42話 早い早い早い
「〈解[狐[狐[狐〈解[狐[狐[狐」
早い早い早い。
こっちがタップして〔籠の中に囚われし焔〕を再召喚する間に[狐火]を三連撃するとか、アヤメの〔迫る刻限、逸る血潮〕で加速しているとはいえ、どんだけ早口で冬乃は連射してるんだよ。
早口すぎて何言ってるのか分かり辛いレベルだ。
まあそのお陰で〝水〟の膜を素通りして何発かは【青龍】に直撃し、作戦通り気を引いているけれど。
さすがに【青龍】も攻撃されるがままにはならず、数発当たった後は分厚い〝水〟の壁を作ったり、冬乃達に向けて遠距離攻撃をしていたものの、こちらの思惑通り乃亜達が〝水〟の内側に侵入していることに意識を割いている様子はなさそうだ。
「咲夜先輩!」
「分かってる。気づいていない今の内に全力全開、一撃で決めるつもりでいく。〝臨界〟」
攻撃が当たる距離まで近づいた段階で、咲夜が[鬼神]を全力で発動させた。
肌が褐色へと変わり髪は真っ赤に、大きな角が2本生え、額には第三の目が縦に開かれた。
さらに体が青白いオーラで纏われて、体から有り得ないほどの熱気が立ち上った。
『ガアアアアッ!』
「遅い」
さすがに冬乃に意識が向いていたとはいえ、近くでこれだけのことをしていたら【青龍】が気が付かないはずがなかったけど、もはや時すでに遅し。
「はああっ!!」
『グギャアアアアアーーーー!!?』
咲夜が強く握った拳が【青龍】の胴体を穿ち、拳で殴られたとは思えないほどの傷からは大量の血が溢れていた。
「もう一撃!」
『ガアアッ』
「っ!?」
しかし【青龍】もそう簡単にやられることはなく、二撃目を己の血を操って咲夜の攻撃を緩和し、咲夜の肉体に血を纏わりつかせ拘束することで、受けるダメージを激減させ、軽く吹き飛ばされる程度に抑えていた。
「〝水〟だけだと思ったけど自分の血も操れたんだ、ね。んっ、動き辛い……」
「大丈夫ですか咲夜先輩?」
「怪我はしてないけど、体全体にベッタリついた血を操って咲夜を動けなくしようとしてる。これ、[鬼神]を本気で使っている時じゃないと動けないくらい強力な拘束になってる」
すでに〝臨界〟を止めているけど[鬼神]を本気で使用している姿のままの咲夜が、かなり動き辛そうに腕と脚を動かしていた。
まるで何十キロものおもりが両手両足についているかのような動きだ。
咲夜であの状態なのだから、僕だったら何百キロレベルで全く動けないね。
「ゴメン。咲夜が戦えるとしたら遠距離での〝神撃〟だけになるから、体力を温存しつつチャンスを待って離れたところから狙えそうなら狙う、ね」
「分かりました。咲夜先輩がまさか封じられるとは思いませんでしたが、代わりに【青龍】には大ダメージを与えられていますから問題ないです。
後はわたし達だけで倒すつもりでいきましょう!」
乃亜がそう言うと、ソフィとオルガは頷き【青龍】に向けて武器を構える。
「これだけ深手を負わせてくれたのに、ワタシ達で止めを刺せないのは情けないからね」
「……倒す」
そんな気合十分の3人に対し、[画面の向こう側]によるスクリーンで僕のいる白い空間越しに乃亜達の様子が聞こえていた冬乃が、わざわざスクリーンの方を向いて自己主張してきた。
「私の事も忘れないでよ。ちゃんと遠距離から援護するわ」
『ワタシもやるのですよ!』
「もちろんです。お願いします」
その言葉を合図に各自が一斉に動き出した。
「……まずボクがいく」
『ガアアア!』
先ほどよりも叫ぶ声が小さくなりつつも、まだまだ戦えそうな雰囲気の【青龍】に向かってオルガが真っ直ぐ向かって行った。
「……【青龍】の心の声が怒りに満ちていて何を思っているのか分からないから[マインドリーディング]は意味をなさない。でもボクにはまだこれがある」
オルガのスキル構成的に相手の不意を突くような戦闘スタイルだったと思うけど、何故正面から?
「……〔53枚の理解不能な力添え〕」
疑問に思っていたらオルガが駆けながら、ランダムでハート(スタミナ向上)、スペード(速度向上)、クラブ(攻撃向上)、ダイヤ(防御向上)が決まるピーキーな【典正装備】を使いだしていた。
あれが自分で柄を決めれるなら今ここで使う意味はあると思うけど一体何を?
「……スペード」
オルガの貼り付けたカードは素早さの上がる柄が浮かび上がっていた。どんなカードでもいいから少しでもバフをつけて正面から戦うつもりなの?
「……ダイヤ、クラブ、クラブ、スペード、ハート、ハート、ダイヤ、ハート――」
「えっ?!」
オルガが突然予想外な行動をとりだしたので、思わず驚いてしまう。だって――
「何枚でも同時に使えるの?!」
あれって途中で効果を切り替えられないはずじゃなかったの?
「……〔53枚の理解不能な力添え〕は確かに一度使用したカードの効果が1分間続いて剥がせない。でも2枚目を重ね掛けすることはできる」
前に見せてもらった時はトランプ1枚だけ出していたから、てっきりその1枚が〔53枚の理解不能な力添え〕なのかと思っていたけど、どうやらカードを張り付けた段階でまた1枚、手首の入れ墨から出現させられる代物だったようだ。
「……もっとも、重ね掛けした場合一番枚数の多い柄のみ効果が発揮する」
オルガは正面からまるで自分に注意を引き付けるかのように【青龍】に手に持っている短剣で攻撃したり、逆に【青龍】の攻撃を避けたりしながら教えてくれた。
なるほど。それなら4種類の柄の内、自分が今欲しいバフの効果が出るまで貼り付け続ければいいのか。
でももしも欲しいバフになって欲しいのであればとっくにその柄に偏ったタイミングがあってもおかしくないくらい貼り付けたのに、オルガは手を止めずに何度もカードを張り続けていた。
まさかオルガが狙っているのって……。
「……52枚終わった。最後の1枚――ジョーカー」
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