24話 まわりが有名女性VTuberばかりで怖い
フローティアさんが【剣の盤城アキレリス】に帰るのを見送った途端、世界の崩壊は起きた。
例の如く、景色はひび割れて現在の世界へと様変わりする。
「はぁっはぁっ……」
「無事のようですね」
深夜のコンビニ前で俺の安否を確認するのは、高級グラスをくれたお隣さんである。
「ぼっちちゃんも無事でよかった」
「僕はあなたと違って格が違いますから」
「というと?」
「あなたはチャンネル登録者10万人以下ですが、僕は300万人います」
「それは……すごいね」
彼女には聞きたいことが山ほどあるけど、慎重に接しないといけないような気がした。ロザリアと同じく感情に乏しい顔が、何か一つでもボタンを掛け間違えてしまえばとんでもない事態を引き起こしかねないようで不安なのだ。
ロザリアは自殺を図ろうとしたし、お隣さんは急に音信不通になったりと……どうにもこの手の女子に恐怖を覚えるのである。
「ぼっちちゃんはYouTuboでどんな活動を?」
「【ゆめみるぼっち】って名前でVTuberをしています」
「VTuberなのか。あの2次元キャラを動かすのは色々と難しそうだね?」
「そうでもないですよ。最近はスマホ一つあれば自キャラを作成して好きに動かせますから」
「ほええ」
無表情な彼女を慎重に観察し、まだ本題を出すのは危うい気がしたのでもう一つぐらいは適当な会話でジャブを放ってみる。
「ぼっちちゃんは学校で何組なの? 学校でいくら君を探しても見かけなくて……」
「さあ?」
やばい。
まさかの地雷だったか……?
学校では見かけない=不登校である可能性もある。もし仮に不登校だとしたら、これは彼女にとって非常に繊細な部分をつつく質問になってしまった。
「あははは……あの、このグラス……ありがとう」
「どういたしまして。おじさんは頑張ってますから」
「それで……さ。例の録音データもそろそろ渡して欲しいかなって」
俺がお隣さんに援交を持ち掛けたように聞こえる音声データだ。
アレをどうにかするために始めたYouTuboも今となってはとんでもない事態になっていて、そんな些細なデータを気にする事態をとっくに凌駕している。だからといって、音声データを放っておけるほど達観できるわけでもない。
「魔法カード発動、【拷問拒否】。私はおじさんの怪しい要求を拒否します」
「えええ……」
「まだ、渡しません。何かあった際は使えそうですし?」
「……ひえっ」
彼女の物凄く綺麗な顔が微動だにしないまま、そんな事を言ってくるのでやっぱり怖い。
だが、この流れは本命の質問を投げかけるチャンスでもあった。
「わかった。じゃあ音声データを返してもらえない代わりに、この質問には答えてもらう。どうして脅してまで、俺にYouTuboをさせたんだ? 君は、【過去に眠る地角】を知ってて俺にやらせたんだろ?」
「おじさんが必要だと判断したからです」
「俺が……どうして?」
「神生みの血筋であるおじさんを、僕たちの派閥に引き入れたくてYouTuboに誘いました」
「神生み……?」
「神無戯の血です」
そういえば権能にも神無戯がどうのって色々と書いてあったな。
叔母さんにうちの家系について聞くのをすっかり忘れてた。後で必ず聞いておこう。
「ぼっちちゃんが属する派閥って?」
「僕は最近、【自由派閥】からヒカリンを筆頭とする【中立派閥】に移籍しました」
おおう。
「正確には【中立派閥】の中でも秘密裏に作られたコミュニティ、【神殺しの派閥】です」
かなり物騒な発言だな。
一見して中立派閥に属していながら、裏では【神殺し】なる派閥を形成していると……。どうやら中立派閥も一枚岩ではなさそうだし、そもそも【神殺し】を目論むメンバーがいるってヒカリンは知ってるのだろうか?
ただでさえ最弱派閥なのに前途多難そうだな。
しかしこうもあけすけに言ってくるあたり、俺がその【神殺しの派閥】に入る自信が余程あるのだろうか……というか、待てよ?
ここまでの彼女の口ぶりからして、最初から俺が【過去に眠る地角】に行ける確信があった?
「なぜ俺が【過去に眠る地角】に行けると思ったの?」
「知ってるから、です」
「それは……キミの権能で……?」
「権能も関わってます。もうこれ以上は言えません」
ヒカリンも言っていたけど、権能にかかわる内容は安易に明かさない方が身のためであるらしい。彼女が口を閉ざすのはわかるけど、こちらとしては納得できない部分もある。
これまでの返答から推測するに、なるほど……どんな原理か知らないけど、彼女には【過去に眠る地角】に行ける有力候補者がわかる権能があると。その権能を活用して、自身が所属する派閥を大きくする手助けをするために新人YouTuberをスカウトしてる……?
