おっさんの作戦
俺は装甲に包まれた指先を男に突きつけて言った。
「今日、まだ戻ってないやつがいるだろ。そいつらは千垣組とドンパチやってた。両方とも俺がぶちのめしてブタ箱行きにしてやったぜ」
男が青筋をたてて怒鳴る。
「舐めてんのかぁ、クソが!」
立てかけてあった木刀を手に取って打ち下ろしてきた。
問答無用か、こっちもだ。
俺は左腕で木刀を受け止め、右手でビンタを食らわしてやった。
「ぶへっ!」
男が倒れかかる。そこをつかまえて、胸に手のひらを当てた。
「スタンショット!」
「ぐふっ!」
今度こそ男は倒れて気絶した。
わざと痛めつけたのは髪をつかまれたお返しだ。
「兄貴!」
「このやろう!」
「ぶっ殺してやる!」
周りにいた若い衆たちがいきりたって襲いかかってきた。
悪いが、俺の万筋服に普通の殴り合いなんて通用しない。
「スタンショット! スタンショット!」
俺は触れるそばから電撃をお見舞いしていった。ものの十秒であたりは静寂に包まれた。
こういうやつらはまず実力を示してやらないと話にならない。そういう人種だ。
男たちが転がる部屋の中で周囲を見回す。
こいつらが目覚めるまで、なにか暇を潰すものが必要だった。
ちょうどよく部屋のドアが開いた。
新手かと思ったが香華子だった。
「だ、だいじょうぶですか、釘伊さん……」
「ああ、俺なら問題ない。わかってるだろ」
俺は思いついて頼みごとをする。
「そうだ、香華子ちゃん、できればお茶とお茶菓子なんか持ってきてよ。俺はしばらくここにいるから」
「は、はい、わかりました!」
香華子が行ってしまうと、俺は倒れている男たちの服を物色した。
こっちはもうすぐ裸になってしまう。
俺を連れてきた、いちばん偉そうなやつのズボンと靴を剥ぎとる。
サイズが合わないが見せしめだ。
もうひとり、代紋を付けていないやつのスタジャンも奪う。
これでいいだろう。
香華子が戻ってきた。お盆にお茶とお茶菓子を載せている。
万筋服姿でそれを受けとると忠告した。
「部屋に戻っていてくれ。もうすぐ裸になっちまうからな、しってるだろ? 俺のことは心配ない。ゆっくり休んでくれ」
「は、はい、わかりました。気をつけてください」
「おう」
ドアノブには鍵がついていたので、香華子が出ていくとロックした。
少しのあいだ邪魔が入らなければ、そのほうが助かる。
俺は裸に戻り、奪った服を着た。
素肌にスタジャン、ぱっつんぱっつんのズボン姿で、俺はお茶を飲み、モナカをほお張る。
そうしながら、放られていたスポーツ新聞を読んで時間を潰した。
男も中年を過ぎたらいつでも余裕を持っていたいもんだ。
「うぅ……」
男が目を覚ました。
上は背広で下はパンツ靴下だけの兄貴分だ。
俺は鷹揚に声をかける。
「よう、お目覚めか」
「てめえまだいたのか、生きて帰れると思うなよ……」
口のなかに残っていたモナカをお茶でゆっくり飲み下す。
「それより俺の話を聞け。おまえらが束になってかかってきても俺には通用しない。この屋敷のまるごと全員をぶちのめすこともできる」
「なにぃ! チョーシこいてんじゃねえぞ!」
「千垣組には俺と同じくらい強いやつが助っ人についてる。それも四人だ」
「……」
男は押し黙った。心当たりがあるらしい。
俺はたたみかける。
「その四人は俺の敵だ。おまえらの抗争はどうなろうとしったこっちゃないが、その四人は俺が始末してやる」
「……条件は……」
「特にない。だが俺はそいつらの居場所がわからないときてる。お前なら心当たりのある場所がいくつかわかるだろ、教えてくれ。四人、いや五人が一緒に過ごせるような隠れ家だ」
男は苦虫を噛み潰したような顔でにらみつけてきた。
「ズボンと靴返せよ」
「悪いがこれはいただいていく」
「チッ、やな野郎だ……」
「お互いさまな」
それから男は目を覚ました下っ端たちに指示を出した。
「おい、地図持ってこい!」




