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日本2099年   作者: 幾渡 いちじ
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プロローグ

西暦2099年日本の人口は21世紀初めの半分以下5000万人となっていた。

 正確に言えば戸籍がある日本国籍を有する人口。

 暗に戸籍が無い人間が存在するということになる。

 いつのまにか日本はカーストのような階層が存在する国になっていた。

 戸籍があるのは一級国民から四級まで、さらにその下の無戸籍人間に分かれている。

 呼称はあくまでも通称で、一級が自分の優位性をはっきりさせたいだけに生まれた。

 一級は純日本人。つまり昔から純血の日本人としての血統として認められている人間。

 黒い髪、黒い瞳で戸籍に記載され証明できるとされる。

 人工の半分を占めているが、数の優位ではなく全てのことで優遇されている。

 東京や政令都市などの都会にしか居住していない。

 政治家の多くや公務員は一級になっている。

 二級は白人系の血が入っているクオーター、ハーフと言われる人間。

 四代以前に日本血統が複数回入っていれば一級と認められる。

 全国の都会を中心に満遍なく居住している。

 人口比は2割だが、見た目の優位性や運動能力の高さで有名人が多い。

 三級は日本以外のアジア移民と日本人とのハーフになる。

 見た目こそ純日本人と判別できないが、居住地が山間部に集中しているので言葉や服装が純血とは異なる。一次産業に従事していることが多い。人口比は2割になる。

 残りの1割の四級はそれらの階層からドロップアウトした人間の総称になっている。

 戸籍はあるが非合法な生活を生業にしている。

 級持ちの親族が生きている限り自身も級持ちと同等の権利がある。

 そしてどの階層にも当てはまらない最下層まま日本に生きている人間がいる。

 人口にカウントされないが、およそ10万人ほどが全国に生きている。

 彼らが通称「ゼロ」と呼ばれている。

 居住地は主に都会のスラム化した地域に集中している。

 戸籍が無いので税金を払う必要がないが、国の保護やその他の権利は与えられていない。

 戸籍が無いので人口管理はされていないし殺人や犯罪捜査の対象になっていない。

 存在するのは勝手だが自己責任で生きてくれということだ。

 見た目も血統も一級国民と全く同じの彼らは政策の犠牲になっただけにすぎない。

 


 21世紀中盤から日本は少子化と政府の経済政策の失敗、国際情勢の乱れで20世紀以前のような先進国とは呼べない国となっている。

 人口減とエネルギー不足で内需と輸出が激減。富める者は更に富、貧する者はより一層貧しくなった。

 21世紀中頃に国際的最高の金利政策にして外資を呼ぶことで国を維持しようとした。

 当然だが円が高くなり工業輸出などは停滞したが、以前から労働力不足とエネルギーの負担が大きくなっていた中小企業は激減していたし、大手企業は海外に実質的な本社を移し、金利が高い日本に金融資産を残すだけになっていたので、社会情勢に政策が追随しただけにすぎない。