でも正直、彼女のやり方では敵対してしまう人の方が多いのでは……?
だってお隣さんがきっかけで、デスゲームに巻き込まれたに等しいわけだ。YouTuboのノウハウを色々と教えてくれたのは感謝しているけど、それとこれは別だ。そもそも最初から【過去に眠る地角】に行かせる魂胆があったのなら、ますます悪質である。
「じゃあ最後の質問だけど、ぼっちちゃんたちにとって神無戯の血筋って何?」
「……それはおじさん自身が決めるべきことです」
まるで意味がわからないな。
「もう十分でしょう。そろそろ、冷えてきたので帰ります」
「お、おう……」
相変わらず掴みどころのない女子だと思いながら、彼女が夜の闇に消えてゆくのをボーっと眺める。
それからお隣さんの思惑にまんまとハメられた事に深いため息をつく。
なんとなく夜空を見上げれば、月光と星々が静かに俺を慰めているような気がした。
仕方ないって。
「ぼっちちゃんは月のように真っ白、とは考えられない……限りなく黒だ」
「何をたそがれてるです」
「うおっ!?」
すぐ後ろから声をかけられた俺はビビって振り向く。
すると月明かりにも勝るとも劣らない白銀をなびかせる幼女が、めずらしく不機嫌そうに俺を眺めていた。
「え、ロザリア……の分体? ずっと後ろにいたのか?」
「当たり前です。あまりにも2人が僕に気付かないから、この野郎、イタズラしてやろうと思ったです」
「え、そういう危ないのはやめて……もめたらヤバイって。ぼっちちゃん300万人プレイヤーだから、かなり強いだろうし……」
「影、入れなかったです」
「そ、そうか。それは大事にならずに済んでよかった。それにしてもぼっちちゃんはひどいよな。巻き込んでおいて何の説明もなしだぜ?」
「……あの娘の方が可哀そうです」
「え?」
まさかのロザリアに同情されるというお隣さん。
妙なこともあるもんだなーと思いながら、そういえばと思い至りロザリアに尋ねてみる。
「なあ、神無戯って何なんだ?」
「おバカなゆーまは知らなくていいです。それよりも!」
いつもは無表情ばかりなロザリアだが、今夜はやけに気性が荒い。
「抹茶アイス! おかわりするです」
さらにお腹も減ってしまったらしい。
俺は仕方ない、と胸中でつぶやきながら再びコンビニに向かうのだった。
◇
まだ人影がまばらな早朝の教室に、3人の男子生徒が息を潜めるようにいた。
1人は非常に顔立ちが整ってはいるが、髪型は飾り気のない丸坊主。
そしてその他2人は苛立ちの形相を露わにしながら、誰かの悪態をついている。
「クソクソクソ! カツラギの野郎、ふざけやがって。てっちゃんはぶっ倒れるわ、てっちゃんに話が違うって怒られるわ、散々だ!」
「カツラギのくせに調子にのってるよな。吉良くんの頭もこんな風にしやがって」
「別に俺は気にしてないな」
2人の生徒がブチ切れるなか、坊主少年だけがどこか冷めたような空気を出している。
「ボクシング全国8位のてっちゃんがカツラギにやられるはずない。あんなのは偶然だ」
「今度こそ立場をわきまえさせてやる」
「黒井、差部津、もうやめておけよ」
殺気立つ2人を諫める坊主少年だが、その言葉は届いていない。
「俺、カツラギのバイト先を知ってんだよね。友達引き連れて、あいつが勤務中に嫌がらせしてやろうぜ」
「『お客様』である俺らに逆らえないしな。それに何かあれば、全員でぼっこぼこにしてやろう」
「俺は行かないから。他にやることあるんだわ」
坊主少年だけがノリ気じゃないのか、即座に2人へ断りを入れている。
「吉良くんは悔しくないの!? 焦げた髪の毛をどうにかするために丸坊主って……」
「俺はカツラ系坊主コスプレイヤーって、新しいキャラでいくから大丈夫だ。坊主コスプレイヤーより面白いもの、これ一切なーい! コス用のカツラ取ったらガチ坊主の俺。イケメンなのに坊主。イケメンなのにハゲ。うっわー、これはかなり痛いしシュールだけど笑えるかなって」
「そ、そっか……うん、吉良くんがそう言うなら……俺たちはもう何も言わないよ……」
「でも俺たちはカツラギへの制裁をやめるつもりはないから。友達を5人も連れていけばカツラギもビビって何もできないだろうし」
「はー……まあ、お前らがやりたいならいいけどよ。俺は反対だぜ」
「絶対に今度こそぶちのめしてやる」
「見てろよ、カツラギ!」
やはり坊主少年の諫言は2人に届いていなかった。




