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21話 神血を継ぐ者


「少年! 君はここでいったい何をしている?」


 筋骨隆々な男たちに囲まれた少女は、爽やかすぎる笑みとともに質問を浴びせてくる。彼女は俺と同い年ぐらいの見た目だけど、周囲を従える雰囲気から妙な貫禄が出ている。

 

『香ばしい集団がきたなw』

『美少女と筋肉ダルマたちである』

『◆紅一点の女性はだいたい碌な人じゃありません。男好きですのでおっさんは警戒してください(2000円)◆』


 リスナーの感想にも一部頷ける。

 というのも、やはり屈強な男性の中に少女がいるというのは如何にもミスマッチなのだ。特に、その少女の見目が麗しいとなればその違和感は余計に増す。

 スカート風の鉄鎧に身を包んだ彼女は豊かな青髪をなびかせ、同じく空色の瞳が宝石のように輝いている。剣を腰に差し、背中には彼女の背丈よりも高い大盾が留められている。鎧下からすらりと伸びた両脚は眩しいほどに白く、マントをはためかせる姿は姫騎士といった風情に相応しい。


 しかし彼女を取り囲むは帯剣した上裸の男衆。

 明らかに只者ではない。

 俺はどう答えるべきか悩んだ末、権能(スキル)『背信者Lv3』で習得した、発声しなくても思考だけで視聴者と意思疎通が可能な『童貞発言(ダイレクトメッセージ)』を発動する。



DM【なあ、この人達になんて答えればいいと思う?】

『正直でいいんじゃないか?』

『筋トレ、と答えるのが良いのである』

『◆無視です。女性には無視が一番です(3000円)◆』

 


「どうした少年。だんまりか? 黙(もく)すなら、殺してしまえ、表情筋」

「あっ、いえ……俺はここで【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】を倒す修行をしてました」


「なんと、【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】相手に筋トレか!?」

「えっ? あぁ、まあ間違ってないです」


 一瞬だけ不穏な空気が流れたと思えば、一転して彼女は朗らかに詰め寄ってきた。

 どうでもいいけど鎧の下からでも物凄く強調してくる大きな胸に、視線がいかないようにするのが難しくなった。


「同好の士であったか、自己紹介を失した非礼を詫びよう。妾(わらわ)は英雄神アキレリアが神血(デューク)を冠す【血位者(デウス)】、【第十七血位フローティア・ローゼシュタイン】である」


 口上が長い。長いぞ。

ここはとりあえずデュークなんたらフローティアさんって認識でいこう。


「えっと、俺はユウマです」


 もしかしなくとも名前が長い=地位の高い人物なのかもれない。

 慎重に対応した方がいいと判断した俺は、ロザリアから神無戯(かんなぎ)の名は忌み嫌う勢力もあると聞いていたので名字だけ伏せておく。



「妾(わらわ)たちは、あそこに突き立つ【剣の盤城アキレリス】から来た。ユウマはいずこから?」


「あ……うまく説明できないのですが、気付いたらここにいて……」


「なんと、妾(わらわ)たちと同じく大転移魔法に巻き込まれたのか」


 彼女の話を聞けば、巨大な剣型の都市アキレリスは突如としてここに転移したのだとか。そのため都市内は大騒ぎになっているらしく、大地に突き刺さった衝撃で被害も甚大らしい。

 そしてフローティアさんは探索部隊として周辺を調査している最中だとか。


「ユウマは強者よな。たった一人で大転移魔法に呑み込まれた身でありながら、動じずに筋肉の向上を追い求める鋼の精神力! 我らが同士の強靭なる筋肉(アキレリア)に乾杯!!!!」


