12話 これ、何度目かな?
半ば強制ではあるものの、この状況を打開できる【典正装備】を手に入れている人の1人が参戦を表明。
咲夜もその人に続いて戦うことに同意し、他の2人も同じように同意していた。
全員から同意を得られたことにホッとしたのか、少々機嫌が良くなった様子の役人は指示が出るまで各自自由に過ごしていて構わないと言って去って行った。
どうやらしばらく調査を行ってから、その後〔夢枕〕による【四天王】討伐へと挑んでもらうつもりらしい。
何でも【玄武】を討伐した跡地に妙な物が出現していると情報が入っており、それが今アメリカ全土に影響を及ぼしているのと関連しているのではないかと思われ、それを一旦調査してから万全を期して挑んで欲しいのだそう。
まあ4人しか挑めないのだから、念には念を入れて調べるよね。
しかしそうなると僕らの中で咲夜1人に任せてしまうことになるのが心苦しいところ。
何かできることはないだろうか?
そんな事を思っていたら、予想外の話が飛び込んできた。
「精神に侵入できるスキル、【典正装備】持ちであれば【四天王】へと挑むことができるようだ」
なんだって?
「現在、聞き取り調査を行っているが、もしもそのような能力を持つのであれば申し出て欲しい」
ふ~ん。
僕は役人の話を聞いて思った。
人前で〔明晰夢を歩く者〕を晒せと!?
日本で【白虎】と戦った時はすでにほとんどの人間が倒れ伏していた上に、風の結界みたいなので僕の女体化はあまり見られていないし、遠くてよく確認できなかっただろう。
しかし今回、【玄武】討伐跡地にある謎の物に干渉するというのであれば、それは他にも大勢人がいるタイミングになるのは間違いない。
咲夜1人に任せるのは心苦しいとは思ったし、できることはないかとも思ったけどこれはあんまりだ!
「蒼汰君の〔明晰夢を歩く者〕なら咲夜と一緒に行ける、ね」
スー。
期待のこもった咲夜の目を見て誰が拒否できるというのだろうか。
そもそも赤の他人が挑むのであればもっと悩むが、【四天王】へと挑む人の中に咲夜がいるのであれば参戦しないはずもない。
人前で〔明晰夢を歩く者〕を使った姿を晒すことに抵抗感は物凄くあるけれど。
そう思うとすごいな、矢沢さんは。
あの姿を人前で見せて歌って踊っているのだから。
終わった後、明らかにメンタルがボロボロになったいる気はするけど。
「またしても【四天王】に先輩と挑むことができないのですか……」
「そうね。前は理不尽な結界だったけど、今度のは特定のスキルとかを所持しているのかが条件だなんてあんまりだわ」
「それに加えて今回は迷宮氾濫も起きる気配もないから、完全に留守番だよね」
「……また一緒にいられない」
「私は前回は参戦できたが、だからといって今回何もできないというのは歯がゆくて仕方がないな」
『さすがに精神世界にはワタシも入れないのですよ』
それぞれ悔しそうにしているけれど、こればかりはどうしようもない。
〔明晰夢を歩く者〕に思うところはあるけど、咲夜1人に任せなくて済んで良かったと前向きに考えよう。
◆
午前中の調査が終わった後、午後には【四天王】へと挑むことになった。
なにせ放置していると昨日見たような夢をまた見る羽目になるのだから当然だろう。
1日でも早い解決を望んでいるのか、この討伐に参戦できるものは報酬として3億支払われることになっている。
参戦するだけで3億なのだから破格と言っても……【四天王】と相対することになるのだから安いとも言えなくもないか?
討伐できれば1人6億、討伐者である【典正装備】を手に入れた者には50億であることを考えると割のいい報酬と言えるかもしれない。
命の危険がなければ。
なにせ精神世界への侵入となれば、下手すれば精神を破壊されて一生植物人間となる可能性も大いにある。
そんな危険のある中、いきなり未知のものに挑むのだから集まってる人達の緊張感も押して然るべき。
〔夢枕〕を手に入れた4人の他にも、この場には僕を合わせて30人ほどいて全員が緊張している様子だ。
それにしても精神に侵入できる能力を持つ人って結構いるんだね。
短時間でこれだけの人数が集まった事を考えると、実際にはもっといてもおかしくない気がする。
「今から挑むんだよ、ね」
「何度も【魔女が紡ぐ物語】と戦ってきたけど、やっぱり緊張する?」
「うん。でも蒼汰君は咲夜が守るから、よ」
そう言って咲夜は僕を見た後、今も地面から1メートルくらいの場所に浮いているバランスボールほどの大きさの赤い石へと視線を向ける。
あれには触れることが出来るだけでそれ以外の一切の干渉が出来るものではなかった。
〔太郎坊兼光・天魔波旬〕で【典正装備】のどれかを強化した攻撃でも壊せないだろうと感覚的に分かってしまう代物だった。
ゲームで言えば破壊不能オブジェクト的な感じだろうか。
すでに軍の人が銃器を始めとしたミサイルなどを打ち込んだであろう形跡が地面に残っているが、赤い石は傷1つないので、外部からの攻撃は無意味と言ってよさそうだ。
あれを排除しない限りアメリカは悪夢しか見れない国になってしまうわけだけど、精神世界でのみ干渉できる【魔女が紡ぐ物語】となると、一体何が出て来るのか不安だ。
だけど今更引くわけにはいかないし、やるっきゃないよね!
そんな風に自身に気合を入れている時だった。
――トゥルルルル
スキルのスマホから唐突になる着信音。
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




