54話 ありがとう
再度現れるゴブリンジェネラルとゴブリンキング。
呆然とするアグネスをよそに再びキングによってジェネラルを生贄にして1万匹のゴブリンナイトを召喚。
そこから魔剣まで召喚するのはあっという間だった。
『ど、どこまでもワシらを馬鹿にしよって……! 無駄な努力お疲れ様とでも言う気か!!』
「そんな事を言う気は全くないんだけどなぁ」
アグネスが憤慨したくなる気持ちは、僕も規模は小さいけど似たようなことをされたから痛いほど分かるけど。
『こうなれば……。全ての【魔女が紡ぐ物語】よ、徹底的に殲滅せよ! 一匹残らず殺しつくすのじゃ! そのためならば手段を選ぶな!』
『ブモオオオオオオオ!!』
『『『うおおおおおおっ!!』』』
おっと、同士討ち覚悟でゴブリン達を殲滅しにきたね。【泉の女神】の対処法が今この地面に広がってる水を汚す事だと知らない限りはそう動くのは当然か。
【グガランナ】のような凄まじい威力と範囲を攻撃できる存在がいるならそうするよね。
これがどこかのダンジョンにいたとかヤバすぎでしょ。
それはともかく【グガランナ】以外にも、空を飛ぶせいでゴブリン達が水の魔剣を使っても対処しづらい【魔女が紡ぐ物語】が、ゴブリン達を殲滅するべく味方への被害を恐れずに密集してくるのは大変都合がいい。
「待った甲斐があったよ」
『何を言っておるか。〝読了ノ虚無〟、〝読了ノ虚無〟、〝読了ノ虚無〟――』
アグネスが〝読了ノ虚無〟を連発し始めた。こんなことをするのは僕が他の【魔女が紡ぐ物語】達の範囲攻撃を無効にさせないためか。
確かに僕がアグネスの攻撃を止めるのにかかりきりになってしまい、他の【魔女が紡ぐ物語】の攻撃を止める暇がなくなる。
それに加え、〝読了ノ虚無〟は範囲も広く速度も速いため、止める前に多少ゴブリンがやられてしまうのは仕方がない。
『くそっ、ゴブリンごときに……!』
時間が経つにつれゴブリンは大量にやられるけれど、【泉の女神】とゴブリンキングの力で何度もゴブリンを増やし続け、数の暴力で多くの【魔女が紡ぐ物語】達を倒せたお陰で、残りは数えるほどになっていた。
もっとも、残念ながら多彩な【魔女が紡ぐ物語】達相手にゴブリンと魔剣だけではどうにもならない相手は残った状態で全てのゴブリンがやられてしまったけど。
『はぁはぁ、大半がやられてしもうたか。じゃがこれでゴブリンは駆逐した。これでワシの――』
「うん、敗北だね」
『はぁ?』
僕は口を開ける。
「返すよ」
〝読了ノ虚無〟
【獏】の力によって何十回も食べたこの攻撃をまとめてアグネス達へ向けて放つ。
【獏】と戦った時に放った〔籠の中に囚われし焔〕の炎を食べられて返されたことがある。
〝暴食再現悪夢侵魘〟を1度しか使わなかったお陰で力を浪費せずに済み、あの時と同じことを再現することができた。
〝読了ノ虚無〟を食べて理解したけど、これは存在を消し去る技であり、これなら【グガランナ】のような防御力の高そうな相手でも関係なく倒せる。
そしてゴブリンを倒すために密集している【魔女が紡ぐ物語】達を一網打尽にするのは容易く、いくら速く動けるタイプであってもこの技の速さほどではなく、別の次元に逃げられるよな力を持っていたとしてもアグネスに攻撃し続ければ強制的に身代わりにされるのでいずれ倒せるのだ。
『有り得ないのじゃ! こんなの、こんな多量の【魔女が紡ぐ物語】を倒せるような力を一個人が持っているなんて……!?』
「それはホントそう」
僕だってこんな力になるとは思わなかったよ。
[純然たる遊戯を享受せよ]を使う前の僕だったら間違いなく、いくら強くても7つもスキルスロットが必要な[無課金]はやはり悪、とか言いそう。
その力のお陰で世界を滅ぼしかねない【魔王】を倒せるのだから、悪い事じゃないけれど。
そうこうしている内に気が付けば残っているのはアグネス1人。
あと1発〝読了ノ虚無〟を返せば、この騒動は終結する。
それはアグネスも分かっており、ここから逆転なんてどうしようもないと思っているだろうに、悔し気に歯を食いしばってこちらを睨みつけてきて戦意が落ちてはいない様子だった。
『ぐぬぬ、まだじゃ! まだワシの〝怒り〟は収まっては――』
『もう、いいでしょ』
『エバ姉様……』
そんなアグネスに声をかけたのはエバノラだった。
『私達を苦しめた国の文明は散々破壊したし、復讐する相手はすでに死んでるのよ? これ以上何を求めるというの』
『………分かっておる。分かっておるがワシの〝怒り〟はどうしても収まらんのじゃ!』
先ほどまで怒っていた表情にどこか泣きそうな様子が混ざりながらアグネスは声を荒げていた。
『どうしてこの〝怒り〟が収まるっていうの? お姉ちゃん達もマザーさんもこの国の人間に理不尽な理由で殺されたんだよ! 許せるはずないよ!』
先ほどまでの老人のような口調から一転して、幼さを感じる口調になったアグネスが首を横に激しく振りながら訴えてきた。
そんなアグネスに対し、エバノラは慈愛の笑みをアグネスへと向ける。
『でも私達が逃がした子の子孫だっているのよ』
『っ!?』
『〝怒り〟で忘れていたのかしら? 今を生きる人間の中には私達が守りたかった子達が繋いできた命があることに』
エバノラにそう言われた瞬間、アグネスはどこか憑き物が落ちたかのような顔になった。
『……はぁ。そうじゃったな。うん、そうだったね』
納得した様子のアグネスは僕に視線を向けると、特に何もすることなくそこに立っていた。
『終わらせて、くれないかな』
「いいの?」
『ふふっ、さっきまでアグネスを倒そうとしてたのにそれを聞くの?』
今の神妙な様子を見て思わず尋ねてしまったんだよ。
『ありがとう、お姉ちゃん達に会わせてくれて。あなたがいてくれたから、お姉ちゃん達を連れて来てくれたからアグネスの〝怒り〟はどこかにいっちゃったよ。だからもう十分』
「分かったよ」
〝読了ノ虚無〟
白い光がアグネスを呑み込み、僕の前に1つの宝箱が現れた。
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