「「「「筋肉こそ我らが生涯の友!!」」」」


「バモス(行こうぜ)!」


 とりあえず俺が知っているノリで対応しておく。



「ふむ、聞いたことのない神聖語だがその意味は?」


「えっと、スペイン語で『行こうぜ!』って意味です」


「ほう! 我らと共に調査をしてくれるのか! 歓迎するぞ、同士よ!」


 こうして何故かおれはフローティアさんたちと【空の王冠】を探索する流れになってしまった。



◇



「うおおおおおきゃああああああああああああ!?」


 俺はこの【過去に眠る地角(クロノアーセ)】に来てから走ってばかりいる気がする。

 いや、事実今もなお全力で命を賭けながらダッシュしている。


「よし! ユウマが注意を引いてる隙に【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】を屠ろうぞ!」


「「「「筋肉こそが永遠の戦友!」」」」



【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】。

 そいつは【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】の死体が放つ湿気から、湧き出たカスのように出現し始めたのだ。

 軽自動車ぐらいの水塊が大鷲の形になり、両翼を雄々しく広げた姿はぶっちゃけ荘厳だとさえ思った。なにせ陽光に反射してキラキラと輝いているのだ。しかもその名の如く、空を飛翔すればまるで彗星が流れているかのように美しい。


 そんな【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】たちが【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】の死体に群れているところへ、なぜか俺は突貫させられ絶賛死にそうになっている。

 なにせ俺が走り抜けた後の地面は、まるで銃弾を空から打ち込まれたかのようにドスドスと小さな穴が開きまくってゆく。


「ゆうま! 【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】の水星(ストーン)に気を付けろ!」

「はいいいいいい!」


 どうやら【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】は体内に水星と呼ばれる鉱石を生成し、それらを弾丸のように飛ばして敵を攻撃したりするらしい。

 そして液体でありながら大鷲の形を保てるのは、その水星(ストーン)による効果らしいので、核となる水星(ストーン)を砕いてやれば【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】は消滅する。



DM【リスナーのみんあああああああ、助けてえええ!】


『VIP:右!』

『VIP:右、右、左である!』

『VIP:◆前からも来てるので、そこでバク中です!(3000円)◆』


 念のため背信者Lv2で習得した【神の視点】発動しており、配信画面は一人称視点から俺を俯瞰視できる三人称視点に切り替えられている。

 つまりリスナーたちの視野が劇的に広がったと言える。


 今も俺の背後に迫る【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】の動きをリスナーたちが把握し、リスナーたちの指示に従ってジグザグに駆け抜ける。


『てかおっさんのキャラクリそこはかとなくイケメン』

『美少年……おっさんはショタコン説』

『髪の毛生えたもんな』


 リスナーの視界が開けたことで俺の容姿についてのコメントも散見できる。



「敵ならば、壊してしまえ、大胸筋!」

「「「「筋肉こそが勝利!」」」」


 ドチャッと鈍い音に振り返れば、滑空してきた【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】の胸部を左右から同時に殴る筋肉男たち。フラついた敵にフローティアさんが驚異のジャンプ力で頭部にかかと落としをぶち当て、さらに男たちが追撃の拳をめり込ませてゆく。

 こうして俺が逃げているうちにフローティアさん率いる筋肉集団は【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】を一匹ずつ、確実に仕留めていく。


 人間ばなれした跳躍力や怪力を目の当たりにした時は、既にヒカリンやロザリアの超人力を見た後だからそこまで驚愕はしなかったけれど、やはり上裸の男たちが巨体生物を殴り倒す光景は度肝を抜かれる。

 1人1人の戦力はロザリアと比べたらかなり低いと思う。【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】に与えるダメージも殴れば水しぶきを上げる程度。それでも、不意打ちからの見事な連携が巨大な敵を倒す武器になっている。



「バモス(行こうぜ)!」


 彼らと俺の戦力差は言わずもがなであるため、自然と俺が囮役を買って出るしかなかった。

 いや、なんか流れというか、ノリといいますか。


 彼らの熱気にあてられて『俺が囮をやるぜえええ!』と、豪語したのを少し後悔している。



「ユウマもまだまだ筋力に満ちているな!」

「うおおおおおおおおお!」


 が、一度言い出してしまった手前、後に引けない状態になっている。

 なので俺は雄叫びを上げながら、自ら死地へ突貫するのを繰り返していた。


 しかしこうも全力疾走を続けてると、斜めってる地面を走るのにだいぶ慣れてきた。当初は【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】と付かず離れずの危ない綱渡りだったのも、今では余力を残して囮ができる。



【権能『崖っぷちランナー』を習得】


 ん?

