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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

漆黒の花嫁

作者: 陽菜

言うほど残酷な表現は入っていないと思いますが、念のためにつけておきます。

また、犯罪を擁護しているわけではありません。

この話もフィクションですので決して真似をしてはいけません。

「兄貴!逃げられました!」

「馬鹿か!早く追いかけろ!」

 俺は氷屋の兄貴に指示されて、敵対勢力のリーダーを追いかけた。

「すまない!こんな奴見ていないか!?」

 俺は近くを歩いていた女性に写真を見せた。

「えっと……この人ならあっちに走っていきましたよ」

 その女性は丁寧に教えてくれた。黒髪のその女性はとても美人で、奴を追いかけている間も忘れられなかった。

 ――それが、彼女と俺の出会いだった。


 俺は華道 康弘。三十直前の極道だ。

 俺の所属する組は狂人達が集まっている。まぁ、極道って時点でまともな奴はいないが……。

「康弘くーん。さっきから上の空だねぇ」

 部屋で考え事をしていると、氷屋の兄貴に声をかけられた。その隣には山中の兄貴。

 俺の首元にナイフがある。

「す、すみません」

「氷屋、あまり脅すな」

 山中の兄貴は極道の中でも比較的常識人だ。何かあった時はこうしてすぐに止めてくれる。

「それで、どうしたんだ?」

「いえ、なんでも……」

「命令だ、話せ」

 兄貴にそう言われては、逆らうなんて出来ない。

「その……先ほど出会った女性が忘れられなくて……」

 うぅ、俺は兄貴にどんな話をしているんだ……。

「さっきの……黒髪の女か」

 どうやら氷屋の兄貴は思い出したようだ。

「確かに、さっきの女は美人だったよなぁ。俺も惚れてしまうぜ」

「ほぅ。氷屋がそこまで言うとは。かなりの美人なのだな」

 しかし、再び会うことはほとんどないだろう。俺は極道だ、彼女とは生きている世界が違う。

「まぁ、康弘もそんな年齢だろう。あまりいじってやるな」

「いいじゃねぇかよ、山中」

 ……この二人は結構仲がいいな……。

 二人は同期らしい。それゆえに互いのことはよく知っているという。

「しかし、康弘。あまりうつつをぬかすな。俺達は命がかかっているんだからな」

「分かってます、兄貴」

 きっと、時間が忘れさせてくれる。彼女がこちら側に来てはいけないのだ。

 しかし、ふとした瞬間にどうしても思い出してしまう。もう一度会いたいを思う気持ちが襲ってくる。堅気に思いを寄せてはいけないのに。


 しかし偶然というのは突然やってくる。

 夜、買出しに出かけた時、

「……あら?あなたは確か……」

 そう、あちらから声をかけてきたのだ。それにはさすがに驚きを隠せなかった。

 彼女はどうやら花屋で働いているようだ。組の親父さんが姐さんによく送っている花屋のロゴを付けたエプロンを着用していた。

「あ、この度はお騒がせしてしまい、すみませんでした」

「いえ、大丈夫ですよ。お忙しいんですね」

 俺が慌てて謝罪すると、何も知らない彼女は優しい笑顔を向けた。

「その……余計なお世話かもしれませんが、夜道には気を付けてくださいね。悪い男が襲ってくるかもしれないので……」

 思わずそう警告してしまったが、仕方ないだろう。氷屋の兄貴ですら美人と言ったぐらいなのだから。

「いえ、大丈夫ですよ。神様がお守りしてくださりますから」

 しかし彼女はそう言って微笑んだ。

 神様……と言うと彼女は信仰者なのか。しかもかなり信仰深い人らしい。ならなおのこと、こちら側に連れてきてはいけないだろう。

「あの、お名前を聞いても……」

 しかし、その考えとは裏腹に俺の口は彼女の名前を聞いていた。

「私、ですか?月見 光莉と言います」

 光莉……いい名前だ。彼女によく似合う名前だろう。

「俺は華道 康弘と言います。その、よければ連絡先を交換しませんか?」

 何言ってるんだ俺ー!

 男にいきなりそんなこと言われたら怖がるだろー!何やってんだよ俺は!

 心の中で頭を抱えていると、

「連絡先、ですか?いいですよ」

 何と、彼女は嫌な顔一つせずにスマホを取り出したのだ。警戒心がないというか、ここまでくると心配になってくる。

 だが、せっかくのチャンスなのだ。嫌でないのなら連絡先を交換してもいいだろう。

「では、また今度、お茶でもしましょうね」

 私はまだ仕事が残っているので、と一つ頭を下げ、その場を去っていった。ふと下を見ると、十字架の刺繍が施された白いハンカチが落ちていた。それを拾って追いかけようとするが、既に店内に入ってしまっていた。仕方なく今度渡そうとポケットに入れる。

 事務所に戻ると、

「康弘くーん、なんで遅かったのかなー?」

 氷屋の兄貴にナイフを突きつけられる。時間を見ると、十分程度遅かったようだ。

「す、すみません……」

 殺される……!と思っていると「まぁいいや。ちゃんと買ってきたろうな?」と収めてくれた。そのことにほっとする。

 俺が買ってきたのは拳銃だった。今の日本は銃刀法があるため表立って買うことなど不可能だ。だから、裏ルートを使うのだ。

 実はさっき、それを光莉さんにばれていたらやばかった。既に持っていたから。

「誰にもばれていないだろうな?」

 山中の兄貴ににらまれ、「大丈夫です」と俺は頷く。気付かれていない、ハズだ。

「最近働き詰めだからなぁ。たまには女と遊んで来い」

 急に氷屋の兄貴に言われ、俺はドキッとした。

 ……まさか、ばれてる……?

「分かりやすいな、お前」

 山中の兄貴は小さく笑う。やはりばれていたようだ。

 結局押し切られ、俺は休みを取ることになった。


 次の日、俺は意を決して光莉さんに連絡を送る。

 数時間後、俺は光莉さんとカフェに来ていた。

「それにしても、まさか華道さんから連絡が来ると思いませんでした」

「い、いや、急にすまない。何か用事だっただろうか?」

 彼女が指定したのは昼頃だった。きっと理由があるに違いない。

「あー。今日は礼拝の日だったんですよ。キリスト教は日曜日に礼拝がありますから」

 キリスト教……俺は詳しくないが、かなり厳しいというイメージがある。そう言うと、

「まぁ、そのイメージがあっても仕方ないですね。カトリックは特に厳しいですよ」

 嫌な顔一つせず、彼女は笑った。ちなみにもっと厳しいのはイスラム教だそうだ。

 それから俺達は周囲を歩く。

「光莉さんは服とか見ないのか?」

「あまり興味がなくて……」

 苦笑いを浮かべる彼女の服装は、いたってシンプルなものだった。白いワンピースに黒のカーディガンを羽織っているだけ。それが彼女の美しさをさらに際立たせていた。

「幼いころに牧師様に拾ってもらって、それからずっと教会暮らしなんです」

 寂しそうに笑う彼女がとても儚く見えた。

 夕方、そろそろ戻らないと、と彼女は告げた。

「では、また。今日はありがとうございました」

 光莉さんは教会に戻っていった。

「……あ」

 その背を見届けた後、ハンカチを返し忘れたことを思い出す。返さなければと思っていたのに。

 戻ると、山中の兄貴に「どうだった?」と聞かれた。

「まぁ、お茶をして……」

「ほう。その様子を見るに告白はしていないのだな」

 ……図星だ。なんでこうもすぐに分かってしまうのだろうか。

 いや、そもそも会って間もない男に告白されるのは引かれるだろう。いくら何でも。

「明日は仕事だ。うつつを抜かしている暇はないぞ」

 厳しい言葉に、俺は頷く。極道は命の取り合いだ、プライベートを持ち込むわけにはいかない。

「明日は敵勢力のボスを始末するぞ、失敗したらお前を殺す」

 氷屋の兄貴がナイフを首筋に突きつける。俺は「……分かってます」と冷や汗を流しながら答えた。


 教会に戻ると、牧師様が「おかえり」と出迎えてくれた。

「珍しいね、日曜日の昼から出かけるなんて」

 牧師様は笑いながら、聞いてきた。

「光莉ももう二十歳だからね、誰と関わろうが私は止めないけど。極道には気を付けるんだよ」

「えぇ、分かっています」

 私は牧師様に、悪い人とは関わるなと言われながら育ってきた。それはきっと、私の血筋と関係があるのだと思う。

「しかし、もう大人か……君が雨の中、大泣きしていた時を思い出すよ」

「あの時は、母親に捨てられた直後でしたからね」

 牧師様と出会った時を思い出す。

 母は愛人と一緒に行方知れずになってしまった。まだ五つにも満たなかった私は路上で母を探しながら迷子になっていたのだ。その時に拾ってくれたのが牧師様だった。

「……まだ行方は分かっていないのかい?」

「……えぇ。それに、もう私のことなんて覚えていないでしょう」

 もうあの人に期待なんてしていない。するだけ無駄だって分かっているから。

「それでも、どうなっているかは知る権利あると思うよ」

 そう言われ、私は「そう、ですね」と小さく笑う。

 ……あの人の名前すら忘れてしまった。

 それよりも、顔も見たことのない父親の名前を知っている。私と母を捨てた、あの男のことを。

「……父親を憎むなとは言わないけど、復讐だとかは考えたらダメだよ。イエス様が悲しむからね」

 牧師様は私の頭を優しくなでてくれた。

「はい、分かっています」

 親を敬え。そう教えられているのだから。


「おー!康弘もとうとう色恋に目覚めたか!」

 組の親父が俺の背を叩く。組に入ってから女っけ一つなかった俺を心配していたらしい。

 それはいいとして。

「あの……一体誰に……?」

「見りゃ分かる。わしもそうだったからな」

 ……そりゃそうだ。俺は分かりやすいって言われてたもんな……。

「……でも、その人はキリスト教徒で……俺なんかには見向きすらしないと思いますよ」

 光莉さんにはきっと、もっといい人がいる。俺みたいな男よりも幸せにしてくれる人がいるだろう。

「そう決めつけるな。やってみんとわからんぞ」

 親父さんはそう言ってくれるが、自信なんてない。

「わしだってな、女房とは偶然出会ったんだ。あいつが落とし物してな、それを拾って渡したのが始まりだった。何度も会って、口説き落としたもんだ。お前はまだ若い、お前を理解してくれる女だって出てくる」

 俺のことを、理解してくれる……。

 もし極道だと打ち明けたとして、光莉さんはそれでも受け入れてくれるだろうか?