 日本に世界中の金が集まったが、国民の多くにその金が回ることはなく格差がひろがった。

 恩恵を受けたのは代々富裕層に生まれ、教育と資産を充分与えられてきた一部の日本人だけ。

 その他の庶民は生活苦から次第に生活保護に陥り、その数は人口の半数にまで来たところで政府は生活保護を止めてしまった。

 理由は財源不足だが、かねてからの自己責任論での放逐である。

 政府の支持層は税金を払っていない人間を自分らの金で養うことがけしからんと言う理由のみ。

 税金は免除することは戸籍を管理する理由が無くなることでもあるので抹消された。

 その代わり個人ナンバーを与えられた。しかしそれは便宜上の区別だけのもので、刑務所での囚人番号と意味合いは変わらない。

 だから最初に与えられた人間の子供には親の番号に数字を付け足すだけになっている。

 彼らには苗字はあるが自由に変更することができる。無くてもかまわない。

 そんな彼らが現在の「ゼロ」と言われる人間だ。

 選挙権なども無いので政策に影響させることができなくなり、いくらデモが起きたところで痛くもかゆくも無いので更に放逐されたままになった。

 人間を野生動物以下の扱いにして絶滅させるようなもの。

 当然だが彼らは結婚することなく人生を全うするのがほとんどになった。

 政府の思惑としてはゼロが自然消滅することが最善のだったが、彼らも人間である。

 恋愛をすれば子供が生まれるのは自然の理だ。

 しかし育児や生活の不安定さはどうしようもない。

 両親が共働きでようやく食べていける金額しか稼げない。

 次第に見かねた周囲の独身たちが我が子のように世話をするようになり、子供たちは大きくなっていった。それでも100人のうち家庭があるのは2組くらいしかない。

 ゼロ達のほとんどは肉体労働か末端のサービス業に携わっている。

 ただし最低賃金の補償はない。

 法的に日本の最低賃金は級持ち国民を対象にした時給換算5000円になるが、無税な彼らには適用されない。

 だからと言って少なすぎては労働力が集まらないので、600円前後に落ち着いている。


 級持ち階層間でビジネスや生活面で接点があり通常の関わり合いはあるが、ゼロと級持ちは一切ない。

 級持ちの生活環境の全てが高額な生活になっている。店などの対象客も従業員も同じ級持ち。

 ゼロからすれば超リッチ過ぎて別世界と言うだけに過ぎない。

 ただし級持ちからすればゼロの生活環境は別世界というより視界にすら入っていないだけだが。


 ゼロはパスポートが作れないので海外に行くことができない。

 教育はゼロ対象の学校が私設の寺子屋のような小学校まであるがそれ以上はない。

 どんなに優れた才能があっても日本で開花させることはできない。

 

 現在のゼロのほとんどは70歳以上の独身女性が多い。男性は過労死と自死で中間の年代はほとんど生存していない。残りは20代とその子供らが合わせても数百人といわれてる。 

 70代のゼロ達は昔の日本を知っている。

 当時の彼らはまだ子供だったが、何不自由なく生活していた。

 この時代に健康な体がつくられたから長生きをしたのかもしれない。

 2030年代のある日突然両親から告げられた。

 「仕事をクビになったから家を出ることになった」

 連鎖的に年収500万以下の家庭のほとんどが失業した。

 生活保護を申請するためにローン支払い中の自宅を手放し、アパート住まいになる。

 政府が急増した生活保護民を切り捨てるのに時間はかからなかった。

 まだ学校には通えたが、小学校は学区制なため貧富の差がはっきりと目に映る世界になっていた。

 貧しい子供のほうが多数派だが、どうしても豊かな家庭の子供は上の立場になっている。

 差別やイジメがまかり通り、教師は長いものに巻かれる公務員のサガで自己保身優先な対応をする。

 教師の対応は大人なら理解できる。少子化で学級数が減り教師の需要は下がる一方、一度辞めたら再就職は厳しい。公務員は解雇はされないが僻地へと転勤になることは確実。

 逆に富裕層への覚えがめでたければ有益なコネを得ることができる。

 そして多くの子供たちは不登校になりそのまま大人となっていった。

 家計を助けようと低賃金で不法に働くようになり、彼らが大人になるころには通常の労働として認知され、そのまま改善されることなく現在まで続いている。


 格差がはっきりしてきた時期から級持ちの出産は男女の産み分けをするようになった。

 技術的には酪農での実用化が長いので確かなものだったが、遺伝病以外では倫理的に制限があった。

 しかし少子化解決を科学的なおかつ優秀な遺伝子を残すために合法化された。

 両親の特性を精査して、より特化した性別を選ぶ。

 基本は母親の才能に優秀な血が受け継がれることと、出産可能ということで女が圧倒的選ばれた。

 だから社会的な優位は女性が強くなったが家父長制は一部で残っていた。

 人工授精なので精子は実の父親でなくても構わないことになり、一人の未婚女性が何人も産み養子斡旋として多額の謝礼を受け取るようになった。

 しかし提供された精子が希望された級の男性でなかったという手違いが出産後に発覚するということなどもあり、望まれない子供が少なからず存在した。

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