表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

僕の秘密の恋

「やー、楽しかったね。花火」

 花火大会の帰り道、君は笑った。

 

「最後のさ、ドドドーンって三連発。めっちゃきれいだったよね。空気が揺れるってあんな感じなんだねぇ。お腹の方まで響いてくる感じ。びっくりしちゃった。……ところで、さ。この浴衣、どう思う?」

 はにかむように笑うと、少し浴衣の袖を広げる君。

 その姿は、先ほどまで花火を見てはしゃいでいたこともあり、少し上気した頬も相まってとても綺麗だ。

 

「この浴衣さ、たまたま見つけたんだけどすっごい可愛くてさ、もー直ぐに手に取っちゃったんだよね。

 んで、レジに行ったらいくらだったと思う? ウン万円よ、ウン万円。あーあ、あれであたしのお財布は空っぽになっちゃったわ」

 そう言うと、君はせしめたソフトクリームをペロリと舐めた。

 

「おいし。え? 大丈夫よ。浴衣に落とすなんて、子供じゃ無いんだし、そんなヘマしないわ」

 カランコロンと君の下駄が闇夜に高らかに鳴った。

 賑わっていた祭り会場から離れると、途端に辺りは寂しげな雰囲気に変わる。

 小川のせせらぎに虫の声。

 遠くから微かに聞こえる祭りの喧騒が寂寥感を駆り立てた。


 

「それとも、もしかして欲しかった? ごめんね。あたしでちょうど売り切れになったし、やっぱいる? 一口くらいなら――あ、要らない? ……あっ、もしかして間接キッスになるから? ――ああ、ごめん、ごめん。置いてかないでよ」

 ちょっと早足で歩けば、君はケラケラと揶揄うように笑い、唐突にしゃがみ込んだ。


 

「ん、大丈夫。下駄とか初めてだから、鼻緒がズレてたのかな」

 何でもない風に言うが、本当だろうか?

 月明かりではよく見えない。祭りの会場に戻れば救護テントもあるだろう。

 そこに戻ろうと提案すると、君は首を横に振った。

 

「いいよ、いいよ。これくらい大したことないって。それよりさ、茜と山田。やっぱ来てたね。二人して手を繋いでさ、やっぱデートかなぁ」

 君は立ち上がり、溶けかけたソフトクリームを口に放り込むと歩き出す。

 カラン、カランと君の下駄の音が辺りに響いた。

 

「あ、からかったりするのはやめてあげなよ? せっかく二人楽しそうだったし、水差しちゃうのは悪いからさ。

 ……そういえばさ。昔、ここの小川に蛍がいたっていうの知ってる? そう、居たんだよ。蛍。

 ちっちゃい頃には、お父さんたちとよく見に来てたの」


 小川を覗き込むが、蛍の姿は見えない。

 月明かりに水面が微かに煌めくだけだ。


「え? もしかして蛍探してる? この時期に居るわけないじゃん。八月も後半だよ、今。

 蛍は六月。……ま、最近はもう居なくなったみたいで六月だったとしても見えないんだけどね」


 君の寂しげな声に小川から目を戻せば、君との距離が少し開いていたのに気がついた。

 三歩後ろに下がり、君と歩調を合わせて歩く。

 

「え? なになに? どうしたの? あ、もしかして歩くの遅かった? ごめんねー」

 そう言ってケラケラと笑う君だが、少し歯切れが悪い。

 足元を注視してみると、右足を庇ってるようにもみえる。

 

 ここから家まではそう遠くない。走って救急箱でも取ってくるべきだろうか?

 だけど、君を放っておいて良いのか?

 もし、何でもなかったら? 君との時間は?

 

 ぐるぐると考えが頭を巡る中、君と何でもない会話を続けて歩く。

 

 

「ほら。もう、ここあんたの家でしょ。あたしは一人で帰れるからさ。じゃ――って、なに? もー、腕引っ張らないでよ。着崩れちゃうでしょ」


 腰に手を当てて、怒ってますと全身で表現する君を玄関まで引っ張ってくると、灯りをつけて三和土に座らせる。


 月明かりでは見えづらくとも、蛍光灯の灯りの下では一目瞭然だ。

 下駄の鼻緒が食い込んでいたのだろう。

 足の親指と人差し指の付け根が真っ赤に擦りむけているのが見える。


「うーわ、結構赤くなってるわ」

 血は出ていないみたいだが、時間の問題だろう。君の家まではまだ一キロほど。

 家に着くまでには血だらけの下駄になること請け合いだ。


 大慌てで救急箱を手に戻り、君の下駄を脱がせると、玄関に膝をついて治療を始める。

 かといって少ない知識でやれる事はほとんどない。せいぜい消毒して絆創膏を貼るくらいだろう。


「痛っ! っ、しみるぅー」

 脱脂綿に染み込ませた消毒液をポンポンと患部に当てれば、君が手を握り込んで痛みに耐えていた。

 ぎゅっと瞑った目に光るのは涙だろう。

 やっぱり家まで走り、救急箱なり取ってくるべきだった。

 後悔しても遅い。


 右足までとはいかずとも、若干赤くなっていた左足の親指と人差し指の間にも同じように消毒して絆創膏を貼る。


 これで歩いて大丈夫とはいかずとも、マシにはなるだろう。

「あ、ありがとね。助かった」


 患部がまだ痛むのだろう。

 絆創膏の上からさすさすと撫でる君に、お茶を入れてくる。と言い残し、救急箱を手にした僕はその場を離れた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