 次の休みの日、俺は再び光莉さんと会った。今度は日曜日ではなく、光莉さんも仕事がない日にした。

「華道さん、すみません、遅くなっちゃって……」

 光莉さんは息を切らしながら待ち合わせのところに来た。

「いや、大丈夫。そんなに慌てなくてよかったのに」

 俺もついさっき来たばかりだし、少し遅れたぐらいで怒りはしない。

 二人で歩いていると、本屋があることに気付いた。

「あ、本屋……」

「行きたいのか?」

 小さく呟いた言葉に反応すると、彼女は「はい、欲しい本があって……」ともじもじした。

「いいよ、行こうか」

 あそこは知り合いがいる。何かあっても大丈夫だろう。

 本屋に行くと、彼女は小説を見に行った。

「これは……?」

 彼女が持った本を見ると、それはシェイクスピアの書いた「オセロー」というものだった。

「シェイクスピアの四大悲劇と呼ばれている作品の一つですよ」

「そういう本が好きなのか?」

「いえ、そうではないですね……特にこれは、ただの人形みたいであまり好きではないんですよ」

 人形……?なんて思うが、感想は人それぞれだ。読んだことなんてないから、否定するわけにもいかない。

「そうなんだな……」

「なんとなく目に入っただけなので。今日、見に来たのは別の本なんですよ」

 それを置いて、光莉さんは別の本を持った。

 そのあと、ファミレスに向かう。

「光莉さんは、親はいないのか?」

 料理が来るまでの間、俺は光莉さんにいろいろ聞こうと尋ねた。

「そうですね。母は幼いころに私を置いてどこか行ってしまったんです。父に至っては顔すら見たことないですね」

 ……これは聞いてはいけなかったかもしれない。

 しかし、彼女は気にした様子もなく笑っていた。振り切っている、のか?

「華道さんはどうだったんですか?」

 逆に聞かれ、俺は思い出す。

 俺は両親がケンカ三昧で、子供のことなど一切見なかった。父親に至っては暴力まで振るう始末だ。だからというわけではないが、夜も外でぶらぶらしていることが多かった。そんな時に出会ったのが、一人の極道だった。

 その人はガキだった俺をかわいがってくれた。

『極道ってのは、ただ傷つけるだけじゃねぇ。はみだしもんになっても己を突き通すことなんだ』

 その人のその言葉が、俺を極道へと繋げてくれた。

「……そうだな、いい親ではなかった」

 極道って知られたくないから、俺はそれだけ言った。光莉さんは特に踏み込むこともせずに「そうなんですね」と小さく笑った。

 料理が届く。それを食べながら話をした。

「今日はありがとうございました」

 夕方、光莉さんが頭を下げる。俺は「いや、これぐらい別にいいよ」と笑った。

「……教会まで送っていこうか?」

 俺が提案すると、「いいんですか?」と目を丸くさせた。この反応を見るに、少し遠いのだろう。提案してみてよかった……。

 車に乗せると、

「……たばこのにおいがする……」

 不意に呟かれた。確かに俺はたばこを吸うが……。

「嫌だったか?悪い、今度からはたばこのにおいを取ってから……」

「いえ、大丈夫ですよ。たばこを吸うかどうかはその人次第ですし、これぐらいなら平気です」

 光莉さんはニコッと笑ってそう答えた。どこまで出来た女性なんだ……。

「たばこのにおいって、大人の男性って感じがしますね。周りにたばこを吸う人がいなかったから、ちょっと新鮮です」

 あー、そうか。キリスト教徒である以上、たばこを吸う人間はなかなかいないだろう。しかも彼女はずっと教会暮らしだ、そんな人と関わらせていたとは思えない。

「彼氏はいるのか?」

 不意に気になって尋ねると、「いたことなんてないですよ」とほほ笑んだ。

「なら、俺にもチャンスがあるってことかな?」

 俺が怪しく笑うと、

「フフッ、どういうことです?」

 特に気にすることなく、彼女は笑った。

 教会前まで着くと、俺は助手席にいた彼女の顎をクイッと上げる。そして、唇を重ねた。

「……あまり男の前で無防備にしない方がいいぞ。いい男ばかりとは限らないからな」

 そして耳元でそう囁く。光莉さんは茹蛸のように顔を赤くしてしまった。

「気を付けて帰りな」

「は、はい。ありがとうございました……」

 光莉さんは車から降り、頭を下げた。そして教会の敷地内に入ったことを確認すると、俺も車を走らせた。

 事務所に戻り、仕事をする。

「氷屋の兄貴、こいつの情報を掴みました」

「よくやった、康弘。明日カチコミ行くぞ」

 氷屋の兄貴の言葉に、俺は頷く。

 今回のターゲットは風俗で荒稼ぎする半グレ共だ。キャストや客を傷つけている以上、容赦はしない。こうしたシマ荒らしは許されないのだ。

 光莉さんと合流する前に、明日奴らは来るらしいと情報屋のアトーンメントから情報をもらっていた。

「ほら、情報だ。それから、奴らのアジトもこの近くらしい。いつもごひいきにしていただきどうも」

 アトーンメントは男か女か分からない声で封筒を渡してきた。噂では五代目アトーンメントは女性で、まだ若いという。最初に関わった時は感情が読めなかったが、最近は感情が戻ったようになっている気がする。

 まぁ、そんなことはおいておくとして。

 家に戻り、たばこを吸う。

「大人の男性、か……」

 光莉さんに言われた言葉を復唱する。そんなこと、初めて言われたかもしれない。

 本当に、俺が極道だと知っても受け入れてくれるだろうか。

 恋人にすらなっていないのに、うじうじしていてかっこ悪い。こんなの、俺らしくもない。

 明日も早い、もう寝ようとベッドに転がった。


 風俗で荒稼ぎしている馬鹿なガキ共を粛清し、家に戻る途中。俺は光莉さんが勤めている花屋の前を通った。

(……思ったより長い時間やってるんだな、ここ……)

 普段ならあまり気にしないが、なんとなく気になったのだ。

「……華道さん?」

 後ろから声をかけられ、ビクッと震える。振り返ると光莉さんが立っていた。

「最近よく会いますね」

「あ、あぁ、そうだな……」

 まさかあなたのことを思っていましたなんて気持ち悪いだろう。なんていうか悩んでいると、

「あら?その人、光莉ちゃんの彼氏さん?」

 店長が話しかけてきた。

「いえ、彼氏ではないですよ。最近偶然会った方なんです」

「イケメンじゃない。いいわねぇ」

 店長はけらけらと笑っていた。まさか極道だとは思ってもいないだろう。

「今日は牧師さん、いらっしゃらないんでしょう?もう遅いし、彼に送ってもらったらどう?」

「え、でも……」

 牧師がいないって、つまり教会に一人ということだ。確かにこんな麗らかな女性が一人だと心配だろう。

「いいよ、送っていく。心配なら泊まっていったらいいさ」

「おや?積極的だねぇ」

 何気なく言った言葉に、店長はにやにやと笑っていた。どういう意味かと少し考え、俺は顔を赤くする。

 ――泊まっていけばいいなんて、恋人みたいじゃないか……!

「……じゃあ、泊まらせてもらおうかな……?」

 何も考えていないのだろう、光莉さんはそう呟いた。いやいやいいのか君は?

