2話 レベル上げを商売にできそうだな
「それじゃあ予定通りまずはオリヴィアさんのレベル上げからだね」
「ああ、よろしく頼む鹿島先輩!」
本来であればオリヴィアさんがソロで探索するには厳しい階層まで潜ったところで、早速レベル上げを行う事にした。
「それじゃあみんなは経験値がそっちに移らないよう離れていてね。アヤメはオリヴィアさんの傍で索敵をお願い」
『分かったのです』
乃亜達に離れてもらうのはレベル差がありすぎると高い方に経験値が移ってしまうので、経験値が乃亜達の方にいかないようにするためだ。
パーティーメンバーでなければ戦闘に参加していなければ問題ないのだけど念のためにね。
「さて、パーティーメンバーはオリヴィアさんだけにして、[チーム編成]で〈衣装〉の設定を新人用メイド服、〔似ても似つかぬ影法師〕を出しておいて[画面の向こう側]っと」
僕が出来る最大限のバフをオリヴィアさんに施し、僕は使うと身の安全は完璧に守られるが経験値が一切得られない[画面の向こう側]を使用する。
「くっ、鹿島先輩……。これでなければダメか?」
何もない白い空間内に唯一存在するスクリーンには、微妙な顔をしながらメイド服のスカートを摘まんで持ち上げているオリヴィアさんが映っていた。
「メイド服なら全ての能力が10%上がるから。他のだと脚力だけだったり、遠距離攻撃限定になっちゃうし。それにオリヴィアさんはどの道こういうのに慣れておいた方がいいんじゃない?」
「……そうだな」
ちなみに〔似ても似つかぬ影法師〕を出したのは敵の誘導のためだ。
世界中をある意味恐怖のどん底に叩き落した【Sくん】そっくりの、僕をデフォルメした2頭身の姿の〔似ても似つかぬ影法師〕を操作し、敵を引き連れるために先を進ませる。
――ガシャンガシャン
少し進ませるとすぐに目的の存在が現れた。
全身甲冑のミミックだ。
ミミックって宝箱のイメージだけどそれはあくまでも上の階層でのことであり、深く潜れば潜るほどもうミミックって呼ばなくてもよくない? って思う様なミミックが現れるのだ。
まあそういったミミックは戦闘力が高い分、経験値も美味しいのだけど。
つまり恰好の獲物だ。
「キシャー!」
僕、というか〔似ても似つかぬ影法師〕に気が付いたミミックが、早速甲冑のお腹の部分から大きなギザギザな歯と舌をあらわにしてその正体を晒していた。
すぐに退避し、オリヴィアさんの元に連れて行く。
「うむ、早速来たな!」
メイド服姿のオリヴィアさんが自身の恰好を忘れる為か、すぐさまロングソードを手に持って敵に向かって駆けていく。
「はっ!」
オリヴィアさんが振り下ろしたロングソードは吸い込まれるように甲冑ミミックへと向かって行き、そのまま一刀両断して倒してしまう。
まああのくらいは余裕か。僕からの支援が〈サポート〉だけでメイド服が無い状態でもアイアンゴーレムを1人で倒せていたし、その時よりもレベルが上がってるし。
こうなることは分かっていたので〔似ても似つかぬ影法師〕で次々と色々なミミックを引き連れて戻ることにする。
「むっ、結構大量に連れて来たな」
「いけるでしょ? それにほら、まだアレ使ってないし」
「アレか……。も、もう少しこの状態に慣れたらな!」
そんなに嫌だろうか?
まあ僕がいざその立場になったら悩むところだけど、割と同じような状態の人はいくらでもいるし、僕らしか今は見ている人間はいないのだから気にする必要ないと思うんだけどな。
そう思いながら、オリヴィアさんがミミック相手に戦うところをスクリーン越しに見守った。
◆
「くっ、そろそろキツイか!?」
オリヴィアさんが沢山のミミックと戦いながらある程度慣れた段階で下の階層へと移動していたら、徐々にミミック相手に苦戦するようになっていった。
今なんとか倒したのは阿修羅みたいな腕が6本ある甲冑ミミックで、少々時間がかかったしかすり傷も負っていたけれど、ギリギリ倒せてはいた。
「そろそろ使ったら?」
「ま、まだいける!」
「そこまで嫌がらなくてもいいじゃない……」
冬乃の呆れた声が聞こえてくるが、僕もそれには同意だ。
「強くなるために何でも利用しようと思って僕に土下座までしてきたんでしょ?
なのに、その些細なプライドにこだわって使える手を使わないのはどうかと思うよ」
「うっ……」
オリヴィアさんが僕の言葉にたじろいだ時だった。
――ドガンッ!
「キシャー!!」
以前、この〔ミミックのダンジョン〕でダンジョン遠征を行った際に遭遇した、ミミック達が集合して1つの塊になっている巨大なロボミミックが、あの時と同じようにダンジョンの壁を破壊して現れた。
「あれはさすがに1人では無理でしょ」
「そうだろうね。ソフィアさんも一緒に戦ってくれる?」
「もちろんだよ。本当は1人で戦いたいところだけどね。アレを使わないならオリヴィアは下がってなよ」
ソフィアさんが挑発するようにそう言いながら見せびらかすように自身の左手首に触れると、オリヴィアさんはついに決心したのかソフィアさんと同様に左手首の入れ墨に触れる。
「ちっ、貴様も一緒に戦うとなると経験値がそっちに行くが、貴様だけに戦わせるか。私だってアレを使うのに丁度いい相手と戦いたいんだ」
「そう。それは残念だね。ソウタ、ワタシにも支援してくれないかな?」
「分かってる」
僕はすぐさまソフィアさんをパーティーメンバーに加え、[チーム編成]で準備を整えた。
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