17話 再登場
魔物の軍勢と戦いが始まり3時間ほど経ったけど、特筆すべき事は1点を除いて特になかった。
「特にこっちに被害はなく、順調に魔物達を倒していってるね」
「そもそも魔物達がこちらに攻撃されてようやく意識を向けるのですから、広範囲に攻撃しなければ安全に一体ずつ、しかも先手で攻撃できますので当然でしょうね」
乃亜の言う通り、魔物達は【魔王】の宣誓のせいか、僕らが手出ししない限りは手を出してこないのだ。
そのお陰で魔物達の奇襲を気にすることなく、流れ作業のように向かってくる魔物を次々と始末することができるのだ。
「でもこうなってくると私がいつものように攻撃するわけにはいかないのよね」
「冬乃の【典正装備】を組み合わせた攻撃ならまとめて魔物を倒せるけど、攻撃範囲広すぎて火の粉を浴びた程度でも敵対認定されるだろうことを考えると、一気に大量の魔物が冬乃目掛けて殺到することになるからしょうがないよ」
わざわざゆっくりと歩いて向かって来ている魔物達の進行スピードを変えてまで一気に殲滅するのはリスクが高い。
だからこうして少しずつ削っていくのは理にかなっているはずなのだけど、それに焦れている人物いた。
「………」
当然ソフィアさんだ。
ソフィアさんは無言で腕を組んで目を瞑って微動だにしないけど、その腕を掴んでいる手は強く握りしめられており、今にも飛び出しかねない自分を抑えているようだった。
「……今は下手に声をかけない方がいい」
「わかったよオルガ」
[マインドリーディング]のスキルを持つオルガが言うのなら、それに従った方が良さそうだね。
『あれは間違いなくパパとママ。ですが様子があまりにも……』
ソフィアさんのことは一先ず置いておき、今はアヤメの方だ。
問題のあった点がこれだ。
クロとシロと思わしき人物の所に向かった後、先ほど戻ってきたけど、戻ってきたアヤメの様子がおかしかった。
こちらが声をかけてもなにやらずっと考え込んでいるようで、ブツブツと独り言をつぶやいていた。
「アヤメちゃんどうしたんでしょうか?」
「この様子だとあの2人に会えはしたんでしょうけど、何があったのかしら?」
「蒼汰君、話を聞くなら時間のある今の内だと思う、よ?」
咲夜の言う通りか。
今回アヤメの索敵能力がそれほど必要ないだろうとはいえ、いざという時に動けなかったり、警戒し損ねる方が問題だもんね。
僕はそう思い、今にも頭を抱えて唸り声を上げそうなアヤメに触れ――あ、ダメだ。
〔曖昧な羽織〕の効果で触れられないや。
声をかけるだけで気づくかな?
「アヤメ、ちょっといい」
『喋り方、性格は間違いなく本人。少し性格が歪んでいたような感じがしましたが、それでも赤の他人というにはあまりに……』
ダメだこりゃ。全然反応がない。
「味方も干渉出来ないのだから困ったものだな」
オリヴィアさんの言う通りであり、僕らからはどうしようもない。
根気よく声をかけ続けるしかないかなと思った時だった。
――ドゴンッ!
「なに?!」
魔物との戦闘音でこの場所はそこそこ騒音があったけど、それでもここまで激しい音はしなかった。
あまりの轟音にそちらに視線を向けると、そこにいたのは――
『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』』』
姿が変わった重犯罪者たちだった。
その姿はまるで妖怪であり、大きな一つ目になっている者、肌の色が緑色になっている者、牛車の車輪になっている者など様々だった。
共通しているのはどれもが唸り声を上げるだけで、まともに会話など出来そうにないという点と、その人達は体のどこかに僕らと同じ紋章があることか。
もっともその色はどす黒く染まっていて、僕らのと同じ物だとは思えないことだろうか。
しかしそんな事はどうでもよく、その重犯罪者たちはこちらが攻撃を仕掛けていなくても襲ってくるということが問題だった。
そんな重犯罪者が2人、何故か他の冒険者に目もくれず襲ってきた。
「先輩、隠れてください!」
「分かったよ。[画面の向こう側]」
僕は乃亜に言われてすぐに[画面の向こう側]でいつもの白い空間内に移動する。
「くっ!」
「させない」
それと同時に襲ってきた重犯罪者、腕だけ異常に長い人物と足が異常に長い人物の攻撃を、乃亜と咲夜が止めていた。
ん? この2人、もしかして。
「前に片瀬さんと一緒に僕らを襲ってきた2人じゃないか!」
「「「あっ!」」」
乃亜、冬乃、咲夜はすぐに思い出したようで、この2人への警戒度が一気に上がったようだ。
かつて僕らをダンジョン内で襲い、僕がしばらく赤ちゃん化する羽目になった、“平穏の翼”の2人。
その捕まっていたはずの2人にまた襲われることになるなんて思いもしなかった。
「他の重犯罪者の人達と違って、腕と足が長くなっているだけだからすぐに分かったけど、まさかこの2人にまた襲われることになるなんて」
「【典正装備】やスキルを使われる前に倒します!」
さすがにあの時よりも大幅に僕らのレベルや使える【典正装備】が増えているし、ソフィアさん達もいるから、そこまで苦戦することはないはず。
もっとも、あの姿になっていることでどれだけあの2人が強化されたかが問題だ。
「他の人達を見る限り妖怪系だと考えると、この2人は【手長足長】かな?」
『『ア゛ア゛ア゛!』』
僕のつぶやきに答えるはずもなく、あの2人は唸りながら乃亜達に向かって襲い掛かってきた。
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