「牧師さんもその方が安心するわね。若いの、光莉ちゃんを頼んだよ」

 背中を叩かれ、俺に断る権利がなくなってしまった。

 近くのコンビニに行き、光莉さんは下着とタオルを買う。そして俺の家まで来た。

「失礼します……」

「散らかっているけど、気にしないでくれ。ベッドも使っていいから」

 部屋はかなり散らかっている。独身男性なら基本そうであろう。見かねたのか、光莉さんは「少し片づけましょうか?」と提案してくれた。

「あ、ご飯は食べました?」

「いや、まだだけど……いいよ、朝食べたら」

「駄目ですよ、ちゃんと食べないと」

 まずは部屋をある程度片付けて、光莉さんは簡単に鍋を作ってくれた。

「……誰かと食事なんて久しぶりだ」

「私も、教会の人達以外と食べたのは久しぶりです」

 こうしていると夫婦みたいだな……なんて考えて、いやいやと顔を熱くする。

 一緒に食器類を洗って、風呂に入って、テレビを見る。そうしていると十二時を回ってしまった。

「あ、もう遅い時間……」

「寝ようか」

 俺の服を借りている光莉さんを見ないようにしながら告げる。顔はかなり真っ赤だろう。

「おやすみなさい」

 その一言で、俺の胸が温かくなった気がした。


 朝、起きるといい匂いが鼻をかすめた。

「おはようございます、勝手に使わせてもらっています」

 どうやら光莉さんが料理を作ってくれていたらしい。

「簡単なものですけど、よかったら食べてください」

 そう言って出されたのは味噌汁に白ご飯、それからだし巻き卵。

「いただきます」

 だし巻き卵を食べると、優しい味がした。何というか……母親の味みたいだ。

「おいしい……」

「よかった。まだ食べたかったら作るので言ってくださいね」

 こんなに幸せでいいのだろうか……。そう思うほど、心が温かくなる。

 光莉さんが食器を洗い、俺は新聞を読む。

「そろそろ出かけます?」

「あぁ、どこまで送っていけばいい?」

 俺が尋ねると、彼女は「昨日のお花屋さんで大丈夫ですよ」と笑った。

「……なぁ、今日の夜、時間あるか?」

 車を運転しながら、そう聞く。彼女は「大丈夫ですよ、牧師様に連絡すれば」と頷いた、

「なら、仕事が終わったら待っててくれ」

 俺は腹をくくってそう告げた。け、結構恥ずかしいな……。

 光莉さんを花屋に送った後、俺は事務所に向かう。

「おや?康弘、いい顔だな。例の女性と何かあったのか?」

 山中の兄貴が俺を見て、笑った。

「おやおやおやぁ?いいねぇ、俺にも抱かせてくれよぉ?」

「こら、やめろ、氷屋」

「冗談だって、山中」

 本当にこの二人は仲がいいな……。

 仕事をこなした後、時間を見るともう二十一時過ぎ。

「康弘、もう上がれ。何か約束があるのだろう?」

 山中の兄貴に言われ、俺は驚く。今日は何も言っていないのだが……。

「レディを待たせるのは忍びない。早く行け」

 ……山中の兄貴は本当に見抜くのが早い……。

 お礼を言って、俺は光莉さんを迎えに行く。

 彼女はベンチに座っていた。

「あ、華道さん」

「光莉さん、遅くなってすまない」

 俺が謝ると、光莉さんは「いえ、そこまで待っていませんよ」と笑ってくれた。車に乗せ、その手を触るとかなり冷たかった。

「は、華道さん?」

「冷たいじゃないか」

「こ、これぐらい、大丈夫ですよ?」

 光莉さんの顔が赤い。小さく笑い、俺は車を走らせる。

 海まで来ると、一度降りる。

「綺麗ですね……」

 隣から、そんな声が聞こえてきた。俺は「光莉さん」と名前を呼ぶ。

「はい、どうしました?」

 光莉さんが俺の方を見る。その瞳はとても美しかった。

「そ、その……君のことが好きだ、付き合ってほしい」

 心臓がバクバク言っている。光莉さんはキョトンとしていたが、

「わ、私も、好き、です……」

 彼女も頬を染めて、そう答えた。

 顔を近づけて、唇を重ねる。この人が、本当に俺の恋人になったのだと感じた。


 次の日、事務所に行くと山中の兄貴が「うまくいったようだな」と笑った。

「う……そ、そうですね。恥ずかしい話になりますけど……」

 俺は、いつ極道だと明かすか悩んでいた。極道と付き合うということは、周囲から冷たい目で見られるということだ。いつまでも隠しているわけにはいかない。

「……俺も、かなり悩んだものだ」

 不意に、山中の兄貴が呟く。

「俺にも恋焦がれていた女性がいた。彼女は風俗嬢で、俺より五つも下だったな。

 今は愛人という形で収まっているが、やはり明かした時には驚かれて、どうするか悩んでいた。氷屋も同じようなものだ」

「……でも、俺は堅気の女です」

「そうだな。しかし、それでも愛しているのだろう?お前のタイミングでいい、明かしたらいいさ。それで別れるのならば、それまでの女だったということさ」

 そういえば、兄貴達は子供がいるんだったな……。

 それだけ、その女性を愛し、相手も兄貴を愛していたということだろう。そんな風になれるだろうか?

 この日は見回りで、舎弟と一緒にシマを回っていた。途中、仕事中の光莉さんと会う。

 光莉さんが小さく手を振る。俺が振り返すと、

「兄貴、あの女性が好きなんすか?」

 舎弟に聞かれ、俺は小突く。それを見ていた光莉さんはクスクスと笑っていた。どう捉えられたのかは分からないが、まぁ悪い印象はないだろう。そう信じたい。

 事務所に戻り、怪しい動きをする馬鹿がいたことを報告する。

「あの組は前々から怪しい動きをしているなぁ?うちに対する宣戦布告かねぇ?」

「そうですね……どうしましょう……」

 氷屋の兄貴がアトーンメントからもらった情報を見ながら呟く。

「……奴らのトップは無類の女好きらしいな」

 山中の兄貴が情報を覗き見て、答える。

 だとすれば、おびき出すために奴が通う風俗に誰かを潜入させる必要があるかもしれない。しかし、うちに適任者はいない。

「兄貴、さっきの女性に頼めないんすか?一日だけでもって」

 舎弟が尋ねてくるが、俺は首を横に振った。

「駄目だ。彼女は堅気、こちら側に連れてくるわけにはいかない」

 光莉さんだけは、巻き込みたくない。

「……何やら悩んでいるみたいだね?」

 悩んでいると、背後から女性の声が聞こえてきた。ビクッと震えて振り返ると、そこには茶髪に赤眼のまだ若い女性が立っていた。

「き、君は一体……?」

「いつもごひいきにどうも、と言ったら分かるかい?」

 その口調は聞いたことがある。まさか……。

「アトーンメントか?」

「君がそのまま来るとは珍しい。何か分かったのか?」

 山中の兄貴が目を丸くする。どうやら二人は面識があるらしい。

「そうだね。それで、困ってるだろうと思って」

 怪しい笑みを浮かべる彼女は、なるほど若き天才情報屋と呼ばれるにふさわしかった。

「この人、どこかで……」

 舎弟が呟くと、「当然だろう」と山中の兄貴は答える。

「なぁ?森岡 涼恵」

「闇の世界にいる時にその名前はNGだろ、山中」

 その名前に、俺達は目を見開く。森岡 涼恵……大学生でありながら研究施設「ホープライトラボ」の所長を務めているという天才だからだ。

「まぁいい。天竜組には祖父の代から世話になっているからな」

 どうやらアトーンメントは世襲制らしい。山中の兄貴は昔、情報収集係として彼女の祖父と会っていてその関係で顔見知りだったらしい。何歳なんだ山中の兄貴……。

「研究所の方はいいのか?」

「今は優秀な助手がいるんでね、彼らに任せているよ」

 そんな話がしたいんじゃないとアトーンメントは本題を切り出した。

「奴らをおびき出すのに絶好の日時があってね。君達から一人、女性の協力者がいたらこちらも協力しようと提案しに来たんだ」

 妖艶に笑う彼女は夜の蝶と呼ばれてもおかしくないほど美しかった。

「どうしても一人、必要か?」

 俺が聞くと、「あぁ、どうしてもだ」と頷いた。

「こちらで準備しようにも、ボクの正体を知っている人達はあまりに有名になりすぎている。あの馬鹿親のせいで前科がある施設だからな、不特定多数に正体を明かすわけにもいかないんだ。いくら国公認の情報屋といえども、目立つ動きは出来ないからね」

 もちろん、ボクが必ず守ってやると言ってくれるが、こちらにもそんな女性はいない。どうしようか……。

 優柔不断な俺達を見て、彼女は仕方ないとため息をつく。

「一週間後、答えを聞きに来る。いざとなれば別の方法も考えてやるさ。こちらもあいつらに手を焼いていたからな」

 そう言って、ほかの仕事があるからとアトーンメントは帰っていった。

「……どうしますか?」

 舎弟が尋ねる。俺も分かっている、一番危険がないのは油断させて捕らえるという方法だと。そして出来るなら油断する一般女性の方がいいと。

「康弘、明日お前の恋人と会わせてくれないか?」

 山中の兄貴に頼まれ、俺は頷いた。

 家に帰り、光莉さんに連絡する。

「……明日はちょうど休み、か……」

 いっそ仕事だったらよかったのに。そう思うのはわがままだと分かっているが……。


 次の日、光莉さんと合流して、そのまま事務所まで車を走らせる。

「あの、どこに行くんですか?」

 光莉さんが不安そうに尋ねる。俺は「ちょっと話したいことがあってね」と笑った。うまく笑えただろうか?

 事務所に着き、俺は光莉さんを中に入れる。

「すまないな、来てもらって」

 山中の兄貴が紳士のようにエスコートし、俺達は会議室に来る。

 会議室には親父さんもいた。

「君が康弘の彼女さんか」

「相変わらず美人だねぇ?」

 光莉さんを椅子に座らせる。舎弟がお茶を出し、俺は本題を切り出す。

「……光莉さん、今から話すことは本当のことだ。それを聞いたうえで、君に頼みたいことがある」

「え、急にどうしたんですか?」

 光莉さんはわけが分からないと言いたげだ。意を決して、俺は告げた。

「俺は、極道なんだ」

 心臓がバクバク言っている。どんな反応をされるのだろうか。拒絶、されるだろうか?

