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彼女を尾行してみた!

作者: 鎌倉

よろしくお願いします。

高校へ入学して3日目の昼休み、俺は一人、ぼーっと掲示板のクラブ案内を眺めていた。

周りには1年の男女が何人かいて、楽しそうに相談していた。


突然、後ろから手が伸びてきて、目隠しされてしまった。

すべすべの手の感触が心地良い。


「真莉愛、来てくれたの?」

「えっ?」


目隠しが解かれたので、振り向いたら茶色の髪をポニーテールにまとめた

メチャクチャ綺麗な女の子がビックリしていた。


「なんだ、里桜ねえか。」

人違いが恥ずかしかったので、ちょっとぶっきらぼうになってしまった。


「テル、ちょっと、こっち、こっち。」

その女の子は従姉の中内田里桜なかうちだりお、1つ年上で、

正月とお盆に親戚一同が集まった時には、年が近いこともあって、

従兄弟の中では一番親しくしていた。


里桜ねえは俺の袖を引っ張ってずんずん歩いた。

周りに人がいなくなると里桜ねえは振り向いてにっこりと笑った。


「入学、おめでとう!これからよろしくね。先輩をよ~く敬うように!」

「挨拶が遅れまして申し訳ありません。よろしくお願いいたします。」

マジメな表情をつくって、頭を90度下げた。


「サラリーマンか!」

里桜ねえのツッコミで二人とも笑った。


里桜ねえは自動販売機でパックのカフェオレとイチゴオレを買うと、

イチゴオレをぐいっと差し出してきた。


「はい、合格祝い。」

「チープ過ぎない?」

「でも、温泉に行ったら必ずイチゴミルクだったよね?」

こてんと顔を傾けた里桜ねえが可愛い。


「それ、子どものころ!」

意外そうに里桜ねえはビックリしていた。

「えーっ、嫌いになっちゃったの?」


「・・・好きだけど。」

答えを聞いて里桜ねえはにんまりと笑って、持っているカフェオレを差し出した。


「入学おめでとう、乾杯!」

「・・・乾杯!」

イチゴオレを軽くぶつけたら、満面の笑顔になってくれた。


「それで、どこの部に入るか決めた?」

「いや、運動部は止めておこうってことだけ。帰宅部にしようかな?」

里桜ねえの目がキラリンと光った。


「私が入っている文芸部はどうかな?部員は私一人なんだよね。」

「えっと、クラブ案内には、なんかコンクールとか、小説の投稿とかノルマがあるって

書いてなかったっけ?

面倒だから、イヤだよ。」


「ふふ~ん!あれはね、新入生を拒否するためなんだよ。実際、ノルマが面倒だしね。

だから、部員を減らして、同好会に格下げすればノルマが無くなるから、パラダイスだよ!」


「でもさ同好会になったら、デメリットもあるんじゃないの?」

「部費がなくなるけど、部室は引き続き使えるんだよ。

なんと、私と二人っきりで!うん、パラダイス!」

得意げな顔で里桜ねえは両手を大きく開いた!


「えっと、里桜ねえ抜きで、昼休みに使えるのかな?」

「私抜きって酷くない?」

里桜ねえは頬をぷーっと膨らませた後、にんまりと笑った。


「ふふ~ん!お弁当を彼女と食べたいってこと?いいよ、いいよ。

彼女出来たんだね?誰、どんな子なの?」


「同じクラスの須貝真莉愛すがいまりあ

背が高くて、スタイル抜群で、すっごく可愛いんだよ。」


「惚気やがって!」

バンと背中を叩かれてしまった。


「で、そのすっごく可愛い彼女ちゃんとなんで一緒じゃないの?」

里桜ねえはワザとらしく、辺りをキョロキョロ見渡した。


「ああ、なんか女子4人で担任の先生に話しに行ったよ。」

「担任って誰?」

「松田って若い男。」


「ああっ、あのイケメンね!2年目で、男子バレー部の顧問だよ。」

「そうなんだ。」

「また、彼女ちゃん、紹介してね。あと、文芸部に入るように!じゃあね!」

台風のように、少しの時間を暴れまくって去って行った。


金曜日の放課後、クラスの半分ほどでカラオケに行った。


真莉愛が歌い出すと、ノリノリの笑顔で高い声を自由自在に操るもんだから、

野郎どもは拍手喝采して、クラスで一番陽キャな矢作大地が無理矢理隣に座らせ、

口説こうとしていた。


慌てて真莉愛と付き合っていることを伝えると、

男どもの半分はやっかみ、半分はうらやましがった。ふふん!

