40話 断罪おじさん
「えっ、や……俺がフローティアさんのお婿さん? って、結婚!?」
「そうだ。さきほど、ユウマは妾に言ってくれたろう? 一つ一つ、変えるのだと。積み重ねていくのだと」
はにかむフローティアさんに俺は狼狽する他ない。
「ならば、妾だっていつまでも自分の願いに対して無力のままなんて嫌なのだ」
そう力強く言い切るフローティアさんに呆気に取られてしまう。
それってつまり彼女は俺が欲しいって願ってて、それでえーっと、だからおじい様に俺を紹介したいって話で合ってる?
ちょ、ちょっと急展開すぎない!?
そんな俺の感想に世界が答えるかのごとく、周囲の景色が急激にヒビ割れてゆく。
これは【未来ある地球】に戻る前兆だ。
「あっ、ティアさん! また、すぐに戻って————」
「ユウマ?」
ちょうど良かったと言えばちょっとフローティアさんには悪いけれど、唐突な彼女の申し出に動揺してたのは事実だ。
この際だから地球に戻ったらじっくり考えたい。
そして自分の力量不足についてもだ。
◇
【未来ある地球】に戻ってきた俺は、まず1番にロザリア分体に事の顛末を相談する流れとなった。
「ってなわけで、ティアさんに婚約? 話を出されたんだ。どう思う?」
「断るです」
俺の部屋で全てを聞き終えたロザリア分体はちょっと不機嫌そうに即断即決。
「やっぱそうだよなあ……俺、まだ高校生だし」
「そういう問題じゃないです」
「どういうこと?」
「婚約したら、ゆーまはアキレリア人に一生を尽くすです。身動きとれなくなるです」
「あー……確かにティアさんはお姫様だし、そっか。うん、婚約者が好き勝手できるはずないか」
きっとフローティアさんのことだ。【剣の盤城アキレリス】の人々をより良い方向に導くため、全力で治世に携わるだろう。そんな彼女の婚約者である俺も、まさか彼女を放置してどこかに冒険するなんてできるはずもない。
そもそも今回のように、重要な局面でわずかな時間とはいえ【未来ある地球】に戻ってしまう体質を考えると、下手に責任を負う立場に就くのはフローティアさんにもアキレリスの人々にも悪い。
「ゆーま、フローティアが好きです?」
「あ……まあ、綺麗だなーとは思うよ。俺なんかがあんな可愛い女性と結婚できるなんて千載一遇のチャンスだし?」
「ダメなものはダメです」
「まあ、うん」
妙に機嫌が悪いな。
そんな状態のロザリア分体へ、立て続けに相談するのは気が引けるけど、いつまた【過去に眠る地角】に戻るかわからない以上、別件の悩みも早めに解決しておきたい。
「なあ、ロザリアってMPを他者に移したりできる?」
「藪から棒に何です」
「いや、ちょっと試したい事があってさ。でもMPがけっこう必要な実験で、俺のMPが枯渇した時はロザリアの豊富なMPを分けてくれないかな~って」
「できるです。フローティアにできない事を、僕はたくさんできるです」
なぜロザリア分体の口からフローティアさんの名前が出たのかよくわからないけれど、俺は小さくガッツポーズを取る。
「やったぜ! ナイスロザリア!」
サッと頭をなでてやると、彼女はどこか誇らしげにない胸を逸らすのだった。
それから夜も更けていつもの配信時間がやってきた。
「芽瑠。今夜の配信はちょっと俺一人でやらせてくれないか?」
「どうして?」
「アンチを一網打尽にしようかなって。かなり尖った配信内容になると思うから、今日は俺に任せてくれないか?」
「アンチ、全員死ぬ、運命」
妹の許可も無事に取れたようだし、俺は新たなる力を手に入れるために気合を入れて配信を始める。
「もう働きたくない! はい、こんばんは。『おっさんと妹』のおっさんだ」
いつもの如くクズな本音をぶちまけ、お決まりの台詞をマイクへ落とす。
「今日は俺一人でファイナルシストファンタジー17を実況配信してくぞ」
『おー! 待ってましたー!』
『あ、俺もログインしておっさんのところに行くわ!』
『わーい! 一緒に遊んでください!』
『なんだ、メルちゃんはいないのか』
さっそく多数のコメントが流れ始め、俺はいつものスタイルでボス戦などに向かったりする。
更にゲーム内企画も一つご用意。
リスナーたちに俺が操作するキャラクターにつけたい名前を募集し、そのうちのどれかを採用する。どの名前に変更されたかは、キャラ名を非表示設定にするのでお楽しみ。
そして鬼ごっこのスタートだ!