「あー……やっぱりそうだったんですね」

 しかし予想に反して、彼女の反応はそんなものだった。

「やっぱり、ということは気付いていたのか?」

「なんとなくですけどね。だからこうして会ったのも、何かの縁でしょう」

 光莉さんは小さく笑い、真剣な顔をする。

「……私も、極道の血を引いているんですよ」

 そして思わぬカミングアウトを受けた。

「え……?」

「国谷 駿。極道であるのならば、聞いたことぐらいはあるでしょう?」

 その名前は、裏社会の人間ならば誰もが知っているものだった。なぜなら奴は仁義外れなことばかりする組織の頭だからだ。

「私は風俗嬢の母とその男との間に生まれた子だと聞いています。母が女を妊娠したと聞いた時、男の子が欲しかった奴は怒り狂って相当な暴力をふるって……母は逃げたのだと」

 つまり、彼女は不義の子供だったということだ。

 そうやって生まれた彼女は、いったいどんな気持ちだったのだろう。

「だから、極道って何かもなんとなくわかっているんですよ」

「……でも、出自がどうであれ今の君は堅気だ。俺と一緒にいるということは、それから外れるということだ」

「華道さん」

 俺が確認するより先に、彼女は微笑みかけた。

「私だって、なんの覚悟もなしに極道の方と会うことはしないですよ。公的支援も受けられない、そんな職業の人と」

 あぁ、なんだ。結局俺が覚悟を決め切れていなかっただけじゃないか。

 頬に何かが伝う。光莉さんはそれをぬぐってくれた。

「だいじょうぶ、大丈夫ですよ」

 母のような優しい声で、そう言ってくれた。

「よかったな、康弘」

 山中の兄貴が小さく笑ったのが聞こえた。

「それで、私は何をすればいいんですか?」

「実はなぁ」

 光莉さんに氷屋の兄貴が事情を説明すると、

「つまり、奴らに近付きたい、ということですか?」

「あぁ。……頼めるか?」

 俺が聞くと、光莉さんは、

「えぇ。任せて頂戴?」

 黒い笑顔を浮かべていた。それはまさに、極道の娘の笑みだった。

「いいのかい?父を裏切ることになるだろう?」

「私の父は牧師様です。あの人とはもう、関係ない」

 はっきりとした口調でそういう彼女は、どこか寂しそうだった。


 次の日、すぐにアトーンメントに連絡した。

「へぇ……美人さんじゃないか。よく見つけたじゃないか、華道」

「あの、この方は……?」

 アトーンメントが光莉さんを見て、笑う。戸惑う彼女に俺は「この人が今回指導してくれる情報屋だ」と答えた。

「よろしく。ボクのことはアトーンメントと呼んでくれ」

「あ、よろしくお願いします……」

「安心してくれ、君の安全はボクが保証する。君に客は取らせない。酌さえしてくれたらそれでいい。君に手を出そうとする奴がいたら、ボクの拳銃がそいつの頭を撃ち抜く」

 それは安心だ。光莉さんに手を出されたら、怒り狂っていたことだろう。

「華道、君は彼女を守ってくれ。山中と氷屋に粛清を頼む」

「了解。アトーンメント」

 山中の兄貴と氷屋の兄貴が頷く。

 店内の地図を広げ、場所を指定する。

「来週、答えを聞く予定だったから次の日程を考えていたが、これなら明日出来そうだな」

「明日?」

「ちょうど来るそうだ。あぁ、あと奴らに吹き込んでる情報屋も粛清してしまおうか」

 封筒を渡され、それを見る。

「ちなみに、その情報屋に関しては既にこちらで捕縛している」

 その言葉とともに、顔のよく似た銀髪の男性二人が一人の男を抱えてきた。

「どうぞ。アトーンメントの指示で連れてきたんだ。生け捕りでいいんでしょ?」

「あとはお前達の自由にしていいぞ。これぐらいお安い御用だからな」

 ……アトーンメントを敵に回さなくてよかったと心底思った。

「じゃあ、ありがたく。……君達は彼女の守護者というものか?」

「はい。まぁ、詳しいことは言いませんけど」

 どうやらアトーンメントはかなり高貴な血の人間らしい。

 二人が「じゃあ、ボク達は仕事に戻る」「気を付けるんだよ」と帰っていった。

「先にこいつ粛清してくるわ。山中と康弘はアトーンメントと話を進めてくれ」

 氷屋の兄貴がそいつを抱え、廃工場に連れて行った。

「さて……では、お嬢さん。明日潜入する場所に連れて行く。先ほども言った通り、酌さえしていればいい。華道、お前は彼女を見習いと紹介してくれ。山中と氷屋は影で見計らっていてほしい。キャストと客は奴らが入ってきたら帰らせるようにする」

 アトーンメントは地図を指しながらそう言った。

「待て、お前はどうする気だ?」

 山中の兄貴が彼女に尋ねる。アトーンメントは「男装して潜入する」と淡々と答えた。

「だん……は?」

「言っているそのままだ。ボクは有名になりすぎているからな、表立って動けないんだ」

 ……そういえばそうだった。この人、天才研究所長さんでもあるんだった。

「夜の九時、奴らは来る。だから明日は先に潜入しておく」

「分かった、頼んだぞ」

 アトーンメントと約束をして、その日は解散した。


 次の日、光莉さんをアトーンメントに任せて俺は個室に隠れる。

「店長、彼女は見習いの女の子だ。「パセリ」と呼んでやってくれ」

「分かりました」

 アトーンメントは本当に男装していた。マジで男のようにしか見えない。

 光莉さんはアトーンメントの手によってさらに美しくなった。

「これなら、奴らも君に惹かれること間違いないだろう」

「あ、ありがとうございます……」

「華道、どう思う?」

 急に振られ、俺は挙動不審になる。それを見て、アトーンメントはフフッと笑う。

「奴らが来たら呼ぶ。それまで二人でゆっくりしててくれ」

 乱れたりしてもすぐ直してやるから、と言ってアトーンメントは部屋から出た。

「……す、すごい方ですね。彼女は……」

「あぁ。天才と呼ばれるのも分かる」

 気恥ずかしくて、別の話をする。まさかと思うが、あの人は俺達が恋人同士だと気付いているのだろうか?