特に、矢作の目つきはヤバかった。


まあ、俺はひいき目に見て、なんとかイケメン、かな?っていうカンジだからな。


帰り道、幸せな気持ちで真莉愛と手を繋いで歩いていた。


「ねえ、テルは何部に入るか決めた?」

「うん、従姉から文芸部に誘われたんだ。

部員が少ないから部室を自由に使えるんだよ。

2人で、部室で昼ご飯食べようよ。」


「いいわね。うん。でも、もう少し、女子と仲良くなってからね。」

「わかったよ。女バスはどんなカンジなの?」

「練習は厳しいけど、時間は短いみたい。

水曜、土曜の午後、日曜は休みね。」


「じゃあ、予定どおり水曜と日曜はデートしようね。」

「うん!ねえ日曜はどこに行く?」

真莉愛は嬉しそうに行きたい場所をいくつも提案してきた。


毎週木曜日に文芸部に行くことになった。

初めて部室に行くと、里桜ねえが歓迎してくれた。


「いらっしゃ~い!はい、イチゴオレ!」

「・・・ありがと。オレもカフェオレの方がいいな。」

少し不満を示したのに、里桜ねえは何故か、にんまりと笑った。


「じゃあ、半分ずつ飲む?」

「うん?どこにコップあるの?」

ただの狭い部屋で、机と椅子しかないけど・・・


「か・ん・せ・つ・キッス!」

ウインクして、投げキッスをかましてきた。


「イチゴオレでいいです・・・」

「つまんな~い!」


里桜ねえは大きく手を挙げ、体を後ろにそらせた。

大きな胸がやたらと強調されている!


なんだか、小学生の夏休みにばあちゃん家に一緒に泊まった時にみたいで、

楽しくなってきた。


「ほら、先輩!いや、キャプテン!いや、部長!いや、会長、今日は何するんです?」

「私のことは、「絶世の美人会長」か「大好きな里桜ねえ」のどちらか呼んでね?」

綺麗な顔をぐっと近づけてきたので、思わずのけぞってしまった。


「いや、無理ですけど・・・」

「ちぇっ、ケチ!今日の活動は、学校の宿題か、図書室で本を借りてくるか、

ネット小説を読むか、私と世間話を続ける。どれがいい?」

里桜ねえは指を折りながら、楽しそうに提案してきた。


「じゃあ、図書室に行ったことがないんで、本を借りる。」

「ちぇっ、つまんな~い!じゃあ、案内してあげるよ。」

里桜ねえは文句をいいながら、笑顔で軽やかに立ち上がった。


借りてきた本を30分ほど読んでいると、それに飽きた里桜ねえが話しかけてきた。

「そういえば、いつ、彼女ちゃん紹介してくれるの?」


「バスケ部で忙しいから無理だよ。はい、この子。」

スマホで写真を見せてあげた。

真莉愛が少しすまし顔で写っていた。


「めっちゃ可愛いじゃん!」

「だろだろ?」

「これ、テルには勿体ないよ!大事にしなよ。」


「分かっているよ。逆に、里桜ねえはカレシとかいるの?」

「えっと・・・」

斜め上を見ながら少し考え、里桜ねえはイタズラっぽい笑顔をつくった。


「カレシはいないけど、婚約者はいるよ!」

「うっそだ~。そんなの初めて聞いたよ!」


「これこれ、この子。」

里桜ねえのスマホには、ビニールプールで大の字になっている男の子が写っていた。

裸で!海パンもなく、裸で!丸出しで!フルチンで!


「(小さい頃の)俺じゃね~か!」

思わず、絶叫してしまった。


「うん。この時、「里桜ねえ、結婚しようね。大好き!」って言ってくれたんだよ?

