11話 魔王の過去(3)
「上手くいったようで何よりです」
魔力を行使できず困惑する私に対し、本の形をした魔道具を手にしているグレゴリーはニヤリと笑っていた。
「私に何をしたんだ?!」
「そう大した事ではありませんよ。
こちらは契約を相手に強く意識させる魔道具です。
本来であればただの契約を忘れないようにさせるためだけのものですが、魔王であるあなたであれば思った通り効果的でしたね」
魔王の力を得た代わりに〖他の悪魔族を守る〗という契約のせいで抵抗できないのか!?
これから生まれる子供たちすら守る対象になってしまうだなんて……!
「とは言え、上手くいくかは五分五分。
いえ、それよりも悪かった事を考えると分の良い賭けであったとは言えませんな。
わざわざエルフから秘宝を貰い受けたのも、魔王の力を一時的にでも封じるためだったのですが、それが出来なかった以上仕方ありませんでしたが」
「くっ、私をどうするつもりだ!」
私がグレゴリーを睨みつけるも、全く気にした様子も見せずに淡々と語りだした。
「先ほども言いましたが生贄ですよ。
他国の重鎮と共に考えだされた〝ダンジョン創造計画〟を実行するためのね」
「〝ダンジョン創造計画〟、だと?」
「はい。この場を見て頂ければ分かる通り、各国から強力な力を持つ方々のみならず、多種多様な魔物達も含めた生き物がこの場に集められました。
その理由が先ほども述べた通り儀式の生贄のためですな。
その儀式には様々な種の魂が必要であり、見ての通りあらゆる魔物達が集められました――が、あなたやあちらの方々は違います。
ただ魂が必要なだけであれば適当な重犯罪者でも生贄にすれば事足りますからな」
周囲には私同様縛り上げられているのもいれば、もはや抵抗もできないくらい重傷を負いピクリとも動けそうにない者もいた。
その人達は知っている限りではどの人物も魔王である私の耳にも届くくらいの武勇に優れた人物ばかりだった。
そんな優れた人材を生贄にしなければいけない理由とは?
「魂以外にも必要なのは膨大な魔力なのです。ですが同じ種族の者を何人も集めて生贄にすることが儀式の関係でできない以上、できるだけ1人1人が大量の魔力を持っている方が望ましい」
「っ! なるほどな……」
だとすれば私ほど生贄にふさわしい者はいないという事だな……。
ちっ、何とかして逃げ出したくても、魔王の契約のせいでろくに力も入らん!
話を聞きながらもなんとか拘束をどうにかしようとするも、何もできずにいる私を見てグレゴリーはフッと笑っていた。
「〝ダンジョン創造計画〟が魔王の代替わりとほぼ同時で助かりましたよ。
もしも魔王の力を使いこなしている先代であれば、この魔道具を使ったところで一切抵抗が出来ない状態にはならなかったでしょうからな」
「くそっ……!」
「魔王の力を使いこなせないよう細かい仕事も割り振った甲斐があったというものです」
半年前からすでに私を生贄にしようと目論んでいたのか。
魔王としての執務が忙しいお陰で、父の死を深く悲しまずに済むことがむしろありがたかったなどと思った私がバカだった!
こんな奴を信頼していただなんて……。
死にたくない。何より弟妹達を守ると亡き両親に誓ったというのに、こんな所であの子達に何もしてあげられずに生贄にされてしまうだなん――っ!!!?
「おい、グレゴリー!!」
「はい、なんですか魔王様?」
皮肉交じりで敬称を付けて呼ばれるが今はそんな事どうでもいい。
「もう私を生贄にでもなんでもすればいい! 大人しくそれを受け入れる。
だから頼む! 今すぐ国に戻って弟妹達の様子を見てきて――いや、助けてやってくれ!!」
先ほどまで感じていた弟妹達との繋がりが一斉に消えてしまったのだ。
間違いなく何かがあったのだが、この状態ではどうにもならない。
〖他の悪魔族を守る〗という契約で拘束を受け入れさせられているが、弟妹達の異常事態を解決するために動くのなら〖他の悪魔族を守る〗という契約に反しない。
そのはずなのに、まだ魔力を行使できないのだ。
こうなったらたとえ目の前の男が自分を罠にはめたのだとしても、こいつに頼るしかない。
恥も外聞もなく、ただ弟妹達を助けられるのならばそんな男に頭を下げることも躊躇せずに行ったのだが、帰ってきた言葉は信じられないものだった。
「ああ、あなたの家族であればたった今死にましたよ」
「は?」
言っている意味が理解できない。
こいつは今なんて言った?
「ふざけるな! いいから早く弟妹達を――」
「ふざけてなどいませんよ。なにせ魔王の血筋の者が生きていられると、魔王の力がその者に移ってしまいますからな。
この儀式では大量の魔力が必要なのですから、儀式の最中にそれが無くなったら目も当てられませんから、継承先を全て潰させてもらいました」
真剣な口調であり噓偽りがないように見えた。
なにより私の中にあったはずの弟妹達との繋がりが消えているのが何よりの証拠だった。
「貴様ーーーー!!!!!!!」
こいつだけは殺してやる!!
「無駄ですよ。契約順守の魔道具が効いてしまった時点で、あなたが泣こうと喚こうとその拘束は破れません」
クソ! クソ! クソッ!!
どれだけ力を込めてもヒビの1つも入らない拘束の魔法。
歯をどれだけ食いしばろうとも体はピクリとも動かせず、自身のあまりの無力さに、亡き両親との誓いも守れぬ己の不甲斐なさに涙が溢れて仕方がなかった。
「さようなら最後の魔王様。あなたのお陰で我々は救われます」
これ以上抵抗のできないようにするためか、私は強制的に眠らされた。
許さない許さない許さない!
グレゴリーもこんな計画を立てた奴らも全員死んでしまえ!!!
……この章、仕方がないとはいえシリアスや戦闘シーンばかりだ。
おふざけしたり、主人公をもっと不憫な目に遭わせて悦に浸りたいのに!!
蒼汰:「おい!?Σ(゜Д゜)」
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




