戦いのはじまり
俺は不敵に返した。
「おまえらだって次元接続体と戦ったことはないはずだ。五分だね」
「そう思ってるのはおっさんだけじゃねえか」
俺は怒りを練りあげた。
まったく、こんな夜中に!
こんなホストみたいな野郎と!
血みどろの殴り合いか!
あったまくる!
身体が熱くなり、炎のような奔流が走った。
服が破け、万筋服が現れる。
無敵の装甲に包まれて、俺は言った。
「アンガージョー対なんでも屋の社長、やってみるか?」
万筋服を出したらブレスレットは壊れてしまうと思っていたが、伸縮するようで、万筋服の一部と化してピッピッと鳴っていた。
三メートルの高みから、諸戸は呆れたように言う。
「どんな仕掛けになってんだかさっぱりわかんねえな、底辺のくせに」
周囲に光が差した。明るくなった。俺は背後を振り返る。
ライブハウスが、外側に向いているすべてのライトを点灯させていた。
閑散とした国道沿いに、そこだけ活気づいたようだった。
閉鎖されたライブハウスは、生き返ったように光に包まれていた。
諸戸の一味にしても暗いと戦いにくいと判断したのだろう。
博士がライブハウスを指差した。
「出入り口の右、シャッターの前! 烏羽と江藤だ!」
セツが瞬時にテレポートした。
出入り口の右、なにもないように見える場所で盲滅法に刀を振り回す。
透明化が解けてふたりが姿を現す。
ガタイのいい烏羽はセツを殴ろうとし、細身の男はほうほうの体で逃げだす。
セツは細身の男の前にテレポートし、刀の柄でみぞおちをえぐる。
細身の男、江藤耀司は倒れた。
きっと透明化は止まっていないと使えない力なのだろう。
透明化したまま動けるのは乗り物に乗っているときだけだ。
烏羽が衝撃波を撃つが、セツはテレポートした。
烏羽の後ろへ回り込んで刀で殴る。
ふたりの戦いは続いているが、とりあえず一番厄介だった透明化は潰せた。
空中に浮かんだまま、驚きに声を失っていた様子の諸戸が口を開いた。
「お、おまえら、能力者なだけじゃねえな! 俺たちの能力を熟知してやがる!」
「いつでも降参していいぜ。参ったすれば大目にみてやる」
「俺の力は知られていたとしても止められるもんじゃねえ! まずはあの女からだ!」
「行かせるか!」
諸戸は空中にいるが、万筋服に強化された俺の脚力なら届く。
俺は飛びかかった。
「おっさんは後回しだ!」
諸戸の手のひらから網のような形の稲妻が広がった。
稲妻は巨大な手のように俺を捕らえる。
「うがぁああああ!」
激しい衝撃が俺の身体を走る。顔は焼かれるように熱かった。
諸戸は手で放り投げるように、俺の身体を捨てた。
俺は木に激突して倒れる。一瞬気を失っていたかもしれない。
博士が助け起こしてくれた。
「大丈夫か、丈くん!」
俺は頭を振って立ちあがった。髪が焦げ臭いにおいをたてている。
「くそ、万筋服を着てても効くぜ、あのやろう……」
諸戸は道路の向こう側へ渡り、空中から電撃でセツを捉えようとしている。
諸戸と烏羽に加えて、麻痺の男、川辺夕も参戦して駆け回っている。
あいつに頭をつかまれたらおしまいだ。
セツは一対三だった。
テレポートでも動ける場所が制限される。
このままじゃヤバい。
博士が言った。
「透明化の江藤は倒した。もうわたしの出番はないだろう。足手まといにならないようにわたしはここにいる。セツくんを頼む」
「わかった、まかせとけ! もうやられはしねえ!」
とつぜん腕にちくりとした痛みが走ったあと、急に気分が爽快になった。
強壮剤にようなものを打たれたような気がした。
万筋服の隠されていた機能のひとつかもしれない。
「いくぜぇ!」
俺は大きくジャンプし、ふた跳びで四車線の道路を渡った。
ライブハウスの駐車スペースに着地する。
もうここは戦場だ。
烏羽の衝撃波のせいで、アスファルトの地面がところどころ砕けている。
諸戸の電撃のためか、空気が灼けた臭いをしていた。
ブレスレットの音はピッチを早め、緊迫感を増していた。
だが、ここには蕪屋雫も坂上蒔絵もいない。
俺は次元接続体じゃないから、諸戸の一味にセツが増えただけだ。
まだ余裕があるだろう。
俺は戦いに専念した。
セツは諸戸と烏羽の攻撃から逃げ回っている。
俺のほうには川辺夕が駆け寄ってきて、まっすぐ手を伸ばしてきた。
こいつ、戦いは素人だ。
人を簡単に気絶させることができるせいで、戦い方を学べなかったに違いない。
スキだらけだった。
俺は手加減しつつ、カウンターで川辺のあごを殴りつけた。
川辺はくるくると回転して倒れた。
もう動かない。
よし、こいつは始末した。
残るは諸戸と烏羽、ふたりだけだ。
俺の隣にセツがテレポートしてきた。
顔は烏羽のほうを向いている。
「まったく、こいつタフで。刀がもたないかもしれない」
「頑丈なやつってのも困るな。それだけ痛い目を多くみるのにな」
烏羽が腕を振り下ろす。
衝撃波がくる。
セツは消え、俺は跳んだ。
立っていた場所のアスファルトが砕ける。
さて、こいつをどうするか。
トランシーバーから博士の声が聞こえた。
「身体は頑丈でもチョークは狙ってみる価値がある。首だ!」




