18話 即退場
“平穏の翼”の2人は僕らを襲ってきた時よりも強くなっていた。
長い手足を使ってそのリーチを利用して攻撃して来たり、近くにいたコボルト達に【典正装備】である〔御供は人に非ず〕で強化、使役し襲い掛かってきたりした。
「思ったより大した事ありませんでしたね」
「あの時はもっと苦戦したけど、私達が強くなったからかしらね?」
「前はもっと頭を使った戦い方をしてきたけど、今は理性がなかったから余裕だったのもある、かも?」
もっとも乃亜達があっさりと倒してしまったけれど。
「ふむ。こやつらが以前鹿島先輩達を襲ってきた者達なのか? あまり強いとは感じなかったな」
「……紋章のお陰でもある」
「こんなやつらどうでもいいんだよ……」
あの時と違い、乃亜達だけでなくオリヴィアさん達もいたのもあってほぼ無傷で倒す事が出来た。
確かにオルガの言う通り、銀の紋章持ちの矢沢さんのバフと金の紋章を持つ僕のバフが同時にかかっているせいか、妖怪化している2人が受けるダメージは大きかったように見えた。
だけどそれが仮になかったとしても、あの時よりだいぶレベルの上がった乃亜達に加え、オルガ達3人もいたのだから勝てない道理なんてないんだけど。
「うっかり死にかねないような攻撃がこの2人に当たったりしてましたけど、完全に倒した後は妖怪化が解けて普通の人間に戻りましたね」
「そうなるとこれは魔女達と同じように【魔女が紡ぐ物語】と同化しているのかな?」
乃亜の視線の先にいる“平穏の翼”の2人は手足の長さが元に戻っており、さきほど乃亜達の与えた外傷も綺麗サッパリなくなっていた。
魔女達、というよりローリーの時に思いっきり刀でバッサリと斬ったけど、先日会った時には最初に出くわした時のようにグータラしていたから、おそらく致命傷を与えても死ぬことはないだろう。
「ところでこれどうするのよ? 放っておいたらまた襲ってくるんじゃないかしら?」
冬乃の言う通り、この2人は以前素の状態で僕らに襲い掛かってきたので、このまま放置すればまた攻撃されかねない。
「とりあえずロープで縛って、戦闘の邪魔にならないように自衛隊の人に預けようか」
「それがいいですね。この2人の事ですから間違いなく襲ってくるでしょう」
「……意識は完全にないからしばらく起きてこないと思うけど、それがいい」
オルガの[マインドリーディング]は寝ている相手にも有効なのかな?
「……浅い眠りなら夢を見るからそれで分かる」
なるほど。
ということはオルガは人がどんな夢を見ているのかも分かるんだね。
「……大抵支離滅裂」
夢だしそりゃそうだろう。
さて、今は夢の事よりもこの2人だ。
サクッと2人を縛り上げると、後方待機している自衛隊の人に預け渡した。
そこには僕らと同じように行動した人達がいるようで、何人もの囚人服を着た人物達が転がされていた。
ベッドとか上等なものがこの場にあるわけもなく椅子に座らせるか床に転がされているかだけど、そのどれもがロープかなにかで拘束されていた。
まあ重犯罪者だけあって、少なくとも傷害事件レベルの事を起こしている者達だから拘束せずに放置はできないんだろう。
とりあえず重犯罪者達は任せられそうなので僕らはすぐにその場を後にし、今もなお進軍し続けている魔物達と、襲ってくる重犯罪者達を相手にするため戦線にもどる。
「そう言えば【典正装備】が出ませんでしたね」
重犯罪者達の強さがマチマチなせいで苦戦する人達もいるため、僕らも魔物を倒すために動いていたら、ふと乃亜にそんな事を言われた。
「そう言えばそうね。さっきの“平穏の翼”の2人って、蒼汰が言ってた通りどう見ても妖怪の【手長足長】だったから、【魔女が紡ぐ物語】のはずよね?」
「間違いない。でも宝箱は出なかったし、周囲で他の重犯罪者達と戦っている人達も宝箱は出ていない、ね」
咲夜の言う通り、周囲を見渡してみても【典正装備】の入っている宝箱はどこにも現れていない。
ちょうど近くで重犯罪者を倒した人がいるけど、その周囲では宝箱なんか現れなくてその人は残念そうに肩を落としていた。
「残念だな。また【典正装備】を手に入れられるかもと思ったが、【魔女が紡ぐ物語】のパチモンだったか」
「オリヴィアさん、パチモン扱いはどうかと思うよ。まあ【魔女が紡ぐ物語】にしては弱かった気がするけどさ」
紛いものだと言われてしまえば、確かにそうかもしれないと思う程度の力しかなかったように見えたけど、だとしたらあれは何なのかと言いたい。
どう見ても普通ではない姿であり、スキルだとしても全員が妖怪化しているのはおかしい。
「いくつか考えられるのは、重犯罪者達は何らかのスキルとかで変身している可能性」
「【魔女が紡ぐ物語】に見せかけてるだけってことですか?」
「ただそれをする意味がほとんどないよね。そう考えると何かの【魔女が紡ぐ物語】によって妖怪化しているか、集団で1つの【魔女が紡ぐ物語】かのどちらかかな?」
おそらく【魔女が紡ぐ物語】としての力が複数に分散しているから、そこまで強くないんだろう。
こうして推測する余裕があるのは[画面の向こう側]で安全な場所で考えることができるからこそだね。
「人を妖怪化させる【魔女が紡ぐ物語】はちょっと思いつかないけど、妖怪の集団でなら凄く有名なのが1つあるよね」
「あ、それって……!」
乃亜がすぐにそれが何なのか思い至ったようだ。
僕はそれに頷く。
「犯罪者達の【魔女が紡ぐ物語】は【百鬼夜行】じゃないかな?」
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