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女をどうするか

 香華子は得意になって哲史に説明した。

「でね、万筋服っていうの、そのパワードスーツ」

「しっかし売れない文学作品みたいな世界観にいきなりパワードスーツとはね。ちょっとけしかけてやると香華子の発想はほんとに自由になるな」

 哲史も嬉しそうに笑った。


 香華子は上機嫌だ。

「ヒーローのゲームが流行ってるから。おっさんもヒーローになったらカッコイイなって思ってー」

「だけど、おまえの頭の中でおっさんは勝手に動く。望み通りのヒーローになってくれるかな。銀行強盗になったらどうする? 考えてみれば逮捕されても脱獄し放題じゃないか。とんでもない悪人になるかも」

「それは、おにぃはおっさんのこと詳しくないから。おっさん弱い者いじめとか卑劣なこと嫌いだもん」

「保険をかけといちゃどうだ?」

「なにそれ?」

「女だよ。素直にモブ以上の女を出せばいいじゃん。おっさんの生きる希望になるし、犯罪抑止にもなるよ」

「えー、女ぁー? 女はあんまいらなーい。おっさんは童貞だからかわいいんだよ!」

「別に恋人や結婚相手じゃなくてもいいんだ。身近に異性として意識できる相手がいれば生活態度は変わるし、悪いことしにくくなる」

「だからおっさんは悪いことしないって!」

「ぼくの聞いたかぎりでは、いざとなったらかなり思い切ったことするタイプのようだけど。悪人じゃないとしても猪突猛進なところがある。いきなり超人的な力を手に入れちゃったわけだし」

「そういえば、おっさん強くなったけどお金の問題解決してなかったっけ。自力でどうにかするかな?」


 哲史は片眉を吊りあげた。

「いよいよ強盗だな」

「建築現場で働くとか」

「怒ってなきゃ使えないんだろ、万筋服。建築現場でお金をもらえるほど働くのは無理なんじゃないか」


 香華子は指で眉間を押さえた。

「うーん、お金と女かー。世話かかるなおっさん」

「そんなこというなって。男の人生にとっちゃ大事なことだよ」

「お金と女かー、そういう設定考えるのも面白いかもしれない。よし、ちょっと頑張ってみる!」

 香華子は身体を起こして哲史の部屋を出ていこうとした。

 ドアのところで振り返る。

「コンビニ行ってくるけどなんかいる?」

「いや、いいよ」

 香華子は部屋を出てそのまま階段を降りる。


 少しばかり夜の街を散歩しながら、アイデアをまとめてみるつもりだった。

「よし! よし!」

 などと、ぶつぶつつぶやきながら玄関を出る。


 日本庭園といえるほど立派な庭を突っ切って、門へ向かった。

 門の横には若い衆の詰め所があって、いつも明かりがついていて誰かが立っている。

 今夜も声をかけられた。

「お嬢お出かけで?」

「うん、ちょっとコンビニへ」

「キヨ、マサ!」

 二人の若い衆が呼び出された。

 門を出た香華子の背後数メートルのところをついてくる。


 いつものことなので香華子は気にしなかった。

 頭をひねりながら夜風に当たり、コンビニに着く。


 入り口の灰皿近くで、金髪の女が座り込んでいた。

 Tシャツハーフパンツにピンクのサンダル。

 ガニ股座りでタバコを吸いながら電話をし、ぺっぺっとしきりにツバを吐いている。

 絵に描いたようなヤンキーに、香華子は見入ってしまう。

 目と目が合った。

「なんだよ、おめ……」

 女は香華子を睨みかけたが、背後にいる若い衆に気づいたらしく、慌てて視線をそらす。


 ボディーガードがさっそく役に立った。

 ほっとしながら香華子は店内に入る。

 若い衆は外に残って女に睨みを利かせていた。


 あんなタイプの女だとおっさんは相手にしないだろう。

 しかし参考にはなった。

 簡単には恋愛関係に持ち込めないようなユニークで一癖ある女ならいい。

 おっさん人生劇場の登場人物としてふさわしい。

 この方向性で設定を詰めよう。


「へへへ……」

 今夜も香華子はご機嫌になった。

 いいことを思いついたお祝いに高いアイスを買う。

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