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鮭とかえる  作者: イチ
7/15

鮭くんとかえるくんの旅

第4話 亀じいさん


奥深い山にも、はっきりとわかる春が訪れました。

山一面を覆っていた雪も、そのほとんどが溶けました。

はだかだった木々もあざやかに。

緑が芽吹き、色鮮やかな花が咲きます。

虫が飛び、小鳥も歌います。


キラキラ、キラキラ。


陽射しが生む生命の躍動。

暖かな春の陽射しは、水の中にも届いています。


ユラユラ、ユラユラ。


流れに任せて揺れる水草は、風になびく柳のようです。

水生植物もまた春の躍動を見せています。

あちこちで多くの魚も泳ぎます。

よどみの落ち葉の中では、なにやら動いている水生昆虫の姿も見えます。


あのふたりはどうでしょう。


産まれたばかり。

鮭の赤ちゃんも、かえるの赤ちゃんも泳ぎが上手くありません。

広いよどみの中をふわふわと泳ぎまわります。

ぽっこりに栄養が詰まっていますから、お腹も空きません。


今日も流れの緩やかな川面を漂うように泳いでいると。


「おふたりさん、こんにちは」


大きな岩の上から声がします。

亀です。

亀がふたりに声をかけました。


「こんにちわ」


「こんにちわ」


「こんにちわ

お主らは鮭とかえるの子どもじゃな」


「うん、そうだよ」


「うん、そうだよ」


「ほぉ珍しいこともあるもんじゃ。

わしは亀じいと呼ばれておる。

もう永くここに住んでおるぞ。

なんでふたりはいっしょにおるんじゃい?」


「なんでって、いっしょに生まれたからさ」


「そうだよ。ぼくらは卵からいっしょにいるんだ」


「ほぉ〜。鮭の仲間やかえるの仲間といっしょじゃないんじゃな」


「仲間?よくわからないんだけど、ぼくらはふたりで生まれたからね」


「ふたりいっしょなんだよ」


「なるほどの。違う種族でいっしょなんじゃの。

鮭とかえるのふたりでいっしょか。見たことも聞いたこともない!

まぁそういうのもおもしろいかのぉ」


「ほっほっほ」


笑いながら、亀じいさんが言いました。


「わからんことがあったら、なんでも聞きにおいで。わしはたいがいここにおるからの」


「うん、わかった」


「亀じいさんは物知りなんだね」


「ほっほっほ」


「亀の甲より年の功と、人間たちも言うておったからの」


「亀の甲?」

「年の功?」

「う〜ん、なんだろう?」


ふたりには、その言葉の意味も、人間も何かはわかりませんでしたが、亀じいさんが物知りなことはわかりました。


「ほっほっほ」


ふたたび亀じいさんが笑いました。


「なかよく遊ぶんじゃよ」


「うん!」


「うん!」



◎ 第1章 初めの春

第5話 楽しい毎日


山はすっかり春模様となりました。

水の中も同様です。

だんだんと水温も上がってきました。

魚も昆虫も水草も。

そこかしこで生命が溢れています 


あの小さなふたりは、どうなったのでしょう。


いました!

