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104話 空白のリスト





皆さんごきげんよう。俺の名前は彰。年齢は16歳。好きな煙草はハイライト。好きな飲み物はメロンクリームソーダで、食べ物は好きじゃない。



俺は、落ち着いて食事なんか出来ない人格だ。背負わされている感情は怒りだから。


今回筆を取るのは、偶然に過ぎない。


今晩五樹は、時子の叔母に電話を掛け、ストレスが溜まってるだのなんだの言い、無駄話をしてた。あいつのストレスなんかたかが知れてるだろうと、俺なら思ってしまう。



俺は、時子の「ストレス」そのものだと思う。


時子は、母親にぶたれた時も、「行儀が悪い」と叱責されて玄関で食事をさせられた時も、クラスメイトの馬鹿男に消しゴムを切り刻まれた時も、他のクラスメイトから殴る蹴るの暴行を受けた時も、黙って耐えていた。いいや?全員に、むしろ同情してた。


時子は、「暴力に及ぶ人には理由がある」と、母から学んだ。別に間違っちゃいないが、一般人は無くても困らない知識だ。暴力に訴える人間からは離れればいい。


だけど時子は母から離れられなかった。子供だったからだ。


時子は、母が暴力を行使するに至った理由を飲み込む事で、自分の被害者としての不満を黙らせようとした。


曰く、母は幼い頃から不遇だった。


曰く、母は誰からも理解された事がない。


曰く、母は感情をコントロールするのが困難だ…


曰く、曰く、曰く…そんな事で俺がお前を許すかよ!!お前の事情なんか知ったこっちゃねえ!俺には関係無い!



俺は、今日、目が覚める前に、時子の母親の顔を蹴ってやった。それは、交代の時に現れる心象風景の中でだ。


近頃、俺達の心中にある心象風景は、様変わりをした。


そこは、真っ暗闇だ。でも、なぜか周りがどうなっているのかは見える。


どこまでも黒い、孤独な空間。そして足元には、じゃぶじゃぶと纏い付く、血の池。そこに、時子の母親の死体が、無数に埋もれている。



時子は、目を覚ます前にそれを一瞬だけ見て、母親の顔そのものに強く怯えてすぐに目を開ける。


五樹は、どうして自分達の心象風景がそんなに急に変わったのかを見定める為、遠くを見詰める。


俺は、時子の母親を蹴り上げた。



あの血の池は、多分、時子の血だろうと思う。心は、生きてさえいれば力を取り戻す。取り戻す度に、いいや、取り戻し切れていないのに、時子はいつも傷付けられた。心に血があるとするなら、時子はずーっと出血を続けながら生きてきた。



俺は、この世を台無しにしてやりたいと思っている。時子の人生を台無しにしたのは、見て見ぬふりを続けた奴ら、全員だからだ。そんな思想を内に抱く程に、時子は追い詰められた。自分でやってしまった。


母親の事情をいくら飲んだって、自分の気持ちの行き場は別の話だって事が、こいつには分からなかったんだ。


だから、母親に同情して、いじめっ子の心まで汲んだ。


俺はこれからも、必要とされないだろう。いつまでもいつまでも、時子は飲み込み続けるだろう。実際それが出来る強さはある。


だから、俺の殺しのリストは、空白のままだ。





つづく

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