな屋敷なら買うお金が貯まるのではないか?

 ベリアルは、ルルと暮らす新婚生活を夢見て憂さを晴らすのだった。



「ベリアル!ベリアルはいないの?」


 そんなある朝、ミレディーナ王女殿下の高い声が王女宮に響き渡った。

ベリアルの同僚アレフレッドは、主人の王女殿下にこう伝えた。


「王女殿下、本日ゴルシラックは休暇を取っており、婚約者とナジル湖にデートに行っております!」


「こ…婚約者?」


「あっ、はい、ルルレット・レーシング子爵令嬢であります。幼馴染だそうで羨ましいですよね〜」


 アルフレッドは脳筋なので、女の子の恋心なんていう繊細なものがわかっていなかった。

ベリアルに用事があったのだろうと、簡単に考えてベリアル達のデートの予定をベラベラと喋ってしまったのだ。


「王女殿下、大聖堂へ向かう馬車の用意ができましてございます」


そこへ王女付きの近衛騎士が呼びに来た。

 今日はこれから大聖堂で去年亡くなった王太后の追悼祈祷が行われるので、王族は全員参加しなければならない。

 ミレディーナはちょっと考えて、すぐにお腹を抱えて叫び出した。


「あっ、イタタタタ…急に体調が悪くなってきたわ!