忘れちゃったの?指切りげんまんしたじゃない。」


わざとらしく、しくしくと泣き出しやがった。

「覚えてね~よ!」


「ひどい!ひどすぎる!

10年近く、その言葉を信じていたのに!

乙女心を弄んだのね!

そんなヤツはこうだ!」


飲みかけのイチゴミルクを取り上げられ、全て飲まれてしまった。

「ぷは~、美味しかった!」

「ひでえ!」


6月の火曜日、クラスの男友達と少しだけ遊びに行ったので、

21時から宿題をしようと思ったら、消しゴムがない。


しょうがないから、コンビニまで買いに行って、

店を出たら、目の前を我が校の制服の女の子が歩いていた。


「真莉愛!」

「テル!!」

声を掛けると凄くビックリされてしまった。


でもこんな偶然があるって、真莉愛とはやはり運命だよね。


「ずいぶん遅いんだね。クラブの友達とご飯でも食べに行ったの?」

「うん、そうだよ。」

ゆっくりと歩き続けている真莉愛に小走りで近づいて並んだ。


「うん?真莉愛、今日は香水の匂いがいつもと違うね?」

「あ、ああ。今日は部活でいっぱい汗を掻いたから、先輩に香水を借りてみたんだ。

ちょっと、キツかったかな。ゴメンね!」


手を繋ごうと肩が触れあう距離まで近づいたのに、少し離れてしまった。

ぐすん。

余計なことを言うんじゃなかったよ。


木曜日、文芸部ではネット小説を読むことになった。

「なろう」で一番人気の「ざまぁ」を読み始めると、彼女の香水の匂いが

変わっていたというくだりがあった。NTRったヤツの好みで。


思わず、大きなため息をついてしまうと里桜ねえが食い付いてきた!がぶがぶ!

「どうかした?何読んでいるんだっけ?

うわぁ~、彼女ちゃん、NTRれちゃった?」


「そんなことないよ!

でも、一昨日の夜、嗅いだことのない香水の匂いがキツかったから・・・」

強く否定したものの、どんどん声が小さくなってしまった。


「ゴメン。悪い冗談だったね。」

「いや。昨日は普通だったし、ホントに、先輩に香水借りただけだよ。きっと。」


「きら~ん!これは名探偵里桜ねえの出番だね。

私のピンク色の脳みそが動き出したよ。」

「色ボケしてるじゃん!」


「うん。テル、ライン見せて。」

「は?いやだよ。」


「NTRれていないことを証明するんだよ。早く。絶世の美人会長命令だよ!」

ぐいぐいと手を出してきた。

里桜ねえのことだから、許してくれないよな・・・


「・・・はい。」

里桜ねえはメッセージのやりとりを一目見てニヤニヤしながら、呟いた。

「バカップル!」


「うるせ~!」

何やらメモしながら、どんどん遡って行った。


「・・・平日は怪しい曜日は決まってはないね。

でも、土曜の午後は返事が遅いよね。」

「その日は大体、女友達と遊んでいるから、しょうがないんじゃ・・・」


真莉愛の様子がほんの少しだけでも変だったのは、あの夜だけだから、

なんでこんなことになったんだろうってぼんやりと考えていた。


「うん。彼女ちゃんを尾行してみよう!」

突然、里桜ねえが立ち上がって宣言した。


「はあ?」

「一度、尾行ってやってみたかったんだよね!」

里桜ねえのイタズラっぽい表情に負けてしまった。


土曜12時に、高校へ向かうと里桜ねえが先に待っていた。

歩道のマンホールの上に立っていて、日傘をクルクルと回していた。


上品な日傘の下は活動的な格好をしていて、

そんなアンバランスな格好もよく似合っていた。

おお神よ!俺とは違いすぎます!差別、ひどくないですか?


