56話 竜と森
「ロザリア! 難民の輸送は無事成功したな!」
「ゆーまの方も、現アキレリア帝の説得、ご苦労なのです」
ロザリアと空賊船で合流する頃には配信を切り、次なる作戦会議を行う手はずになっている。
俺とロザリア、フローティアさん、そしてヒカリンが集合すれば自然と空賊船を操る人々が注目してくる。
「みんなに紹介するです。僕の大事な人、ゆーまです」
ちょっと誤解が生まれそうな発言に空賊たちがざわついた。
「ロザリアの姉御の大切な人……?」
「あんな空の風も読めなさそうな奴が?」
「星々の導きだってありゃせんだろ」
「ロザリアの姉御におんぶにだっこな軟弱野郎か」
「おもしろくねえな」
端々で聞こえてくるのは『気に入らねえ』の一言だ。
どうやら空賊たちの間ではだいぶロザリアは慕われているらしい。
対して俺の評価はかなり低いようで、どうにも居心地が悪い。とはいえ、アキレリア臣民を空輸してきた恩人たちに失礼な態度はとりたくないので聞き流す。
俺たちを……俺を取り囲む空賊たちだったが、一人の青年が入ってきた途端に割れた。
「……TH」
その青年は軽く俺に会釈した。
けっこうな長身の持主で、顔もかなり整っている。
今の俺も成長期なのか身長180cmに達したけど、それでも彼を少し見上げる程度だ。185cm前後ほどだろうか。
日本人離れした掘りの深い顔立ちが、俺、ヒカリン、ロザリア、フローティアを順に向いた後、再び言葉を発する。
「あっ、どうも……ふきゃわ。でTH。ふへへっ」
俺も人の事を言えた義理じゃないけど、少し挙動不審だった。
明らかにイケメンでありがなら、コミュ障オーラ全快の彼に少しだけ親近感がわく。
「彼は空賊旅団の船長、ふきゃわです」
「今回の立役者よ。チャンネル登録者は110万人、自由派閥だけどロザリアに借りがあってね」
ロザリアとヒカリンの紹介で、彼のチャンネル規模が俺の3倍以上だと知る。
「あっ、よそ、Yoっ、よろしくおねがいしまTH」
「一応、彼……こんなだけど空賊国家ウラノスの男爵位を持ってるわ」
口の利き方には気をつけろ、といったヒカリンのメッセージに無言で頷く。
なにせ先ほどから空賊の皆さんの俺を見つめる目が険しい。ロザリア同様、ふきゃわさんも空賊の皆にかなり慕われているのだろう。
「では、これより今後の作戦会議に入るです」
「まずふきゃわたちには空賊国家ウラノスに帰ってもらうわ。ついでにあたしたちを【剣壁街ウォールレリス】に降ろしてほしいの」
「ッTH」
……【剣壁街ウォールレリス】。
たしかアキレリア臣民が今もなお立てこもって応戦している都市か。
「難しそうだったら、降ろすのは近場で大丈夫です」
「ふきゃわたちのメリットとしては、飛行中はあたしたちを護衛として扱っていいわよ」
「ッTH」
「音踏、護衛って何から守るの?」
俺の質問にヒカリンは神妙な顔つきになる。
「竜と【まじめ派閥】からよ」
「竜……?」
「空の一翼、【嵐の古竜ストームヴェル】って強大な竜がいるのよ」
「その眷属もたくさんいるです」
「【森羅共和国ガイア】の第五血位者……森剣の勇者アースを筆頭に【嵐の古竜ストームヴェル】討伐軍が編成されてるそうよ」
「そこに【まじめ派閥】も加わり援助するです」
「やっかいなことに【まじめ派閥】が【嵐の古竜ストームヴェル】の討伐を口実に、空賊国家ウラノスの領空にくるのよね……」
「それって……」
「まじめ派閥も馬鹿じゃないわ。おそらく空賊がアキレリア難民を空輸したって勘付いてるのよ。さらなる空輸を阻止するための牽制ってところかしら」
「竜と人間が衝突するです」
「もちろん竜にとって、あたしたちも人間だから……敵と判断されるかもしれないわ」
「どさくさにまぎれて【まじめ派閥】が空賊を襲う可能性もあるです」
なるほど……。
今後の潜在的な敵勢力は竜たちと【まじめ派閥】、この二勢力に注意する必要があるようだ。
まじめ派閥のYouTuberたちは一人一人が強大で恐ろしい。
それに加えてヒカリン曰く、【嵐の古竜ストームヴェル】の眷属は下位ですら登録者数90万人超えのYouTuberに匹敵するステータスを誇るそうだ。
生物として最強と謳われる竜種、その中でも【嵐の古竜ストームヴェル】の眷属たちは精強らしい。
さらに第三勢力、【森羅共和国ガイア】の第五血位者だ。
大地の神ガイアの神血を継ぎ、森羅共和国において上位五番目に強い神人。
ヒカリンやロザリア、そしてふきゃわさんや俺、空賊だけでは役不足感が否めない。
「そ、so、空が荒れるッTH……」
ふきゃわさんの言葉が、俺たちの空旅を暗示するかのように響いた。