私は大聖堂に行かずに部屋で寝ているから、お父様に伝えておいてちょうだい」

と言うと、お付きの侍女達を連れて部屋に帰ってしまった。


「何なんでしょう?王女殿下は?」


「さあな、いつもの我儘だろう。上の連絡は私がしておく。

アルフレッドは、居残りだったな。王女殿下のお部屋の前で警備を頼むぞ!」


「了解しました!」


 アルフレッドともう一人の騎士は王女殿下の居室の前で警備に当たったのだが、王女の寝室の書棚にからくりがあるのを知らなかった。

 その後、目立たないドレスを着た王女が侍女を1人連れて、王族だけが知る抜け道を使って城を抜け出したのだが、その姿を見た者はいなかったのである。





「ベリアル!ナジル湖って、とても綺麗な所なのね」


「本当だね。今日は快晴だからムージラ山脈の山並みもくっきり見えるな」


 あれからベリアルはルルレットを王都のゴルシラック邸に呼び、半年先の結婚式の後は王都で新居を構えるつもりで毎日忙しく働いていた。

 今日は久しぶりの休みに2人でデートをしようと王都近くのナジル湖にやって来たのであった。

 ベリアルは今日の為にルルレットが今日着ているドレスを王都で一番人気のある店で誂えてプレゼントした。

胸元に花飾りの付いたリボンがかわいいクリーム色の外出用ドレスである。


「ルル、そのドレス良く似合ってるね」


「ありがとうベリアル。あなたが選んでくれたんですってね。この花飾りの付いたリボンがとってもかわいくてステキだわ!」


 2人はボートに乗って水遊びをし、王都からの観光客目当てで出ている露店を巡り、洒落たレストランで食事をして岸辺を散策した。


「楽しかったわ。これまで王都のお屋敷から出る事が無かったから、久しぶりにリラックスできた感じよ」


「ごめんね、僕がもっと休みが取れればルルと出かけられるんだけど。その代わり結婚したら休暇が取れるから、ルルの行きたい所に連れて行ってあげるよ」


「本当、嬉しい!でもベリアルもお仕事が忙しいんだから無理しないでね。あなたと一緒に過ごせるならどこでだって良いわ!」

 2人は今後の夢を語らいながら、湖の周りを歩いていたが、ふと空を見上げてベリアルが呟いた。


「王都の方角に黒い雲が出てきたな」


 ルルレットもその方角を見ると、たしかに怪しげな色をした雲が出てきているのがわかった。


「雨が降る前に帰った方が良さそうだけど、新道で行くと間に合わないかもな?旧道は道は狭いけど近道だから旧道を突っ走るか」


 王都とナジル湖を結ぶ道は観光客が多いので、広くて舗装された道路が近年整備された。

朝はその道を通って来たのだが、広く作られた分大回りになっており、時間が余計に長くかかってしまうのだ。

 ナジル湖に乗って来た馬車は2人乗りの軽快車で、1頭立てだが車体が軽くスピードが出るのが長所だった。

 馬車に乗った2人は、雨が降る前に山道を抜けようと旧道を走って行った。

 舗装されていない細い道をしばらく走っていると、前方に路肩から外れて壊れている馬車を発見した。

 この場合、騎士としてベリアルには怪我人がいないか確認する義務がある。

ベリアルは馬車を止めて、馬車に近づいて行った。


「そちらの馬車の方大丈夫ですか?」


 ベリアルが馬車に声をかけると、木立の中から女性が2人現れた。しかしその人は思ってもみなかった人だった。


「ミレディーナ王女殿下!どうなさったのです!今日は王族の方は全員大聖堂の方にお集まりのはずですが?」


 現れた女性の顔を見てベリアルは驚きの声をあげた。

もう一人の女性も王女付きの侍女で、たしかリンディ伯爵令嬢だったはずだ。

 ベリアルは女性達に問い正した。


「怖かったわ!急に鹿が飛び出して来たのですって!馬車が道から外れて車軸が折れたそうよ。私も頭を打ったのよ。痛かったわ!」


 ベリアルはなぜこの場に王女がいるのか聞きたかったのだが、王女が頭を打ったと聞いて事情を聞くのを諦めた。


「大丈夫ですか?どこか出血している所はありますか?」


 王女に手を貸しながら乗っていた馬車に座らせて、騎士団で習った応急手当てを思い出しながら王女の容体を見ていった。


「出血はしてないと思うわ。シルビアも大丈夫よね?」


「はい、殿下、私も腰を少し打っただけで怪我はしておりません」


「御者はどこへ行ったのですか?護衛の姿が見えませんがどうされたのです?」


「御者は王都まで応援を呼びに行ったわ。馬に乗って。

護衛はいないのよ。私達は忍びでナジル湖に遊びに行こうとしたの」


「護衛を付けずにこんな所に侍女と二人でいらっしゃったのですか!」ベリアルは思わず大きな声で怒鳴ってしまった。


「そんなに大きな声を出さないでちょうだい。私は頭を打った怪我人なのよ。ベリアル・ゴルシラック、命令です!

私達をあなたの馬車に乗せて城に連れて帰りなさい!」


「ミレディーナ王女殿下、この馬車は2人乗りで全員は乗れません。今御者が応援を呼びに行っているなら、この場で全員まとまって待っているべきです」


 守る対象が分散していては、護衛が一人しかいない場所で守れるはずがない。

 ベリアルはこの場で救助を待つべきだと申し立てたが、王女は聞く耳を持たなかった。

 ルルレットは馬車から降りて二人のやりとりをハラハラしながら見守っていた。


「ミレディーナ王女殿下、彼女は私の婚約者です。では狭いですが、この馬車に女性3人で乗ってください。私は走って行きます」


「誰が手綱を持つのよ。あなたしか馬を動かせる人はいないわよ」


「もうすぐ雨が降るって言うのに、じゃあどうしろって言うんですか!2人乗りの馬車に4人は乗れないんですよ!」

思わずベリアルは怒鳴ってしまった。


「だから頭が痛いんだから怒鳴らないでちょうだい!4人乗れなくても3人なら詰めれば乗れるんじゃない?