「はい、これで変装してね。」

チープすぎる帽子と薄いオレンジのパーカーを渡された。

「帽子、似合ってる、うぷぷ。」

「うるせー!」


バカを言いながら30分ほど待つと、ジャージの真莉愛が出てきて、

友達にサヨナラを言った。

そして家の方角へ1人、歩いて行く。


「よし、行くわよ、ヘイスティングス。」

「イエス、マム!」

日傘で相合傘をしながら、こそこそと尾行していった。


俺が日傘を持って、里桜ねえは俺と腕を組んでいて、ぐいぐいと大きな胸を押しつけてきた。

・・・これって、俺が浮気しているみたいだ。


15分ほど歩くと真莉愛は自宅に吸い込まれた。


「なあ、もう止めようよ。なんかイヤになってきたよ。」

「う~ん。せっかくだからもう少しだけ。ねっ?はい、あんぱん。」

笑顔で差し出されたあんぱんを食べ、牛乳を飲んで張り込みを続けた。


30分ほど待っていると着替えた真莉愛が出てきた!

初夏らしく、薄手で爽やかな格好がとっても似合って可愛かった。


今度は最寄り駅方面へ歩き出した。

どこに行くのかな?


駅に着くと、いくらか確認せずに切符を買っていた。

ドキドキしてきた・・・


「はいこれ。」

緊張した様子の里桜ねえに交通系電子マネーを渡され、こそこそ追いかけていく。


繁華街ではない方のホームへ向かった!

みんなでカラオケとかじゃないの?

不安が大きくなってきた!


普通電車に乗ると4駅目で降車したが、寂れた駅前には誰も待っていなかった!

泣きそうになってきた!


慣れた様子で山側へ歩いて行く真莉愛。

迷い無く歩く真莉愛の後をこそこそとついていくが、その時間がえらく長く感じた。

目的地に着いたようだ。たった10分だった。


2階建てのハイツ。


2階へ上がって慣れた様子でチャイムを押すと真莉愛は髪を少し整えていた。


ドアが開いた!


担任の松田だ!


「嘘だろ・・・」

笑顔で部屋に入っていく真莉愛を見ながら、呆然と呟いた。


しばらくしてから里桜ねえがためらいがちに話しかけてきた。

「ねえ、テル、ゴメンね。私が尾行しようって言ったから・・・」


「・・・いや、真実を知ることは一番大事だよ。

里桜ねえのお陰で早く真実にたどり着いたから感謝だよ。

まあ、絶望しかないけどね。あははは。」


「テル・・・」

「里桜ねえが隣にいてくれるから立っていられるんだ。ありがとうね。」

俯いてしまうと里桜ねえは優しく頭を撫でてくれた。


「ねえ、どうするの?」

「・・・なんも考えつかない。」


「とりあえず、ライン送ってみて。「今日、会いたいけど、何時なら大丈夫?」って。」

『ゴメンね。今日は遅くなるの。明日、朝から会うからその時に。』

返事を見て、涙がこぼれた俺の肩を里桜ねえが優しく抱きしめてくれた。


次の日、朝から頭が痛いってデートをキャンセルした。


30分後、心配そうな真莉愛が来てくれた。

「テル!凄く顔色悪いよ、大丈夫?」


正直、うなされて跳起きたり、悩んで寝不足なだけだった。

ベッドに横たわり、優しく声を掛けられるとすぐに気を失った。


しばらくして目を開くと、真莉愛がドアを背に体育座りしていた。

にこにこしながら、メッセージのやりとりをしていた。

寝返りをうつと真莉愛は表情を消した。


「おはよう、テル。気分はどう?」

無から心配そうな顔に変わった。


「うん、頭痛薬が効いて、ずいぶん楽になったよ。」

「よかった~。じゃあ、何か昼ご飯買ってくるね。何が食べたい?」


真莉愛が買って来てくれたのは即席(湯煎)のおかゆ。

「うんま!」

マジで母親のおかゆより、ずっと美味かったけど、

病気になって二人っきりなのに、彼女の手料理というイベントが発生しないって・・・


月曜日、ホームルームや授業での担任と真莉愛の様子を観察し続けた。


・・・真莉愛のヤツ、恋する乙女の視線だった。

俺にはクラスメイトと同じような視線になっていた。


そういや、入学してすぐ、何人かの女子と「キャーキャー」言ってたよな・・・

これって、気づかなかった俺がマヌケだったっていうことか・・・


木曜日、部室に行くと里桜ねえが部活の予定を調べてくれていた。

「明後日の土曜は男子バレー、女子バスケともに、午前中だけ練習だよ。

・・・先週と一緒だね。

その次の週の土曜は試験休みだよ。」


「・・・この前の日曜日、真莉愛は一日中、仮病の俺を心配してくれたんだよ。」

「そう・・・でも、真実が一番大事って言ってたよね?