鮭の子どもとかえるの子どもです。

大きさこそ違えども、よく似たかたちのふたりです。

ぽっこりとした大きなお腹は、鮭の子ども。

ひとまわり小さいけど、やっぱりぽっこりとしたお腹はかえるの子どもです。

どちらもぽっこりお腹の栄養が、ご飯代わり。

だから、何も食べなくてもお腹が空きません。

夜に寝ること以外は、ふわふわゆらゆら、一日中遊び続けています。


明るい陽射しは、水の中の枯れ葉のベットにも降り注ぎます。


「お腹がぽこぽこ。

なんだか幸せだねぇ」


鮭くんが言います。


「お腹がぽこぽこ。

なんだか幸せだねぇ」


かえるくんも言います。


流れのおだやかな淵の中。

毎日楽しく遊んで暮らすふたりです。

おだやかな流れに任せて行ったり来たり。


ふわふわ、ゆらゆら。


水中を流れていく落ち葉の上に乗ったり。

ときどき流れてくる大きな氷のかたまりに乗ったり。

ゆったりとした時間が流れます。

時には。

亀じいさんのむかし話を聞いたりもします。

楽しい毎日です。



◎ 第1章 初めの春

第6話 からだの変化


相変わらず毎日を楽しく遊ぶふたりです。

雪どけ水がふえてきました。

水の温度もさらに温かくなってきました。

変化は、まわりの景色だけではありません。

ふたりのからだにも変化が現れてきました。


ふたりとも、ぽっこりとしたお腹が小さくなってきました。

そんなお腹の膨らみが無くなっていくにつれて。

だんだんと大きくなっていく鮭くん。

魚らしい横長のほっそりとしたからだに変わっていきました。

かえるくんも。

大きさはあまり変わりませんが、丸みを帯びたかえるくんには小さな手足が生えてきました。


からだの大きさやかたちが違うように、泳ぎにも違いが現れます。


鮭くんは、より早く泳げるようになりました。

もう追いかけっこでは、かえるくんは鮭くんにかないません。


かえるくんは、両手足を使って落ち葉に潜ったり、一箇所に止まったまま、川の上下にも泳げるようになりました。

もう隠れんぼでは、鮭くんはかえるくんにかないません。

さらに。

かえるくんは、水の外に出ても平気になりました。


鮭くんはかえるくんが羨ましいと思います。


かえるくんは鮭くんが羨ましいと思います。


どちらもお互いが羨ましいとは思います。

が、妬ましくはありません。

お互いをすごいなぁと思っていますから。


すりすり、すりすり。


すりすり、すりすり。


頬を寄せあいます。

そして、ふたり同時にこう言いました。


「おもしろいね!」


「おもしろいね!」


お互いの違いを自然に認めあうふたりです。


よどみの中を行ったり来たり。

なかよく遊ぶふたり。

ときおり流れてきた氷のかたまりもこの何日かは、流れてこなくなりました。

水も春先とは比べるまでもなく、温かくなっていました。


第7話 鮭くん、本能の目覚め


ある日のこと。

いつものように淀みの中を行ったり来たり遊んでいるとき。

急に思い立ったように。

鮭くんが言いました。


「かえるくん。ぼくはここを出ようと思うんだ。

かえるくんとずっと一緒に暮らしていたいけど、ここを出てぼくは川を下らなきゃいけない気がするんだ」


「ええ!なんで?」


鮭くんの突然の告白に、困った顔をするかえるくんです。


続けて鮭くんが言います。


「なぜかわからないけど、川を下らなきゃいけない気がするんだ」


まだ見ぬ外の世界へ行きたいという鮭くん。

ただただ困惑するかえるくん。


「亀じいさんに聞きにいこう!」


「うん。それがいいよ!」


ふたりは亀じいさんのところへ。

大きな岩の上で、いつも寝てばかりいる亀じいさんです。


「亀じいさん、こんにちは」


「おぉ、仲良しの鮭くんと、かえるくんじゃの」


「教えて亀じいさん。

なんでぼくはそわそわするんだろう?

そしてここから外へ行かなきゃいけない気がするんだ」


鮭くんがこうたずねました。


「亀じいさん、こんにちは」


「教えて亀じいさん。

なんで鮭くんは外に行きたいの?」


かえるくんもたずねました。


「亀じいさん。どういうこと?」


「亀じいさん。どういうこと?」


ふたりがたずねます。


「ほっほっほ

そろそろ旅立ちのころかの」


亀じいさんが答えました。




第8話 かえるくんの決心


淵を出て川を降り、外へ行きたいと言う鮭くんです。

一方、このままずーっとここでいっしょにいたいと言うかえるくん。

亀じいさんに相談しました。


「亀じいさん。どういうこと?」


「そろそろ旅立ちのころかの」


亀じいさんが教えてくれます。


「それはのぉ・・・」


物知りの亀じいさんが教えてくれるには。


鮭は川を下って海に行き、大人になってまた帰ってくると。

旅立ち。

それが鮭の本能なんだと。


「ぼくは行かなくていいの?」


かえるくんがたずねます。


「かえるはここにいたらいい。

かえるは生まれたところにずっといる、これも本能なんじゃよ」


亀じいさんが教えてくれました。


「そうか。じゃあ僕らはお別れするんだ」


「お別れするんだ」


「さよならは嫌だよ!」


「ぼくも嫌だよ!だけど外に行かなきゃいけないし・・・」


ふたりとも黙ってしまいました。


しばらく悩んで。

かえるくんがこう言いました。


「じゃあぼくもいっしょに行くよ!」


「えっ!ほんとう?」


うれしそうに鮭くんが叫びました。


「ほんとうさ。ぼくらはずっといっしょだったし、これからもずっといっしょだよ」


「かえるくん、ありがとう!」


すりすり、すりすり。


頬を寄せあいながら。

鮭くんとかえるくんはほんとうに仲良しです。


でも。

これには亀じいさんが驚きました。


「う〜ん。鮭が川を下るのは本能としてとうぜんなんじゃが・・・。

その鮭にかえるがついていくというのか。

わしも長く生きているが、そんなことは聞いたこともないぞ」


「かえるよ。やめておけ。外の世界はとても危険だぞ」


かえるくんは迷わず答えました。


「それでもぼくは行くよ!