 甘酸っぱい空気が流れる。す、好きな女の人と一緒ってこんなに恥ずかしいんだな……。

 何時間経っただろうか。ノックの音が聞こえ、俺が出た。そこにはアトーンメントの姿。

「奴らが来た、準備してくれ。準備が出来たら連絡してほしい」

 そう言って、すぐに戻る。光莉さんの方を見ると、彼女は小さくうなずいた。

 連絡し、俺は影に立つ。

「この子、新しい子です。まだ入ったばかりで緊張していると思うので、わたくしも傍につかせてください」

「は、初めまして、パセリと申します」

「珍しい名前だな。まぁかわいいからいいか」

 どうやらうまく入り込めたようだ。

 光莉さんが奴にドンペリを注ぐ。護衛は……二人か。

『外には三人いる。ボクがわざと酒を奴らにこぼすから、そのタイミングで華道は光莉さんを助け出してくれ』

『了解だ』

 その指示が出されて数分後、「あぁ、すみません!」とアトーンメントがワインを護衛にこぼす。奴らが下を向いたタイミングで俺は光莉さんの手首を掴んで走った。

「死ね、クズ人間が」

 アトーンメントが拳銃で一人を始末する。もう一人は山中の兄貴が斬り殺していた。外では氷屋の兄貴がほかの護衛を始末していた。

「来てもらおうか?」

 アトーンメントが銃口をリーダーに向ける。奴はわけが分からないまま、山中の兄貴に廃工場に連れていかれた。

 帰り道、アトーンメントに礼を言う。

「ありがとう、アトーンメント」

「ボクは構わないさ。それより彼女に礼を言うべきだろう」

 チラッと、アトーンメントは光莉さんを見た。確かにその通りだ。

「光莉さん、ありがとう。助かったよ」

「いえ、私が出来ることならなんでもしますよ」

 光莉さんが笑いかける。その笑顔はとてもきれいだった。

「では、ボクはこれで。ごゆっくりどうぞ」

 ニコニコしながら、アトーンメントは帰っていった。俺達も事務所に戻る。

「ご苦労だった。そちらのお嬢さんもありがとう」

「いえ、恐縮です。ほとんど兄貴達がやってくださったので……」

 俺が頭を下げると、光莉さんも続く。

「よく出来た女性だな」

 親父さんは小さく笑う。隣にいた姐さんも「お嫁さんにほしいわね」と穏やかに笑う。

「でも、あんたはホントにいいのかい?極道の女ってのはあんたが思っている以上に大変だろう」

「えぇ、覚悟は出来ています」

 その表情は、極道組長さえも恐れるほどすさまじいものだった。さすが裏社会で恐れられている男の血を引いた娘だ。

「……そうかい」

「でも、一つだけ。信仰だけは、捨てさせないでください」

 信仰……そういえば、彼女はキリスト教だったな。

「今の私があるのは、牧師様のおかげです。牧師様に拾われなければ、私は命を落としていたでしょう。だから、私は信仰だけは捨てることはできません」

「あぁ、分かっている。俺はあんたにすべて捨てろとは言わないさ」

 親父さんが頷くと、光莉さんは「……ありがとうございます」と頭を下げた。

「康弘、こんな女性はなかなかいない。ちゃんと彼女を幸せにするんだぞ」

 親父さんに言われ、俺は「分かっています」と小さく笑った。

 光莉さんを送り届けるために走らせている間、少し話をする。

「大丈夫だったか?」

「えぇ。牧師様に拾われる前は追われることが多かったので」

 それは大丈夫ではないぞ、光莉さん。

 まぁ、肝がすわっている女性であることだけは確かだな……。

「本当にありがとう。君がいなかったらもっと苦労するところだったよ」

「役に立てたならよかったです」

 ちょっとした沈黙ののち、光莉さんは過去を話してくれた。

 母と一緒に住んでいた時は、母の愛人と三人で過ごしていたこと。

 狙われていたため滅多なことでは外に出させてもらえなかったこと。

 母は愛人とともに失踪したこと。

 幼かった光莉さんは必死に探していたが、やがて空腹と疲労で歩けなくなったこと。

 道端で座り込んでいると雨が降ってきて、ここで死ぬと思っていた時に今の牧師に拾われたこと。

 話し終えると、光莉さんは小さく笑った。

「きっと、牧師様がいなかったら私は野垂れ死ぬかどこかに売られていたでしょうね。だから感謝しているんです」

「……そうなんだな」

 信号で止まると、俺は光莉さんの頭を撫でた。

「は、華道さん?」

「康弘、と呼んでくれないか?」

 俺が頼むと、彼女は目を見開いて、

「……や、康弘、さん……」

 頬を染めながら、俺の名前を呼んでくれた。

 ……意外と、うれしいものだな……。

 思ったより恥ずかしくて、俺まで顔が熱くなってしまう。これを氷屋の兄貴とか山中の兄貴に見られたらからかわれていただろう。

 教会の前に送り届け、俺は家に帰る。風呂に入り、毛布に丸まって、先ほどの光莉さんを思い出して一人で悶えた。誰かに見られていたら引かれるだろう。

「……可愛すぎるだろ……」

 むしろ、手を出さず自制できた俺を誰か褒めてほしい。

 極道がこんな感じでいいのかと思いながら、俺は目を閉じた。


 それから、何度か光莉さんとデートを重ねた。

「康弘さん、おいしいカフェがあるんです」

「そうなのか。だったらそこに行こうか」

 意外といい店を知っていて、俺も勉強になる。俺は裏社会の人間だからな……。

 そうして歩いていると、

「そういえば、ここってどんな店なんですか?牧師様には止められたんですけど……」

 光莉さんが一つの店の前に止まる。そこは光莉さんが知らなくても仕方ない……いや、むしろ知らないでいてほしいところだ。まぁ、いわゆる大人のおもちゃが売られている店なのだ。牧師さんが止めるのも分かる。

「……興味あるのかい?」

 俺が尋ねると、光莉さんは首を傾げた。

「え?知っているんですか?」

「あぁ、一応な」

 俺と一緒に入ると、そこにある商品を見て彼女は顔を真っ赤にした。

「こ、これって……?」

「あぁ、そういうことをする時に使うものだな」

 光莉さんはソッチ関係に耐性がないらしい。まぁ今まで教会で生活していたのなら無縁だろう。

「……今度会う時に、やってみるか?」

 耳元でささやくと、ただでさえゆでたこのように赤い光莉さんの顔がさらに赤くなった。フフッと笑い、店から出る。

 夕方になり、俺は教会まで光莉さんを送っていった。

「ありがとうございます」

「あぁ、構わないよ」

 光莉さんが頭を下げた時、教会の中から男性が出てきた。

「光莉、この人は?」

「ほら、前話した彼氏さんですよ」

 彼が光莉さんを育てた牧師さんなのだろう。頭を下げて「光莉がお世話になっています」と言ってくれた。

「いえ、彼女、とてもいい子でこっちが世話になっていますよ」

 俺が言うと「いやいや、そう謙遜しないでくれ」と笑った。

「この子、君と出会ってから明るくなったんだよ」

「ちょっと、牧師様!それ言わないでくださいよ!」

 牧師さんがからかうように告げると、光莉さんは顔を真っ赤にした。「あはは」と牧師さんは冗談めかしく笑う。

「事実だろう?恋とはこうも変えるものなんだな」

「だ、だから……!康弘さんの前で言わないでください!」

 その姿は、本当の父子のようだった。


 しばらくして、不穏な噂が耳に届いてきた。

 最近、シマで半グレが拳銃を売買しているというのだ。早速、アトーンメントに確認の連絡を取る。

「あぁ、噂は本当だな。ボクも売るなと注意はしている。まぁ分かる通り、聞く気はないみたいだがな」

 アトーンメントは、最初に注意をする。もともとお国のお抱え情報屋だったこともあり、そういうところはちゃんとしているのだ。極道が依頼する時、うちは知り合いがいたから安くしてもらっていただけで本来は高くとるそうだ。

「こいつらだよ。今日はキャバ嬢のところに行くそうだ。まぁ、お察しの通りさ」

 あざ笑うように、彼女は封筒を渡してくれた。

「親父さんにも言っておきな。また何かあったら連絡くれ、あいつらにはボクも手を焼いているんだ」

 そう言って、アトーンメントは去っていった。

 親父さんにそのことを伝えると、山中の兄貴と氷屋の兄貴を呼び寄せて、

「しばらく様子見する。何か問題が起こったら粛清しろ」

 そう、指示を下した。

 そのことを光莉さんにも話す。

「なるほど……分かりました、私も気を付けます」

「あぁ、そうしてくれ」

 その時、スマホが鳴り響いた。見ると、アトーンメントからだ。

「もしもし、どうした?」

『奴らの新しい情報が手に入った。料金はいらないからすぐに来てほしい』

 そんな連絡だった。慌てた様子だったので何事かと光莉さんとともに指定されたところに来ると、彼女はいつものローブを着てなかった。それだけ非常事態ということだろう。

「すまないな、電話でも伝えた通り、新たな情報だ」

 資料を渡され、見てみると彼女がなぜこんなにもすぐに呼んだのかが分かった。

「人身売買……!?それに、誘拐や強姦も……!?」

「あぁ、思ったよりヤバイ奴らだった。これ以上被害者を増やさないためにも、お前達に伝えたほうがいいと思ってな」

 そりゃあ、料金もいらないからすぐ来いと言うだろう。

「本当は「拷問師」の方が適任だろうがな。彼はどうしても、依頼がないと動けない。こいつらは巧みに犯行の痕跡を消す。誰も、彼に依頼は出来ないんだ」

「それって……」

「あぁ、かなりの手練れだな。まぁ、このボクがいる限り、そんなのがずっと見逃されることはないんだけどな」

 実際、こうして見つかってしまうのだから哀れなものだ。違法に手を染めているものは不法の裁きを受けることになるのだから。

「手伝えることはやろう。すぐに連絡をくれ。ボクも何かあったらまた連絡する。ボクも仕事があるからな」

 それだけ言って、その場を去っていった。

 俺はすぐに親父さんに連絡した。そして光莉さんとともに事務所に向かう。

「光莉さん、牧師さんに連絡は?」

「一応、しました。時々遅くなることはありましたし、彼氏さんと一緒なら大丈夫だろうって」

 それを聞いて、俺は小さく笑った。

「それならいい。悪いな、巻き込んでしまって」

「いえ、大丈夫ですよ」

 光莉さんが笑う。その姿は天使のようだった。

 事務所に入ると、夜中なのに親父さんが既に待ってくれていた。数分して、氷屋の兄貴と山中の兄貴も入ってくる。

「お嬢さん、今回は危険だ。あんたがわざわざ首を突っ込まなくてもいい」

「いえ、聞いてしまった以上、見過ごすわけにはいきませんから」

 やはり、光莉さんは強い。極道の娘であるなら、その危険性は分かっているハズだ。

「康弘、すまないが、涼恵を呼んでくれ。もしかしたら、あいつの弟達も協力してくれるかもしれん」

「弟?」

「あぁ、知らんのか。あいつは長女で森岡きょうだいの中では二番目だ。上に兄、下に双子の弟がいると聞いている」

 そうなのか……。知らなかった……。

 なんて、感心している場合じゃない。俺はすぐにアトーンメントに連絡を取る。

『それで?何人ぐらい人員が欲しい?』

 そう聞かれ、俺は山中の兄貴に視線を送る。山中の兄貴が貸せとジェスチャーをしたので渡すと、

「涼恵、何人ぐらいなら割けそうだ?」

 そう尋ねた。

『そうだな……ボクを含め、六人……いや、七人かな?今、もう一人と連絡を取ってみる。おーい、ブラウン』

『なんだ、すずね……アトーンメント』

『ちょっと連絡を取ってほしい人がいる。彼女だけど……』

『了解』

 そう言って、青年が連絡を取り始めた。数分後、

『大丈夫だと』

『だ、そうだ。今なら七人なら割ける。今日の方がいいだろう?』

「そうだな。その方がありがたい」

『なら、もう一人が来たらすぐにそちらに向かう。その間、話し合いを進めていてくれ』

 そう言って、電話は切れた。

「結構割いてくれるんですね……」

「全員、あいつの昔馴染みや正体を知っている者だろう。あいつの経営している研究所の人員が来たら、かなりの人数になる。その中でもあいつの正体を知っている奴は少ないからな」

 なるほど……確かに、所長が実は情報屋をやっていますなんて、知ったら失神するだろう。

 三十分ぐらい経った時、アトーンメント達も駆けつけてくれた。そばには黒髪の男性とアトーンメントに似た青年。それから、前に来てくれた銀髪の青年二人と緑髪の青年に桜色の髪の女性だった。