明後日の土曜、もう一度、尾行してみるよ。・・・私だけで。

あと、その次の週の土曜は一緒に勉強しようって誘ってみて。」


「・・・いや。里桜ねえだけには任せられないよ。俺も付き合う。」

「・・・そう。」


早速、来週の土曜、一緒に勉強しようってラインを飛ばしてみた。

夜、遅くになって、

『その日は女の子と一緒に勉強したいんだ。ダメかな?日曜に一緒にしようね。』

って返事が来た・・・


金曜まで、真莉愛と松田を観察し続けた。

学校内では気を付けているようで、2人っきりになったり、

視線を何度も合わせたりするようなことはなかった。


だけど、真莉愛が一番嬉しそうだったのは、恋人である俺といる時ではなく、

スマホを見ている時だった。

どんな愛のセリフが届いたのだろうか?


土曜日、昼過ぎ、駅前のカフェで警戒していたら、

ウキウキしたカンジで真莉愛がやって来た。

2つめのチープすぎる帽子を被って、こそこそと尾行した。


やはり、松田の家に吸い込まれていった。

先週よりはショックが全然なかった。やっぱりそうかっていうカンジ。

隣にいる里桜ねえは怒っているのか、プルプル震えていた。


その次の日、日曜は気力を振り絞ってショッピングモールデートをしたら、

真莉愛は楽しんでいたようだった。

ただ、真莉愛から手を繋いでくれることはなかった・・・


また月曜から金曜まで、観察を続けたが、

真莉愛の俺に対する恋心はすっかり醒めちゃったんだなって確信してしまった。


その次の土曜、9時から、駅前のカフェで待ち伏せしていたら、

ルンルンしたカンジで真莉愛がやって来た。

3つめのチープすぎる帽子を被って、こそこそと尾行した。


松田の家の最寄り駅で、待っていた松田の車に吸い込まれていった。

真莉愛は車に乗り込む前に、何度も振り向いたりして、辺りを警戒していて、

見つかりそうでヤバかった。


そして、車に乗り込むと、松田に軽くキスしていた・・・

思わずしゃがみ込んでしまったが、里桜ねえは怒りの余り震えていた。


「とりあえず、場所を変えよう!」

また電車に乗って、ずっと2人とも無言で考え込みながらカラオケ店に行った。

歌うためじゃなく、周りにこの相談を聞かれないために。


「ねえ、どうする?」

「とりあえず、別れるよ。」


「うん、それはマスト!でも、どう別れるの?松田はどうするの?」

「う~ん。さっき、キスしているのを見ても、怒りは湧かなかったんだよね。

なんでだろ?でも、明日、真莉愛と別れてくるよ。」


「そう。頑張ってね!」

里桜ねえは無理矢理笑顔をつくってマイクを握った。

「じゃあ、今から歌いまくるよ!」


日曜日、朝11時に真莉愛と会ってすぐ、寂れた公園に向かった。

向かい合ったら真莉愛は何があるのか不思議そうな顔だった。


「真莉愛。俺と別れてくれ。」

「えっ!なんで?どうしたの急に!嘘よね?」

真莉愛の顔に喜びや悲しみはなく、困惑しかなかった。


「いや、本気。別れてください。」

「どうして?なんでなの?」

「他に好きな人が出来たんだ。」


「誰よ?どこのどいつ?」

真莉愛が激怒して、言葉が汚くなった。

うぉ、こんな怒ってるの初めてだ、怖い!だけど。


「クラブの先輩。」

「あの従姉か!なんでよ!」


「優しいし、胸がデカいから。」

「ふざけんな!キモいわ、お前!死ね!」

顔が真っ赤になった真莉愛は怒りの余り、

さんざん口汚く罵ってから、憤然と帰っていった。


結局、松田とのことは言わなかったな。

それに、激怒してたけどどういうことだろう?