だってずーっといっしょなんだから」


「うん、かえるくんといっしょに行くんだ!」


しばらく黙ったままの亀じいさんでしたが、


「そうか。でもこれもまた運命なんじゃろうなぁ。

こんなことは初めてじゃが、こんなふたりがいてもいいんじゃろぉ」


「わかった。鮭にかえるよ、お互いに助けあっていくんじゃよ」


「うん!」

「うん!」


「じゃがよいか。

これだけは忘れるなよ。

鮭は海で生きていけるが、かえるは海では生きていけぬのじゃ。

海は塩の水じゃ。

鮭は良いのじゃが、かえるは塩の水では生きていけぬのじゃからの」


「海って?」


かえるくんがたずねます。


「この川をずーっと降った先が海。

どこまでもどこまでも広いところじゃよ」


亀じいさんは言います。


「いっしょに行くのは、川の水の味が変わる海の手前までじゃ。

そしてそこで鮭が帰ってくるまで、かえるは長く待つことになるじゃろう」


「わかったよ亀じいさん。

海の手前までにするよ。

そこで鮭くんが帰ってくるのを待つよ」


こうしてふたりは、いっしょに川を下ることにしました。







第8話 かえるくんの決心


淵を出て川を降り、外へ行きたいと言う鮭くんです。

一方、このままずーっとここでいっしょにいたいと言うかえるくん。

亀じいさんに相談しました。


「亀じいさん。どういうこと?」


「そろそろ旅立ちのころかの」


亀じいさんが教えてくれます。


「それはのぉ・・・」


物知りの亀じいさんが教えてくれるには。


鮭は川を下って海に行き、大人になってまた帰ってくると。

旅立ち。

それが鮭の本能なんだと。


「ぼくは行かなくていいの?」


かえるくんがたずねます。


「かえるはここにいたらいい。

かえるは生まれたところにずっといる、これも本能なんじゃよ」


亀じいさんが教えてくれました。


「そうか。じゃあ僕らはお別れするんだ」


「お別れするんだ」


「さよならは嫌だよ!」


「ぼくも嫌だよ!だけど外に行かなきゃいけないし・・・」


ふたりとも黙ってしまいました。


しばらく悩んで。

かえるくんがこう言いました。


「じゃあぼくもいっしょに行くよ!」


「えっ!ほんとう?」


うれしそうに鮭くんが叫びました。


「ほんとうさ。ぼくらはずっといっしょだったし、これからもずっといっしょだよ」


「かえるくん、ありがとう!」


すりすり、すりすり。


頬を寄せあいながら。

鮭くんとかえるくんはほんとうに仲良しです。


でも。

これには亀じいさんが驚きました。


「う〜ん。鮭が川を下るのは本能としてとうぜんなんじゃが・・・。

その鮭にかえるがついていくというのか。

わしも長く生きているが、そんなことは聞いたこともないぞ」


「かえるよ。やめておけ。外の世界はとても危険だぞ」


かえるくんは迷わず答えました。


「それでもぼくは行くよ!

だってずーっといっしょなんだから」


「うん、かえるくんといっしょに行くんだ!」


しばらく黙ったままの亀じいさんでしたが、


「そうか。でもこれもまた運命なんじゃろうなぁ。

こんなことは初めてじゃが、こんなふたりがいてもいいんじゃろぉ」


「わかった。鮭にかえるよ、お互いに助けあっていくんじゃよ」


「うん!」

「うん!」


「じゃがよいか。

これだけは忘れるなよ。

鮭は海で生きていけるが、かえるは海では生きていけぬのじゃ。

海は塩の水じゃ。

鮭は良いのじゃが、かえるは塩の水では生きていけぬのじゃからの」


「海って?」


かえるくんがたずねます。


「この川をずーっと降った先が海。

どこまでもどこまでも広いところじゃよ」


亀じいさんは言います。


「いっしょに行くのは、川の水の味が変わる海の手前までじゃ。

そしてそこで鮭が帰ってくるまで、かえるは長く待つことになるじゃろう」


「わかったよ亀じいさん。

海の手前までにするよ。

そこで鮭くんが帰ってくるのを待つよ」


こうしてふたりは、いっしょに川を下ることにしました。

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