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香華子踏みだす

 香華子はめまいを覚えて大きく息を吸った。

 くらくらして机に突っ伏す。


 とうとう……。


 とうとう香華子は自分自身を、自分の妄想の登場人物にしてしまった。

 恥ずかしさのあまり、顔がカッと熱くなる。頭もぼうっとした。

 香華子はベッドで横になり、手で顔を覆う。顔が熱い。

 落ち着こうとして、そのまましばらくじっとしていた。

 そのあいだにも顔と体は羞恥の熱を帯びていく。


 それは予想以上に長引いたので、香華子は疑問を持ちはじめた。

 そもそも普通の人の妄想は、

 自分を主人公にして都合のいいストーリーをでっちあげることではないのか。

 香華子が自分自身を妄想に登場させたからといって、

 身体がこんなに熱くなるほど恥ずかしいことだろうか。


 やっぱりおかしい。

 香華子は起きあがって体温計を脇に差し込んだ。ピピピと体温計が鳴る。

 確かめてみると体温は三十九度八分。

 高熱であった。

 恥ずかしさや気のせいじゃなく、熱を出していた。


「うーん……」

 熱は身体の不調だと確認すると目が回った。

 香華子はなんとかベッドに戻り、中へ潜りこむ。


 けっきょくそのまま、三日間寝込むことになった。

 医者が呼ばれ、注射を打たれ、哲史と家政婦の看病を受けることになった。

 哲史もずっと家にいた。

 組同士の抗争がいままでにないほど激化していて、登校も含めて外出禁止になったのだという。

 香華子の学校では試験期間だったはずだ。

 あとで追試を受けなければならないだろう。

 いや、もしかしたら自分はこのまま熱が下がらず死んでしまうのかもしれない。

 そんな心配さえしたが、三日後、熱は下がった。消えてしまった。

 三日間も寝込んでいたのが嘘のように、身体の芯もしっかりしていた。


「あーおなか減ったー」

 香華子は家政婦が食事を準備してくれるのも待ちきれず、冷蔵庫を漁ってがつがつと食べた。

 腹がいっぱいになると、気分はさらにすっきり研ぎ澄まされた。

 心身に力が満ちあふれ、まるで生まれ変わったような気がするくらいだった。

 思考が明瞭になると、香華子は考えずにいられなかった。

 高熱を発した原因は、自分の妄想のなかに自分を登場させてしまったせいではないかと。


 理屈を超えて、香華子は確信していた。

 妄想と現実の危険な接点。

 自分はそこに踏みこんでしまったのではないか。

 やはり確かめてみなければならない。

 妄想と現実の接する場所を。


 えひめの家、次元接続体犯罪抑止研究所を。


 身体にはエネルギーが溢れている。

 香華子はいてもたってもいられずに行動へ移した。

 パーカーにデニム、スニーカーと動きやすい服装になって、こっそりと家を出る。

 香華子はそのとき気づいていなかったが、

 奇しくもその格好は、香華子が妄想のなかに登場したときの服装そのままだった。


 見張りの目は主に外からくるものに向けられているので、香華子は容易く外へ出ることができた。

 足音を立てないように、できるだけ素早く家から走り去る。

 香華子の家からえひめの家まではだいぶ距離がある。

 ずっと人通りの多い街中が続くが、途中から山のなかへ入らなければならない。

 それはえひめがちらっと語っていたとおりだ。


 小一時間も歩いて、ひとけがなくなる境目のあたりまで着いた。

 ここからは上り坂で、山のなかへ入っていく。

 道路はちゃんとアスファルトで舗装されているが、道の左右は深い森だった。

 民家がたまにぽつりと現れる。

 それはまさに、香華子の妄想のなかのロケーションと一致した。

 初めて来た場所とはいえ道に迷ったりする心配はないが、ひとけのなさに心細くなる。

 自分の妄想に導かれて、こんな山のなかに来てしまった。

 自分は病気じゃないだろうか。そんな気までしてくる。


 そこで香華子は思い出した。

 妄想のなかでおっさんはチンピラの集まりを倒し、アンガージョーと名乗っていた。

 妄想と現実に接点があるなら、ここからヒントが得られるかもしれない。

 香華子は立ち止まってスマホを取りだした。

 検索をかけてみればいい。

『アンガージョー』と入力。


 そのとき、香華子を追い越して車が停まった。

 目を向けると運転席からスーツの男が降りてくる。男は言った。

「橘のお嬢さんだね?」


 助手席からも男が現れた。

「悪い子だよ。どんどんひとけのないほうへ行くんだからな。なにするんだよ、こんな山中で。ひひひ……」

 

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