ちょっと婚約者さんはここで待ってもらって、私と侍女を城に送ったら、すぐ引き返してくれば良いじゃない」


「雨が降りそうで日没も近いというのに、彼女を一人残して行けと言われるんですか?」


「そうよ、早くしないと雨が降ってくるわよ。さっさと乗せてちょうだい!」


 ルルは困っているベリアルを見かねてそっと話しかけた。


「ベリアル、雨が降りそうだから急いだ方が良いわ。私ならそっちの岩陰で雨宿りしているから。

殿下と侍女様を送り届けてから迎えに迎えに来てもらえれば大丈夫だと思うの。私ならそれまで一人で待っていられるから」


 ベリアルは今にも降りそうになってきた空を見てルルレットに言った。


「すまないルル、殿下を城に送ったら、すぐに引き返してくるから待っていてくれるか?」


「私は大丈夫だから気をつけて行って来てね。待っていますわ」


 ルルレットに背中を押され、ベリアルは王女と侍女を馬車に乗せると山道を下っていった。


 その後、雨がポツポツ降ってきたかと思うと、いきなり大降りの雨になった。

 慌てて岩陰に隠れたルルレットは、ハンカチで濡れた体を拭きながら隅に座りこんだ。

 雨は一層強さを増し、日没までまだ間があるのに夜のように暗くなってきた。


「ベリアル、早く帰って来てください」ルルレットは小さな声で呟いた。








「王女殿下をナジル湖近くの山道で発見!お連れしました。

頭を打っておられるようです。王宮医師の招集をお願いします!」


 ベリアルは王城に着くと近衛騎士団の建物に馬車を横付けして応援を呼んだ。


「おお、王女殿下が見つかったのか!誰か手を貸して差し上げろ!副長は侍医団に連絡!私は陛下にご報告にあがる」


 行方不明の王女発見の報に城は大騒ぎである。

ベリアルはアルフレッドを見つけると、簡単に事情を説明して、ルルレットが一人で山の中に取り残されていると話した。


「そりゃ大変じゃないか!廐舎で足の速い馬を借りて先に行け!俺達も後から追いかけるから婚約者を早く助けに行ってこい!」


 アルフレッドはタオルで雨で濡れたベリアルの頭をガシガシと拭くと、雨具を押し付けた。


「すまない、後をよろしく頼む!」と言うとベリアルは廐舎に向かい、馬に素早く馬具を取り付けると元来た道を引き返した。


 雨の中、暗くなりつつある道を全速力で走ったベリアルだったが、ルルレットの待つ場所に辿り着いた時には真っ暗になっていた。


「ルルレット!どこだ!ルルレット!」


 雨宿りしていたはずの岩陰も、周りも探したがルルレットの姿が見えない。

 嫌な予感がしてベリアルは壊れた馬車の所に戻った。そして道に灯りを向けてみるとたくさんの馬の足跡があるのに気がついた。


「雨でも消しきれない程たくさんの馬の足跡。こんな旧道を夜走る集団…まさか盗賊団か!」


 ここは王都の近くで比較的治安が良い地域だ。

しかし、数は少ないが盗賊が徒党を組んでいる事がある。

 最悪、ルルレットは盗賊団に連れ去られたのかもしれない。

 ベリアルは考えたくない予想が頭をよぎり、焦って馬を走らせた。

 しばらく走った所で馬の足跡は目立たないように隠された小道に曲がっていた。

ベリアルは慎重に馬を進めた。

 しばらく進むと急に視界が開け、1軒の大きな農家のような建物が現れた。

 近くには増築して建て増したような大きな廐舎があり、たくさんの馬が飼われていた。


 ここが怪しいなと思ったベリアルは、馬から降りると農家の窓の下に身を伏せて風使いの[声寄せ]で建物内の声を拾ってみた。



    キゾク・・ムスメ・・・ツギハオレ・・・

 

