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日本2099年   作者: 幾渡 いちじ
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スラム街で

 猛暑日が続くよどんだ空気が漂い、古ぼけているアパートや店舗が建ち並び、人の気配が無い都会の片隅、ゼロ達が住まうスラム街。

 街灯は無く月明かりだけの街に突如赤ん坊の泣き声が響いた。

 すると誰ともなくライト片手に人々が道に出てきた。

 お互いが顔見知りの女性でお婆ちゃんばかり。

 暑く寝苦しいこともあり肌着姿ばかりだが誰も気に留めるようなことはない。

 この辺に男は住んでいないし、今更気にするような生活もしていない。


 「さっきから聞こえている赤ん坊の泣き声?どっからかね?」


 この中で一番年長とされる女性が集まった連中に訊ねた。


 「こんなに反響してよくわからんね、しかも最近は耳が遠くなってきているしね」


 「そうだね、年寄りがいくら集まっても役に立たないね」


 「だからといってほっとくわけもいかないしね」


 集まって来ているのは6人以上はいそうなので、皆で手分けして探してみることにした。

 年寄りだけなので何かあっても大変、2人以上と決めて、一人は道を照らす、もう一人は両耳に手のひらをかざして泣き声のする方向を探るという手はずにした。

 数分後「いたよー!」という声がした方に皆が向かう。

 すると布にくるまれた赤ん坊に皆がライトを当てている。


 「ちょっと!!眩しいじゃないか、少し消してくれないかね」


 明かりが減ると赤ん坊は泣き止んでアワアワと声を出しながら手足を動かしている。


 「かわいいね、赤ん坊なんて何十年ぶりに見るね」


 「みんな産んでいないしね」


 「男の子かね、女の子かね」


 それぞれが赤ん坊のほっぺを触りながらしゃべりだす。


 「ところでこの子はどうするのさ?」


 見つけたはいいもの、全員が困ったことになったと思った。

 集まった婆たちは結婚はもちろん出産も育児も経験が無い。

 昔なら頼りになる存在だったろうが自分らはそうじゃない。

 ましてやスラムに住まうゼロと呼ばれる貧しい生活。

 

 「この子はたぶん捨てられたね」


 「まだ目も開いていないからつい最近生まれたばかりじゃないかね」


 「何かミルクか何かなかったかね」


 冷蔵庫があるわけでもなく水道しかない。電気は誰も使っていない。

 自分たちの食い物もその日に調達するだけ。

 

 「みんなでお金を出し合って買ってこようかね」


 「コンビニに売っているのかい?」


 「知らんがな、もう何年も行っていないね」


 スラムから一番近いコンビニは徒歩で20分はかかる級持ちが住むエリアにある。


 「あたしが行くから、ほらあんたたちは早く金をよこしな」


 皆は一旦解散しそれぞれの部屋に戻り隠している現金を持ち寄った。


 「なんだいこんだけしかないのかい。足りないかもしれんね」


 小銭ばかりで数百円余りが集まったが、コンビニの商品は全てが高額だ。

 基本的に級持ち相手の商売だし、支払いはほとんど電子決済になっている。

 もちろん現金も使えるがいい顔はされないだろう。ましてやゼロの婆さんなど知れている。


 「じゃあ行ってくるよ」

 

 「待ちな!一人じゃ危ない、あたしも行くよ」

 

 2人は小走りで向かう。ほんとはゆっくり行きたいが、この時間帯を無事に着くには足音を立てずできるだけ速いほうが安全というのがスラムの常識。

 級持ちのほとんどは近寄らないが、中にはけしからん連中が興味本位で入ってくる。

 連中は建物を破壊したり騒ぐことが目的だが、スラム内で警察は来ないので無法状態の野放しになっている。

 当然反撃もできるし級持ちを殺してもバレなければ問題ないが、こっちが被害に遭うことは避けたい。

 

 「ようやく無事に着いたね」


 「こっちを伺う若い奴らがいたようだけど、汚い婆さんだとわかったら無視したね」


 「これが爺さんだと襲われるのかね」


 周囲を伺いながら店内に入る。

 子供の頃は毎日のように買い物をしていたが、大人になる頃からほとんど寄り付かなくなったので多少緊張しながら足を踏み入れた。

 

 

 

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