俺のゲーム画面を断片的に配信し、どこにいるかヒントを与える。そして配信画面の大半にモザイク処理をほどこし、一番最初に俺のキャラを見つけたリスナーに貴重な装備などをプレゼント!
こちらも頑張って手にした装備やアイテムが懸かっているので、物凄く真剣に逃げる、逃げる、逃げる。
大いに盛り上がりを見せるなか、ふと引っかかるコメントをいただく。
『コロコロ名前を変えるとかメンヘラかよ。キモイw』
言わなくてもいい事をわざわざ口にして、人を傷つけるコメントを吐く下衆。
いつもならスルーするが今日の俺は一味違う。
「わざわざ悪口を言って気を引こうとするとかメンヘラかよ。キモいな~!」
そう、アンチを煽ってみるのだ。
「アンチって哀れだよね。こそこそ隠れて誰かの悪口を言うなんて陰湿だし、俺だったらそんな惨めなことしたくないな」
『うわ、おっさんが上から目線とか草』
『俺らがおっさんを哀れんで配信見てやってんのがわからんの?』
『暇つぶしにしかならんおっさんの配信が哀れ』
きたきたきた!
釣れてきたぞ!
今の俺の配信は数千人が視聴してくれていて、ほとんどのコメントは友好的だ。その中でも、やっぱりチラホラと嫌味なコメントを打つ輩がいる。
そんな奴らを煽りに煽ってみる。
「おっさんに上から目線で言われてしまうお前らのダサさが草。哀れみで嫌いな奴の配信に時間を使ってしまう残念精神がもう哀れ。暇つぶしが俺の配信しかないとか哀れすぎ」
これには更に多数のアンチが反論、反応を見せてくる。
さらに普段はアンチコメに対し大人しくしていたリスナーも、日頃の鬱憤が貯まっていたのかアンチに対して言葉を荒げるコメントが散見され始め、配信が大いに盛り上がり始めた。
とはいえ配信を楽しく見ていたいと残念がるリスナーもいたので、この手はたまにしか使わないようにしよう。
「今日はみんなごめんね……あまりにもアンチたちの性格の悪さに辟易しちゃって、ちょっとストレスが爆発しちゃった!」
この言葉にもちろんアンチたちは暴言を吐き、心あるリスナーたちは慰めてくれる。
「YouTuberだから発言には気をつけろ~とか、影響力を考えて行動しろ~とか色々言うけどさ。配信者もあなたたちと同じただの人間だから傷つくよ。だから発言には気を付けて、あなたの悪口を打つって行動が、一人の人間にどう影響するかしっかり考えてほしい」
さて、これで改心してくれたアンチは制裁の対象から外そう。
でも今の俺のメッセージを受けてもなお、俺に敵意を向け続けるアンチには————
「多分、今日いたアンチたちは二度と俺の配信にこないから。だから明日からはまた、楽しい配信にする! ってなわけでみんなおつかれ!」
さてさて、俺に敵意を向けるアンチの総数は……47人か。
5000人が見てるなかでたったの47人て、1%以下じゃないか。
悪口ってのは目立つし、目を引くからもっと多くいたように感じたけどフタを開けたらこんなものなのか。
俺は俺を応援してくれる4953人に感謝し、47人に憎悪を抱いて仮面をかぶる。一昨年、芽瑠と一緒にいった夏祭りで買った白いキツネのお面だ。
準備が整えばさっそく【復讐の執黒官】を発動する。
すると視界は狭い1ルームに一瞬で変貌し、目の前にはスマホをジッと見詰める青年がいた。
見事アンチ1号のもとに瞬間転移は成功したようだ。
彼はベッドに寝っ転がりながらスマホをいじるも、唐突に現れた俺に気付いてポカンとしている。年齢は大学生ぐらいか? ちょっと俺より年上だ。
