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14話 俺だけアンチ殺しでレベルアップ


「あぁ、リスナーのみんな。言い忘れてたけど、これってゲームじゃなくてリアルだよ、リアル。わかりやすく言うと異世界転移みたいなものだ」



『このおっさんやべえwww』

『リアルとファンタジー混同してるわww』

『嘘乙』


『◆でもこんなにリアルなゲームってないですよね?《1000円》◆』

『最新のオンリアルエンジン6で作られたゲームもかなりの映像美だけど、もしかしてオンリアエンジン7で開発されたとか?』

『ゲームもここまできたかーって感じだよな』

『まだ発売されてないのである。オンリアルエンジン7なんて聞いたことないのである』


『ハラハラ三銃士が死んだ配信見たけど、掲示板で噂されてる内容が本当だったりして……』

『このゲームで死んだ人はリアルでも本当に死ぬって都市伝説かww』

『ぴえんな考察w』


コメントは大荒れで、だいたいのリスナーは俺の発言を信じてくれない。

 まあ、俺も自分に起きた出来事じゃなければ一蹴してたろうから、少しずつ理解してくれればいいと思う。



「俺を見ててくれればいいよ。虚言を吐いてるのか、真実を訴えてるのかわかるから……俺が生き残れればの話だけど」


『その台詞はかっこよすぎ』

『そんなん気になるやろ』

『こいつリスナーを掴みに来てるぞww』

『さすが弱小Youtuber! 必死すぎだわw』


『これはこれで斬新なスタイルである』

『演出や演技だとしても、その引き方は気になるw』

『◆すごいエンターテイナーです《2000円》◆』

『おっさんの最期を俺らが見届けてやるぜwwww』


 リスナーたちが面白がる気持ちもわかるけど、こっちは至って真剣だ。俺の本気をわかってもらうためにも、どんどん強くなって必ず生き残るしかない。



「そこでみんなに相談だ! さっきの戦いを見て俺はどうすればもっと戦えるようになると思う!? 俺はもっともっと強くなりたい」


 俺は確固たる決意を胸に、リスナーたちへ真剣に問いかけたのだった。





「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 俺は今、全力で緑の上を駆け抜けている。


 勾配が激しいと登りも下りも猛烈に走り辛い。そして文字通り、一歩でも間違えて転んだりしたら、自分の命が失われるといったプレッシャーが襲いかかる。

 だが、それでも疾駆する他ないのだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「クゥゥゥゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 俺のすぐ背後からはけたたましい【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】の鳴き声が響き、命の危険と恐怖が深く心に刻まれる。

 そう、俺は全身全霊を込めて逃げている。

太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】を見つけ次第、突っ込んでは逃げに逃げまくり、爆走しているのである。


「うきゃあああああああああ!? もうやだあああああああああああ!」

「クゥゥゥゥォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 

だが、これこそがリスナーたちが導きしてくれた修練方法なのだ。

 先程のやる気満々な俺の問いかけにリスナーたちのコメントはこうだった。


『どうすれば強くなれるかって……そんなん聞かれてもな……』

『おっさんじゃ無理だろww』

『吸収スキルが使えないとかただのゴミw』

『ロザリアたんがんばれ~!』


『一番効率が良いのはおっさんが囮役になるのである。そうして敵意(ヘイト)を自分に誘導し、ロザリアたんにクジラを倒してもらえば権能のLvアップ無限大である』

『◆ネトゲによくあるパワーレベリングってやつですね《2000円》◆』


 コメントは俺の決意をくじくものばかりだった。

 いや、まあ……ド正論なんだけど!

これが王道RPGとかであれば主人公がバンバン活躍してレベルが上がってゆくはずなのに……俺、(えさ)役しかしてない。


 逃げてるうちにロザリアが倒してくれるのはありがたいけど、こんなんでいいのか!?



「ゆーま、いいカードがでないです」


「うきゃああああああああああああああああ! はやくうううううう!」


「ゆーま、うんちが漏れそうで車を必死に走らせる、はい(ハイ)ぶりっと(ブリット)


 車という概念を覚えたてのロザリアは自慢げに語る。



『ひでえダジャレwwww』

『ロザリアたんの焦らしプレイわろたwww』

『おっさんガチすぎて草』

『どんだけゲームオーバーになりたくないんだよw』

『ゲーマーの鏡である』

『◆おっさん頑張ってください~!《5000円》◆』



「背中にかすったぁああ!? 痛いっ痛いいいいいいいいいいいいい!」


痛い(イタイ)言動を言いたい(イタイ)放題、です」



 もう背後を振り向く余裕なんてないし、振り向きたくもない。

 そんな地獄が何回も続き、俺たちはようやく【太陽を隠す鯨(クラウドホエイル)】の群れを狩り尽くした。


「ひゅーひゅーひゅー……」


「ゆーま、骨折だったり肩に穴が開いたり片目が抉れたり左腕がちぎれたり、その他無数の裂傷ぐらいで騒ぎすぎです。すぐ治るです」


「ほわっちゃああああほあああああkさうfはvnkjふじこ!?」



 よかった。

 生きてた。

 権能(スキル)ポイントもめちゃめちゃ稼げた!

 オールオッケー!

 あとは痛みを忘れろおれええええええおええええええええええええオロロッロロ!