俺のことをまだ好きだったのか?まさか。

真莉愛ハーレムの一員として必要だったのか?それだったら、引き留めるか?

松田とのカモフラージュ要員として絶対に必要だったのか?

ほんと、わからん。


すぐにクラスのグループチャットが荒れた。

「二股かけられた!」「酷いこと言われた!」「体目当てだった!」

など事実無根なことを色々投稿され、真莉愛と仲がいい女子や、

真莉愛を狙っている男子どもがのっかって、俺を酷く攻撃していた。


ああ、俺から別れを切り出したから、プライドが傷つけられたってことね。


月曜、「おはよう!」っていいながら教室に入ったら、

いつもの半分くらいの挨拶と、10人ほどの連中からの敵意満載の視線をいただいた。


もう必要はなかったんだけど、習慣で真莉愛と松田の観察を続けてしまったが、

相変わらず、真莉愛の松田への愛の視線が熱かったよ。

ちなみに俺への視線はメチャクチャ冷たかった。


木曜まで待ちきれない里桜ねえから呼び出しを受けたので放課後、部室に集合した。

「どうだった?」

里桜ねえの食いつきが凄い!


「うん、クラスメイトからのバッシングが凄かったよ。

でも、朝だけだったね。」

「うん、よかったね。それで、ちゃんと別れた?どう別れたの?」


「・・・えっと、他に好きな人が出来たから別れてって。」

途端に、里桜ねえが挙動不審になった。


「・・・どんな人を好きになったの?」

「・・・いつも俺のことを気にしてくれて、優しくって、明るくって、綺麗な人。」

胸がデカいは内緒な。

恥ずかしかったけど、里桜ねえをまっすぐ見つめた。思いが伝わるように。


「・・・いつ、告白するの?」

里桜ねえは頬を染めて、目をそらし俯いた。

「・・・しばらくして、ほとぼりが冷めてから。」

「・・・そう。じゃあ、困ったことがあったら、また相談してね。」


夏休みに入ってすぐ、別れを告げた公園に、夜8時、真莉愛から呼び出しを受けた。

真莉愛は怒りのオーラに包まれていた。ゴゴゴー!


「どういうことよ!」

「何の話?」

「ふざけないで!アンタでしょ!アンタがやったんでしょ!」


何の事か分からず反応出来ない俺に平手打ちが飛んできて、

「バチン!」と凄い音がなった。

頬がジンジンする。


「俺がなにしたっていうんだ!」

理不尽なされように怒りをぶつけると、真莉愛はひるんだ。


「・・・ホントにアンタじゃないの?」

思い当たるフシはあるものの、ホントに知らなかった。

「おい、ワケを言えよ!ぶっ叩いたワケを!」


きっと、先生と付き合っていることがバレたんだろう。

だけど、何にも知らないフリをしている俺に、それを言えるのか?

先生と付き合っているって!

しかも、俺と別れていない頃から付き合っていたって!


「いや、それは・・・」

「ふざけんな!」


全力でビンタ返ししてやった。あ~、すっきりした!

