15話 友達ビギナー
「はぁっはぁっ……【未来ある地球】に戻った?」
「ふーん、あんた死んでないの?」
戻ってきて第一声がひどすぎるヒカリンだったが、とりあえずはお互いの無事を祝いたくて笑みを作る。
「あははは……でも、ヒカリンさんも無事で良かったです」
「……な、なによ。人の事を心配する余裕なんてあるわけ? ぷんぷん、あたしはそういう作り笑いが大っ嫌いなのよね! あたしの言葉が勘に触ったなら嫌だって言えばいいじゃない」
誰もがあなたみたいに強く生きてはいけない、そう出かかった言葉を飲み込む。
彼女には【過去に眠る地角】について教えてもらったので恩を感じているし、口論するつもりがあるはずもない。
「いえ、別に不満はないです。むしろヒカリンさんには色々と教えてもらって感謝してますし」
「あんたいっつもそうやってペコペコしてるわけ? あたしだったら絶対に! 簡単に頭を下げたりしないわよ」
「は、はあ」
「ふーん……で、あんたっていじめられてるの?」
「えっ?」
唐突な話題を切り返したヒカリンは、腕組みをしながら険しい顔で俺を睨む。
「ずいぶんと妹さんを大切にしてるのね?」
「ど、どうしてそれを……?」
「あたし、電気人間よ? 街の監視カメラの映像から、あんたの周囲を見漁って判断したのよ」
「はぁ……情報戦でヒカリンさんに勝てる人っていなそうですね」
「で、あんたいじめられてるの?」
「いや……別にそういうわけでは……」
口ごもっていると、ヒカリンは両手で俺の両頬をそっとバチィィィンと挟んでくる。
彼女の綺麗な蒼い瞳が至近距離で見つめてくるのは、男子高校生だったら誰もが喜ぶシチュエーションだ。しかし今は痛みでどうにかなりそうだった。
「痛っ!?」
「これ、普通の人じゃ顔面骨折する勢いなんだけど、しっかり防御力あがってるじゃない」
怖いことを言いなさる。
そういえばステータス的に俺の防御力は成人男性の約2倍に近いんだっけ。それを確認せずに俺の両頬を挟むヒカリンは色々とヤバイ。
「自分の身体を守れるなら、心もしっかり守りなさいよ」
「え?」
「自分の名誉も守れないような奴が、大切な誰かを守れるだなんて思わないことね」
ヒカリンの言葉は深く突き刺さった。
クラスで馬鹿にされ続けた俺は自分の名誉を守ろうとせず、ただひたすら周囲の流れに迎合してきた。
「あの世界はそんな甘くなかったでしょ?」
確かに【過去に眠る世界】で感じた痛みは本物で、自分を侵害しようとする相手に合わせていたら簡単に命を落としてしまう。
「あんたの大事な妹さんが、もしあんたと同じ学校に通ったらどんな目で見られるかしら?」
「それは……」
「正解は『いじめられてる男の妹』ってフィルターを張られるの。少なくとも入学直後から、あんたっていうデバフを抱えるのと同じなわけ」
ド正論すぎて返事ができない。
「自分を大切にできないような奴が、誰かを守ろうだなんておこがましいのよ。まずは自分を守り抜いてから他人の心配をしなさい」
ふんっと鼻を鳴らしながらヒカリンは俺の両頬を放す。
「次はあたしがいなくても自分を諦めるんじゃないわよ」
きっと彼女は俺がクラスメイトの笑いものにされているのを見て、怒ってくれているのだ。
そうしてヒカリンは明後日の方を向きながらボソッと呟いた。
「ま、あたしが少しぐらいはあんたの面倒を見てやってもいいわ」
同じ『異世界YouTuber』のよしみでね、と後付けする彼女は一見して突き放すような口調だけど実際は温かみに満ちている。
心配してくれているのだ。
「わかりました。俺、もっと自分を大切にしてみます!」
「じゃあまず、そのへりくだった態度を改めなさい。敬語を抜いて」
「え?」
「あんたとあたし、同い年なんだけど? ほら、んっ!」
握手を求めた彼女の白い手に、自分の手をそっと重ねる。
「えっ、あー……えっと、ヒカ、ひかり。これからよろしく!」
ついヒカリンと言いそうになって、彼女の名前を口にしてしまう。
「誰が下の名前で呼んでいいなんて言った! このバカンナギ!」
音韻ひかりは俺を友人として、頬を真っ赤に染めながらバカンナギと激しく罵った。
今日、新しいあだ名がここに爆誕。
しかし、そのあだ名を聞いてもなぜか不快な感情は芽生えなかった。むしろ、どこか温かみのようなものを感じられ、俺はクスクスと笑ってしまったのだ。
「ぷんぷん! だから~! 自分がバカにされてヘラヘラ笑ってんじゃないわよ!」
ボゴッと鈍い音が鳴る。
俺は腹パンされて吐いた。
「オヴェッッッ」
「あっ、やっ!? ……ご、ごめんなさい!」
YouTubo界の女王は簡単に頭を下げてくれた————やべっ死ぬ。
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