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12話 魔王の過去(4)

 

 怨嗟の恨みを撒き散らしながら生贄となった私の肉体は完全に消え去った。

 肉体はなくなったはずだがそれでも精神だけは残っていて、何も見えず聞こえず感じない空間を漂っているようだった。

 だが精神だけでこんな空間にいるせいか自我も加速度的に失われていったが、それでも弟妹達を殺された〝怒り〟だけは残っていた。


 そんな不確かな自我だけが残り、揺蕩っていたその時だった。


 まるで残った〝怒り〟が何かに惹かれるように引っ張られていき、バラバラになっていたはずの意識が完全に修復された。


(……一体何が?)

『な、なに?! 誰の声!?』

(ん、誰だ!?)

『あ、あなた――んん゛っ、貴様こそ誰じゃ! どこにいる!』

(なんだ? 体が勝手に動くぞ?)

『この声、内側から聞こえる……?』


 勝手に動く身体が周囲をキョロキョロと眺め出し、かつて魔王になる前と同じ小さな手がいつでも攻撃できるようにか、前へと掲げてあった。

 前に掲げている右手があの頃を思い出しあまりに懐かしかったせいか、私は左手で思わずペタペタと触れていた。

 そこでようやく私達は自分の身に何が起きているのか全てを察した。


『(……ふあっ!?)』

『こ、ここここれはどういう事なの?!』

(し、知らん! というか貴様は誰だ?!)

『あなたこそ誰なの?!』


 突然1つの体にもう1人の誰かが存在している事に慌てふためく私達は、それからしばらくの間まともな会話にはならずパニックになってしまったが、それなりの時間をかけてようやく落ち着いた。


(ふぅ。まずは互いに自己紹介といこうではないか)

『うむ、そうじゃの』

(私はリーゼ。リーゼ・ヴィ・マーディス だ)

『ん、苗字持ち? 貴様、まさか貴族か!?』

(貴族というか王ではあったな。それもこんな事になっては意味のない肩書ではあるが)

『チッ! よりにもよって王族なんかと融合しているなんて最悪じゃ!』

(落ち着け。状況をきちんと把握しようとしているのだから、そんな感情に流されるな。

 そもそも王と言っても半年ほどしか務めてないし、宰相に無理やり生贄にされた愚かな……あ゛あ゛!!)

『ぬおっ?!』

(ああ憎い! 家族を殺したあいつが今もぬくぬくと生きているであろう事を思うとはらわたが煮えくり返りそうだ!!)

『お、おお落ち着くのじゃ。感情に流されるなと言ったのは貴様のほうじゃろうが……』

(むっ……ふぅー。すまん、取り乱した)

『何やら事情がありそうじゃの。とりあえずワシも自己紹介するのじゃ。ワシの名前はアグネスという』


 アグネスね。

 それにしてもわざわざ年寄り臭い喋り方をする少女だな。

 最初の反応をみるに、今のこの肉体相応の普通のどこにでもいる少し幼い感じの少女のような口調が素であろうに。


『肉体が変化しとるし、さっきまで寝ていたようなものじゃから正確ではないのじゃろうが、自意識で言えばワシの年は12歳じゃな』

(ほう、同い年だったか)

『えっ!? そんな偉そうな少女とは思えない口調なのに同い年じゃったのか?!』

(口調に関しては人の事は言えないだろ。というか無理してそんな年寄り臭い喋り方しないでもいいんじゃないか?)

『な、何を言っておるか! これがワシの素じゃ』

(……まあ喋りたい様に喋ってくれればいいが)


 それから私達は互いの事を語り合うことにした。

 私が父を失い、魔王としてこの身を種族のために身を粉にして働かなければならなかったこと。

 そして種族のためと頑張っていたにもかかわらず、家族を殺され、生贄にされた事を話していたら、アグネスは泣きながら耳を傾けてくれていた。


『ぐずっ、ヒック、そんなのあんまりだよ……』

(……口調、崩れてるぞ)

『そんなのどうでもいいよ。ううぅ、大変だったんだね』


 別に同情して欲しかったわけじゃなかったが、それでも私の話を聞いて悲しんでくれているのは何だか少しだけ嬉しかった。


(私の話はこれで終わりだが大丈夫か?)

『ぜ、全然平気だもん! 次はアグネス――んん゛っ、ワシの話じゃな』


 口調が戻ったアグネスから聞かされた話は散々なものだった。


 魔女狩りと呼ばれる魔女を迫害する行為が認められ、無害どころか人々のためにその力を振るってくれた彼女達に対して身勝手な私刑まで行われたというのだ。

 そんな許しがたき行為に対し、アグネスの姉達はできる限り抵抗したようだが、最終的には他の魔女達のためにその身を捧げ、異界を永続に繋ぐ秘術を行使したようだ。


 この話を聞き、アグネスが私にとっての異界の者であり、彼女の姉達が原因で私達の世界から魔素が減少していったことが判明したが、私は彼女達に対して恨みは感じなかった。

 異界の事情が分かっててやったのならともかく、故意ではないのだから仕方がない。

 それに私だって同じ状況になって弟妹達のためになるのであれば同じ事をしただろうから、尊敬の念こそあれど負の感情は一切湧かなかった。


『ごめんなさい……』


 だから謝る必要はない。


 私の事情と自分達が何をしたのか分かって申し訳ない気持ちになっているのが手に取るように分かるが、もう気にするだけ無駄なのだ。

 グレゴリーが言っていたダンジョンがこうして出来てしまった以上、もはやどうしようもないのだから。


(気にするな。今更そんな事を言い出したところでどうしようもないし、私達にはやるべきことがあるだろう)

『うん……――ではなく、そうじゃな』

(ああ)

『(復讐だ)』


 私達にした報いを受けてもらうぞ、怨敵共が!!


気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。


カクヨム様にて先行で投稿しています。

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