泣き出した真莉愛を放って帰った。


7月最後の土曜の夜、花火大会があるので、里桜ねえを誘った。


3週間ぶりに校外で会った里桜ねえは大きな赤い牡丹、薄いピンクの牡丹の浴衣を着ていた。


「すっごく似合っていて、すっごく綺麗だよ。」

「ありがと。テルもカッコいいよ。ちょっとだけね。」

里桜ねえは照れくさそうに笑った。


「ちょっとかよ!」

「うん!これだけ!」

目の前に出された里桜ねえの親指と人差し指がぎりぎりくっついてなかった。


笑いながら2人で歩きだしたけど、周りに人がたくさんいたので、

普段よりも距離が近くなってしまった。

お互いの手の甲が優しくぶつかると、里桜ねえの指が俺の手を優しくつまんだ。


ドキッとして里桜ねえを見つめると、里桜ねえは潤んだ瞳で俺を見つめていた。

つままれていた手を恋人繋ぎにバージョンアップしたら、

恥ずかしくなって、お互い何も言えなくなってしまった。


大きな花火が次々と花開いていた。

「凄いね~、綺麗だね~」

何度も呟いているので、つい囁いてしまった。


「里桜ねえも綺麗だよ。」

「バカ!」

脇腹をつねられてしまった。


大満足な花火大会が終わると家まで送り届けることにした。

どこに赤ずきんちゃんを狙う狼がいるか分からないし、

1秒でも長く一緒にいたかったし、それに・・・


家の前につくと、頬を染めて微笑んでいる里桜ねえの両手を優しく掴んだ。

「里桜ねえ、好きだ。付き合ってくれ。」

「いいよ。でも、遅いよ。待ちくたびれちゃったよ。」


「ゴ」

言い終わる前に、唇を奪われてしまった!


「にしし!」

テレテレ笑う里桜ねえを抱きしめて、何度も、何度も、何度もキスした。

最高に幸せな夜だった。


次の日、家族に里桜ねえと付き合うことを伝えた。

「アンタ、里桜のことがずっと大好きだったもんね~」

母親がそう言うと、家族みんなにニヤニヤされて、超恥ずかしかった。


ちなみに、里桜ねえも家族に伝えたら、

「アンタ、テルのことがずっと大好きだったもんね~」

と言われ、やっぱり家族みんなにニヤニヤされたそうだ。


お盆に、ばあちゃん家に親戚一同、30人近くが集まったとき、

ニヤニヤしている母親が俺と里桜ねえが付き合っていると暴露しやがった!


「ああ~、お前らずっと仲良かったもんな!」

「いや、イチャイチャって言う感じだったよ!」


「どっちが口説いたんだ?うん?」

「もうヤッタのか?」


「結婚は何時だ?」

「子どもはまだ作るんじゃないぞ!」


などど、酒の肴にされて、パワフルな酔っ払いオジサンや、

恥じらいを忘れたオバサンたちに色々とツッコまれ、

2人ともタジタジとなって、ずっと苦笑いを浮かべていた。


ずっと手を繋いでいたから幸せだったけど。


2学期が始まった。

担任の松田は異動になっていた!


休み時間になると、男子バレー部員が

「3年が引退したら、体調が悪くなったって顧問が替ったんだ。

その前の日まで元気いっぱいだったのに!」

って言い出すと、クラスメイトはあれやこれや大きな声で話していた。


急に顔色が悪くなった真莉愛もその中にいたが、なにも言わず、肯いてばかりのようだった。

で、「女子と付き合っていることがバレて、異動になったに違いない!」

って結論になったみたい。うん、大正解!


ただ、その生徒は特定されなかったので、真莉愛はホッとしただろう。



俺に対する嫌な空気はほぼほぼ無くなっていて、ホッとした。


お盆過ぎてから、そういえばって真莉愛にビンタを食らったことを思い出して

里桜ねえに話したら、慌てて何回も謝られた。


なんでかっていうと、里桜ねえは終業式の日にお手紙を送ったそうだ。

真莉愛が松田の家庭訪問している写真を同封して。

車の中で松田と真莉愛がキスしている写真を同封して。

教育委員会と学校あてに。


そのせいで松田と真莉愛は多分、事情聴取されて、

チクった犯人は俺だと誤解した真莉愛にビンタを食らってしまったわけだ。

あながち間違いじゃなかったけど。


罰として、里桜ねえにいっぱいセクハラしてやった。

「いじわる!」

って妖艶な笑顔を見せてくれたあと、いっぱい仕返しされちゃって、

超楽しかったよ!


今日も、文芸部の部室で里桜ねえとお弁当を食べながら、ばか話で大笑いして最高だよ。

うん、まさにパラダイス!


読んでくれてありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 収まるべき所に納まった2人って感じです。
[気になる点] ざまぁは?
[一言] もっと悲惨な目にあって欲しかったですね。 何か物足りないような?
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