19話 この人がリーダーで良かった
作戦本部へと移動すると、リーダーのエマさんを含めた何人かがすでに集まっていた。
特に何かを言われて来たわけではないのだけど、僕らと同じようにあの赤い石の中で何があったのか報告に来たのだろう。
「あら、あなた達は……。まだ寝ていなくても大丈夫ですか? 実際に死んでいないとはいえ、いきなり毒針で殺されたのはきつかったでしょうに」
マリさんがこちらに気付き、心配しながら声をかけてくれた。
気遣いの出来るリーダーであり、この人の指示であれば従おうという気になるね。
そんなリーダーに対し、俺様発言していたあの男の人はこの場にはいなかった。
「いえ、大した事なかったので大丈夫です。あと、毒針ではなく心臓に剣が突き刺さって死にました」
そう言ったら何故かエマさんや周囲の人たちが目を見開いた。
「えっ……心臓に剣……? えっ、死んだのに大した事ない、ですか?」
すごい困惑気なエマさんが意味が分からないと言いたげに尋ねてきた。
「痛いのは一瞬でしたし、今まで経験してきたことに比べたら大した事じゃありませんよ」
【魔女が紡ぐ物語】に丸呑みされて、全身串刺しになってた時に比べれば余裕だね。
僕は本当に大した事ないと思っているのだけど、エマさん達が妙に優し気な哀れんだ目でこちらを見てきた。
「(まだ学生なのに、どんな経験をすれば死ぬことが大した事ないだなんて言えるんだ?)」
「(金の紋章を持つくらいだし、相当過酷な戦いを乗り越えてきたんじゃないか?)」
「(【魔女が紡ぐ物語】と何度も遭遇していそうよね)」
なにやらヒソヒソ話をし始めたけど、少なくとも非難めいた目ではないから気にしなくてもいいかな。
「ごほんっ。え~ところで心臓に剣が突き刺さったくだりをもう少し詳しく聞いてもいいですか?
私達の死因とは随分違いましたね。
第二の試練は最初に目に入る木の扉を開けようとすると毒針が飛び出て殺されるはずですが、あなたはどのような場所で死んだのでしょう?」
「ああ、その仕掛けは確かにありましたよ。そしてその扉を開けると矢が飛んでくる上に落とし穴に落とされます」
「咲夜はそれで死んだから間違いない」
「あ、あなたも毒針は回避できたのですか……」
ん? どことなくエマさん達の元気がしぼんでいってる気がするけど、死に覚えゲーなら情報共有は大事だし報告を続けようか。
「その部屋は結局行き止まりだと主張する看板しかなく、T字路の右側を進んで木の扉を開けたら部屋ではなく通路で、そのまま進んで行ったのですが、透明な物体に頭をぶつけて倒れたと同時に剣が降ってきて胸に突き刺さりました」
「そうですか……。貴重な情報ありがとうございます……」
なんで落ち込んでいるんだろうか?
そう思ってコソコソと話し出した人達の声に耳を傾ける。
「自分よりも年下の少年、しかも明らかに支援系の未成年の方が先に進んでるとか、正直凹む……」
「だよなぁ。俺達が全員木の扉でやられちまったのに、女の子の方はそれは回避してるんだから余計にな……」
「ふっ、ふふ……。どんな罠があの先にあるのか分かったのですから、全体に利益がもたらされたので良い結果です。大人である私達が役立たずであったことを除けば……」
あ、うん、なんかゴメン。
咲夜はともかく、僕の場合クロとシロという残機があったから3つまで罠の存在が分かるだけで、別に冒険者として優れているわけではないのだから気にしないでほしいのだけど。
まあわざわざそれを言うことはないか。
クロとシロの存在は特殊なので、それを言うのは色々と面倒くさそうだし。
「ところで、この場にいない人はまだ寝ているんでしょうか?」
ここは強引に話を変えることにしよう。
実際どのくらいの人数が第二の試練に挑んで戻ってきてるのかちょっと気になるし。
「あ、え、ええ。と言ってもあと数人だけで、残りはまだ赤い石の中から出てきていませんが。ちなみに【四天王】を倒すと意気込んでいた男の人も戻ってきていません」
イキってたのになんて残念な人なんだろうか。
負けフラグをビンビンに立たせている人だったけど、実際にそうなってしまったようだ。
「さて、みなさんの情報を精査する限り、この試練は長丁場になりそうですね。
もしも皆さんが賛同してくださるのであれば、時間差で赤い石の中へと入っていき第二の試練でどこにどんな罠があるか情報を集めていきたいと思っていますがどうでしょうか?」
エマさんの言う通り、ここからは同時に入っていったところで、同じ罠に引っかかるのであれば時間の無駄だから、時間をずらして試練に挑み罠をドンドン明白にしていった方が良さそうだ。
1人ずつ交代で挑むのはさすがに時間がかかり過ぎるのは明白なので、数人ごとに挑むことで話がついた。
T字路の右に行く人間と左に行く人間と役割を決めたので、少なくとも僕が行かなかった左側にはどんな罠があるかは調べられるし、右もあの先に何があるか調べられるので複数の情報を得られるはず。
試練に入らない人間は今の内に休憩し、ここから先、全員で24時間ずっと誰かしら試練に挑む体制にすることになった。
「あなた達2人は昼の時間を担当する、ということでいいでしょうか? 2人がもっとも貢献してくれている上に未成年ですから、一番負荷の少ない時間を任せようと思います」
「あ、はい。ご配慮いただきありがとうございます」
「ん、ありがとうございます」
エマさんの提案にはここにいる全員が納得してくれたので、僕らは昼に動いて朝と夜は休むことになった。
昼夜逆転して行動する事になってしまった人は大変だろ思うけど頑張ってほしい。
リーダーのエマさんは自身が提案したからか、真っ先に負担のありそうな真夜中の担当を申し出ていた。
あのイキってた男の人だったらこういう配慮はしなさそうだから、本当にこの人がリーダーで良かったと思うばかりだ。