「初めまして、あなたがアトーンメントの兄ですか」

「えぇ。コードネームは「ブラザー」。こちらは弟で、「ブラウン」と申します」

 どうやら、黒髪の男性はアトーンメントの兄だったらしい。山中の兄貴が頭を下げる。

「いつも妹がお世話になっています」

「いえ、こちらの方が助かっています。彼女の情報はかなり正確なもので、役に立っているんですよ」

「私達より、妹の方が情報収集能力も高いですからね」

 なるほど、だから彼女がアトーンメントを引き継いだのか。

「ブラザー、あまり話している暇はないよ」

「おっと、そうでしたね」

 物腰が柔らかそうだ。これなら話しやすい……。

「いくら極道でも、妹に手を出したら許しませんからね?」

 ……いや違う、極度のシスコンだった。俺がアトーンメントに手を出すことは絶対にないが、仮に手を出してしまったら殺されるな、あれは……。

「こんな子供が、情報屋きょうだいねぇ……?アトーンメントに手を出してもいいかねぇ?」

「殺しますよ」

「兄さん、落ち着いて。天竜組はごひいきさんなんだから」

 ……氷屋の兄貴、あおるのはやめてくれ。マジで殺されそうだから。

 アトーンメントが止めてくれているから助かっているだけで、あれは本気で殺す目だ。

「そういえば、アトーンメント達はいくつなんだ?」

 女性に年齢を尋ねるのは失礼だろうが、気になって聞いてしまった。

「うん?ボクは二十歳だ。ブラウンも双子だから同じだな。で、ブラザー……まぁ、うちの兄は二十四歳、こっちの三人……シルバーとプラータとヴェールは二十三歳だ」

 ……若すぎる……。ちなみにシルバーが優しそうな雰囲気の銀髪の青年、プラータが鋭い目つきの銀髪の男性、ヴェールは緑髪の青年のコードネームらしい。

「え、アトーンメントさんって私と同い年だったんですか?」

「あぁ、お嬢さんも二十歳だったのか。……それから、呼びにくいのなら涼恵……いや、叶恵で構わないぞ」

「叶恵……?」

 光莉さんが復唱する。なぜその名前が……?

「あぁ、そういえばお前はもともと「森岡 叶恵」だったな」

「山中は覚えていたか。「涼恵」の方は有名になりすぎてるからな、昔の名前で呼ばれるのも悪くないさ」

 ……複雑な事情がありそうだ。

 そう思ったため、あえて聞かないことにした。

「で、では、叶恵さん。私は何をすれば……」

「おや?お嬢さんも行くのか?」

 アトーンメントが目を丸くする。やはり止める……。

「来てくれるのならちょうどよかった。頼みたいことがあってね」

 いや都合がいいんかい!

「……また酌をしろ、とか言わないよな?」

「怖い顔するな、華道。さすがにさせないさ」

 飄々としている彼女に俺は疑いの目を向ける。この人は突拍子もないことを言い出すからな……。

「負傷者を手当てしてほしい。雪那先生というんだが、彼女は医者だから指示に従ってくれたらいい」

 桜色の髪の女性は「初めまして」と笑う。……医者……にしては若いような……?

「華道、女性に年齢を聞くのはNGだぞ?」

 ……バレてしまっていた。

「お前、相変わらず分かりやすいな」

 フフッと笑われてしまう。そんなに分かりやすいのか……。

「嘘つけないんだな、極道が珍しい」

 そう言われてはぐうの音も出ない。事実、本当に珍しいだろう。

「まぁ、いいさ。そうだな……この時間なら、出張型の風俗店を予約している頃だ。ちょっと連絡する」

 アトーンメントがスマホでその風俗店に連絡を取った。

「あ、すみません。アトーンメントと申しますが……はい、はい。分かりました、ありがとうございます」

 そして、電話を切ると、

「協力を得られたぞ」

 ニコッと笑った。……さすが、有名な情報屋さんだ。

「さて、じゃあ早速風俗嬢を演じて奴らを捕まえたいが……さすがにお嬢さんにやってもらうのは危険だな」

「なんでですか?」

「こういうやつは、来た瞬間に襲い掛かるやつも多い。そんな輩にお嬢さんみたいな麗しい女性を出すわけにはいかない」

「こら、アトーンメント。口説いたらダメだよ」

 シルバーがアトーンメントに注意する。それに、山中の兄貴がニヤリと笑った。

「アトーンメント、お前、彼氏がいるんだろ?」

「嫉妬か?シルバー」

「ちょ、違うから、兄さん!」

 プラータもからかうようにシルバーの肩を叩くと、彼は顔を真っ赤にする。どうやら彼らは双子で、プラータが兄、シルバーが弟らしい。

「嫉妬してくれないんですか?……だったら、浮気しちゃおうかな……」

「そ、それはダメ!やめて!」

「どうしようかなぁ」

 アトーンメントがからかうと、シルバーは彼女の肩を掴み、

「……涼恵、帰ったら覚えておいてね……?」

 ニコリと、黒い笑顔を浮かべた。あー、この二人付き合ってんのか。

「ゆ、佑夜さん?ご、ごめんなさい……」

「許さない☆」

 ……この男、怒らせてはいけないパターンの人間だ……。

 この恋人達、普段はアトーンメントが強いのだろうが、怒らせたらシルバーの方が強いのだろう。

 アトーンメントは一度せき込み、

「……まぁ、今回はボクがおびき出そう。特別だぞ」

 そう言った。おびき出すということは……。

「風俗嬢の真似をしてくれるのか?」

「それなら、ギャラは弾まないとな」

「あぁいや。これぐらい当然のことですよ、親父さん。奴らを放っておくとやばいことになるので」

 アトーンメントが、風俗嬢の真似……。なんか想像出来ない。

「いいねぇ、俺が見立てた服を着てくれるかぁ?」

「……まぁ、腕まで隠れる手袋さえ入れてくれたら構わないが」

 氷屋の兄貴がニヤニヤしていると、アトーンメントがため息をついた。ブラザーやシルバーが睨んでいる気がするが、気にしてはダメだ……。殺される……。

 氷屋の兄貴がアトーンメントを別室に連れて行ったところを見届け、光莉さんを雪那先生に預ける。

「今回は大けがする人が出てくるかもしれないって聞いてたからね」

「あー……確かに……」

 大多数だと聞いているからな……。

 こちらが集められたのはアトーンメントが集めてくれた人員も含めて十人程度。確かにけが人が出てもおかしくない。

 数分後、美しい風俗嬢に化けたアトーンメントが出てきた。

「はぁ……この格好、あんまり好みじゃないんだけどな……」

 ため息をつくアトーンメントに、ブラウンが「似合ってるぜ!姉さん!」と目を輝かせた。

「……まぁ、お前がそう言ってくれるならよかったよ」

 苦笑いを浮かべながらアトーンメントは弟を見ていた。

 そうして、作戦を決行する。まずはアトーンメントがモニター越しに声をかける。

「すみません、早くに着いてしまって……」

『あん?お前、指定した奴じゃないが』

「あら?間違えたかしら?も、戻りますね」

『いや、お前でいい、すぐ来い』

 ここまでくれば、あとは俺達の番だ。一緒についていき、

「おー、ほんもんは結構美人だなぁ。次からお前も指名するぜ」

「ふふっ、ありがとう。でも、あんた達に次はないぞ」

 その言葉とともに、俺は出てきた男を殴り倒した。山中の兄貴も中に入り、殲滅していく。

 外では、異常に気付いたこいつらの舎弟どもが俺達の組に銃口を向けてきた。多少傷ついた組員もいたが、雑魚ではあったのですぐに壊滅したが。

 それから、光莉さんと雪那先生が手当てをしていた。

「この人、美人だなぁ……」

 光莉さんに色目を使っている舎弟がいたので、俺がけん制する。

「こらこら、華道。そんな顔しなさんな」

 アトーンメントに笑われる。そして「あまり彼女に色目を使うな。殺されるぞ」と注意してくれた。……事実だけど!わざわざ言わなくてもいいだろ!

「しかし、思ったより怪我人が出なくてよかった。天竜組も強くなったな」

 アトーンメントが呟く。

「情報屋の情報が正確なもんでね」

「そりゃどうも」

「……本当に、あんたには世話になるな」

 そう呟くと、彼女は小さく笑う。

「それじゃ、ボクは帰るとしようか」

 アトーンメントが帰ろうとすると、その肩を誰かが掴んだ。

「涼恵さん?さっきの話は終わってないよ?」

「あ、えと、佑夜さん?」

「今から付き合ってくれるよね?」

「ご、ごめんなさ」

「許さない☆」

 シルバーが黒い笑顔でアトーンメントをどこかに連れて行った。

「……大変だな」

 俺は一人、そう呟いた。


 後処理を舎弟に任せ、事務所に戻る。

「お疲れ、華道。お嬢さんもありがとう」

 親父さんの言葉に光莉さんは「いえ、どうしても放っておけなくて……」と微笑んだ。

「本当にいい子だな。あの国谷の娘とは思えん」

「あの人のことは反面教師として見ていますから」

 あっけらかんと答える光莉さんに親父さんは「やはりガッツのあるお嬢さんだ」と笑った。

「だが、気を付けてくれ。お前さんを狙う輩も出てくるだろう」

「はい、覚悟の上です」

 光莉さんの目は本物だ。本当にかっこいいな……。

 俺が送っていくと、牧師さんに「いつもありがとう」と礼を言われた。

「今度、泊りにでも行ってきなさい」

「え、でも、いいんですか?」

「あぁ。生涯を添い遂げたいなら、それも構わない」

 牧師さんに言われ、俺も光莉さんも顔を真っ赤にした。は、恥ずかしすぎる……。

「だ、だったら、今度迎えに行く……」

 そう約束し、俺は事務所に帰った。



 それは、突然のことだった。

「華道、早く来てくれ」

 アトーンメントに呼ばれ、俺は大慌てでいつもの場所にやってくる。そこにはすでにアトーンメントが立っていた。

「どうしたんだ?」

「お嬢さんを狙っている輩がいる」

 その言葉に、俺は頭に衝撃が走った。

「ボクの方でも守るようにはしていたが……お前達が奴らを殲滅させるまで警戒態勢にしておく。でも、保証は出来ない」

「……分かった」

「恐らく気付かれたんだろうな、お嬢さんが国谷の実の娘であると」

 そう言われ、俺はギュッと拳を握る。アトーンメントはそれを見て、

「自分を責めるな。むしろお前と会ってなければ彼女は誰にも守られることなく捕まっていたかもしれないからな。牧師さんもいい人だが、さすがに極道ともなれば相手にならないだろうし」