 急に視界にメッセージが流れたので確認してみれば、なかなかに有用な権能を習得したようだ。


【権能『崖っぷちランナー』……足場が非常に悪い場所で、死に物狂いで駆け続けると習得できる】

【Lv1……足場が悪くても走る速度が落ちづらい】


 なるほど。

 権能(スキル)に関わる一定の条件を満たせば、こうやって権能(スキル)を覚えるのか!


「しゃああああ! バモス(いこうぜ)!」

「ユウマは我らより軟弱なくせに、気概はまさに英雄よな。気に入った!」


「筋肉がうずくぜええええ!」

「「「「強靭なる筋肉は不屈の精神に宿る!」」」」



 こうして俺はフローティアさんたちと【水星を流す大鷲(アクアイーグル)】を合計26頭仕留める。

 どうでもいいけど、彼女たちは剣を抜くことはなく全てを徒手空拳のみで戦い抜いていた。

 熱いやつらだ。



「よし! 総員、小休憩を挟む!」

「「「「筋肉こそ休息と安寧をもたらす!」」」」


 さて、休憩の間に俺は自分のステータス強化をするか。



【権能(スキル)『アンチ殺し』……『彗星の心』を折ったので権能(スキル)ポイント26取得】

【ユウマ】

【HP13 → 17 MP10 力10 → 21 色力(いりょく)24 防御10 → 16 素早さ8 → 14】

【割り振り可能なポイント0/4 = 信者数/登録者数43555人】



 気付けばチャンネル登録者が4万人超えになっていたので嬉しい。

 一気に26万人と1万人、合計27万人に相当するステータス強化を図れたので少しは安全性が増すだろう。



「ユウマ、まだいけるか?」

「バモス(行こうぜ)!」

「「「「筋肉こそがバモス!」」」」


 俺たちがフローティアさんに威勢よく返事をした瞬間、世界が急に暗くなる。

 いや、何か巨大なものが上空を横切り、その影が俺たちに落ちたのだ。

 また【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】でも出たのかと思えば、そいつは白い雲とは真逆の色をしていた。



「そんな、あれはまさか……【影の王】?」


 闇そのものといっても過言でない、濃厚な漆黒が禍々しく蠢いている。

 見た者に圧倒的な恐怖感を植え付けるおぞましい動きで、その黒い煙は頭上を席巻していた。



『VIP:いよいよボス戦か!』


『VIP:ロザリアたんいわく【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】は【影の王】の眷属らしいが、サイズがクジラよりとても小さいのである。しかし、素早い動きに加え、荒唐無稽に変化する骨格は攻撃をかわしやすく、形状を自由に変化させてリーチを広げる可能性無限大である』


『VIP:◆頑張ってください!(2000円)◆』


 リスナーの細かい分析は俺にちょっとした絶望をもたらした。



◇



【一般成人男性】

【HP8 MP2 力7 色力(いりょく)3 防御5 素早さ5】



【マッチョメンズ】

【HP13 MP5 力16 色力(いりょく)8 防御10 素早さ10】

【総合戦闘力:登録者数32万人と同等】



【ユウマ】

【HP17 MP10 力21 色力(いりょく)24 防御16 素早さ14】

【総合戦闘力:登録者数72万人と同等】



【第十七血位(セブロス・デウス)フローティア・ローゼシュタイン】

【HP25 MP24 力27 色力(いりょく)22 防御40 素早さ20】

【総合戦闘力:登録者数128万人と同等】





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