    ・・・・・・・ハヤクシロ・・・・・・・


タスケテ・・・・・ヤメテ・・・・・・・



 ルルレットの助けを求める声が聞こえて、ベリアルは悪い予感が当たってしまったのを悟った。

 騎士団の応援はまだ来ない。馬の数を見ると15人から20人の盗賊達が中にいるだろう。

 突入するのは自分しかいないが、ルルレットが中で助けを求めているのに応援を待つ暇は無い。

 ベリアルは剣を抜くと玄関扉を大きく開け中に突入した。


 「うおおおおっ!」

 ベリアルは突入して当たり構わず近くにいた男達を切り伏せていった。


「誰だ!」突然の乱入者に驚いた盗賊達は慌てて武器を取ろうとするが、下っ端の男達など現役の騎士であるベリアルの敵ではない。

次々に切り伏せられ床に転がっていく。

 休んでいた所を攻撃されたので武器が近くに無い。

盗賊達はそこにある椅子を投げつけたりしていたが、数分で全員倒すことができた。


 ベリアルは次の部屋に続く扉を開けたが台所で誰もいなかった。


「2階か?」階段を駆け上がって近くの扉を開けると…

馴染みのある赤みがかった茶色が目に入った。

 床にルルレットが横たわり、上に男が跨っているのが見えた。


「ルルレット!」


 一瞬で血が沸騰したベリアルは剣で男を一刀両断にした。

 男がルルレットの上から崩れ落ち、ベリアルがルルレットを助け起こそうと駆け寄ろうとした時、隣の部屋から大きな両手剣を持った男が現れた。


「おいおい、下にいる数合わせの連中を倒してからって、舐めてもらっちゃ困るな。

 俺様は元傭兵の間では名が通った鋼のジークってもんだ。

綺麗な顔をした騎士様、顔に傷を付けたくなきゃ、今すぐここから引き返しな!」


 鋼のジークと名乗った元傭兵はこの盗賊団の頭目なのだろう。明らかに下の連中とは迫力が違った。

 しかし、ルルレットを救う為にはここで引くわけにはいかない。

 ベリアルは剣を握り締めて突進した。


バシュ!ドスっ!


 ベリアルは早く決着をつける為に自分をガードするのを捨て、そのまま頭目の身体に飛び込んでいった。

 ベリアルの顔は斜めに切り裂かれていたが、剣は頭目の身体を見事に貫いていた。

 崩れ落ちるように床に倒れる頭目を見ると、ベリアルはルルレットに駆け寄り抱き起こした。


 自分がプレゼントして今日初めて着たばかりのクリーム色のドレスはボロ布と化し、花飾りの付いた胸元のリボンは粉々に壊され無残に散っていた。

 ルルレットの逃亡を阻止する為に両足の腱は切られ、全身に殴られた痕があった。


「ルルレット…」


 ベリアルは着ていた上着を脱ぐとルルレットの身体を包み、頭を自分の膝に乗せた。そして涙に濡れたルルレットの顔を拭いながら必死に謝った。


「ごめん、ルル、君を一人で残すんじゃなかった…」


「ベリアル…来てくれたのね…ううん、いいの、王女殿下は無事お城に戻られたのでしょ?それなら良かったわ」


「でも代わりに君がこんな目に会うなんて…」ベリアルは涙が止まらなかった。


「ベリアルよく聞いて。私は血が流れ過ぎたわ。もう長くない…。だから私が賜ったスキルを使おうと思うの」


「スキルって[転生]?」


「そうよ、ここで死んでも私はまた生まれ変わるから…あなたにまた会えるから、絶対にベリアルの元に帰ってくるわ…

今世ではあなたのお嫁さんになれなかったけど、来世ではベリアルのお嫁さんに…なりたい…」


「うん、わかった!ルルが魔物に生まれ変わっても魔王になっていても、僕はルルを絶対見つけ出すよ!だから僕と結婚して!」


「必ずよ…ベリアル愛して…いる…わ…」




 急速にルルレットの身体から力が抜けていく。






 そうしてルルレットは16年の短い生涯を終えた。






タイトルで幸せになると謳いながら、初回でヒロインが死んでしまうという残念な始まりですが、この後徐々に幸せ成分が滲み出てくる予定ですので、最後までよろしくお願いします!ハッピーエンド保証です!


 誤字、脱字を修正しました。

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