「え? おまえ、誰————!?」
即座に【拷問王の悪夢】を発動し、彼と共に夢の世界へダイブ。
しかし臨場感を出すために、シチュエーションは現実と変わらない彼の部屋を再現している。
「声で誰だかわからない?」
「おまえ、『おっさんと妹』のおっさん!?」
理解が早くて何よりだ。
「あたり。で、さっそくだけど仕返しにきた」
「は!? 何言って、ぎゃああああああああああああああああああああ!?」
手始めに彼の右手を握り潰してさしあげた。
ついでに彼の反骨精神やら他者の気持ちを蔑ろにする嗜虐精神ごと潰してさしあげよう。
間髪入れずに片目をくりぬいてやると地面をのたうちまわる。
夢とはいえ、感覚は本物のままだからひどく痛そうだ。
これぐらいやれば心は折れたかな?
俺は泣きじゃくる彼にそっと耳打つ。
「二度と俺の配信にこない。無作為に他人を傷つけるような発言はしない。約束できる?」
「じまずうううう、じまずがらあああああ、やヴぇてええええ」
「今後同じことをしたら、また来るから。何度も何度も折ってあげる」
【権能『アンチ殺し』……『陰キャ大学生の心』を折ったので権能ポイント1取得】
よし、折れたか。
これでステータスの強化や権能Lvを上昇させられるな。
っと、その前に。
最後に彼の無事な左手に目を向ける。彼の小指と俺の小指を絡めて『指切りげんまん嘘ついたら、針千本のーます! 指切った』と捩じり折ってあげた。
「ひぐうううううう!?」
それから彼の小指の骨折だけ現実に反映するよう設定し、【拷問王の悪夢】を解除。
夢か現実かわからない状況下の中でむせび泣く彼が、正気に戻った時……自分の小指が折れている事実が、不気味さと苦痛で以てその反抗心をさらに砕くだろう。
俺はうずくまる彼を見送るように【復讐の執黒官】を解除し、自分の家の自室に転移。そして待機していたロザリアの分体にMPを分けてもらう。
こうして何度も何度も何度もアンチ共の元を巡り、『約束の指切り』をしては心を丁寧に砕いてやる。47人全ての心を折りきる頃には深夜の2時を過ぎてしまい、精神的にも身体的にもかなり疲れてしまった。
「疲れた……けど、地球にいる間にやれるなら、やるべきだ」
ヒカリンも言ってたように、アンチを有効活用する。
おかげで権能ポイントが47も溜まった。今日一日だけで、単純計算で登録者数47万人分のステータスを伸ばしたのだ。
「【過去に眠る地角】で、早くロザリアの隣で戦えるようにレベルアップするんだ」
我ながらエグイことをしてると思う。
アンチ共は完膚なきまでに心を折られてしまっただろう。
でも決めたんだ。
「まあいいよね。人の心を壊そうとする輩に遠慮なんていらない」
慈悲なんていらない。
悪意を以って俺を口撃してきたのだから、やり返す。
当たり前だ。
「俺のチャンネルにアンチは必要ないから、出てきたらことごとく潰して糧にしよう」
これが俺の『上手なアンチの活かし方』。
「これこそが俺の力不足を解決する最速解————アンチ殺しで無双する」
願わくば————
アンチ共がこの痛みに懲りて、再び誰かの心を傷つけようとしないで欲しいな。
◇
【ユウマ】
【HP20 MP10 力27 色力24 防御18 素早さ18】
【割り振り可能なポイント2/6 = 信者数or登録者数65271人】
【総合戦闘力:登録者数87万人と同等】
【権能/ステータスポイント:47】




