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極楽推断恋して絶佳(1)

待ち合わせの時間

チョコレートの甘さの向こうに

何も無いような日は

コーヒーの香りと過ごす

読んで忘れてしまった本を取り出し

バラバラになった内容を

無理矢理に組み立てながら

一行目を読み出す


スマホのバイブレーション

テーブルの上で相撲を取り始め

飼い猫の前足が

たまにそれを止める

音の質が変わり

押し付けられたような

息苦しさに変わった

何やら忘れていた気がする


七十ページの数字で

栞を挟み込んで

読みかけの本置場に

うつ伏せで置いた

スマホに手を伸ばすと

着信が二件

名前で思い出して

背中から寒くなる


ジーンズを履いて顔を洗い

飼い猫の餌をチェックした後

財布を持って飛び出した

忘れていた

忘れていた

会う日だった

待ち合わせの場所を

二日前にやり取りしたじゃないか


二時間ズレて

待ち合わせた公園へ行くと

見渡しても

それらしい人は居ない

スマホの画面を見ると

メッセンジャーアプリの反応

『田中喫茶店に居る』

文字列だけ持って走っていた


定番の音を出して

扉を開けると

いつか見たジャケットを着て

カウンターでマスターと

話しこんでいた

第一声を何にするか

ぐるぐる回るけれど

理由も何も無いし

「ただ急ぐ」という手土産しかない


マスターが此方を向いたから

必然的に彼女も此方を向いた

笑顔でアカンベーってしながら

おいでと手を振っている

近くまで行き「ごめん」と言うと

「時計を見なよ。

後、約束した時間も」

喫茶店の壁時計15時30分

スマホの連絡の文言も15時30分


「何か変だったから、

脅かしてやったの」

マスターに言うように

彼女は時計を指差す

「今日は、あなたの好きなことを

しましょう」

彼女は僕の顔を見る

「じゃあ、まずはコーヒーを」

マスターは軽く頷き作業に入る

僕はといえば

彼女の横に座って

彼女の手を握っていた





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