「そう、なのか?」

「あぁ。もともと国谷に子供がいたことは知られていた。それでも男の子だったら執拗に狙われなかっただろうな」

 ……確かに、女だったら無理やり自分のものにしてでも連れていかれているかもしれない。

「むしろ、ボクは感謝してるよ。個人のことは依頼されない限り調べない主義でね、国谷の子供が誰なのか分からなかったし。堅気になっているのは知っていたが、それ以上は調べられなかったんだ」

「……だが」

「何度も言わせるな、男だろう?……お前はいざとなればお嬢さんと一緒に逃げろ。親父さんには説明しておいてやるから」

 アトーンメントの言葉に、俺は拳を握り締める。

 光莉さんは確かに大事だ。しかし、俺にとっては天竜組も大事なのだ。

 どちらかを取らなければいけないのだろうか?そうなった時、俺はどっちを選ぶのだろうか?

「お前なぁ……だからボクがいるんだろ?」

「は……?」

「ボクは中立的立場上、誰も攻め入ることは出来ない。匿われている時点で、ボクの管轄内だ。……もしお嬢さんに手が伸びたら、そいつは粛清対象になるんだよ」

 ニヤリと笑うアトーンメントが、とても頼りに思えた。

「親父さんに伝えてくれ。ボクと協定を組まないかと」

「え……?」

「目的は同じなんだ。……なら、そっちの方がいいだろ。何、そちらに有利な条件で結んでやるさ。拷問士の人にもちゃんと伝えておく」

「……分かった。その話はまた今度都合つける」

「あぁ。考えていてくれ」

 そう言って、彼女は去っていく。


 事務所でそのことを話すと、「それは助かるな」と親父さんは笑った。

「それで、条件は?」

「こちらに有利にしてくれると」

「なるほど。それなら明日にでも話し合おう」

「分かりました。すぐに連絡いたします」

 そう言ってすぐアトーンメントと電話を付けると、「なら、明日の夜でいいか?ちょっと仕事が立て込んでいてな。シルバーとともに行く」と時間を作ってくれた。

 次の日の夜、アトーンメントとシルバーがやってくる。

「……という条件でどうでしょう?」

 彼女が提示した条件は本当にこちらに有利なものだった。

 情報料は受け取らない。

 アトーンメント側の戦力も必要に応じて貸す。

 金銭も、援助できるところはする。

 天竜組は光莉さんを守りながら動いてほしい。隠れ家が必要なら貸す。

「本当にいいのか?」

「えぇ。目的は同じですからね。それに先代がかなりお世話になりましたからその恩を返す時でしょう」

「分かった、その条件を呑もう」

 親父さんの言葉に「もう少し譲渡してもよかったんですよ?」と言ってくれる。

「いや、これでも十分だ」

「分かりました。あなた達の頼みならいくらでも聞きますからいつでも言ってください」

 そう言って、アトーンメントは情報を渡してくれた。

「国谷の情報はこんな感じですね。もう少し得られるとは思いますが……」

「あとはボクに任せて。これ以上君が近付くと危ないと思う」

「うん。お願いします」

 親父さんとアトーンメント、シルバーが話している間、俺達は目を通す。

 どうやら隣町を拠点にしているらしい。国谷は住居を転々としていて居所を掴むのは難しかったらしい。

 そして、光莉さんのことを自分の子供だと認知しているようだ。

「なるほど……調べるのは大変だっただろう」

「そりゃあな。相手は住居を持たない奴だったから厳しかったよ。……でもあいつの悪事も今回で終わらせる」

 こっちもかなり相談が来ていて困っていたんだ、とアトーンメントは小さく笑う。それに山中の兄貴は「お前が言うとは相当だな」と告げた。

「まぁな。政府からもどうにかしてくれって泣きつかれているぐらいなんだ。こっちも暇じゃねぇってのに」

「さすが、お国公認の情報屋だな」

「それで、やっちゃっていいのかい?」

 氷屋の兄貴がドスを取り出す。「はいはい、別にやっちゃっていいけど落ち着いてねー」とアトーンメントがため息をつく。

 見送る時、俺は気になって尋ねた。

「なぁ、アトーンメント」

「どうした?」

「なんで、ここまで肩入れしてくれるんだ?」

 その言葉に彼女は小さく微笑む。

「……世の中にはな、必要悪っていうものがあるんだよ。皆気付かないだけでな。極道は確かにない方がいい組織なのかもしれないが、いることで抑制されているところもあるのは事実だ。……そういうところを見てない奴はお前達を非難するけどな、そういうのは表しか見ていないからだと思う。……はっきり言ってしまえば、そうやってお前達を批判している奴も極道と同じなんだよ、罪に問われないだけでな」

 そう言い切る彼女は少し寂しげだった。

「ボクは知っているんだ。山中が優しくて勇敢だってことも、氷屋がなんだかんだ面倒見のいい兄貴分だってことも。親父さんが任侠に堅い人だってことも、お前がお人好しで、舎弟達を守りたいって思っていることも。全部分かってる」

「……アトーンメント……」

「だから、この地域を任せられる。……前にも言ったが、ボクの期待を裏切らないでくれよ?」

 それじゃ、と彼女は帰っていった。



 それから、光莉さんは俺の家に通うようになった。

「康弘さん、お邪魔します」

「あぁ、どうぞ。狭い場所だが……」

 牧師さんにはアトーンメントの方から事情を説明したようだ。最初は驚かれたようだが、アトーンメント……いや、森岡 涼恵が言うならばと俺に任されることになった。

「そっちの方が護衛もしやすいだろ?」

 そう言って笑うアトーンメントはどこかからかっているように見えた。

 とはいえ、確かにこっちの方が護衛しやすいのも確かだ。光莉さんを仕事先まで送っていくと、「こんにちは!」とヴェールが出迎える。どうやら彼が仕事中の光莉さんをアトーンメントの代わりに護衛を務めてくれるらしい。

「安心してよ、取ったりしないから」

 いつもニコニコしている彼は何を考えているか分からない。……でも、おそらく彼もアトーンメントが好きなのだろうと分かる。

 事務所に向かうと、シルバーが「こんにちは」と待っていた。

「これ、追加情報。あとアトーンメントからの援助」

 そう言って彼は封筒とアタッシュケースを渡してきた。中身を見ると金塊がびっしり詰められていた。これは……億は確実に行くだろう。

「別荘にあったからあげるってさ。おじいさんが保管していたみたい」

「いいのか?こんなに……」

「あの子の家、研究所で資産家だしそれもほんの一部らしいよ」

 何者なんだ、アトーンメント……。

 しかし、助かった。これだけあれば武器も調達できるだろう。

「それで、ボクは何をしたらいい?」

「え、シルバーは戻るんじゃないのか?」

「アトーンメントに言われてね。ボク、こう見えて人間とは違う力も使えるし、協力してあげるよ」

 一体どういうことだろうか……?人間とは違う力……?