『おっさんマジでキチガイ配信やんwww』

『ガチ泣き配信』

権能(スキル)ポイントはクジラで8+陽キャで1、合計9ポイントであるな』

『◆何を上げるのですか?《6000円》◆』


 俺はコメントを見ながら精神をどうにか正常値に持っていき、痛みが治まるのをひたすら待つ。

 それから黙々と泣きながら俺は権能スキルを上げていった。


権能(スキル)『朽ちぬ肉体』Lv3 → Lv5にアップ】

【Lv4……HP60ポイント以下の肉体的損傷を自動で修復する】

【Lv5……肉体的損傷の修復スピードが上昇する】


 何よりもまずは『朽ちぬ肉体』をレベルアップさせて生存率の底上げをする。

 はあああああああどうでもいいけど腕と背中が痛すぎるうううう。



「ふぅー……ふぅっ、ふぅー……の、残りも全部『朽ちぬ肉体』に注ぎ込もうと思うんだけど、みんなはどう?」


『いやいやもったいないだろw』

『おっさんの最大HPは13である。【朽ちぬ肉体】Lv2の時点で30ポイント以下のダメージを治癒するのでもう十分である。Lv4のHP60ポイント以下のダメージ修復を獲得しても効果がない可能性無限大である』


『【アンチ殺し】だろ。今のおっさんが権能ポイントを稼げてるのもアンチ殺しのおかげなわけだし』

『◆【背信者】を上げるのはどうですか? なんだか面白そうです《12000円》◆』


『ロザリアたんとのデートイベントを達成するために【高貴なる美少年】も上げておくべきである』

『おっさんのアイデンティティはおっさんでしょ。【おっさん】上げようぜ』



 なるほどぉぉぉぉおお。

 確かに一理あるが傷が痛すぎるううううう。

 

【『アンチ殺し』Lv2 → Lv3】

【Lv3 自分に敵対心を抱く対象を殺す、もしくは心を折れば好きなステータスを上昇できる】


 ふうっ、ふぅー!

 痛みは忘れろ忘れろ。テンションあげろ!

 やったー! 敵を倒せばステータスを上げられるううう!

 他のYouTuberは登録者1万人につき1ポイントしか上げられないのに、俺ときたら強化し放題で最強おおおおおおいてええええええんだよちきしょうが!



【『背信者(はいしんしゃ)』Lv2 → Lv4】

【Lv3……『【童貞発言(ダイレクトメッセージ)】』を習得。発声しなくても、思考だけで視聴者と意思疎通が可能になる】

【Lv4……コメントを非表示にできる。VIPリスナー『古参』を設定できる】


 腕、あとは腕だけええええ早く治れえええ。



『VIPリスナーだと!?』

『コメントが大量に流れたらゲーム画面が見づらくなるからな。でもVIPリスナーのコメントだけは表示されるってか』


『おっさん、俺をVIPにしてくれ! ためになるコメントするからよ!』

『私をVIPにするのである。さすればロザリアたんとのデートイベントに辿りつく可能性無限大である』

『◆私もおっさんのためなら精一杯がんばります! 応援します《30000円》◆』


『ダイヤ姫は金銭的にめちゃめちゃおっさんを支援してるもんなww』

『銭チャ信者www』

『ガチ恋っぽくね?』

『どうでもいいから俺をVIPにしてくれえええ!』



「ふぅぅぅぅー……ふぅっふぅっ……」


 腕ええええホネええええ再生ええええ……。


『速報:おっさんガチ恋勢に興奮してしまう』

『息遣いきめえwww』


【『高貴なる美少年』Lv1 → Lv2】

【Lv2……容姿がやや美形になる】


 あともうすこしで手がああああ指の骨えええええええ!

 いけええええ治れえええええええええええええええええええぶっこめええええ!


【『おっさん』Lv3 → Lv6】

【Lv4 おじさん形態時、口臭『腐食王の息吹マッドネス・グローリア』を発動できる】

【Lv5 おじさん形態時、全ステータスを1.1倍に上昇する】

【Lv6 おじさん形態時、ボディタッチ『不快王の一撫で』を発動できる】


 っしゃおらああああああ!

 全快! 痛みからの解放!



『おっさんwwww』

『いくら何でも権能(スキル)ポイントを一番使うのが【おっさん】とかwww』

『わかってるやんwwわかってるんだけどもwwwww』

『草』


 うわああああああああ!?

 痛みで判断力が鈍ってたあああああ!?

 なんだよ、口臭とかボディタッチとか! ただのセクハラおじさんじゃないかあああ!

 あんな死ぬ思いをして権能ポイントを稼いだのに……!

 俺が絶望に屈し両手をついて男泣きをしていると、ふわりと長い銀髪が鼻孔をくすぐる。


「ゆーま? 痛いの痛いの飛んでったです?」


 ロザリアはいつもの無表情で、抱え座りをしながらちょこんと肩をつついてくる。不意打ちすぎて思わずぼーっとしてしまう。

うん、この可愛らしい美幼女を見れたなら、まあ痛い思いをした甲斐もあったってもんだ。


「マリアたちも最初は苦戦してたです。でも、すぐ勝てるようになったです。ゆーまも強くなるです」

「ロザリア——ありが——」


 お礼を言おうとしたとき、世界の景色がひび割れてゆく。

 これはもしや前回と同じく、【過去に眠る地角(クロノ・アーセ)】から【未来ある地球(クロノ・アース)】に戻る予兆?

 その予感は見事に的中し、例のごとくバキバキに砕かれた世界の後に残ったのは学校の屋上である。

 こうして俺の2回目の異世界配信は幕を閉じた。





【ユウマ】

【HP11 MP10 力9 色力(いりょく)24 防御9 素早さ8】

【割り振り可能なポイント3 = 信者数or登録者数31777人】



権能(スキル)

【『背信者(はいしんしゃ)』Lv4】【『おっさん』Lv6】【『高貴なる美少年』Lv2】

【『アンチ殺し』Lv3】

【『朽ちぬ肉体』Lv5】



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[一言] これはひどいw
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