前奏
俺は決断を迫った。
「やろうぜ博士! 急な話になったが、いまやって悪いことはない。今日、終わりにすることもできるんだ」
博士は降参のポーズをとった。
「よし、わかった、やろう! しかし実行の前に注意点をおさらいだ、わたしの話を聞いてくれ。まず蕪屋雫。次元接続体を見分ける能力がある。おそらく戦闘力はないと思われるが近づいてきたらそのときは注意すること。なにか手を持っているのかもしれない。次は坂上蒔絵、電子機器を操る。彼女も戦えるとは思えないが接近してきた場合は警戒すること。いちばん危険なのは透明化の江藤耀司と衝撃波の烏羽鉄火がコンビを組んできたときだ。そこに存在するのならわたしの眼で視える可能性は高いが、ふたりが一緒に現れたなら最優先で対処すること。どちらか片方でも無力化してしまえば危険性はぐっとさがる。麻痺の男、川辺夕は接触されなければ問題じゃないが、油断するな。川辺夕が江藤耀司と組んできたとしても脅威となる。そして諸戸亮吾。能力は不明だが、この一味を束ねているからには相応に強力な能力を持っていると疑っていい」
再確認させられると、やはり冷や汗が流れるような相手たちだ。
だが、やるしかない。
いまがもっとも有利に戦えるだろう。
俺は言った。
「作戦はどうする。殴り込みで奇襲をかけるか。向こうが慌てているあいだに倒しちまおう」
セツが呆れたような声をだす。
「バカかおっさん。奇襲をかけるにしても忍びこむんだ。出会った相手から静かに素早く各個撃破する」
「そんな静かに忍びこめるかよ」
「わたしはテレポートできる。内側から鍵を開けるのは雑作もないことだ」
「あ、そうか」
「運がよければひとりで全員を始末できるが、あまり運に頼りすぎるのもよくないのでな」
博士が頷いた。
「作戦はそれでいこう。車から手錠を出してくる」
俺たちがワゴン車へ向かおうとしたとき、ブレスレットの音が変わった。
ピピッピピッという、やや緊迫感が増したような音だった。
俺たちは顔を見合わせる。
音の感じからして近くに次元接続体が増えたはずだ。なのに姿が見えない。
博士は周囲を警戒した。俺もあたりを見回す。
だが、声は中空から降ってきた。
「おまえらは何者だ。そんなところでなにしてる」
声の主を見上げると、空中に男がいた。
高級なスーツを着こなし、髪をワックスで整えたホスト風の男。
諸戸亮吾だった。
俺は思わず名を呼ぶ。
「諸戸!」
くそ、向こうからやってきやがった。
これで安全な奇襲の目は消えた。
正面からやりあうしかない。
諸戸は俺たちを見おろし、余裕の微笑みさえ浮かべていた。
「誰かと思えばおっさんかよ。おっさん、アンガージョーなんだろ。あれを見たときはびっくりしたぜ。能力者でもないのにどうなってんだよ。ほかのふたりは能力者らしいな。雫が見つけたんだ。能力者がここでこそこそしてるってな」
セツと博士が蕪屋雫に発見されていたのか。
素知らぬ顔で帰っていきやがって、蕪屋雫もなかなかの食わせ者だ。
博士が戸惑いながら言う。
「諸戸亮吾、君には逮捕状が出ている。無駄な抵抗をせず、我々とともに出頭したまえ」
「なんだおまえら警察の犬か。でも俺は捕まるようなことはなにもしてないぜ。空を飛んでると捕まるのかよ。おっさんからもなんか言ってやってくれ。俺は人格者だろ」
俺は言った。
「未成年者略取だ。蕪屋雫はおまえの家族じゃないだろう」
「ほう、そんなことまでねちねち調べたのかよ。でもそれで能力者がやってくるとは思えねえな。俺たちが能力者だと知ってるんだからな。まさかおっさんみたいな底辺が絡んでるとは思わなかったぜ」
諸戸がいい具合に煽ってくれる。
俺は怒りを醸成しながら言った。
「蕪屋雫のことはおまけだ。俺たちは知っている。おまえが次元接続体を束ねて現金輸送車を襲って金を強奪し、いまは千垣組の助っ人として動いていることもな。アクロスザ・スターの従業員は全員次元接続体、能力者だろ。裏でなにをしてきたか、悪いがすべて暴くぜ」
「なるほど、そこまで知っているわけか、なるほど、なるほど」
諸戸の顔から笑みが消えた。
「だったら帰しゃしねえぜ。俺たちの仲間に加わるか、さもなきゃ死んでもらう。こっちちは数で勝ってるぜ」