 俺が疑問に思っているのが分かったのか、「ほら」と手から小さな火が出てきた。

「え、なんなんだ?」

「狐火ってやつ。ボク、妖狐の血を引いているんだ」

「そ、そうなのか?」

 よくわからないが……実際人の力ではないということは分かる。

 とにかく、協力してくれるというのは助かる話だ。利用される気でいるのだから利用してやろう。

 そうして話し合いをしようとした時、舎弟から「兄貴!半グレが暴れています!」と報告が来た。

「すぐに向かう。シルバー、少し待ってて……」

「ボクも行くよ。戦えるし」

 俺が向かおうとするとシルバーも立ち上がる。聞かなそうだと思い、連れていくことにした。

 半グレが暴れている場所に着くと、シルバーがため息をつきながら、

「生け捕りの方がいい?始末しても大丈夫?」

 そう聞いてきたため「出来たら生け捕りで」と伝えると、

「了解」

 そのまま、シルバーは手を前に出す。そして先ほど見せてくれた狐火?を半グレどもに飛ばした。

「燃え盛れ」

 その言葉とともに、炎が大きくなる。しかし隣の家屋に燃え移るようなことはない。

「自分の意志でどこまで燃やすかコントロールできるんだ」

 そう言って笑うシルバーが恐ろしい。

 そうして生け捕りにし、きっちり制裁を加える。

「ガッ……!クソッ、あいつに従わなければ……」

「あいつ?」

「国谷……あのクソ野郎……!」

 しかし、ある一人から思わぬ名前が出てきて手を止める。

「なんだと?」

「その話、詳しく聞かせてくれるかねぇ?」

 いつの間に後ろにいたのか、氷屋の兄貴も身を乗り出す。

「康弘、あとは俺に任せてくれないか?」

 兄貴に言われてしまっては従わざるを得なかった。「分かりました」と一歩引く。

「さて……お前ら、どういうことだ?国谷というのはあのクズ男のことだろう?」

 兄貴はドスを突きつけながら冷たく尋ねる。

「ヒッ……」

「早く話せ。殺すぞ」

「は、話します!話すので殺さないでください……!」

 氷屋の兄貴は山中の兄貴とは違った恐怖がある。あの怒気には誰も逆らえないだろう。

 そして、分かったのはやはり光莉さんを狙っているということ。どうやらまだ居場所は分かっていないのだが、ここら辺にいるというところまで突き止めているらしい。

「へぇ?あの美人さんをねぇ?自分から捨てたくせにねぇ?」

 氷屋の兄貴の額に青筋が見える。かなりキレているようだ。

 ――まぁ、実際今更だしな……。

 今更なぜ光莉さんを連れ戻そうとしているのか。

「じゃあ、死ね」

 そのまま、兄貴は拳銃で頭を撃ち抜いた。……まぁ、話したら殺さないとは言っていないからな。

「康弘、準備しろ」

「は、はい」

 一体何を準備するのだろう……?そんなことを考えながら俺は兄貴についていく。


「あぁ、そうそう。お前の彼女……光莉、だったか?あの子と牧師をアトーンメントに預けておけ」

 そう指示をされ、俺は頷く。

 しかし、急にどうしたのだろうか?兄貴の意図が読めない……。

「光莉さん、今いいか?」

『はい、今休憩中なので大丈夫ですよ。どうしました?』

「その……しばらくはアトーンメント……涼恵さんのところに身を寄せていてくれないか?牧師さんも一緒に」

 アトーンメントからは許可を得た。光莉さんも『分かりました』と言ってくれた。

『……あの』

「どうした?」

『危険なことをしませんよね?』

 そう言われ、俺は言葉を詰まらせる。

 極道に「絶対」なんて言葉はない。生死に関しては特に。今日明日死ぬかもしれないのだから。

「……分からない。でも、君のところに戻ってくる」

 絶対に、とは言えなかった。

『……はい。待っていますから』

 しかし光莉さんは、健気にそう言ってくれた。それだけで、勇気が湧き出た。

 『絶対に』、彼女のもとに戻ろう。

 そう、心に誓う。



 数日後、氷屋の兄貴と山中の兄貴に連れられて来た場所は古いマンション。

「ここにいるらしいとアトーンメントから聞いた」

 山中の兄貴が呟く。どうやら別行動をしている時にアトーンメントと会ったらしい。二人は古くからの知り合いだからか、よく行動を共にしているようだ。

「ここからは一瞬でも気を抜いたら死ぬと思えよ?」

「はい、分かっています」

 ようやく分かった。きっと氷屋の兄貴は分かったのだ、奴が近くにいるということに。

 中に入ると、奴の舎弟が驚いたように拳銃を引いた。しかし、

「遅い」

 一瞬ののち、山中の兄貴に斬り捨てられていた。

 俺も拳銃を取り出し、応戦する。さらに後ろから炎が飛んできた。

「やっほ。上司に協力してやれって言われてね」

 フードを被っていたが、声ですぐにシルバーだと分かる。

「こっちは俺とこいつに任せてくれ」

「おう、分かった。山中」

 山中の兄貴とシルバーが奴の舎弟をひきつけている間に、俺と氷屋の兄貴は走って奥の部屋まで向かう。

 蹴破るとすぐに銃弾が飛んできた。

「チッ……!」

 それが頬をかすめる。かすかに血が出たようだが、この程度日常茶飯事だ。

 俺が撃ち返し、なんとか周囲の舎弟達の頭を撃ち抜いた。その奥で一人、動じることもなくこちらを見ている男がいた。

「お前が国谷か」

 氷屋の兄貴の質問に「あぁ、それがどうした?」となおも笑っている男は答える。

「なんでお前さんの娘を狙う?あの子はもう堅気で、お前さんとは関係ないだろう?」

 俺が少しでも動いたら撃てるよう拳銃を構えているのを見て、氷屋の兄貴は続けた。

「それに、先に捨てたのもお前さんだ。今更連れ戻そうだなんて、あの子が望んだわけでもないのにずいぶん勝手だろ?」

 氷屋の兄貴は、決して堅気の者に手をかけることはしない。そして極道に引き渡すことなど絶対やらない。それが極道である俺達のせめてもの義理でもある。

「あいつは俺の娘だろう?なら、自由に使っていいハズだ」

「……お前さんを説得しようとしただけ無駄みたいだねぇ?」

 しかし返ってきた答えに、氷屋の兄貴はため息をつく。

 その答えにキレたのは俺もだ。こいつ、娘を何だと思っているんだ?

「話はそれだけか?なら、容赦する必要もないな」

 国谷は素早く拳銃を取り出す。間一髪、避けることが出来たが今度は近付いてナイフを振りかざしてきた。

 さすが、ほかの組織を悩ませただけある。……しかし、

「死んどけ!」

 俺が奴の頭に拳銃を突きつける。そしてナイフが腹に刺さると同時に撃ち抜いた。



 目が覚めると、闇医者……ではなく雪那先生の病院の一室だった。

「ごきげんよう。調子はどうかな?」

 桜色の髪の女性に聞かれ、俺は頷く。

「なぁ、なんで……」

「君、おなかに深くナイフが刺さったでしょ?それで担ぎ込まれたの。あの子の頼みだから聞いたのよ」

 そう言って彼女は笑う。どうやら雪那先生はアトーンメントに何か思うことがあるらしい。

「ちょっと待っててね」

 そう言って病室から出る彼女。入れ替わりで入ってきたのは果物を持ってきたアトーンメントと光莉さん。

「やっと起きたか。お嬢さん、心配していたぞ」

 机に置きながら彼女は小さく笑う。

「国谷は死んだよ。お前のおかげでね」

「そう、か」

「じゃ、今度ゆっくり話そうか。今はお嬢さんとの逢瀬を楽しめ」

 それだけ言って、アトーンメントは病室から出た。

 その場に残ったのは光莉さんだけ。

「……生きててよかったです」

 ポロポロと涙を流す彼女の頬に、俺は振れる。

「……あぁ。心配させてすまなかった」



「あら?涼恵、もう帰るの?」

 雪那さんにそう言われ、私は笑う。

「えぇ。また今度でもいいでしょうし。……それに、あの二人も幸せになっていいですからね」

 極道は幸せになる権利なんてない、なんて言う人もいるだろう。

 でも、極道というのははみ出し者になってでも自分の道を貫くことを決めた者。それが正しいかは置いておくとして、それも立派な「道」なのだと思う。

 私も半グレやその意味をはき違えている人がいるから庇うつもりもないけど、少なくとも私が信用している彼らはその道を踏み外すことはない。そう、信じている。

「……そうだね。私も長年生きてるから、涼恵の言いたいことも分かるよ」

「えぇ。雪那さんなら分かってくれると思いました」

「彼は私が責任を持って治療するわ。彼女のためにもね」

「はい、よろしくお願いします」

 私は華道を雪那さんに任せ、研究所に戻った。



 一か月後、退院できた俺は通常業務に復帰した。

「康弘、見回り行ってこい」

 氷屋の兄貴に指示を出され、いつものように舎弟とともに見回りに出かける。

 その途中で光莉さんが仕事しているところを見かける。彼女はこちらに気付くと、笑って手を振ってくれた。

 あの後、光莉さんと同棲を始めた。牧師さんも近くに引っ越し、光莉さんのことを気にかけてくださっている。

 この日々を大事にしていきたい。そう思いながら今日も俺は自分の仕事をこなしていく。



 それから一年後、俺は黒のタキシードを着ていた。

「おぉ、似合っているぞ、華道」

 親父さんが感動したように涙を流す。山中の兄貴と氷屋の兄貴も「おめでとう」と笑いかけてくれた。

 その時、アトーンメントが扉を開ける。

「どうぞ、お嬢さんに牧師さん」

 その言葉とともに入ってきたのは、漆黒のドレスに身を包んだ光莉さんと白いタキシードを着ている牧師さん。

 そう、今日は写真を撮るために森岡家に集まっていたのだ。一室を白い壁紙にしてくれて、式場のようにしてくれた。

 何せ俺は極道だ、光莉さんのためにも籍を入れるわけにはいかない。でもせめて、写真だけは撮りたいと俺が言ったのだ。

「おめでとう、二人とも」

 アトーンメントが笑う。思えば彼女にもかなりお世話になった。

「光莉、幸せになるんだぞ」

「はい、牧師様」

 光莉さんは、笑顔で牧師さんに送り出される。

「二人とも、まず一枚撮るよ」

 アトーンメントがカメラを持って、俺達に声をかけた。俺と光莉さんは彼女の方を見る。

「それにしても、お嬢さんも黒のドレスを選ぶなんてお目が高いね」

「え、どういう……?」

「黒のドレスには意味があってね――」

 アトーンメントがシャッターを切ると同時に、その意味を答える。

 黒のドレスは――。

 「あなた以外に染まりません」。

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